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CBF会員証を受けとった翌日、ルキアは仕事で岡山まで行った。旅番組の撮影で、岡山の名所を巡って、美味しい御飯を食べるという企画である。同行したのは、ベテラン歌手の里山美祢子さんである。里山さんと一緒に岡山駅前の桃太郎像から出発し、岡山城を見学。お昼に町食堂でデミカツ丼を食べてから後楽園を散策。市内のちょっと変わったお店を2件覗いてから、近隣の温泉に行く。お風呂に入るのだが、里山さんの入浴撮影はNGということで、ルキアが30分ほど男湯を貸し切りにしてもらって入浴し、そのシーンを撮影した。
「ルキアちゃん、オッパイ大きい」
「まだホルモンの影響が消えないんですよ。お医者さんは1年もしたら完全に真っ平らに戻ると言うんですけどね」
ということで。ルキアの微かに膨らんだ胸が撮影された。ちなみに下半身は男性器を曝しているが、むろんこれは撮さない。
しかし、このシーンは結局、テレビ局の制作部長の判断でカットされ、ルキアが大浴場に向かい男湯と女湯の暖簾が並んでいる場所まで来た所までと、浴槽に浸かっているシーンだけが放送された。結果的にルキアが男湯に入ったのか女湯に入ったのかは放送された映像だけからは判断できず(この温泉は男湯と女湯が日替わりになる)、後に議論を呼ぶことになる。
本人は
「ボクは男湯に入りましたよ」
とツイッターで言ったものの、
「いや。ルキアちゃんなら女湯にでも入れると思う」
という意見が圧倒的であった。
「だって女湯なら里山さんと一緒に入れるじゃないですか」
「里山さんは実は男だという噂がある」
「そうそう。里山さんは実は男だから本坂伸輔さんと入籍できなかったという噂は結構あった」
「だから里山さんと入らなかったというのがルキアちゃんが女湯に入った証拠」
「そんなぁ。ボク、ちんちん付いてますよ。女湯に入れる訳ないよ」
「いや、怪しい」
「ルキアちゃんは年末にタイに行って性転換手術を受けたという噂もある」
「そんな噂、初めて聞いた!」
お風呂に入った後は、8畳の和室で豪華な食事を味わう。実際には6人前の食事を並べていて、食べる所を撮影した後は、スタッフも入ってちゃんと完食した。この後、里山さんはこの旅館に泊まったのだが、ルキアは
「申し訳無いけど予算が無いので」
ということで、市内のもっと安い旅館に泊まることになり、そこまで送ってもらった。
ルキアは撮影で疲れたので取り敢えず仮眠した。それから汗を掻いているのに気づいたので、こちらの旅館で再度お風呂に入ってこようと思い、タオルとボディスポンジに着替えを持って大浴場と書かれている所へ向かう。
ところがそこでバッタリ、千里と遭遇する。
「弘田ルキアちゃんだよね?」
「醍醐春海先生ですね? おはようございます」
「おはようございます」
「こちらにはお仕事?」
「『サラサの旅』という番組なんですよ」
「ああ。若い女の子に温泉の旅をさせる番組か」
「ほぼ女の子が起用されているというの、今日になって知りました。誰かお姉さん格のタレントさんと一緒に。今日は里山美祢子さんだったんですが」
「ああ。片原元祐さんのお姉さんか。何度かお会いしたなあ」
「お母さんの松居夜詩子さんから曲を頂いたことがあります」
「あの人は正統派だよね。しっかりした音楽教育を受けている」
「歌いやすい曲でした。『ブルー・シーガル』という曲なんですが」
「『カモメが追いかけてくる』とかいう歌だ」
「よくご存じですね!あまり売れなかったのに」
そんなことを言いながら大浴場の前まで来る。
「ではまた後で」
と言って、ルキアは男湯の暖簾をくぐろうとしたのだが、千里にキャッチされる。
「君、近眼?そちら男湯だよ」
「ボク男ですから」
「冗談はやめなよ」
「冗談じゃなくて本当に男です」
「女の子にしか見えない。そもそもルキアって女名前じゃん」
「本名が光理(みつさと)、輝く光(ひかり)に理科の理なんです。それで光から取ってルキアで」
「なるほどー。じゃ、私誰かと勘違いしてたのかなあ」
「それアクアちゃんでは?」
「あの子、今はまだ男の子だけど20歳まで男の子のままでいられるかは微妙だよね」
と千里が言うので、ルキアは吹き出した。
それでルキアは男湯の暖簾をくぐったのだが、千里は暖簾の前で待っていた。
