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■Shinkon(9)

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(c)Eriko Kawaguchi 2012-03-25
 
助産婦さんが来て「搾乳の時間ですよ」と言う。
「はい、男の人は向こう向いてて」と言われて、香川君が壁の方を向く。
 
僕はおっぱいを出して搾乳してもらった。春代が「へー、凄い」などと言って見ている。
 
「さあ、赤ちゃん見に行こう」と言って、僕と理彩、春代と香川君の4人でNICUに行き、保育器の中の赤ちゃんに授乳するところを見学した。
 
「わあ、可愛い!」とみんなが言うと、それだけで嬉しくなる。
 
「もう抱いたりした?」
「時々抱かせてもらってるよ。直接の授乳も時々してる。お母さんにたくさん触られたほうが成長も早いんだって」
 
「8ヶ月で帝王切開したんだけど、凄く丈夫な子だと言われてる。すぐ保育器から出してもいいくらいだけど、2月いっぱいは様子を見ましょうということで」
と理彩が補足する。
 
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「体重は?」
「生まれた時が1416gだったんだよね。今もう2000gになった。一応このくらいの体重が保育器から出す目安らしいんだけどね。普通は月が満ちずに生まれた子は本来の予定日まで保育器に入れておくらしいけど、この子は成長がいいから、たぶん1ヶ月早く切り上げていいですよって」
 

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授乳の時間が終わって、病室に戻り、またおしゃべりをする。香川君たちが買ってきてくれたフルーツの籠を開け、桃を剥いてみんなで食べた。
 
「だけど、ふたりとも在学中なのに、どうやって子育てするつもり?」
「僕はこの1年の後期は休学したんだよね。大きくなったお腹、人前に晒したくなかったし。テレビ局とか取材に来たりしたら嫌だしね」
「確かにね」
 
「一応私のお母ちゃんと、命(めい)のお母ちゃんとで週交替でこちらに出て来て、私たちが学校に行っている間、赤ちゃんの面倒見てくれると言ってる」
「わあ、良かったね」
「私が大学卒業するまであと5年、命(めい)は休学しちゃったから結局あと4年。何かいちばん大変な時期をお願いすることになっちゃうけどね」
 
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「どうせ卒業が1年遅れるしということで、僕はこのまま後半年休学して育児に専念して、今年の後期から大学に復帰するつもり」
「ああ、いいかもね」
 
「だけど、妊娠中、斎藤はどんな服着てたの?妊婦服って女物しか無いだろ?」
「女物の妊婦服を着てたよ。妊婦服を着ることになる以前から、少し女物に慣れておこう、なんて理彩から言われて、8月頃から女物の服着て出歩いてた」
「おお」
 
「そんな時、トイレはどうすんの?」
「男子トイレに入っても妊婦は大目に見てくれるだろうけどね」
「ああ、そうかもね」
「でも一応、女子トイレ使ってたよ」と僕は言う。
「まあ、いいだろうね、それでも」と春代。
「最初の頃、恥ずかしがってたから、私が強引に手を引いて女子トイレに連れこんで、個室に放り込んだんだけどね」と理彩。
「ああ、理彩らしい」
 
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「あ、でも斎藤って、以前からけっこう女装してたよな」
「させられてたというか」と僕は苦笑する。
「はい、加害者です」と理彩が手をあげる。
 
「私と命(めい)って、元々服のサイズが同じなのよね〜。だから、よく私の服を着せてたんだよね」
「女物の浴衣を着せられて一緒にお祭りに行ったこともあったなあ」
「ひょっとして、その時に命(めい)って神様に見初められたのかもね」
「あはは」
 
「僕、ウェストが女の子みたいに細いんだよね。逆にいうとウェストサイズで服を選ぶとお尻が全然入らない。だからいつも大きなサイズのズボン買ってきて、ベルトで締めて穿いてたんだよね。ここ半年ほどですっかり女物の服を着るの味しめちゃったから、お腹のサイズが戻っても、ジーンズは女物穿いてようかな、とか思ってる」
「スカートも味しめてない?」と理彩。
「うん。ちょっとだけ」
「ああ、命(めい)、きっともう男物の服には戻れないよ」と春代。
「いっそ、このまま性転換しちゃったら?」と香川君。
「それ、唆してるんだけどね」と理彩。
「うん、それもいいんじゃない?」と春代は笑って言った。
 
