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20日に試合が終わった後は、またキャプテンに断った上でアテンザに乗り込み、和実のメンテを青葉と交代するために仙台に向かう。実際には苫小牧港まで走り、そこから即時仙台港に転送してもらい、仙台市内の和実が入院している病院に向かった。病院に到着したのがお昼頃である。それで病室に行こうとした所で《きーちゃん》から『待って。1番が先に入っちゃった』という直信がある。
「なんで1番が来るの〜?」
「分からない。でも1番が来ちゃったからあの子に夜まで任せよう。その後、次は2番さんに入ってもらうよ」
「じゃ私は東京に戻るか」
などと言っていたら、その1番と交替した青葉が病院の玄関の所に出てくる。それで青葉に「仙台駅まで送るよ」と声を掛けて、アテンザに乗せた。
1番は二百ヶ日法要があるので18日に仙台から千葉に戻ったのだが、法要が終わった翌日、康子(川島信次の母)から、どっさり落花生の袋をもらった。青葉はまだ東京に居るかな?と思い、最初青葉のスマホに電話するがつながらない。それで彪志に掛けてみると仙台に行ったという。
そうか。妊娠中の和実のメンテかと気づく。ずっと詰めているのは大変なのではと考え、落花生は彪志のアパートに投下した上で、千里1は、由美も連れて新幹線に乗って移動し、和実の病院に行く。それで妊娠のメンテ作業を青葉と交代した。この時期の千里1は既に並みの霊能者よりずっと大きな力を持っている(ただしまだ“暴走”開始前である)。
さて、アテンザで仙台駅に向かおうとした千里3と青葉は唐突に石川県の内灘町に飛ばされた。何が起きたんだ?と思って車を降りてみると、そこに慈眼芳子と沢口明恵がやってきて「封印の旅をするよ」と言って2人に杖を渡した。
千里はこれを小学生の時に2度やったことがあった。ああ、あれを青葉に伝授することになるのかと思った。
これは1年以内に寿命が尽きる人の手でしかできない。小学生の時に千里がやったのは千里自身が、1年以内に死亡する予定だったからである。しかし千里(+小春)は、まんまと《死神さん》を欺して生き延びることができた。千里は本来2003年4月9日23:51に死亡する予定で数分程度の誤差はあり得る範囲だったのが、死神さんが気づいた時はもう4月10日になっていたため、千里の魂を地獄に連れていくことができなくなってしまったのであった。この件はその内、詳しく書くことになる。
しかし今回は今にも寿命が尽きそうに見える慈眼芳子さんが自分の命を犠牲にして封印を掛けるつもりなのだろうと感じた。でもそのことは口にしない。(慈眼さんはこの封印の旅をした8日後の1/29に亡くなる)
この時間帯、地球の裏側で皆既月食が起きていた。この“封印の旅”は月食の時にしかおこなうことができない。この月食は日本からは見えないのだが、それでも月食だから、ちゃんと封印はできるらしい。
千里が小学生の時、封印の拠点について、最初にやった時は12個、2度目は27個の神社しか記憶に残らなかったのだが、千里は今回初めて53個全ての神社を記憶していた。たぶん自分はこれで上がりで次は青葉か明恵の番なのだろうと思う。今回、青葉も明恵も、12個しか神社を記憶していないようだった。でも次回はきっと27個記憶に残ることになるのだろう。
人は普段でも多分記憶に残っているのより多くの行動をしているに違いない。ただその一部しか記憶に残らないだけなのだ。
この封印の旅で使用した杖だが、封印作業をしている間は、慈眼芳子・明恵・千里・青葉の4人とも杖を持っていたが、終わった時、全員の杖が消えたように思われた。しかし実は慈眼さんだけは所持していた。慈眼さんはこれは千里が使った杖だと言った。封印の旅を3回もしたことで千里だけ特別扱いになったらしい。慈眼さんは千里の同意のもと、それを青葉に渡した。
この年の秋に千里1がお遍路に行くと言った時、青葉はこの杖は千里1が使うべきものだと直観的に思い、千里1に渡した。千里1はその杖を持って歩いてお遍路で四国一周をすることになる。そしてお遍路を満願した後は京平に贈られ、彼の強力な小道具となる。日本中の空間の歪みを封じた上に、四国八十八箇所を歩いて回った杖のパワーは強大である。
2019年3月9-10日には、福島市のムーランパークで08年組主催の復興支援イベントが行われた。このイベントの出演者と日程は↓のようになっていた。
3.09 AM アクア(10:00-12:00)
3.09 PM §§ミュージックオールスター
13:00桜野レイア、13:20山下ルンバ、13:40原町カペラ、14:00石川ポルカ、14:30桜木ワルツ、15:00花咲ロンド、15:30白鳥リズム、16:00姫路スピカ、16:30西宮ネオン、17:00今井葉月、 17:30高崎ひろか、18:00品川ありさ、18:30川崎ゆりこ (19:00終了)
