[*
前頁][0
目次][#
次頁]
僕たちは「証拠隠滅」することにした。理彩のお母さんが持たしてくれたコンちゃんと同じものを朝から開いていたホテル近くのドラッグストアで買い、理彩のバッグに戻した。開封して2個だけ使用し、8個残っているものは、箱はホテルのゴミ箱に捨て、中身だけふたりで持つことにして4個ずつ分けて持った。理彩はそれを自分の生理用品入れのポーチに隠し、僕は自分の鞄の内ポケットに隠した。
今夜のことはふたりだけの秘密にすることにした。
恋人にはなれなかったものの、僕たちは仲良しのままだった。その日の朝御飯は結局僕は女装して理彩と一緒に食べに行った。同性感覚で一緒にいることで、お互い友だちとしての意識をしっかり持てる気がした。女装の僕を目の前にすると、理彩もスムーズに話ができる感じだったし、僕も女装している時は心も女の子感覚になるので、自分が理彩を好きだと思う気持ちを抑えて、ふつうに話すことができた。
僕はその日結局、電車の終点まで女の子の格好のままで、そこから村まで行くバスの中でスカートを脱いでズボンにチェンジした。そして電車の中でもパスの中でも、僕たちはずっと仲良くおしゃべりをしていた。
「あんたたち、向こうのホテルで何かあった?」と母から聞かれたが僕は「別に何も起きてないよ。僕たちは今まで通りだよ」と答えた。
「ふーん」と母は言った。あまり信用していないふうに感じる。
「でも、あんたたち、する時はちゃんと付けてしてよね」と母。
「その時はちゃんとするよ」
「自分で買える?」
「18にもなって、そのくらい自分で買うよ」
「だったらいいけどね」
理彩もお母さんと似た会話をしたらしかった。未開封のコンちゃんの箱を母に返そうとしたが、「すぐ必要になるだろうし、持ってなさい」と言われたということだった。
「でもホントにあんたたち何も起きなかったの?」と理彩の母は再度聞いたらしい。
「うーん。キスはしたけどね」
「キスだけ?あんたたちの年齢で、それで我慢できるとは思えないけど」
「だって、私たちは恋人じゃなくて友だちだもん」
「ふたりが一緒に居る所を見ると、仲の良い恋人にしか見えないよ」
「私たち、あらためて友だちでいようって話したから」
「命(めい)君、もしかして男の子の機能が無いってことないよね。あの子、小さい頃、すごく病弱だったし」
「男の子機能はあるよ。それは確認した。あっ」
「ふーん。確認するようなことはしたんだ」と理彩の母。
「でもセックスはしてないよ」
「別にしてもいいんだけどね。避妊さえちゃんとしてくれれば。大学に入ってすぐに妊娠で休学とかはやめてよね」
「うん。それほど馬鹿じゃないよ。私も命(めい)も」
そんなことを理彩は母と話したらしい。
僕たちはそろって阪大に合格した。僕は豊中市のキャンパス、理彩は吹田市のキャンパスなので、日常的に大学で顔を合わせることは無いものの「お友達」
として付き合い続けようということばの通り、日々メールや電話のやりとりをしていたし、何度か大阪市内で会って、お茶を飲んだり、食事を一緒にしたりしていた。高校の同級生で、大阪の大学に出て来た子はいないものの、神戸に春代と香川君がいるので、その2人とも一緒に会い、4人で食事をすることもあった。春代と香川君は少し良い雰囲気になっている感じだった。それを指摘すると「あんたたちの仲には負ける」と言われた。
しかし、理彩はほんとうに僕以外の恋人作りに熱心な感じだった。合コンに出て行き、そこで会った男の子とデートしてみた、なんてメールを送ってくるので、僕は軽い嫉妬を覚えながらも「頑張ってね」と返信をしていた。すると「ここで応援してくれるから命(めい)って好きだなあ」などと返してくる。そんなこと言われると、ますます僕は理彩を自分のものにしたくなっていった。
僕も理彩も大学で同性の友人も作った。僕の方は特に3人の男子と仲良くなり、特に学校に近いアパートに住んでいる子の所で夜通し、様々なことを議論していた。数学や物理・化学などの話題が多く、またヒッグス粒子のことなどこの宇宙の構造に関する話は盛り上がった。
