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■女の子たちの魔術戦争(7)

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その日の朝、康子はいつものように神社にお参りしたが、家を出る時は晴れていたのに神社に入る頃急に天気が悪くなり雨が降り出した。何か嫌な予感がする。これは何なんだ?康子は拝殿に雨宿りさせてもらいながら、一心に祈った。
 
雷が近くで鳴る。これは小降りになるまで自宅に戻れない。
落雷。
凄まじい音がした。
思わずしゃがみ込む。
 
境内の片隅に並んで立っていて、誰が言うともなく「夫婦杉」と呼ばれていた杉が2本とも炎上していた。「大変だ」康子は携帯で119番する。消防署に出火場所を報せたあと、康子は半ば呆然として燃える夫婦杉を見つめていたが、突然心配になった。
『まさか、信次と千里さんの身に何か・・・』
康子は意を決すると、再度神殿に向かいふたりの無事を祈願してから、雨の中濡れるのを構わず自宅への道を走った。
 
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多紀音は名古屋駅で降りると支店へ急いだ。何かしなくちゃと思って来たものの何をすればいいのか分からなかった。とりあえず信次さんに会おう。奥さんは家だろうな。家の場所を教えてもらって、会えばあるいは何か呪いを回避させる方法があるかも。でも何と説明すればいいんだろう。
 
少し早く着きすぎたようで、門は閉まっている。信次の部署への直通電話を掛けるが誰も取らない。まだ出勤してきてない。中で待ったほうが良さそうと思い、多紀音は社員証を提示して、構内に入った。
 
かなり待って、向こうから信次がやってくるのを見た。駆け寄る。
「おはようございます」
「おはよう。あれ?こちらに出張?」
「いや、その・・・・奥さん大丈夫ですか?」
「え?うちのに何かあったの? まさか君、何かしたんじゃないよね?」
信次は多紀音の雰囲気から、この子が千里に何か危害を加えたのではないかという気がした。
「いや、無事ならいいんです」
「ちょっと、ちゃんと聞かせてよ。何かしたの?」
「私、何もしてない」
 
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そのことばは事実上、何かしたと言っているに等しかった。
信次が問い詰めようとする。多紀音はつい逃げ出してしまった。
「待って」
信次が追いかける。
「あ、そこ入っちゃダメ!」
多紀音は工事中の棟の作業領域に侵入してしまった。その時上の方から「危ない!」という声が掛かった。
多紀音は驚くように上を見上げて悲鳴をあげた。
そこに信次が飛びついた。
 

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何かが変わったような気がして千里は周囲を見回した。あれ?何か部屋が急に明るくなった?そういえば今日は朝から妙に家の中が暗かったような気がする。電話が鳴った。その時、千里は何かものすごく嫌な予感がした。
 
「はい。川島です」
「あ、奥さんですか。私信次君の上司の高橋と申します」
「はい」
「あの、たいへんお気の毒なのですが」
「え?」
「信次君が事故に遭いまして」
「え!?」
「それで・・・・亡くなりました」
千里は受話器を落として、その場に崩れてしまった。
 

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千里は受話器の向こうから「もしもし」という声が聞こえるのに答えることもできず、放心状態になっていた。何か答えなきゃと思うのに体が動かない。
 
その時ドンドンと乱暴なノックの音が聞こえた。「千里、いる?」
桃香の声だ!
 
千里はやっと体が動いて、ドアを開けた。「千里?大丈夫?」と
心配そうに見つめる桃香。千里は桃香に抱きついて「信次が・・・」とだけ言った。
 
桃香は受話器が外れたままであることに気付いた。
「もしもし。私、川島千里の友人ですが」
「あ、よかった。実はですね」
桃香は信次の上司が語る話に衝撃を受けたが、すぐに千里を連れてそちらに行きますと伝えて電話を切った。
「千里、行くよ」
「うん」
 
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流しのタクシーを停めて、信次が収容された病院に向かう。桃香は千里の肩をしっかり抱いて、病院の中に入った。さっき電話をしてくれた高橋さんがロビーで待っていてくれた。案内されてた部屋に向かう。千里は信次の名前を呼んで泣き崩れた。
 
少しして医師がやってきて説明する。
「運び込まれた時にはもう手の打ちようがありませんでした」と医師は語った。「建設現場での事故だったのでしょうか?」と桃香が聞く。建設会社で事故死といえば、ふつうそう考える。
「それがですね・・・」と高橋は歯切れが悪い。
「どうも状況がよく分からんのです。支店の増築作業中の場所だったのですがこの作業に本来川島君は関わってないはずなのです。しかも本来入ってはいけないはずの作業領域で、上から落ちてきた資材に当たっての死亡なのですが、そこに当社の女子社員がいましてね」
「はい」
 
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「どうも彼女をかばって落下物に当たってしまったようなのです」
「なぜそんな場所にいたのでしょう?」
「そのかばわれた女子社員がパニック状態で、まだ事情を聞けないのですよ。それとですね、全部言ってしまったほうがいいと思うので言いますが」
「ええ」
「その女子社員がうちの支店の子ではなくて、川島君の先任支店の部下でして」
「出張か何かで来ていたのですか?」
「それが休暇を取って来ていたのです」
「浮気ですか?」桃香は千里には聞こえないような小さな声で尋ねた。
「そのあたりがよく分からなくて、とにかく彼女が落ち着くのを待って話を聞きます」
「その結果、分かり次第こちらに連絡してください」
といって、桃香は自分の携帯の番号をメモして、高橋に渡した。
 
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千里がどうにもならない状況だったので、桃香は千里の携帯を借りると、信次の母に連絡を取った。嫌だなあ。こんな役目。
「もしもし」と言っただけで「あら、桃香さんね?」と言われた。声を覚えられているようだ。「はい。それで、ちょっと大変なことが起きていまして」と前置きして信次が事故で亡くなったことを伝える。
しばらく向こうの反応が無かった。桃香は根気よく待った。
「分かりました。そちらに行きます」
気丈な感じの康子の声が帰ってきた。
 
「お願いします。千里が取り乱しているので、連絡は私に下さい」と
いい、桃香は病院の名前と住所を連絡して、自分の携帯の番号も伝えた。
「それで千里さんの方は怪我は?」
と康子が訊いた。桃香は康子も自分と同様の不安を持ったのだろうかと思った。
「千里は無事です。まだ全然事情が分からないのですが、信次さんが千里をかばってくれたんじゃないかという気がします」
「・・・分かりました。ではまた後で」「はい」
 
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事故なので警察の検視が行われた。警察も事故の時に一緒にいた女子社員に関心を持ち、事情聴取を試みたが、呪いがどうのとか語る彼女の言葉に警察も手を焼いたようであった。ただ事件性は無さそうだということと、管理上の不手際ではなく事故に遭った本人の責任だという判断になったようであった。桃香はまずいなと思った。労災にはならない雰囲気であった。
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