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それで千里は病院を出ると、オーリスは駐車場に置いたまま、コンビニで飲み物を買ってホテルまで行き、部屋を1つ取って寝た。これが17:30くらいである。
21:30(=8:30EDT)、つーちゃんが起こしてくれる。それで千里は顔を洗い、練習着に着換えて、きーちゃんに転送してもらってフィラデルバーグに行った。3時間スワローズのメンバーと汗を流してから、市内でひとりでお昼を食べ、その後、深川に転送してもらってまた2時間(日本時間2:00-4:00)練習した。普段は3時間ほど練習するのだが、疲れていて眠りながらシュートするような感じになったのでそこで切り上げた。更にはその後の京平とのデートも《きーちゃん》に今日はお休みと伝えておいてと言っておき、ホテルの部屋に転送してもらって熟睡した。
PSF(日本時間) 千里2病院滞在
_9日(火)______ 13-24 (練習を休ませてもらう)
10日(水)22-25h
0-18(↑から引き続き滞在. ホテルで仮眠した後PSF)
11日(木)22-25h 10-18 (通常)
12日(金)22-25h
9-14(病院の後青葉と一緒に冬子の所に)
13日(土)試合↓ _9
13(通常) (帰国した千里1が20-21時訪問)
14日(日)_5-_7h 10-16 (この後青葉と一緒にベビー用品を買いに)
15日(月)22-25h **-** (千里1が付き添い桃香退院。青葉たちは帰る)
起きたら(5/11)9時すぎだった。顔を洗って朝食を取ろうと1階ラウンジに降りて行ったら、青葉と朋子も朝食を食べている所だった。
「さすがに疲れた」
などと言って、同じテーブルに座る。青葉が
「ちー姉、今日のバスケ練習は?」
と訊いてくる。
千里は微笑むと
「今日はさすがに辛かったから1時間早めに切り上げさせてもらった」
と答える。
「練習してたんだ!」
「まあそれがお仕事だからね」
3人で一緒にタクシーに乗って病院に行く。
桃香は起きていて、赤ちゃんも既に同室になっていた。桃香はこの赤ちゃんの名前を《早月》(さつき)にしたいと言い、千里2も同意した。
この日は朋子・青葉・千里2はずっと桃香に付いていた。桃香のお乳に関しては最初若い佐藤という助産師さんがマッサージしてくれたのだが、全然出る気配が無い。それで千里が
「それじゃダメだよ。貸して」
と言って、交代してしっかりと《お乳の元栓》付近を強力にマッサージする。桃香が「痛たたたたた!」とかなり悲鳴をあげたが、それで少しお乳が出た。
「わぁ初乳だ」
と青葉。
「凄いですね。すみません。経産婦の方ですか?」
「うん。まだ1人しか産んでないけどね」
「さすがですね! すみません。まだ助産師になりたてなもので」
「でも助産師になるには介助もおっぱいマッサージもたくさんしているはずなのに」
「すみませーん。ベテランの人に頼ってばかりで」
「でもその内、ちゃんとできるようになるわよ」
と朋子が励ましていた。
出た初乳は早速早月に飲ませてあげた。
12時になったので、朋子・青葉・千里2はお昼ごはんを食べに外に出た。
3人が出かけてすぐ、まだ桃香が病院のお昼ごはんを食べている最中に桃香のスマホに千里から電話が入る。実はフランスに居る千里3である。向こうは朝5時で起きた所であった。
「はい」
「桃香、体調はどう?」
「あ、えっと・・・まだあそこは痛いけど、だいぶ体力は回復してきた感じ」
と答えつつ、なんで今更そんなこと訊くのだと桃香は思っている。
「赤ちゃんはもう同室になったんだっけ?」
「・・・・今朝から同室になってるけど」
「お乳出た?」
「出たから、初乳を飲ませたよ」
「すごーい。桃香優秀だね。名前は決めた?」
「あ、えっと早月(さつき)にしようかと」
「どんな字?」
「早い月で、さつき」
「ああ、女の子だとそういう画数の少ない名前いいかもね」
「まあ私は男でも女でも、その名前にするつもりだったんだけど」
「了解了解。その名前でいいと思うよ。まだしばらく戻れないけど、何かあったら報せてね」
「あ、うん。ゆっくりしてきて」
それで電話を切ったが、桃香は「やはり千里はおかしい!」と思った。ちなみに《しばらく戻れない》というのは、千里3は7月くらいまで戻れないという意味で言ったのだが、桃香はお昼ごはんに時間が掛かるという意味にとっている。
