広告:ここはグリーン・ウッド (第4巻) (白泉社文庫)
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■△・武者修行(11)

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なお今週の千里のアメリカのPSFでの練習時間は、日本時間でいうと5月15-19日の22-25hである。そちらで3時間練習した後、深夜の深川体育館でまた3時間練習し、日本時間での午前中は寝て、午後から桃香の所に行くというのが、千里2の生活パターンである。
 

 
5/18までにだいたい楽曲を仕上げ、19日は疲れたので少し休む。そして20日の夜、桃香のいる彪志のアパートから戻ってきてから、最終的な仕上げに掛かった。20日は土曜でPSFの練習も無いし、試合も無いので、深川での練習も休むことにして、夜通しこの調整作業を続けた。そして5/21朝、自分でも満足いく状態になったので、5/21 6:00頃、冬子に送信した。これが冬子に届いた《1曲目》である。
 
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その後千里2は午前中いっぱい葛西のマンションで寝ていた。
 

一方マルセイユに居る千里3はだいたい日中MBFの練習に出て夕食後5時間くらい作曲活動をしている。千里3もだいたい18日までにはほぼ楽曲が完成した。
 
『冬の初めに』は1970年代の赤い鳥やグレープなどのような“叙情派フォーク”ともいうべき傾向の曲である。この曲はアコスティック楽器での演奏を指定。アコスティックギター(近藤)とヴァイオリン(鷹野)でシンプルに仕上げることを要求した。ドラムスも入れずに、あとは間奏にサックス(七星)が入るだけである。
 

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アクア(龍虎)は4月21-24日にタイのプーケットで水着写真集の撮影をした後、ゴールデンウィークになる4月29日から5月7日まで、9日間で6ヶ所のドームツアーの日程が入っており、4月25-27日は、毎日学校が終わった後、スタジオに入って練習をしていた(28日は夕方の便で新千歳に飛ぶ)。
 
ところが4月25日の夕方、マネージャーの鱒渕さんがスタジオに出てこなかった。アクアのバックバンド・エレメントガードのヤコが事務所に問い合わせてみるが休みなどの連絡は入っていない。無断で欠席や遅刻をするような人ではないので、秋風コスモス社長はデスクの田所さんに様子を見てきてくれるよう頼んだ。するとドアは閉まっていたものの、鍵が掛かっていなかった台所の窓を開けて中の様子を見ると、居間に人間の手が見えてこちらから声を掛けても動かなかったのである。
 
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マンションの管理会社に連絡し、鍵を開けてもらって中に入ると鱒渕さんが意識を失って倒れていた。すぐに救急車を呼び病院に運ぶ。
 
医者の見立てでは極度の疲労ということであった。
 
恐らくツアーの準備などもしながら、そこに海外の写真撮影まで入って疲労がピークに達したのであろう。
 
その週のアクアの練習スタジオへの付き添いは結局コスモス自身がおこない、その間の取材などの事務は、品川ありさ・白鳥リズムなどの管理をしている沢村さんが代行することにした。
 
しかしツアーの付き添いは兼任では無理だ。といってマネージングが未経験の人にもさせられない。∞∞プロから人を借りるしかないのではとコスモスは考えたものの、アクアの微妙な性的傾向(?)を理解できるような人でないと、アクアが強いストレスを感じる可能性がある。
 
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それでコスモスは紅川会長と話し合った末に、∞∞プロで、丸山アイの初期の頃のマネージャーを務めていた、菱沼伊代さん(32歳)に頼めないかという話になった。丸山アイは公的には「女性シンガーソングライター」ということになっているものの、実は「男性演歌歌手」高倉竜と同一人物であることを、コスモスたちは知っている。彼女自身、実際問題として男なのか女なのか、どうも分からない。「僕はFTMなんです」と言ったり「私実はMTFなのよね」と言ったり、人によって使い分けしているので、それをそのまま信じている人も多い。
 
そういう曖昧な性別の歌手の初期の売り出しを担当した菱沼さんならうまくアクアの管理もできるのではと考えたのである。菱沼さんは現在Golden Sixの担当なのだが、幸いにもGolden Sixはゴールデンウィークはツアーが無い。
 
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それで∞∞プロの鈴木社長に打診したら、ツアー中だけであれば、菱沼を貸すのは問題無いと言ってもらえた。
 
それで菱沼さんが来てくれた。彼女はアクアを一晩貸してと言って、4月26日の夜、一緒にホテルに泊まり込んで色々話し合ったようである。そして翌日彼女は「だいたいアクアのことが分かった」と言っていた。
 