3.10 AM アクア(10:00-12:00)
3.10 PM 08年組+α
13:00 Golden Six/ 14:00 Olive Lemon/ 15:00 Flower Four/ 16:00 KARION/ 17:00 XANFUS/ 18:00 Rose+Lily (19:00終了)
ムーランパークアリーナはできたばかりで、3月9日はその落成記念式典もあり、ここを本拠地にすることになるアブクマーズの代表や市のお偉いさんなどによるテープカットもあった。
そのあと顔写真付きの身分証明書と照合しながら入場処理をするので、その厳重さに、アブクマーズの選手や市の関係者が驚いていた。
アクアは2日間歌うのだが、9日はF、10日はMが歌っている。アクアのイベントの後は1時間で客を入れ替えなければならないので大変そうであった。それで13:00から午後のイベントの予定だったが、この短時間では入れ替え作業が完了せず、結局20分遅れの13:20から§§ミュージックオールスターの演奏を始め、終了は結局19:30までずれこんだ。
多くの歌手は自分の持ち歌を歌うが、持ち歌がまだ無い原町カペラはももクロの歌を歌った。また持ち歌が少ない石川ポルカは途中にスリファーズの歌を挟んでいた。山下ルンバと桜野レイアはメジャーデビューしてからの持ち歌は少ないものの、インディーズあるいは自主制作で多数の曲をこれまで歌ってきているので、その中からピックアップして歌っていた。
葉月は持ち歌は無いが、今年は松田聖子の歌を歌った。7曲歌うつもりだったのだが、葉月の番になったのが、17:00の予定が17:40だった。それでゆりこ副社長から「悪いけど1曲減らして」と言われたので6曲だけ歌うことにする。
『赤いスイートピー』を可愛く歌い、『青い珊瑚礁』を熱唱。『風立ちぬ』、『秘密の花園』と歌って華やかに『Strawberry Time』を歌う。最後は情緒豊かに『SWEET MEMORIES』(ピアノ伴奏:佐藤ゆか)を歌って締めた。
18:05で終了したのだが、拍手が鳴り止まない。次の高崎ひろかは結局18:10まで始められず葉月は謝ったが
「謝る必要はない。それだけ葉月ちゃんの歌が凄かったんだよ」
とひろかは言った。ひろか・ありさが25分ずつでまとめてくれたので、川崎ゆりこは無事19:30でステージを終えることができた。ゆりこの最後の曲『あじさいの歌』はこれまでに歌った全員が出ていってコーラスを入れた。
なお今年、アクアを会場から脱出させる際の“身代わり”は、9日は大崎志乃舞、10日は桜野レイアが務めたが2人とも「怖かったぁ」と言っていた。
10日の午後は08年組の演奏が行われ、青葉の友人の美津穂と世梨奈はこれに参加したのだが、今年は青葉自身も千里も出ていない。2人とも3月11日に予定していた和実の出産のため仙台市内の病院でスタンバイしていた。
その和実の赤ちゃんは無事生まれ、母子ともに元気だったので、みんなホッとした。
和実は翌日にはおっぱいが出た。これにはお医者さんも驚いていたが、
「確かに男性でも赤ちゃんを産んだら母乳は出るはずというのはアメリカの医学者さんがそういう説を唱えていたんだよ。確かめようのない話だと思っていたけど本当だったんだね」
と言って感心していた。そして和実は初乳を哺乳瓶経由ではあったが、保育器内の明香里に飲ませてあげることができた。千里がしっかりおっぱいマッサージをしてあげたので、和実は充分な量の母乳が出るようになり、明香里はほぼ母乳のみで育って行った。
明香里の出生届けは和実が元男性であるため、いったん保留にされたものの、市の職員が病院で事情聴取し、和実が実は半陰陽であったという説明を聞き、2年半前に代理母さんに産んでもらった希望美のDNA鑑定書で和実が遺伝子的に希望美の母であるとされている記述なども見せると、納得してくれて、出生届けは受け付けられた。それで和実は法的に明香里の実母になったのである。
「私、元は男だったのに、本当の母親になれたなんて信じられない」
と和実が言うと
「いや、和実は元々女だったのではという疑惑が当初からある」
と見舞いに来てくれた梓から言われ
「やはりそうだよね?そんな気がしていた」
と淳にも言われていた。
「淳さん、和実のちんちんに触ったことないの?」
「無い。触らせてくれなかったし、一度も見てない」
「やはり元々ちんちんなんて無かったとしか思えない。私も和実のちんちん見たことないし」
と姉の胡桃にまで言われている。
「お姉さん、和実が赤ちゃんだった頃、おしめ換えとかで見てないんですか?」
「見てるはずだけど記憶が曖昧なのよね」
「やはり怪しい」