それで桃香がお昼を食べて、自分でトレイを下げてきて、その後、ひよこクラブを読んでいたら、また千里から電話が入る。実は今度はアメリカのシアトルに居る千里1で、向こうは夜8時。夕食の後、会議があって、それが終わって自分の部屋に戻った所であった。
「はい」
「桃香、体調はどう?」
「あ、えっと・・・だいぶ体力は回復してきた感じかな」
と答えつつ、こちらはいいけど、千里こそかなり重症だぞ、と桃香は思った。
「痛くない?」
「痛いけど、何とか我慢してる」
「痛み止めとかもらった?」
「医者は処方すると言ったけど、お乳に混ざると嫌だから要らないと言った」
「お乳はもう出た?」
「出たよ」
「すごーい。桃香、優秀だね」
「そうかな」
「赤ちゃんはもう同室になったんだっけ?」
「・・・・今朝から同室になってるけど」
「そっかそっか。名前は決めた?」
「あ、えっと早月(さつき)にしようかと」
「どんな字?」
「早い月で、さつき」
「ああ、5月生まれだもんね。それでいいんじゃない?」
「いや、千里、何か名前の案あった?」
桃香は千里と3回も名前の話をして、実は千里は別の名前を考えていたのではという気がしたので訊いてみた。
「ううん。桃香が産んだんだもん。桃香が決めていいよ」
そういう訳で、早月という名前に関して桃香は千里に3回!了承を得たのである。
翌5月12日。
この日は朝からお医者さんが出生証明書を書いてくれたので、青葉が留守番をして、朋子と千里(千里2)で、出生届を出し、その足で出産育児一時金の申請に行った。あきる野市秋川→世田谷区世田谷→千代田区神田という結構な大移動なので、時間も掛かったようである。使用した車は9日に千里2が病院に来る時に使ったまま病院の駐車場に駐めっぱなしになっていたオーリスである。
12時になり桃香は病院のお昼ごはんを食べるが、青葉は朋子たちが戻ってから、お昼を食べに出ようと思っていた。やがて桃香が食べ終わり、自分で食器を返しに行く。桃香は「ついでに飲み物買ってくるね」と言って部屋を出た。
その桃香が出ている間に、テーブルに置いてある桃香のスマホに着信があった。見ると千里なので、青葉は自分が取ってもいいだろうと思い、電話に出た。
「お疲れ様、ちー姉。今、桃姉は飲み物買いに行ってるんだよ」
「ああ、青葉か。桃香と早月、問題は無い?」
「うん。どちらも特に問題は無いよ」
「それなら良かった。こちらは今終わった所。あとは帰るだけだから」
「お疲れ様。大変だったよね。気をつけて帰って来てね」
「うん。ありがとう。青葉もあまり無理しないようにね」
「うん」
「それじゃまた」
それで電話を切った。
桃香はどうもロビーで雑誌でも見ていたようで20分くらいしてからやっと部屋に戻ってきた。
「20分くらい前にちー姉から、今から帰るって電話あったよ」
「ああ。今日は結構な距離の移動だから大変だよね」
なお、この時電話を掛けてきたのは、出生届などの手続きに行っていた千里2ではなく、アメリカで合宿をしていた千里1である。
日本の5/12 12:30は、シアトルでは5/11 20:30 で向こうでは合宿の全ての日程が終わった所であった。それが千里が言った「終わった所」である。明日はもう帰国の途に就く。千里1たちは次の便に乗る。
SEA 5/12 13:20(=12/13 5:20 JST) NH177(B787-9) - 5/13 15:40 NRT
実際には(シアトルの)5/12 午前中はお土産を買ったりの時間になるが、その時間帯は日本は深夜なので、千里1はその前、寝る前に電話を掛けてきたのであった。
千里1が言った「あとは帰るだけ」は、あとは太平洋を横断する飛行機に乗って日本に帰るだけということなのだが、青葉は手続きが終わったので病院に戻るだけという意味に取った。
そういう訳で今回の電話では、意図が全然伝わっていないことに、青葉も千里1も全く気付かなかった。
朋子と千里(千里2)が戻って来たのは、もう13時すぎである。それで朋子が青葉にお昼食べておいでよと言うと、青葉は冬子から呼ばれているので、このまま今日は病院には戻らず都心に出ると言った。すると千里も仕事があるので帰ると言い、だったら青葉を恵比寿の冬子のマンションまで送って行くと言って、ふたりで一緒に病院を出た(オーリス使用)。
近くのモスバーガーでお昼を食べた後、恵比寿に向かうが、青葉が冬子に連絡したら、千里も居るのなら一緒に来て欲しいと言われた。
