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■女の子たちの魔術戦争(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2011-04-22
 
※この作品はフィクションです。作品内で述べられている法的な処理もあくまで「お話」です。また作品内で記述した魔術的なものは「鍵」を外しています。鍵は想像しないことをお勧めします。この作品は2017-2019年の暦を使用しています。
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それは桃香が早月を出産し、千里がソフトハウスに勤めながら桃香母娘を経済的に支援しはじめた頃のことであった。千里は最近、忙しい仕事の合間を縫って、茶道の教室に通っていた。当時千里は就職3年目で係長の肩書きを持ち、20人ほどを動員する大きなシステム開発のリーダーをしていたのでほんとに時間が無かったのだが、精神的な負荷が大きい分、無理にでも都合を付けて、心を落ち着ける時間を取りたかったのであった。当時千里はアパートで一人暮らしで、桃香たちのアパートとは2kmほど離れていたが、千里はよく自分のミラを運転して、桃香たちの様子を見に来ていた。ちなみにこのミラは千里が中古屋さんで3万円で買った車で購入時の走行距離が20万kmを越えていた。千里は「走る奇跡だね」などと言っていた。
 
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千里の茶道教室出席はどうしても不定期になりがちではあったが、和服をきれいに着こなし、おしとやかな作法でお茶を点てたり頂いたりする千里は、先生からも褒められることが多かった。千里は一緒の教室の他の生徒さんとも仲良くなったが、その中で特によく話をしていたのが、50代の女性で康子さんという人だった。その人は華道と着付けの免状を持っているのだがなぜか茶道にはあまり縁が無かったということで50過ぎてから茶道教室に通い始めたということだった。千里は着付けの免状は持っていないものの、学生時代からよく和服を着ていたので、自分で振袖でも着れるし、他人にも着付けてあげることができる。康子は千里に「あなたならすぐ免状取れるから試験受ければいいのに」とも言っていた。
 
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康子は息子が2人いるということで、千里ちゃん、うちの息子のどちらかの嫁にならない?などとも言っていたが、柔らかくお断りしておいた。性転換して女になった身としては、普通には結婚できないものと覚悟していたし、性転換していること自体をわざわざ言いたくも無かった。千里はふともう5年前になってしまった性転換手術の時のことを思い起こしていた。

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「いよいよ明日だね」わざわざプーケットまで手術の付き添いに来てくれた桃香が千里に声を掛けた。
「うん。昨日くらいまではドキドキしてたんだけど、今は心の中が澄み切った感じで、明鏡止水の境地ってのかな、それに近い感じ」
「20年間付き合ったおちんちんとお別れする感想は?」
「特にないかな」
「千里、去年の去勢手術の時も感想は無いって言ったね」
「うん。よくMTFの人には間違って付いていたものを取ってもらうんだとか感想言う人もいるけど、それって一種の言い訳じゃないかな、なんて思ったりする。私は自分で決めて体を改造することにしたわけだから、決めた通り進むだけ」
「それでいいと思うよ」
 
「ねえ千里、明日は女の子になっちゃうんだから、最後の記念に1回Hさせてよ」
「無理だよ。これもう立たないもん」
「仕方ないなあ。じゃフェラでいい」
「うん、それなら」
 
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桃香は千里の病院着のズボンを少し降ろすと、優しくそれを舐めてあげた。ゆっくりとしたペースで、それはかなりの時間に及んだ。もちろんそれは舐められたからといって立ったりはしないが、千里はとても心地よかった。
 
面会時刻終了のアナウンスが流れる。きっとナースが巡回してくる。
桃香は名残惜しそうにフェラをやめた。
「でも。これで千里のおちんちんは永遠に私の物。だってこれ明日には無くなっちゃうんだから、これを舐めたのは私が最後になるもん」
「最後でなくても桃香以外に舐めた人はいないけど・・・でも舐めると自分のものになるの?」と笑いながら千里が言う。
「だって『つばを付ける』というしね。そうだ!これ私の物になったことだし、先生に言ったら、明日の手術で切り取ったあと、私もらえるかな」
「桃香持って帰るつもり?」
「うん。去年摘出した、千里のたまたまもまだ冷凍保存してるよ」
「いいけど」千里は苦笑した。
 
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翌日。手術は1日に4人行われるのだが千里はその4番目だったので、夕方4時頃から手術が始まり、6時頃に終了した。桃香はコーディネーターの人に通訳してもらい医師に頼んで、千里から切り取ったペニスの残骸(海綿体部分)をケースに入れてもらった。血を抜ききれいに洗浄してあった。桃香は千里に見せてあげようかと思ったが、本人は手術後の激痛に苦しんでいたので、自分のバッグにしまい、千里の手を握ってあげ、おなかのあたりをさすってあげた。
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あの時、桃香に手を握ってもらっていたのが凄く心強かったなあと千里は回想していた。ほんと遺書書かなきゃかと思ったもん、あの時は。
 