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「どうせ出産に伴うホルモンの影響で、男性器は機能停止してるしね。機能のないおちんちんなら、取っちゃった方がすっきりするじゃん」などと理彩は言う。「ああ、さすがに男性機能は停止か」と香川君。
「うん。それは覚悟で産んだんだけどね。シャワーのように大量に体内に女性ホルモンが分泌されているはず」と僕は言った。
 

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僕は1月末で退院したのだが、赤ちゃんの方は2月いっぱいまで保育器に入れられたままで、僕は毎日病院に行って授乳し、また家にいる間に搾乳し冷凍しておいたお乳を渡して、哺乳をお願いした。
 
赤ちゃんが退院して3人でアパートで過ごした夜は、赤ちゃんは夜泣きもせずにスヤスヤと寝ていて、僕たちはとても幸せな気分だった。
 
「命(めい)、お乳の出がいいね」
「うん。プロラクチンとかオキシトシンとかの分泌がいいんだろうね」
「オキシトシンって子宮を収縮させるとともに、赤ちゃんのこと可愛く思えるように作用するんだって」
「すごく可愛いよお」
 
「でもこうしてたら、自分が産んだ子供のような気がしてくるよ」と理彩。
「ふふふ。産んだのは僕だからね。おっぱいあげられるのも僕だし」
「すごーく、お乳あげたい」
「理彩だってその内産めるよ。大学卒業したら産むといい」
 
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「それなんだけどねえ。在学中に産んじゃったらだめ?」
「え?」
「だって大学卒業して新米医師になってさ、すぐに妊娠で休んだら、新米の癖にとか言われそうじゃん。それならいっそ在学中に1年休学して産んでおいた方がいい気もするんだよね」
「それは言えるね」
 
「夏休みを有効利用したいから、後期と次の前期を休むのがいいと思うのよね」
「うんうん」
「命(めい)と同様に7月上旬に受精して3月末に出産というのでもいいかなあ。或いはもう少し早いスケジュールにしてもいいよね。私は大きなお腹抱えて通学してもいいから」
「女性は便利だね」
「まあ、男性の妊娠ってあまり無いから」
「ふつうあり得ないよね」
「それに私、産んだ翌週には学校に復帰してもいいな」
「経膣分娩なら行けるだろうね。僕も経膣で行きたかったよ」
「まあ、命(めい)には膣が無いから無理だね」
「子宮が無いから妊娠することもないと思ってたんだけどね」
「まあ事実は小説よりも奇なりだよ」
「ほんと、こんな話を小説に書いたら、あり得ない話だって言われるだろうしね」
 
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3月27日。この日は本来の出産予定日だった。僕たちは帰省していて、3人で僕の実家にいたのだが、星のもうひとつの誕生日だねと言って、理彩が車で20分ほどの所にあるショッピングセンターまで行き、ケーキを買ってきてくれたので双方の両親も集まり、ささやかなお祝いをした(理彩は大学1年の1学期に免許を取得した。僕はボーっとしていたので取ってないが、今年前期に休学のついでに取るつもりである)。
 
「命(めい)が妊娠したなんて聞いた時は、何がどう間違えばそんなこと起きるものかと思ったけど、まあ何とかなるもんだねえ」とうちの母。
「理彩も自分が妊娠せずに母親の予行練習ができた感じで」と理彩の母。
 
僕たちは来年くらいに、保存していた僕の精子で理彩が妊娠して次の子を在学中に産んでしまう計画を話して、双方の承諾を得た。
 
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「確かに新米のお医者さんで就職して即1年休んだら、無茶苦茶言われるわよねえ」
「だから女医さんって、たぶん初産年齢がみんな高いんじゃないかと思うんだけど、星を見てたら、私も早く子供産みたいって気になっちゃって」
「いいと思うわよ。ふたりが学校に行っている間は私たちで面倒見てあげられるわよね」とうちの母。
「同感同感。それに毎月半分大阪で過ごせると、結構都会の生活が楽しみだわ」
と理彩の母。
「お前たち、まるで遊びに行くみたいだな」
「もちろんそれが目的の半分よ!」
 
「神様に当ててもらった宝くじのお陰で、そういうことする資金もあるしね」
「でも私たちが行って泊まっていて、それでお前たち3人も暮らすってのに、あの1DKは無理だよ」
「うん。引っ越すよ。今シーズンだから、わざとそれを外して来月中旬くらいにやるつもり」
 
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その夜、みんなが寝静まった頃、私は気配を感じて目を覚ます。
 