それで出て行った所、冬子がローズ+リリーのアルバムのタイトルが製作会議で否決されてしまい、新たなタイトルを指定され、しかもレコード会社から厳しいスケジュールを指定されてしまったことを訊く。
それで冬子は青葉と千里に、忙しい時に申し訳無いが2人で2曲ずつローズ+リリーに曲を提供お願いできないだろうかと言った。
これに対して千里2は自分は3曲提供し、その内の2曲を“まるでケイが書いたように書く”と言った。そして千里は、青葉と七星さんを前に、『ケイ風楽曲の書き方』の講義をした。
ケイは苦笑していたが、それを聞いて、青葉も七星さんも、それやってみると言った。
それで千里が2曲、青葉と七星が「ケイが書いたみたいな曲」を書くと、ケイ自身が本当に自分で3曲書いた場合、全部で7曲の《ケイ名義》の楽曲が揃い、今年のアルバムの体裁を整えることができるのである。
千里2は《きーちゃん》に頼み、冬子から頼まれたとして、千里1と千里3にローズ+リリーのアルバムに入れる品質の楽曲作成依頼をした。そして調子の悪そうな千里1には普通の醍醐春海名義での作成を頼み、先日AYAにかなり良い曲を提供して、比較的調子の良さそうな千里3には、ケイ風の作品の作成依頼をした。千里3は《きーちゃん》との電話で、ローズ+リリーの状況を聞き、
「それは可哀相に。うん。頑張って書くよ」
と答える。
「こないだ会った時、ケイから1曲頼まれていたけど、まだ考えてなかったんだよね。でもそういう事情なら、ちゃんとケイっぽく書くから」
と千里3は言っている・
「いつものように、メロディーとギターコードだけ書いてもらったら、あとはこちらで肉付けしますから」
「いや、それでたいちゃんに負担掛けていたから今回は私がスコアまで作るよ」
「分かりました。よろしくお願いします。でも時間が無さそうだったら言ってください」
「Bien Sur!」(OK)
《きーちゃん》は千里3が他の眷属と通信できなくなっている理由として、千里が眷属を使いすぎていると出羽の方で注意されたためと言い訳していたので、千里3は普段眷属にさせていたスコア作成作業を自分ですると言ってきたのである。
千里3が《きーちゃん》からローズ+リリーのアルバムに入れるケイ名義の曲を書いてもらえないかと頼まれたのは、日本時間の5/13 Sat 1:00頃で、フランス時間では5/12 Fri 18:00 になり、MBF(Marseille Basket Feminin) の練習が終わったタイミングで《きーちゃん》が連絡したものである。
千里3は翌日5/13は練習が休みだったので、ずっとマルセイユの町を歩き回って構想を練っていた。
マルセイユは特にこの時期、寒暖の差が激しい。千里3は朝はかなりの厚着をして出てきたものの、昼間は脱いで夏のような服装にした。そして夕方になるとまた重ね着する。
夕食を取ろうと近くのレストランに入り、ぼーっとしながら外の景色を見ていたら、チームメイトのエヴリーヌが入って来た。
「デート?」
「ううん。外の景色見ていただけ」
「じゃ一緒に食べようか?」
などと言って、一緒におしゃべりしながら食事をしていた時、彼女がふとこんなことを言った。
「日本にも5年くらい前に一度行ったことあるけど、秋で紅葉がきれいだった」
「日本って、滅び行くものを美化する文化があるからね。散る桜とかね」
「ああ、それも美しいと聞いた」
「日本って微妙な緯度帯にあるから、多くの地域でわりと四季がはっきりしている」
「フランスにも四季はあるけど、フランスの場合、1日の中に四季があるよね」
彼女がそんなことばを発した時、千里3はハッとした。
「ねえねえ、今のこの時間帯の景色を写真に収めたい。エヴリーヌ、私のスマートフォンで、外の景色を撮影してくれない?」
「いいけど、なんで自分で撮影しないの?」
「私、カメラ音痴で、未だかつてまともな写真を撮影できたことがない」
「難儀だね〜(C'est difficile!)」
などと言いながら、彼女は千里のAquos phoneで外の景色を数枚撮影してくれた。
これが日本時間5/14 3:58(=5/13 20:58 CEST)のタイムスタンプで撮影された写真である。
「ありがとう!それとちょっと詩を書いていい?」
「どうぞどうぞ。へー。シサトは詩を書く趣味があるのか」
「ちょっとね。どこかに投稿するかも」
「おお。頑張ってね」