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その日、鱒渕水帆は敦賀駅で降りて、レンタカー屋さんに行こうとしたが、駅の出口の所で携帯で誰かと話している醍醐春海(千里)を見た。千里がこちらに気づいて手を振るので水帆は会釈をした。
水帆はこれは何番の醍醐先生だろうか?と考えた。醍醐先生が3人に分裂しているらしいというのはコスモス社長から聞いているのだが、確かに醍醐先生は以前から昨日話したはずのことを覚えていなかったりして、困惑することがあった。3人いるのなら納得である。
それで千里を観察すると、使用しているのは赤いガラケーである。確かガラケーを使っているのは2番さんだと山村マネージャーから聞いたように思う。
千里が電話を終える。
「小浜に行くの?」
と尋ねてくる。
「はい、そうです」
「だったら私の車に乗っていくといいよ」
「ありがとうございます!」
それで千里に付いていくとオーリスが停まっている。これで水帆は間違いなくこれは2番であると認識する。3番さんなら車もアテンザだと山村は言っていた。Museプロジェクトに関わっているのが2番で、松本花子に関わっているのが3番なので、どちらに何を話していいか充分気をつけて、と鱒渕はコスモスから言われている。
それで鱒渕は《千里2》と一緒に小浜に向かう。途中の三方五湖PAで休憩した時、千里があくびをした。
「醍醐先生、お疲れになっているのでは?」
「うん。昨夜は曲を書きながら徹夜しちゃったから」
「それで運転は危険ですよ!私が運転します」
「鱒渕さん、MT車大丈夫?」
「はい。どちらも行けますよ」
それでその先は鱒渕がオーリス(TOYOTA AURIS RS 1797cc 6MT)を運転して小浜に向かった。小浜ICを降りた後、県道を通り、ミューズパークに行く。千里は眠ってしまったようである。渡されているIDカードで門を通り、地下に降りて行くスロープを通って、地下2階のエントランスまで降りた。
「醍醐先生、着きましたよ」
「あ、ありがとう。ごめんね。眠っちゃって」
「いえ、お忙しいですもん」
それで鱒渕が自分のIDカードでドアを開けて中に入っていく。すると玄関近くに居た太原技師がこちらを見て言った。
「鱒渕さん、いらっしゃい。常務、いい所へ。実は1時間ほど前にMuse-3がダウンして、今、トラブルの起きた箇所を調査しているのですが、なかなか問題箇所を見つけきれなくて困っている所なんですよ」
「それは困ったね!」
「今、川内(せんだい)のMuse-1/2もメンテ中だし、急ぎの納品要請が入っているのに困ったなと思って」
それで千里は太原および鱒渕と一緒に、Muse-3を格納している部屋に向かった。大規模な空調が働いているものの、やや暑い。スーパーコンピュータから出る熱が凄まじいためである。
「トラブってるのは、CPU?それともストレッジ?」
「異常の出方からするとストレッジっぽい気はするのですが。診断プログラムはメモリー異常を表示するので、メモリーなのかなあと思ってその付近も見ているのですが・・・」
千里はじっとMuse-3を眺めていたが、やがて1つのブースに歩いて行った。コントローラが多数納められているブースである。
「ここの扉を開けてみて」
「はい」
太原技師が扉を開ける。多数のボードがラックに収納されている。
「何か気になりました?」
とひとりの技師が尋ねる。
千里はじっと見ていたがやずて
「この付近に変な波動がある」
と言って下から1mほどの高さの付近を指さした。
「このあたりですか?」