3月16日は高野山の★★院で、瞬嶽の七回忌法要が行われ、国内の仏教だけでなく神道からも多数の大物が来訪した。こういうメンツが揃うのは他の機会ではまず見られないものである。
霊能者でも、竹田宗聖・火喜多高胤・中村晃湖など一般に知られているトップクラスのメンツの他、虚空、子牙、紫微、など知る人ぞ知るメンツも来ている。もっとも虚空・子牙・紫微を認識できたのは、たぶん千里くらいで誰もそれがその人とは気づかなかっただろう。菊枝はまだ療養中なので来ていない。香典を瞬高宛に送ってきて託していた。羽衣も来ていないが、天津子が香典を持ってきたので香典返しを渡しておいた。実際には羽衣は貨幣経済と無関係に生きているので、香典のお金は羽衣の弟子・天機と桃源が半々出したらしい。天機と桃源自身も来たらしいが、天津子以外は誰も顔を知らないので、千里さえ気づかなかった。
**寺のC門主が席を立つ。壁際に立っていた千里(実は千里2)がそばに寄り「お薬のお水ですか?」と尋ねる。
「よく分かるね!」
「こちらにおいでください」
と言って千里2は88歳のC門主を隣の部屋に案内し、ここに座ってお待ちくださいと言って水をコップに入れて持ってきた。
「ありがとう」
と言って門主は薬を取り出してもらったコップの水(実際にはぬるい白湯)で飲み干した。
「少し休んでおらお戻りになられるとよいですよ。あ、お菓子どうぞ」
と言って干菓子を勧める。
「ありがとう。君は気が利くね」
と言って、ニコニコしながら門主はお菓子を口にした。
千里がC門主を連れてお堂から出てすく、千里(実は千里3)がお堂に入ってきた。多くの人が今出て行った千里が戻って来たのだろうと思い、何も疑問に思わない。
**寺のK門主が席を立った。千里(千里3)が近寄る。
「お手洗い、ご案内します」
「ありがとう。よく分かるね。助かるよ」
それで千里3は門主をトイレの前まで案内した。用を済ませた門主が出てくると「どうぞ」と言って、おしぼりを渡す。
「済まないね。面倒を掛けて」
「男性の弟子が案内した方がよろしいのでしょうけど、あいにくみんな忙しくしておりますので失礼とは思いましたが、私がご案内させて頂きました」
「いや、もうこの年になったら、性別なんて気にしないよ」
と72歳のK門主は言った。
「まあ実は私も性別は捨ててしまったんですけどね」
「おやおや、まだ君はそんなもの捨てる年ではないと思うよ」
と言ってから、門主はハッとしたように
「君は・・・男でも女でもない?」
と自問するように言った。
「お恥ずかしい。実は生まれた時は男だったのですが、ちょっと南方渡海して、変成女子(へんじょうにょし)してしまいました」
「そうだったか。すまん。変なことを聞いて。でも最近はそういう人も多いから気にすることはない。だけど君は波動がきれいだね。普通の女人の波動だと思う。だから君は少なくとも魂としてはきっと元々生まれながらの女子(にょし)だったんだよ」
とK門主は言った。
「そう言ってもらえると凄く心強いです」
と千里は微笑んで言った、
「私みたいなのはまともに成仏できないかも知れませんけど」
と千里が言うと
「そんなことはない。阿弥陀様は全ての人を極楽浄土に導くとおっしゃっている」
とK門主は即否定した。
「そうですか?」
「そもそも性別なんてのは方便(**)にすぎん。男でも女でもちゃんと涅槃に行ける。そのルートが違うだけで、行き着くところは同じだよ」
「方便ですか」
(**)方便(ほうべん)は仏教用語。世の中には様々な人がいるので、その人に合わせた教導の方法があるので、色々な仏の教えを聞いていると一見矛盾しているように聞こえても、それはその人向けの言葉を言っているにすぎないこと。但し後の密教ではその方便こそ真実なのだとして再評価された。
「そうそう。昔から男の道の方がよく知られているから、男の道はガイドブックがあって、より涅槃に至りやすい。女の道はあまり明らかにされていないから大変だ。お釈迦様は女は成仏しにくいとおっしゃったが、不可能とは言わなかったし、だからこそお釈迦様の教団には男の比丘(びく)だけでなく、女の比丘尼(びくに)もいた」
「確かに」
「男の方が易しいから女の道から男の道に移動してから成仏するのもあり。それが変成男子(へんじょうなんし)だよ」
「なるほどぉ!」
「そなたのように、変成女子(へんじょうにょし)した場合は、より困難な道を行くことになる。しかし阿弥陀様のお導きがあるから、ちゃんと辿り着けるよ」
「それならいいですね」
「だいたい男でなかったら成仏できないというのであれば、修行の邪魔だと言って、魔羅(まら)を切り落とした数多(あまた)の修行僧は成仏できないことになってしまうではないか」
「本当だ!」
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△・Who's Who?(3)