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そういう訳で、僕は理彩にうまく乗せられて、これから必要になるであろう少し大きめの女物の服を買いに行った。
まずアウターのコーナーで、W67のウェストにゴム部分のあるスカートとLのブラウスを買う。今僕が穿いているレディースジーンズはW61である。
「今は67がずれ落ちるだろうけどさ。すぐに69とか73とかになるよ」
「頭痛い・・・・」
「じゃ、次は下着下着」
ランジェリーコーナーに行った。今はA75のブラを付けているが、すぐ大きくなるんだし、Dカップ買いなよと言われたが、僕は少し抵抗して、結局その日はC75で勘弁してもらった。それからショーツも取り敢えずLを数枚買った。
「でも母親になるついでに、性転換手術して、女になっちゃうのも手かもね。どうせ男の機能は無くなっちゃうんだし」
「うーん。。。。性転換したくなっちゃったら、どうしよう・・・」
「その方が自然かもよ。子供にとっても、お母さんが男って、なんか理解しにくい事態だし」
「僕にとっても理解しにくい事態なんだけどね」
「ほらほら、今すぐタイに行っておちんちん取ってきたくならないかい?」
「うーんとね。マジな話、母体にショック与えるようなことはできるだけ控えたいから、性転換手術なんて問題外だし、睾丸の除去とかでもしたくない。本当は睾丸は無い方が妊娠維持しやすいだろうけど、手術のショックの方が怖いんだよね。更には気圧の変わる飛行機にも乗りたくないから外国も行きたくない」
「おお、ちゃんと赤ちゃんのこと考えてる」
「もし性転換手術受けたくなっちゃった場合でも、出産が終わってからにするよ。もっとも、僕は性転換するつもりはないけどね。自分の男の身体が気に入ってるから」
「そうかなあ。女の子になりたいみたいに見えるけどなあ、まあ、その問題は出産が終わってから話そうか」
「うん」
理彩のアパートに一緒に行って、買ってきた服を身につけてみた。
「やっぱり、命(めい)って、女の子の服を着ても違和感無いなあ」
「2月に理彩が買った服を着た時でも、何となく着こなしちゃったしね」
「その後何度か女装で会った時も全然問題無かったよ。もういっそずっと女装で暮らす?」
「ちょっと、まだその気にはなれない」
「でも妊娠6ヶ月くらいまで行くと、妊婦服を着るしかなくなるからね」
「それはそうだけどね」
「じゃ、バイトに行く時だけ男物の服を着て、それ以外では女物の服を着るというのは?」
「どうせ秋からはずっと妊婦服だもんね。その前に少し可愛い服を着ておこうかなあ」
「そうそう、それがいいよ」
「でも、これ、たくさんお金がかかりそう」
「赤ちゃん作るのってお金掛かるのよ。出産の時も病院代30万か40万掛かるしね。帝王切開ならもっと掛かるかもね。女性ならその分、健康保険から42万円の一時金が出るけど、男じゃ出してもらえないだろうな」
「うーん。分娩費のことは頭が痛い・・・・あ、そうだ!」
「ん?」
「そういえば、例の彼が最後に去って行く時、宝くじを買えって言ったんだよ」
「ジャンボか何か?」
「そう。サマージャンボ」
「昨日が当選日だったよ。でも神様が買えって言ったってのは当たるということだよね」
「多分。でも結果、まだ見てないや。100万とかでも当たってたらいいんだけど」
「見てみよう」
理彩は自分のパソコンから宝くじの当選番号のサイトに接続する。僕はバッグに入れっぱなしにしていた宝くじを出し、バラなので1枚ずつ確認していった。8枚目まで、全く当たっていない。9枚目。
「5等が当たってる」
「5等っていくら?」
「1万円だね」
「1万円か! もう少し当たるかと思ってたのに」
「ふつうなら、1万円でも充分嬉しいけどね」
「あーあ」
「取り敢えず最後の1枚も照合するよ」
僕たちは最後の1枚をチェックした。
「ちょっと・・・・・」と理彩が絶句している。
「1等??」
「2億円だよ」
「ひぇー、もらいすぎ」
「でもまあ、命(めい)の人生を犠牲にして子供産むんだから、そのくらいもらってもいいかもね。多分、もう命(めい)は男としては生きられなくなっちゃうもん」
「わあ・・・・」
僕と理彩は一緒に帰郷した。こういう事態は親ともちゃんと相談して行動しなければならないと考えたからである。