と言って太原技師はその付近のボードを1枚抜こうとしたが、千里は
「その1つ上」
と言った。
「はい」
と答えて太原技師は今抜こうとしたボードの上のボードを抜いた。
「あっ、ショートしてる」
と別の技師が声をあげる。
「これが原因か!」
「すぐ交換します」
それで太原技師がショートして焼けているICを取り外し、新品の交換部品を取り付けた。
システムを起動した上で、再度診断プログラムを走らせると正常である。
「よかった。治った」
「だけど醍醐先生、こういう故障箇所がよく分かりますね」
と鱒渕。
「まあアイちゃんの方がこういうのは得意だけどね」
と千里。
「ああ、社長も凄いなと思っていましたが、常務も凄いですよ」
と太原技師は言う。
それで水帆と千里は会議室の方に移動した。若葉と小浜市の部長さんが待っている。
「あれ?千里も来たんだ?」
と若葉が言う。
「うん。時間が取れたからね」
それで鱒渕、千里、若葉、部長さんの4人で年末(2018年12月31日)に予定しているローズ+リリーのカウンドダウン・ライブでの会場運用について、打ち合わせを始めた。
この会議のあった翌日、“千里3”は、太原がMuse1-2は“せんだい”にあると言っていたよなと思い、東北新幹線で仙台に行って、大きな電力を使ってそうな場所を探してみたのだが、どうしてもMuse-1/2の場所は見つけることができなかった。
千里3は「おかしいなぁ。確かに仙台と言ってたのに」と呟いて首をひねった。
2018年後半から2019年春にかけての3人の千里の動きはこんな感じである。
●千里1
信次の死(2018.7.3)の後しばらく茫然自失の状態だったが、緩菜の誕生(2018.8.23)で自分を取り戻し、《すーちゃん》を練習相手にしてバスケの練習を再開する。少しずつバスケ能力が回復するとともに霊的な能力も急速に回復に向かう。2019.1.4に由美が誕生すると、精神的には充分回復するものの、まだ自分の巫女としての記憶、眷属たちのことは思い出していない。
経堂の桃香のアパートに主として住んでいる。バスケの練習は常総ラボに通っている(板橋ラボはまだ無い)。桃香の“お誘い”には「一周忌まではダメ」と拒絶している。作曲にはまだ復帰していないが、編曲は引き受けている(松本花子作品の編曲作業はたくさんある)。作業は主として都内のカラオケ屋さんやビジネスホテルで行っている。名古屋のマンションに置いていた楽器類は現在、尾久のマンションに移していて、必要な時は天野貴子(きーちゃん)に取って来てもらっている。
●千里2
10月からフランスのLFBが始まるのでマルセイユの一員として参加。マルセイユ市内のアパートに住んでいる。LFBの試合は土日で、平日は練習があるものの、月〜金の5日間の内3日くらい出ればいいという空気である。それで千里は毎週1日はスペイン・グラナダの自宅で過ごし、グラナダの雑誌社の仕事をしていた。そういう訳で、千里はフランスとスペインの両方で就労ビザを取得している。
日本とヨーロッパは昼夜が逆なので、それを利用してしばしば日本にも来ている。日本滞在中は、主として江戸川区葛西のマンションに居る。
ただし貴司がしばしば姫路近くの市川ラボに練習に来るので、その日は千里2が“貴司の前には姿を現さないまま”食事を用意したり、洗濯をしてあげたりしている。実を言うと千里3が千里2に譲ってあげているのだが、そのことに2番はまだ気づいていない。3人の千里の中で、2番が最も貴司のことを好きなのを3番が察している。ただ貴司に男性器が無いのでセックスできない!
