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■女の子たちの魔術戦争(2)

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多紀音は古い友人の形見のその本を開いた。その友人はその本の中身は素人が読むものではないと言っていたのだが、彼女が若くして急性白血病で亡くなったあと、お母さんの許可を得て、形見にと頂いてきた本である。表紙からしてちょっと怖い感じだった。中身は英語だ。しかも難しい単語がかなり並んでいる。どうもラテン語やヘブライ語の単語が混じっているようだ。多紀音は辞書を片手にその本を読み始めた。
 

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信次は母親からひどく折檻される夢を見て、目が覚めてしまった。小さい頃の記憶がしばしばよみがえってくる。
 
信次も兄の太一も、母からいつも虐待を受けていた。あの頃は本当に毎日が地獄という感じだった。その地獄から開放されたのは、信次が小学1年生の時母が自殺してしまった時だった。あの時の母の壮絶な死に様も幼い心に強く刻み込まれている。
 
思えば信次が女性不信気味なのも、あの子供の頃の体験があるからだろう。父は母が亡くなって半年後に再婚した。新しい母はとても優しく、ふたりを可愛がってくれた。だから兄も自分も新しい母をまるで恋人のように愛しんだ。
 
信次はふと自分が女性と恋愛できないのは、実の母に虐待されて女性不信があるのと同時に、新しい母に優しくされすぎて、その母から離れたくない気持ちがあるのかも知れないという気もした。その母は最近「あんたら、恋人とか作らないの?私も孫の顔を見たいわ」とよく言っている。確かにいい人がいたら結婚して母を安心させてやりたい気持ちはあるけど。。。うーん。いい人か・・・・
 
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そんなことを思いながら、恋愛運を見てみようと思って占いサイトで恋愛関係の運などを見ていたら、幾つかのサイトで「恋の始まりは近し」と出た。ふーんと思う。この手の占いって耳障りのいいこと並べてるだけだからなあ、などと思ったりする。信次は本来は占いがあまり好きでない。色々なサイトを見ているうち「あなたの余命」という占いがあった。この手のもよくあるよなと思い、誕生日を入れたあといくつかの質問に答えていく。結果を見るとというボタンを押した時、信次はぎょっとした。
 
あなたの余命はあと13ヶ月です、と表示された。
 
信次は少しショックを受けたものの、馬鹿馬鹿しいと思い、パソコンの電源を落として、寝直すことにした。明日は朝から会社で検討中の新しいコンピュータシステムの打ち合わせだ。しっかり寝ておかなくては。信次はシステムを従来のものから入れ替えることに元々消極的であったが、先日から来ているソフトハウスのSEさんが感じが良いしとても明快な発想をするので、少しずつ考えが変わって来つつあった。

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多紀音はその「秘薬」をお茶に混ぜた。黒魔術の本に載っていたレシピである。無味無臭だから気付かれることは無いはず。
 
信次が新規のシステムのことで朝からソフトハウスのSEと会議室で打ち合わせをしている。他の人と接触しないから絶好のチャンスだ。この秘薬の入ったお茶を飲むと、それを飲み終わってから最初に見た女性を好きになってしまう。だから、これを信次のお茶に混ぜ、次にお茶を交換しに自分が行けば、自動的に自分は信次が「最初に見た女性」になれる。
 
まずは届けて来よう、と思ってお盆を持った時、オフィスの電話が鳴った。あいにく女性陣がみんな離席している。
 
もう、こんな時なのにと思い、お盆をいったん置いて電話機に飛びつき、受話器をとった。「お待たせしました。○○建設でございます」
 
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電話は顧客からのクレームだった。とにかく話を聞いてあげなければならない。ところがその話が長い。多紀音はお茶が気になって仕方ない。そこに別の女子社員が戻って来た。お茶の乗ったお盆を見て「これ、会議室?」と尋ねる。多紀音は「うん、お願い」と言った。
 
社員用の茶碗と、来客用の茶碗は違う。惚れ薬の入ったお茶が誤って来客に行ってしまうことは無い。お茶を出してから彼女が部屋を出るまでの間に信次がお茶を飲み干してしまうこともないだろうから、彼女が「信次が最初に見た女性」
になる可能性は無いと踏んだ。
 
彼女がお茶を会議室にデリバーして戻った後も、クレームの電話は続いていた。かなり疲れてきた頃、やっと向こうは納得して話を終えてくれた。多紀音は大きく息をつく。さっきお茶を出してから30分くらい。次のお茶を持って行くには少し早い。しかしまた何かでつかまってしまい、自分以外の女子社員が次のお茶を持って行くことになってしまうとまずい。多紀音はコーヒーを入れて持って行くことにし、コーヒーメーカーを作動させ、できたてのコーヒーを2つカップにそそぎ、お盆に載せて会議室へ行った。よし、これで自分は信次に惚れてもらえる。期待を胸に「失礼します」といってドアを開けた。そして絶句した。嘘・・・・・
 
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信次と打ち合わせしていた、ソフトハウスのSEというのは女性だった。。。。。