しかしむろん、ツアー中の管理は菱沼さんひとりでは無理である。それで実際には、§§プロの研究生で高校を出たばかりの吉田和紗ちゃんを雑用係に付け、丸山アイのサブマネージャーでアイと同じ長崎市出身の楠本京華と3人体制でツアー中、アクアに付くことにした。彼女はアイの遠縁の親戚でもあると言っていた。
 

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普通なら男の子の歌手に、年齢の近い女の子を付き人的に付けた場合、性的なトラブルが発生しないか注意する必要があるのだが、アクアの場合は、むしろ男の子の付き人を付けた方がまずいと、コスモスも紅川さんも考えた。
 
実際、和紗ちゃんは話をもらった時は売れっ子アクアの付き人というので喜んだ反面、もしHなこと迫られたりしたら、どうしよう?などと考えたものの、全く杞憂だった。
 
(むろん和紗はアクアとは別室に泊めている)
 
ツアー中、アクアに渡さなければならない譜面があったので、最初ドアをノックするものの返事が無い。寝てしまったのなら枕元に置いてこようと、預かっているキーでドアを開けて中に入ったら、ちょうどお風呂からあがってきたアクアと遭遇して
 
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「きゃっ」
「わっ」
 
と声をあげた(ちなみに「きゃっ」と言ったのがアクア)。
 
アクアはまるで女の子がするように、胸から腰の付近までをバスタオルを巻いて覆っていた。
 
「ごめんなさーい」
「大丈夫だよ。何か用事だった?」
「あの、この譜面渡すように言われたんですが」
「ありがとう。見ておくね」
 
それで和紗は急いでアクアの部屋を出たものの、アクアちゃんの香りがまるで女の子みたいな香りだったなあと思った。
 
更に翌日ホテルをチェックアウトする時、アクアの部屋に忘れ物が無いか確認していたら、バスルームの汚物入れが倒れているのに気付く。それで何気なくそれを起こしたら、ふたが外れてしまった。あっ、と思い、そのふたをしようとしたのだが、そこに使用済みのナプキンが入っていることに気付く。
 
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こういう場合、普通の男の子タレントであれば、
「誰か女の子を連れ込んだんだ?」
と思われる。
 
しかしアクアの場合、和紗は
「もしかしてアクアちゃんって、本当は女の子なの!?」
と思ってしまった!
 

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アクアは、楠本京華さんを見た時、ドキッとした。
 
一瞬にして全てを見透かされたような気がしたのである。“アレ”がバレたらどうしよう?と心配したものの、彼女はアクア自身のことはあまり詮索しないようであった。
 
彼女は不思議な雰囲気を持っていた。こういう感覚は、まだ幼い頃に千里さんと初めて会った時以来という気がしたので、ひょっとしたら、京華さんも“完全なMTF”なのだろうか、などとも思った。
 
むろんそんなこと訊いたりはしない。そもそも“完全なMTF”というのは現代の医療技術ではあり得ない存在だし。。。と思ったら、どうも付き人をしてくれる吉田和紗ちゃんも似た感覚を持ったようである。
 
「違ってたらごめんなさい。もしかして京華さんって、元男性などということは?」
と和紗は訊いた。
 
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彼女は微笑んで答えた。
 
「よく分かったね。実は私も中学生の時に、アクアちゃんが手術したのと同じ病院で性転換手術を受けたんだよ」
 
「ボク、性転換手術はしてません!」
「隠さなくてもいいのに。だって君、ちんちん無いじゃん」
「ありますよう!」
 
ということで、彼女が本当にMTFなのかそれとも天然女性なのか、結局はよく分からない感じになった。
 
ちなみにこの時のアクアは本当に“女の子”の方のアクアだったし、C学園の女子制服を着ていた(ボトムはスカート)。
 

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そういう訳で、ドームツアーは菱沼・楠本・吉田の3人体制で乗り切った。実はアクア自身も日替わりで歌っていた。
 
4.29(祝)札幌 アクアM
4.30(日)福岡 アクアF
5.01(月)(学校)アクアN
5.02(火)(学校)アクアM
5.03(祝)大阪 アクアN
5.04(祝)名古屋 アクアM
5.05(祝)東京 アクアF
5.06(土)休み
5.07(日)東京 アクアN
 
実はアクアFは最初から福岡に行って待機していた。札幌に行ったアクアMはのんびりと東京に戻ってきて5月2日学校に行き、その後名古屋に行った。
 
アクアのライブはだいたい3時間なので歌い終わるとクタクタになる。
 
「ライブの翌日は休まないと、疲労でお肌が荒れる」
というアクアFの弁である。
 
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ツアーが終わった後も、アクアのスケジュールは大変である。
 