●千里3
9月下旬にスペインのカナリア諸島でワールドカップに参加した後、10月下旬に日本のWリーグが始まったのでこれに参加する。12月下旬のオールスター、1月の全日本に出場し、2月にはWリーグのプレイオフに参加するが、いづれも不本意な成績で終わる(前述)。
千里3はワールドカップを除いては、だいたい日本国内におり、この時期は川崎のマンションに住んでいて、同じ川崎市内のレッドインパルス練習場に通っている。ここで作曲活動もしている。楽器もだいたいここにあるが、一部の楽器は尾久のマンションにあって、必要な場合は《きーちゃん》に取って来てもらっている。
なお、この時点でハルコンズのメンバーを管理しているのは千里2、ドラゴンズとコシネルズは千里3の担当である(コシネルズは1番の管理だったが、1番が能力を喪失し、彼女たちのこと自体記憶から消えたので3番が引き継いだ)。
基本眷属の帰属は↓
1:とうちゃん、たいちゃん、りくちゃん、てんちゃん
2:つーちゃん、ほしちゃん、びゃくちゃん、いんちゃん
3:わっちゃん、えっちゃん、すーちゃん、せいちゃん、げんちゃん
共:きーちゃん、くうちゃん、こうちゃん
こうちゃんはいったん千里2が自分の専任にしたのだが、秋に男性能力を“返してやった”時に千里3も自分の専任にしてしまい、結果的に2番と3番の共通の眷属となった。普通は誰かの眷属になっている子は別の人が眷属にすることはできないのだが、どうも“同じ千里”であれば可能なようである。えっちゃんの場合は千里2との契約が仮契約だったので、完全に3番に取られた。
尾久のマンションの楽器は《きーちゃん》が必要に応じて3人の千里の求めに応じて取って来たり、置きに行ったりしているが、これは複数の千里が尾久で、かち合わないようにするためである。
2019年1月19日(土)から21日(月)頃の3人の千里および青葉の動きはこのようであった。
1/13 朋子が優子・奏音を千葉の川島家に連れていく。朋子は14日富山に戻る。優子たちはしばらく桃香宅に滞在。桃香たちは(由美が生まれたので)仙台に行っている。
1/15 千里1、単身で仙台から千葉に戻り、康子と相談して優子への送金を増額。夕方仙台に戻る。
1/16 千里1、仙台で由美のことで市職員の聴取を受ける(実際にはほとんど桃香が答える)
1/18
和実のメンテ:8:00=1 15:00=天野
千里1 桃香・早月・由美と一緒に仙台から千葉へ戻る。
千里2 10:00-18:00(JST 18:00-26;00)チーム練習。
千里3 川崎から北海道へ。美輪子の家に泊めてもらう
青葉 金沢でタッチの練習。
1/19(土)
和実のメンテ:8:00=2 18:00=忌部
千里1 千葉で信次の二百ヶ日法要
千里2 和実のメンテ。夕方いんちゃんと交替して仮眠。日本時間20日4:00にフランスでLFBの試合。
千里3 旭川でWリーグの試合(13:00-15:00)。
青葉 朝の新幹線で東京へ。千葉で信次の二百ヶ日法要に出る。彪志のアパートに泊まる。
1/20(日)
和実のメンテ:8:00=2 18:00=青葉
千里1 千葉に滞在
千里2 仮眠後朝いんちゃんと交替して和実のメンテ。夕方青葉と交代。
千里3 旭川でWリーグの試合(13:00-15:00)。16:00頃旭川を発つ。
青葉 §§ミュージック→深川アリーナ→夕方仙台に行き2番と交替。
1/21(月)
和実のメンテ:12:00=1 21:00=2
千里1 午前中に新幹線で仙台へ。お昼前、和実の病院に行き青葉と交代。
千里2 夜1番と交替
千里3 12:00 仙台に来るが1が先に病院に入っている。12:30 内灘。封印の旅。
青葉 午前中は和実のメンテ。12:30 内灘。封印の旅。
妊娠中の和実はもう絶対に目が離せない状況になっていたので、だいたい、千里2と千里3が交替で見ているのだが、2人だけでは無理なので、青葉ができる時は青葉が、状況次第では千里1も入り、それ以外に天野貴子(きーちゃん)、忌部繭子(いんちゃん)、白鳥清羅(びゃくちゃん)も入っている。青葉の眷属の代表・雪娘ときーちゃんとの“淑女協定”で、千里の眷属が和実のそばに付いている場合も、そのことは青葉には話さないことになっている。
千里3は19-20日は旭川で試合があるので、20日の試合(13:00-15:00)の後、仙台に移動して和実のメンテをするつもりだった。千里3は18日に旭川入りしたのだが、他のチームメイトと一緒に飛行機で移動しようと思ったら《くうちゃん》が
『千里、アテンザを持って行きなさい』
と言った。
『でもフェリーでは間に合わないよ』
『僕が空輸してあげるから』
『じゃよろしく』
それでキャプテンには「親戚のところに寄りたいので別行動していいですか?」と言って許可をもらい、大洗までアテンザで走った所で、《くうちゃん》に即時苫小牧に転送してもらった。それで苫小牧から旭川へ走り、その日は美輪子の家に泊めてもらった。19日の試合の後はチームメイトと一緒に旭川市内のホテルに泊まっている。
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△・Who's Who?(2)