僕の両親に理彩の家に来てもらい、双方の親の前で、僕が妊娠したということを告げると、双方の両親は、最初てっきり理彩が妊娠したのだと思ったようであった。しかしそうではなく、僕が妊娠したということを説明し、僕の名前の妊娠診断書のコピー(本票は母子手帳をもらう時に窓口に提出した)を見せると、信じられないという顔をする。
そこで僕は5月の中旬から7月の上旬に掛けて、毎晩夜の訪問者があり、その夢か現実か分からない世界で、僕が女の身体になっていて、毎晩「彼」を受け入れていたことを説明した。そしてその「彼」は祈年祭の神様のようであることも。
「ずっと、昔、この村でやはり男の子が神様の子を妊娠したという伝説はあるよ」
と理彩のお父さんが言った。
「その親子はどうなったんですか?」
「よく分からない。子供の方は、生まれてから1年後に『父の国に行きます』と言って、天に帰って行ったとも聞く」
「それって、『賀茂の玉依姫』の伝説っぽいですね」
「そうそう。産んだのが男の子ということをのぞいてはね。神の子供を妊娠したという伝説はこの村には多数あるんだよ。戦後間もない頃にもあったらしいし。産んだのは女の子だったんだけどね」
「へー」
「孕んだ女性は、元々多情な子でボーイフレンドが何人もいたんで、いろんな男と付き合ってて自分でも誰の子供か分からなくなったんじゃないかって、随分責められたらしい」
「まあ、神様の子供ってのは、だいたいそういうのの言い訳に使われるよね」
「しかしお前どうするんだ?腹膜妊娠って物凄く危険だろう?中絶した方がよくないか?」と母。
「神様の子供を中絶なんて、あり得ないと思う」と僕。
「このまま妊娠を継続すると、命(めい)はそのうち、おっぱいが膨らんで来て、男性としては不能になってしまうだろう、とお医者さんに言われました。でも命(めい)はそれでもいいから、この奇跡みたいな子の命(いのち)を優先したいって」
「僕自身が、この世にちゃんと生きて生まれて来れたのが奇跡みたいなものだから、その僕が性別を超越して妊娠しちゃうって、何かの運命(さだめ)のような気がするんだよね。だから、この子をしっかり産んであげたい。まあ、出てくる道が無いから最後は帝王切開しないといけないけど」
ふつうの親なら、こんなとんでもない事態、理解してくれなかったと思う。しかしこの村は神話や伝説が現実世界と混淆しているような村である。双方の両親は、僕たちの意志を大事にしてあげたいと言い、必要なサポートはしていくと約束してくれた。
「それで、妊娠なんて普通女性しかしないものだから、男性が妊娠した場合、あれこれ社会的にうまく行かない部分がけっこうあると思うんです。その日常のサポートは私がしていきたいです」と理彩が言ってくれる。
「そうだね。命(めい)君をサポートしてあげて」と理彩の母。
「で、さっそく、ちょっとお願いがあるんだけど」と言って、僕は宝くじの1等に当選したことを言った。
「神様が指定した通りの買い方したら、当たっちゃって」
「いくら当たったの?」
「2億円」
「きゃー」
「それで、こういう高額の当選金は、銀行の窓口でないと受け取れないし、未成年者では受け取れないから、代わりに受け取ってくれない?」
「分かった。受け取って、お前の口座に入金すればいいな」
「うん、助かる。僕の名前で当選証明書をもらって。でないと贈与税取られちゃうから」
「2億円の贈与税って恐ろしいな」
「半額取られちゃうよ」
「半額!税務署もえげつないな」
僕たちはまた大阪に戻った。両親たちは妊娠したお腹をさらすと奇異に見られるから、休学して出産まで、こちらにいたらと言ったのだが、異変が起きた時こちらでは病院に駆け込めないからということで、大阪に戻ることにしたのである。あまり変な目で見られないように女装しておくといいという理彩のアイデアについても、双方の両親が賛成してくれたので、僕はこのあと8月いっぱいは家庭教師のバイトに行く時以外は女装しているようにした。むろん今着ている服はすぐに着れなくなるはずだが。
女装での外出は高校時代までも理彩に乗せられてけっこう経験はしていたもののあくまでお遊びでの範疇で、あまり慣れていた訳ではないので、最初の頃は結構ドキドキしたし、戸惑ったり、恥ずかしくて行動できないようなものもあったが次第に慣れてきた。