ミラを運転してその桃香の家に着く。中から赤ちゃんの泣き声が聞こえる。「こんばんは、桃香。早月ちゃんはご機嫌斜めね」「ああ、千里いいところに来た。ちょっとおっぱい貸して」「え?また?」早月はどうも千里のおっぱいでも、乳首に吸い付いていたら結構満足して寝てしまうのである。
「私少し寝たいから。おやすみ」といって、早月を渡して、奥の部屋に行き寝てしまう。やれやれと千里は座り込んで早月を自分の乳房に吸いつかせる。千里は自分では子供を産めないものの、こうしているとちょっとだけ母親の気分を味わえて、幸せな気持ちがした。
 
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性転換手術を終えたあとで戸籍の性別を変更する時、千里は桃香に
「私、女になっちゃっていい?」と訊いた。
「何言ってんの?今更。女になりたかったんでしょ?」
「その・・・私が女になっちゃったら、桃香とは女同士だからさ」
桃香は千里が言いたいことは分かっていたが明快に答えた。
「私はレスビアンなんだよ。私千里のこと好きだけど、千里が男の子
だったら、私困るもん」
「そうだよね」
と千里は頷いて裁判所に「性別の取扱いの変更」の審判の申立書を出したのであった。そうして、千里と桃香は戸籍上婚姻できない関係になった。
 

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「ごめんね」信次は、多紀音からの交際の申し込みを優しく断った。
「どうして?私のことが嫌い?」多紀音は食い下がったが、信次はそれに答えず伝票を持って席を立った。多紀音はそのままずっとそこに座って泣いていた。
 

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康子はその日も朝から家の近くの神社にお参りすると、朝日に向かって祈願した。「どうか、うちの息子たちに良い嫁が来ますように。そして私が生きているうちに孫の顔が見られますように」と。
 
康子は数年前に癌と診断されていた。ただ発見が早期であったのと、投与してもらっている制癌剤が相性が良いようなのとで、進行は遅く、うまくいけば完全に治癒するかも知れないとは言われていた。ただ病気が病気だけに、あと何年もは生きられないかも知れないという気もしていた。しかし息子2人が結婚どころか、恋人を作るそぶりも見せず、やきもきしていた。
 

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桃香はその日、ちょうど田舎から出てきていた母に早月の世話を頼んで買い物に出かけ、スーパーの連絡通路を歩いている時、ふと占いの看板に目を留めた。理学修士で合理主義者の桃香としては占いにはあまり興味が無かったのだが、その時はなぜかたまには見てもらうかなという気になり、感じの良さそうな40代くらいの女性の占い師の前に座った。
 
「恋愛でお悩みですか?」
うん。まあ20代の女性にはそう言っておけば結構当たるだろうなと桃香は思い「ええまあ」と曖昧に答える。生年月日と出生場所を聞かれたので教えると、占い師はノートパソコンでホロスコープを出して見ながら
語り始めた。桃香は今時は占いもハイテクなんだなと思った。
「運命の人とは既に会っているようですね。気になっている人はいます?」
「うーん。そうですね」
「その人とはどうもなかなか愛のサイクルが合いませんが、さ来年くらいに大きな進展のチャンスが訪れます」
「へー」
桃香は最低限の返事しかしない。これでは相手は占いにくいだろうなという気はした。桃香は占い師の中にしばしばコールドリーディングをする人がいるのを知っていて、それをひじょうに嫌っていた。
 
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「ちょっとタロットで見てみましょうか」
といって占い師はタロットカードをシャッフルしはじめ、やがてひとつにカードをまとめて、何枚か抜き出した。
「あれ?」
「どうしました?」
「うーん。。。。お相手の方が・・・その、ちょっと女性的な方ですか?」
桃香はびっくりした。
「ええ、そうです」
「あ、じゃこの読みでいいですね。うーん。その方はいったんあなたから離れて別の人に近づく。。。あれれ???ちょっとすみません」
占い師が悩んでいる。
「あの・・・大変失礼ですが、お相手の方は女性ということは?」
「よく分かりましたね」
「立ち入ったことを聞いてしまい申し訳ありませんでした。お相手の女性はいったん、他の男の人と結ばれるようです」
千里なら、それあるだろうな・・・・と桃香は思うとともにちょっとショックだった。
「でも、そう遠くない時期にあなたのところに戻って来ます」
桃香はその占い師が慰めでそう言っているのではないことを感じた。
 
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桃香は帰りの電車の中で占い師のことばを思い起こしていた。
「彼女がいったんあなたから離れていっても絶望しないでください。それは彼女自身が次なる段階へ進むための通過儀礼のようなものですから。そして彼女が遭遇する困難を乗り越えるため、あなたの力が必要です。あなたと彼女との縁(えにし)は、ふつうの恋愛関係を超越した、もっと深いものです」
 
千里、恋人作っちゃうのかな・・・・思えば、学生時代から千里はけっこういろいろな男の子に恋をしていた。桃香はそんな千里を姉のような感じで暖かく見守っていたし、告白できないというのを背中を押してあげたりもした。もっともいつも玉砕するばかりで、千里の恋が叶うことはなかったが。
 
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(元)男の子だというのは凄いハンディだけど、あれだけ玉砕したんだもん。ひとりくらい、千里の性別を気にせず愛してくれる人がいてくれてもいいよね。でも、その人と結局長く続かないのかな。。。そのあたりが分からん。まあでもそのあたりは運命に任せるしかないのか・・・・・
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