 
それから2ヶ月ほどが過ぎた。千里は今回新規に打ち合わせしているシステムの客先担当者から、社交的な儀礼以上の好意を受けているのを感じていた。しかし千里は最近恋愛に少し慎重になっていたので、やわらかく、かわすようにしていた。ところがそれが逆に彼の熱意を燃やす結果になってしまったようであった。システムの概要が固まり、正式に発注をもらった日、千里は彼から個人的な話がしたいと言われ、なりゆき上断れないので近くの喫茶店に席を移して話を聞いたところ、彼から結婚を前提にした交際をして欲しいと申し込まれてしまった。千里は、ビジネスが絡んでいることなので即答できない。上司と相談の上で回答させて欲しいと言い、信次も了承した。
 
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千里は面倒なことになったと思い、自分の会社の社長に相談した。社長も困ったようであった。今回の受注額は1億円である。千里がふつうの女性なら交際してもらってもいいのだが、元男性という問題がある。社長は気の毒だけど、それを彼にカムアウトして欲しいと頼んだ。千里もそうしますと言う。それで向こうが千里との交際を諦めた場合は、千里をそのまま担当にするわけにはいかないので社長が代わってこのプロジェクトの指揮を執るということで先方の了承を得ようということにし、社長と一緒に先方を訪問して、少しお話をさせて下さいと言った。
 
先方も社長が一緒に来訪したのに驚き、信次だけでなく上司の所長も一緒に出席した。千里はこんな場面で性別問題をカムアウトするのか!ともう逃げ出したい気分になったが、そうもできない。仕事上の責任感が羞恥心に勝った。
 
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「今回の訪問はシステムの件ではありません。実は先日のシステムの仕様確定のあとで、私は川島様から、個人的な交際を申し込まれました。しかし、そのお返事をする前に、私は告知しておかなければならないことがあります。それは私は、生まれた時は男性だったのを5年前に性転換手術を受けて女性に生まれ変わったということです。ちなみに戸籍は既に女性に訂正していますので、川島様と法的には結婚することは可能です。しかし、この事実を川島様にお伝えしないまま、この話をお受けすることはできないと思い、今日この場を設けさせて頂きました」
 
信次は本当に驚いて言葉が出ないようであった。所長さんも驚いたようで「あなたが元男性だなんて、一度も思わなかった」と言った。千里側の社長が補足する。
「それで、この交際申し込みの件を無かったことにするということであれば、このあとの打ち合わせがお互いにしづらいと思いますので、このシステムに関しては、私が打ち合わせや陣頭指揮を執ることにさせて頂ければと思っております」と。
 
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信次は1晩だけ考えさせてください、とやっとのことで言った。
 
なお、この件は、この場にいる4人だけの胸の内にとどめ、今後のことは改めて○○建設の方から連絡するということになった。
 
その連絡は信次が言った通り、翌日にあり、また4人での会合がもたれた。その冒頭、信次はこう言った。
 
「まずあの場で即答できなかった僕を許して下さい。気持ちは固まっていたのだけど、即答していいのかどうか、自分で迷いが生じてしまったのです。結論からいえば、僕はあらためて申し入れます。結婚を前提にしたお付き合いをして欲しいと。過去の性別のことは、僕は気にしません」
 
「ほんとに気にしなくていいんですか?でもきっとご両親が」
「説得しますから大丈夫です」
 
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向こうの所長さんが補足する。
「そういうことで本人の意志が固いので、私もこの件については特に何も言わないことにしました。ふたりの交際に関しては、ビジネス上の変な情実とかはふたりともしないことは信じていますので、このままこのふたりの担当で進めさせて頂いてよいでしょうか?それと、ふたりが交際していることはオープンにしても、そちらの性別問題に関しては、わたしたち4人だけが知ることとしておきましょう」
 
「ところで交際申し込み自体の返事を聞いてないのだけど」
 
千里は恋愛自体にここ数年消極的になっていたので正直なところあまり交際には気が進まなかったのだが、とりあえず交際するだけならいいかと思い
 
「交際申し込み、お受けします。よろしくお願いします」
 
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と返事した。実際、親の説得なんて無理じゃなかろうかという気もしていた。
 
また向こうの所長とこちらの社長との話し合いで、念のため双方にサブを付け、万一ふたりの交際が破局した場合は、担当を各々そちらのサブのほうに交替させるということでも同意した。
 

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早速その晩、千里は信次からデートに誘われた。
居酒屋でビールを飲みながら歓談する。
「交際OKしてくれてありがとう」
「ううん。私のことを知った上で改めて交際申し込みしてくれて、こちらこそありがとう」
最初はお互い少しぎこちない会話が続いたが、少しずつ打ち解けていき、最後のほうはかなり話が盛り上がった。千里はこのくらい楽しく話せたら、結婚までいけなくても、少し良い思いができるかな、という気もした。
 
初日のデートが終わり駅で別れたあと帰りの電車の中で信次は思っていた。千里ちゃん、御免。千里ちゃんを傷つけるから言えないけど、千里ちゃんが生まれた時は女の子ではなかったと聞いて、だから自分は千里ちゃんを一目見て好きになってしまったのかと思った。僕はたぶん純粋な女性とはうまく行かないもの。普通の女性と個人的にふたりきりになると凄く不安になっちゃうけど、今日は千里ちゃんとふたりきりで、とても心安らぐ思いだった。。。
 
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