誰かがベビーベッドのそばに立っている。理彩でもうちの両親でも無い。その人物もこちらに気付いて「しばらく来れずに申し訳無かった」と言う。
「僕、最初どうしようかと思ったよ」
 
「男の子だね。名前は?」
「星(ほし)」
「いい名前だ」
「この子・・・・神様になるの?」
「いづれね」
「いつ?」
「それはその時が来れば分かるよ。ただ神様の代替わりは壬辰の年なんだよ」
「あ、去年が壬辰だった」
「うん。水の龍だから、壬辰の年なんだ。僕は主神の座を去年で降りた。今年の祈年祭では新しい神様が踊ったよ。ただ、今度の神様は60年前に生まれた神様で、この村の人にかなり酷い目に遭わされてるんで厳しいぞ」
「10分で終わったっていって神職さんが嘆いていた」
「10分はうまく行った方だと思う。まあ、彼が暴走しないように僕も、そしてこの子も制御していくと思うけどね」
 
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「神様って3人なんですか?」
「そう。親子3世代。60年ごとに新しい神様が生まれる。本当は一昨年踊った女の子に去年踊って欲しかったんだけどね、神職さんが占いの結果を読み間違えるんだもん」
「間違いのせいで、僕が産むことになっちゃったんですか! でも、未婚の女の子が突然妊娠したらびっくりするし、周囲から何と言われるか分からないですよ。そういう意味では僕が産んで良かったのかも」
「君は優しいね。君の男性能力は、赤ちゃんの授乳が終わった頃、回復するから」
「ありがとうございます」
 
「僕も実は男の子から生まれたんだよ。明治25年の壬辰の年に受精してやはり翌年生まれた」
「そうだったんですか」
「当時は村の人たちは優しかったよ。これはみんなの子供だって言われて大事に育てられた」
「60年前は何があったんですか?」
 
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「あの時代はみんなの心がすさんでいたんだろうね。それに科学万能主義の時代で神様の子供なんて話を誰も信じてくれなかった。それで石を投げられるようにして母と共に村を追われてね。生まれた神様も、ここには戻りたくないと言って、那智の神様の所に預けられていたんだよ。村に戻ったのは10年前のことで」
「そうだったんですか」
「この子は優しく受け入れてもらっているようだね」
「ええ。僕の両親も理彩の両親も優しくしてくれてます」
 
「これからは時々来てくれるの?」
「ごめん。あまりこちらの世界に姿を現すことができないから。でも必要な時や君たちが危ない時は来るよ。そして、姿を見せなくても、いつも見守ってるから」
「うん」
「何よりも、僕と君の間の息子がいろいろしてくれるさ」
「ああ」
 
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神様は僕にキスをしてくれた。そして去って行った。

僕たちは理彩の通学に便利なように吹田市内で3DKのマンションを探していたのだが、不動産屋さんが「一戸建てはダメですか?」と聞く。
 
「お家賃は?」
「5万円なんですけどね」
「安っ!」
「一応3LDKです。LDKは広めの台所じゃなくてキッチン付き居間という雰囲気ですよ。1階に6畳の部屋、2階に4.5畳の部屋2つ」
 
「あの。。。赤ちゃん連れなんで、少々傷めるかも知れませんが。。。。」
「築後40年の家なんですよ。もう家主さんも解体しようかなんて言ってたのをきっと需要あるから、うちに登録してみませんか?とお勧めした家でしてね。そもそも今もけっこう傷んでるのでこのお家賃なんですが、あなたたちが最後の借り主になる可能性もあるし、多少傷つけても、常識の範囲なら何も言わないと思いますよ」
 
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星も連れて3人で見に行くと、何となく良い雰囲気の所だった。中も見せてもらった。お風呂が古いタイプでコンクリートにタイル貼りの浴槽を半分埋め込むようにして作られている。外釜で、火を付けるには家の外に出なければならない。どうも石炭釜だったのを石油釜に比較的最近交換したようだ。浴室内からは湯温調節できないからひとりでは入浴不能。誰か必ず釜係が必要だ。しかし一酸化炭素中毒を起こす心配は無い。トイレは男女共用の洋式であった。妙に広い気がしたので聞いたら「トイレは以前小便器と和式便器だったのをは前の入居者が強く要望して、改装してこれにしたんですよ。一応ウォシュレット付きです」
「あ、いいな、これ」
 
物件としてはかなり気に入った。しかし、ふたりの通学には少し便が悪い気がして、僕は迷った。
 
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