女子トイレは以前から時々気分次第で使っていたことは使っていたが、あまり人のいない所を使っていた。しかし、早々に理彩に無理矢理手を引っ張っていかれて長い列の出来ている女子トイレを体験させられた。人間の慣れは凄いもので、8月下旬頃には自然といつでも女子トイレに入れるようになった。
うっかり女装していない時にも入ってしまったが、何にも咎められなかった。手洗い場の所まで来て、鏡に映った自分の服装を見てぎゃっと思ったのだが、後に並んでいる人も別に変に思っているような顔はしていない。慌てて手を洗って外に出たのだが、それを理彩に言ったら笑われた。
「そりゃそうだよ。命(めい)って、元々女顔だもん」などと言っている。
「今度は一緒に女湯に行こうよ」
「それはさすがに無茶!」
女湯は勘弁してもらったものの、その後、僕は女性専用車両とか、女性専用の喫茶店とかにも連れて行かれ、映画のレディースデイにも行った。女性だけにサービス品のつくランチでも、ちゃんとふたりともサービスのプリンをもらった。
理彩は僕の精液を冷凍保存しておくことを勧めた。掛かっている産婦人科で相談すると、先生も賛成してくれたので、僕は3日間禁欲した上で、精液を採取した。先生にチェックしてもらったら、ちゃんと精子はあるということだったので、これを8月から9月にかけ毎週1回、合計4回採取した。この時期は3日禁欲して精液採取して、その後4日は理彩とセックス三昧という生活を送っていた。
そもそも禁欲が辛いのに、禁欲中に限って理彩はわざと僕の前に裸体をさらし、「ふふふ、この子、まだ元気かな?」などと言って、ぼくのおちんちんに触る。
「勘弁して〜。禁欲中なんだから」
「でもその間に私がこういう刺激をすることで精子の生産率は上がるはずよ」
などと言って、発射しない程度に、僕を生殺しにした。
(確かに理彩にこんなことされたお陰で、しっかりした精液を採取できたのかもとは思うのだが)
「それに最近、命(めい)はスカート穿いてるでしょ。スカートってお股を冷やすから、睾丸にもいいのよ」
「じゃ、日本の出生率を上げるには男にスカート穿かせればいいね」
「あ、割とマジで私そう思うよ。中高生の男子制服はスカートにしようよ」
精液の採取の時も、理彩は一緒に採取室に入り、僕のを刺激して射精に至らせていた。「だってふたりの子供の元だもん。ふたりで出してあげなきゃ」などと理彩は言っていた。いつも射精した後、サービスと称してフェラをしてくれた。
精子を採取に行く時は僕はもう女装になっていたので、女性ふたりで精子採取室に入り、容器を持って出てくるのを見て、若い女性看護師さんが首を捻っていた。
それを見て僕たちの担当医師は
「まあ、世の中にはいろいろ不思議なことがあるからね。女性同士で子供を作ることもあれば、男が子供産んじゃうこともあるんだよ」
などと言っていたが、看護師さんは冗談だと思ったようであった。
8月いっぱいで家庭教師のバイトは終了したが、その間にとても学力をあげられたし、この子のレベルにあった分かり易い指導をしてくれたというので、かなり多額の謝礼をもらった。このバイトを受けた時は、大阪に残ることにより掛かる生活費と報酬とどちらが多いだろうと少し疑問も感じたのが、して良かったという感じであった。
大学の夏休みは9月下旬までで、10月から後期の授業が始まる。しかしこの後期いっぱい、僕は休学することにした。妊娠しているお腹をクラスメイトたちに見せたくないし、そこから噂が広まって、テレビ局とかでも取材に来たら嫌だ。住んでいたアパートも解約して、理彩のアパートで一緒に暮らすことにした。理彩が、突然何かあった時、ひとりでは対処出来ないでしょ? と言って強く一緒に暮らすことを勧めたのである。この同棲?に関しても、双方の両親に賛成してもらった。
「理彩ちゃん、お医者さんの卵だから、いざという時は頼りになるし」
「まあ、結婚させちゃってもいいですしね」
「その子、ふたりの子供として育ててもいいですよね」
などと両親達は言っていたが、僕は男性能力が消失したら、理彩とは結婚できないと考えていた。その問題について理彩は「そうだね。その件については、出産が終わってから話そうよ」と曖昧な言い方をした。