取り敢えずの処置として、元社員の牛田さんという女性に一時的に復帰してもらって全体の管理をお願いする中で、出演や取材の交渉はコスモスやゆりこも自分の音源制作を延期して対応し、和紗や数人の研修生が雑用をこなすという体制で進めたものの、やはり専任で結構な交渉能力のあるマネージャーが必要と考えられた。経験者を中心に探し何人か面接もしたが決まらなかった。
 
その中で、6月になって楠本京華が
 
「自分の友人で、実体験としては演歌歌手のマネージャーしかしたことがなくてアイドル歌手は未経験なんだけど、凄く交渉能力のある30歳前後の女性がいるのだけど」
と言ってきた。
 
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コスモス社長と紅川会長がその女性・四谷勾美さんに会ってみると、彼女の雰囲気を見ただけで、この人は凄い!とコスモスも紅川さんも思った。話してみると、しばらく音楽業界から離れていたとは言っても、現在のJPOP界のことをよくよく理解していることが分かる。
 
醍醐春海やAYA、鹿島信子などとも知り合いだと訊いたので、紅川さんがまず醍醐(実は千里2)に電話してみたところ、ああ、その人なら大丈夫ですと言い、AYAにも電話してみると、その人運転もうまいし、会話がとても面白いなどと言っていた。
 
車の運転がうまいというのはポイントが高い。
 
鹿島信子はなぜか笑っていたが「その人、性別の曖昧な人への理解がありすぎるくらいにあるから、アクアちゃんが今後性別を変更したとしてもうまく処理できますよ」などと言っていた。紅川さんは一応信子に「アクアは性別を変更する予定は無いので念のため」と釘をさして置いた。
 
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それで非常に理想的な人のようだということになったものの、紅川さんは、ひとつだけ心配した。以前演歌歌手のマネージャーをしていたという場合、闇の社会とのつながりがないかという問題である。そこで興信所を使って半月程にわたり調査させてもらった所、そういう関わりは無さそうだということが判明した。
 
彼女は現在は別れた夫(開業医)からもらった慰謝料を株で運用して悠々自適の生活をしているようだ。日中はその株取引のため自宅に籠もっているようである。念のため借金も調査させてもらったが、ショッピングローンに15-16万円の残高があるだけで、サラ金などとも関わりがないことが判明する。
 
それで紅川さんとコスモスは彼女をアクアの新しいマネージャーとして採用する方向を固めた。
 
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なお鱒渕はかなりの重症だったようで、内臓が全体的に衰弱しており、6月下旬になっても退院の目処がつかない状況であった。元々頑張る性格が災いして、体調不良が重症化していたようだ。4月頃はドリンク剤を毎日3本飲んで頑張っていたらしい。それでも弱音を吐かなったのは偉いが、結果的に死んでいてもおかしくないほど身体が弱っていた。
 

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千里3は19-20日は《熟成》のため『冬の初めに』には触らなかった。21日(土)の朝になって再度MIDIを演奏して歌ってみて、再調整を掛けていった。この日はチームの練習は無い。それで調整作業が完了したお昼前に《きーちゃん》に指定された天野貴子のメールアドレスに送信した。
 
《きーちゃん》はそのデータを確認した上で、村山千里のメールアドレスから冬子のメールアドレスに送信した。これがフランス時間の5/21 13:00、日本の5/21 20:00頃になる。これが冬子に届いた《2曲目》である。
 
千里3は21日の午後はひたすら寝ていた。
 
千里3は5/22が青葉の誕生日というのは認識していたものの、妹の誕生日のために日本と往復するわけにも行かないので、Amazonを利用して、彪志のアパートにモエ・エ・シャンドンのシャンパンを送っておいた。
 
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一方千里2は5月21日朝に楽曲を送信した後、午前中は寝ていて、午後からまた大宮に行って桃香のお世話をした。
 
夕方、葛西に戻って休んだが、その休んでいる間に冬子から電話が掛かっていた。しかし千里2は熟睡していて気付かなかった。それで5/22 1時頃になってから冬子に電話した。普通の人にはこんな時間帯には掛けないのだが、冬子ならたぶん2時頃までは起きているだろうと思って電話したものである。冬子からは2曲続けてもらったけどストックなどを使った物かと尋ねられた。千里2はここ数日で書いたものだと説明し、各々の背景についても語っておいた。
 
その後、アメリカに転送してもらい、5/21 16-18h(=5/22 5-7h JST)の試合に出た。その後、日本に戻ってきてから、5/22 9h頃、フロリダの結婚式の写真、マルセイユの夕方の風景の写真を冬子に送っておいた。
 
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