「お客さん、こっち男湯。女性の方は女湯に入ってください」
と若い男性の声がして、ルキアは飛び出してきた。
「従業員さんが裸で、ちんちん凄く大きかった」
「ルキアちゃん、男の人のちんちんなんて見たことなかったでしょ?」
「自分のは見てるんですけど、あんなに大きくないし」
「ルキアちゃん、無理に男の子を装わなくてもいいよ。私と一緒に入ろうよ。何もしないよ。そして何を見ても秘密にしてあげるから。女湯は今覗いてみたけど誰も居ないしさ」
(千里はこの程度の距離なら簡単に透視する)
ルキアは醍醐先生ならいいかもと思った。それに自分と先生の年齢差を考えても“何か”が起きる可能性は低い。実際問題として“何か”起きても構わない気がしたし、むしろ“何か”起きたりしないかな、などと軽く妄想する。深夜の女湯で・・・なんてHな映画にでもありそうなシチュエーションかもなどと考える。
こういう発想は、性別未分化のアクアや、分化不完全な葉月には全く存在しない発想である。
「だったら女湯に入ります」
「うん」
それでルキアは千里と一緒に女湯の暖簾をくぐって脱衣場に入った。
「お互い後ろ向いて脱ごうよ」
「そうですね」
と言いながら、少しよこしまな心がある自分に罪悪感を感じていた。そうだった。CBFの会員規約には『よこしまな気持ちを持ってはいけない』とあったじゃん。平常心、平常心、女湯に入るくらい別に大したことではない、と自分に言い聞かせる。
それでルキアは千里と背中合わせの位置に立って服を脱いだのだが、シャツを脱ごうとして
「え!?」
と声を挙げる。あまりにも大きな声を出したので千里が向こうを向いたまま
「どうかしたの?」
と尋ねた。
「おっぱいがある。何で?」
「女の子にはおっぱいがあっても不思議じゃないよ」
ルキアはシャツを脱いでまじまじと自分の胸を見た。かなり大きく膨らんだバストがそこにはあった。
「まさか」
と言って、ルキアはトランクスを脱いだ。
「嘘。無くなってる」
「何が」
「ちんちんが無いんです」
「女の子にはちんちんは無いんだよ。気にせず中に入ろうよ」
千里がごく普通の声でいうのでルキアもなんだかおっっぱいが大きくてちんちんが無いのも、あまり大した問題ではないような気がしてしまった。
それで千里と一緒に浴室に移動した。
洗い場で身体を洗う。ルキアはおっぱいやバストはあまり気にしないことにして、まずは髪を洗った。コンディショナーを掛けている間に身体を洗うが、膨らんだ胸が洗いにくいなと思った。ボディスポンジを持つ手を曲線的に動かす必要がある。大きくなった乳首は優しく洗わないと痛い。
お股は手に石鹸をつけて指で洗うが、不思議な感触である。ドキドキしてもよさそうな気がするのに、あまりにも信じがたいことが起きているせいか、ルキアはごく平常心でそこを洗った。女の子の構造は、ネットとかでも見て知っているつもりだったが、実物を見ると色々発見があった。やはり二次元の写真とかで見ただけではよく分からない部分があったが、今は自分の身体にそれが付いている。ルキアは確かめるようにあちこち触りながら洗った。大陰唇と小陰唇の間の溝も指で優しく洗った。ここには恥垢がたまりやすいらしい。小陰唇より内側は軽く洗うだけに留める。陰裂の最奥部に穴があるのは分かったが、そこはあまり触ってはいけない気がして、軽く入口の付近だけ洗った。しかしクリトリスを洗っていたら物凄く気持ちいい。ペニスでは味わえない強烈な快感だ。もしかしてクリトリスってペニスの10分の1くらい?の長さだから快感が凝縮されていて10倍気持ちいいとか?女の子はいいなあ、こんな快感を味わえるなんてなどと思ってしまった。
足まで洗ってから、髪の毛のコンディショナーを洗い流し、顔も洗った。耳の後ろとか首筋とかをよく洗っておく。ルキアは喉仏が無くなっていることに気づいた。ちんちんさえ無くなったのだから、喉仏くらい無くなっていても気にしない。
充分身体を洗ってから、身体全体にシャワーを掛けた上で浴槽に入った。
「やはりルキアちゃんは女の子だったね。でも大丈夫だよ。誰にも言わないから」
「すみません。お願いします。夕方までは男の子だった気がするんですけど」