「でもひょっとして、僕らのいる世界ってさ、誰かがコンピュータの中で計算させて作り上げている仮想現実にすぎないのかもね」
「その誰かが『神様』ってわけか」
「『神様』というよりは『創造主』だよね」
「そういう話が鈴木光司の『ループ』って小説に出てくるよ。『リング』『らせん』
『ループ』って三部作で、最初の『リング』はホラーだけど、『らせん』ではそれが科学的に解明されてしまう。ところが『ループ』で、その話が全部シミュレーター上の出来事だったということになってしまう」
「叙述トリックみたいな感じだね」
「シリーズを通しての最終的な主人公は、その仮想現実の世界と現実の世界を行き来するんだよね。でも『ループ』の中では、自分たちが現実と思っているこの世界自体も、また誰かのシミュレーターなのかも知れない、と示唆される」
「何段階にもなってるんだ!」
「何だか読んでいて、実際にこの世界って、そういう構造なのかもと思っちゃった。そしてそのシミュレーターにバグがあると、通常の科学法則と反するようなことも、たまに起きちゃうこともある」
「バグはあるだろうね。それが奇跡なのかもね」
「かもね」
「いや、奇跡にはバグに属するものとバックドアに属するものとがあると思う」
「ああ! 神様系の奇跡はたぶんバックドアだよ」
「確かにね」
「たとえば俺が突然明日女になってたとしたら、きっとバグだ。でも斎藤が神様の力で女に変えられてたら、きっとバックドアだ」
「なんで僕が女になるのはバックドアなのさ?」と僕は笑って言う。
「いや、斎藤ってチンコ付いてるかどうか確かめたくなる気がしない?」
「するする」
「でも確かめようとしてチンコ付いてなかったらやばいから脱がせる気にならん」
「えー?」
「何ならここで脱いでみる?」
「ごめん。パス」
と僕は逃げた。その日はちょっと色々な事情で脱げない状況にあった。
「俺は斎藤の性別疑惑を強めたぞ」
「あはは」
そんな話をしたのがゴールデンウィーク明けの頃だったが、その少し後、僕は世にも不思議な体験をすることになる。
僕は夜寝ていて、ふと目が覚めたと思うのだが、そもそもが夢の中なのかも知れない。僕は最初、てっきり泥棒が入ってきたのかと思った。足音はしないものの、誰かが近づいてくる気配があった。一瞬緊張するが、その人物は「怖がらなくてもいい」と言って、僕の布団の中に潜り込んできた!
怖がらなくてもいいと言ったって!と思ったのだが、その人物(40歳くらいの男性のように思えた)は、いきなり僕の唇にキスをした。
きぇー! 理彩とは今まで何度もキスしたことがある。そして僕自身、女装で出歩くのはけっこう高校時代までやっていたし、女装のまま、お遊びで男子の友人とデートの真似事をしたことまではある。でも、さすがの僕も男にキスされるのは初めてだ。頭が混乱していたら、彼は僕を優しく愛撫し始めた。
なんかそれが気持ちいい。僕は何となくこの人に身を任せてもいいような気がしてしまった。やがて彼は僕の服を全部脱がせてしまった。乳首を吸われる。えー? でも乳首を吸われるのは気持ちいい。入試の時のホテルで理彩に乳首を吸われたけど、あれより気持ちいい気がする。多分、この人が巧いからだろう。
やがて彼は僕のお股に手を伸ばして来て、どこかを触り始めた。何この感覚?それは今まで経験したことのない感覚だった。でもこれ、どこを触られてるの?触られている付近にはこんな感覚になるような場所あったっけ? おちんちんでないことだけは確かだ。そもそも、こんなにされているのに僕のおちんちんは立つような感覚がない。なぜだろうと不思議な思いがした。彼にそこをいじられている内、自分のその付近が湿度を持ってきた感覚があった。やだ、僕はおしっこでも漏らしたのだろうかと不安になるが、どうもそういうのでは無い気がする。そして、かなり潤ってきた時、彼の硬い破城槌が僕の体に接触した。ちょっとー!何するつもり?
そう思った次の瞬間、破城槌は僕の体を貫いた。何、この感覚?
あまりにもスルッと入ってきて、痛いとかきついとかいった感覚は無かったので、僕は心理的にもそれをスムーズに受け入れてしまった。彼は最初だけはゆっくりと出し入れしたものの、その後、かなり激しく出し入れする。僕は彼の背中を撫でていた。やがて彼が到達する。へー。やられている側でも、発射の瞬間って、分かるものなんだなあ、と僕は他人事のように考えていた。
彼は逝った後も中に入れたまま、しばらく僕を愛撫していたが、やがて「ありがとう」と言って、少し小さくなった破城槌を抜くと、身支度を整えて去って行った。僕はしばらく放心状態だったが、結局そのまま眠ってしまった。
朝起きてから自分の身体をチェックした。一体どこを揉み揉みされたんだろう?さっぱり分からない。それはまるでクリトリスをグリグリされたかのような感覚だったのだが・・・・僕にはクリトリス無いしな、と思う。それにどこにアレを入れられたのだろう?
この付近で、あんなのを入れられそうな場所は、やはりあそこしか無い。でもあんなの入れられたら、穴の回りがさすがに痛いと思うのだが、全然痛みなどは無い。それに、入れられた場所はもっと前の方のような気がしたのである。そう、まるで自分にヴァギナがあって、そこに入れられたような感覚なのである。もしかして「やおい穴」? でも、いつの間にそんなものが出来たんだ?
どうにも僕は不可解だった。
彼の深夜の訪問はその日だけでは終わらなかった。それから毎晩のように続いたのである。毎回、僕は裸にされ、乳首を舐められ、クリトリス?をいじられ、濡れてきたところで、ヴァギナ?に挿入され、発射された。彼とのセックスは毎回1度だけなのだが、それが物凄く気持ち良かった。入試の時の理彩とのセックスも、物凄く気持ち良くて、そのまま死んでも後悔しないと思ったのだが、この夜の訪問者とのセックスも、凄く気持ち良かった。ピストン運動というのは、されている側もこんなに気持ちいいなんて、新鮮な発見だった。今度理彩とする時もこんな感じでしてあげよう、と僕は思っていた。
しかしさすがに毎晩、これをやっているとこちらも体力が辛い。セックスって、入れる側だけじゃなくて、入れられる側もけっこう体力使うんだな、とあらためて思う。
授業に出ていて、少し疲れたような顔を僕がしているので、友人も心配して、
「疲れてる時は、思い切って講義サボっちゃうのも手だよ。バイト疲れ?自分の身体を大事にしなきゃ」などと言ってくれた。
夜の訪問者と毎晩セックスをしていると、僕は理彩に対してうしろめたい気持ちになって、彼女へのメールをついついサボってしまいがちになった。すると、理彩から「メールが無いのは寂しいよぉ」などと言ってきた。恋人にはならないと言っておいて他の男とデートしたりしてる癖に、僕のメールは毎日要求するのだから、全くワガママ女だ!でもそういう所まで含めて、僕は理彩のことが好きなんだけどね。
彼女とは夜間に2時間ほど電話で話して、彼女の「マンハント」の成果を聞いてあげていたのだが、それでこちらも、向こうがやってるならこちらもいいかという感じで少しスッキリして、気持ち良く「おやすみ」と言って寝た。そして眠りに落ちる間もなく「彼」がやってきて、また極上のセックスをした。
このような夜が10日も続いた頃、僕はやはり彼に揉まれているのは確かにクリトリスであり、彼に入れられているのはヴァギナであると確信した。