「まあ性別なんて揺らぎのようなものだから、男の子が女の子になったり、女の子が男の子になったりすることもあるかもよ。ルキアちゃん、実際には男でも女でも生きていけるでしょ?」
「それはちょっと考えたことあります」
「まあ自分の肉体的性別と精神的な性別は別だから、自分は実は女でしたとカムアウトして、そちらで生きて行ってもいいと思うよ」
「それ少し考えてみます」
「アクアも自分の性別についてかなり悩んでるね」
「あの子、ひょっとして去勢してます?」
「まあそのあたりは守秘義務で言えないけどね」
「ああ」
“言えない”ということは実際に去勢しているのかもとルキアは思った。去勢していないのなら、そう言っても構わない気がする。でも自分はどうしよう?なんで女の子の身体になっちゃったのか分からないけど、ボクずっとこのままなのかなあ。まあそれでも悪くないけど。
20分くらい深夜の女湯の浴槽で話してから、ルキアと千里はお風呂からあがった。それで身体を拭いて、ルキアは洗濯済みのシャツとトランクスを身につけたが
「ブラジャーとかショーツとか穿けばいいのに」
と言われた。
「ちょっと考えてみます」
「うん。じゃ、ゆっくり休んでね」
「はい。醍醐先生も」
それでルキアは千里と握手して、浴衣を着てから一緒に女湯の脱衣場を出た。これで女湯は3回目だなあと思いながらも、ボクこのままずっと女の子だったら、毎回女湯に入ることになるのかななどと思った。
部屋に帰ってからトイレにいきたくなる。この旅館は安いだけあってトイレも別である。ルキアは旅館のスリッパだけ履き、トイレに行った。男女表示を見て悩む。今までは何も考えずに男子トイレに入っていた。でも・・・ボク女の子の身体なら女子トイレに入らないといけない?などと考える。
それで勇気を出して(半分は不純な動機で)女子トイレのドアを開けた。小便器が無い!(当然である)個室のドアだけが並んでいて、異世界でも見たような気分だった。ルキアはその中のいちばん手前の個室のドアを開けると中に入り、ロックしてから浴衣をめくり、トランクスを下げる。
「え!?」
そこにとんでもないものがあるのを見て、ルキアは大きな声をあげそうになったが、ギリギリで我慢した。
この状況を観察していた《たいちゃん》は
「これは結局元に戻ったんだから、報告しなくてもいいよね」
と呟くと、Google Keepに、いったん“弘田ルキア”と書いたのを消してしまった。彼の名前が一時的にGoogle Keepに書かれたことに《きーちゃん》は気付かなかった。
ルキアはこの日眠りに落ちていきながら《一時的陰茎切断》《一時的豊胸》という、CBF会員規約にあった単語を脳内でリフレインしていた。この夜見た夢の中で、ルキアは女の子のボディを曝してヌード写真を撮っていた。
なお2度性転換(?)した副作用なのか、あるいは男に戻す方の魔法(?)が不完全だったのか、彼の喉仏は消失していた。これは無くてもいいと光理は思った。また、胸の膨らみが前より大きくなっていたが、これも全然気にしないことにした。また、ちんちんが以前より少し小さくなった気がしたが、それも別に構わない気がした。更に以前にも増して立ちにくくなった感じだった。結局これ以降、光理は男の子型オナニーをするのを諦めて、指で押さえてグリグリする女の子型のオナニーしかしなくなった(射精はちゃんとする)。
この事件の後、ルキアは女物の下着を買うようになり、学校(高校生。実は西湖が入れなかったJ高校に今年入学した)に行く時も女物のショーツをつけて行くようになった(制服は男子制服:アクアみたいに女子制服で出て行く勇気は無い)。体育がある日は、ショーツの上にトランクスを穿いていた。上半身はバストが膨らんでいるので絶対に曝さないようにし、身体測定の時もシャツを着たままで勘弁してもらった。
またルキアはスカートを自分でも通販で買って、自宅にいる時は、しばしばスカート姿で過ごすようになった。更に自分の高校の女子制服も買っちゃった。ルキアの容姿で洋服屋さんに行けば、お店の人は何の疑問も思わずに女子制服の採寸をして作ってくれる。またお化粧品を買って自分で練習するようになった。顔のむだ毛や足のむだ毛は、半年ほど掛けてレーザー脱毛してしまった。
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△・Who's Who?(8)