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■少女たちの修復(9)

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(C) Eriki Kawaguchi 2019-05-24
 
その日千里は“診断”があるので病院に行ってくれと言われて、ひとりで市内のC病院にやってきていた。受付で渡された書類を提出すると小児科に行ってと言われたのでそちらに行くが、先におしっこを取って、採血もして下さいと言われてまずは紙コップをもらうのでトイレ(むろん女子トイレ)でおしっこを出して提出する。その後採血室で血を採られる。じょうずな看護婦さんだったので、ほとんど痛くなかった。
 
その後、CTスキャンを受けてくれと言われてCT室に行く。何だか病院代高そうと思うが、診断費は協会の方から出ると言われている。それが終わってからやっと小児科医の診察を受ける。
 
小児科の診察というと、千里は風邪とかでしかかかったことがないので聴診器を当てられたり、喉を開けて中を見られたりというのを想像していたのだが、お医者さん(女性)は「裸になってもらえる?」と言って千里を裸にした上でじっと身体全体を観察している感じだった。
 
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「では次は婦人科に行って下さい」
と言われた。
 
婦人科〜〜?いったい私、何の診断を受けているのだろう??
 

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それで婦人科に行き、順番待ちした後、診察室に入る。
 
「君、小学生?」
と40歳くらいの女性の医師は訊いた。
 
「はい。小学5年生です」
「だったら、君セックスの経験無いよね?あ、セックスって分かるかな?」
「分かります。ボーイフレンドはいますけど経験したことはないです」
「ああ。彼氏いるんだ?キスとかは?」
「まだ経験無いです。したいです!」
「うんうん。気持ちは分かる。もし盛り上がってセックスする時はちゃんと避妊してね。避妊のしかた分かる?」
「はい。保健室の先生に習いました」
「保健室の先生に習ったのなら大丈夫かな」
 
と言って女医さんは微笑むと、
「この内診台って知ってる?」
「いいえ」
「ちょっと恥ずかしい格好になるけど、我慢してくれる?」
「恥ずかしいんですか?」
「初めてだとちょっとショックかもね」
「頑張ります!」
 
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とは言ったものの、千里は内診台に乗せられてそのあと下半身を持ち上げられると『うっそー!?』と叫びたい気分だった。恥ずかしいよぉ!更に何だか触られているし、何か入れられている感じ!??
 
でも我慢して頑張った。
 
「はい。終わったよ」
 
と言われて元の姿勢に戻される。
 
「何かあったんですか?よく分からないまま、病院行ってきてと言われたんですが」
と千里が言うと
 
「これね〜。女子のスポーツ選手は今後も何度もこれ受けさせられると思う」
と医師は同情するように言った。
 
「世の中には男か女か曖昧な人が時々いるから、スポーツの世界で優秀な成績を出した女子は、しばしば本当に女かって医学的な検査を受けさせられるんだよ」
 
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あはは、性別の検査だったのか!?
 
「君は間違い無く女子だよ。心配しないで」
「よかった」
 
「じゃ診断書書いておくから受付で受け取って、協会に提出してね」
「分かりました」
「診断書は開封無効だから、提出前に開けたりしないように」
「はい!」
 

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それで千里は受付で封印された診断書を受け取り、留萌剣道ジュニアスポーツ少年団の事務局に行って提出した。受け取った事務の人は
 
「ああ、村山さんだったね。ごめんね〜」
と言い、診断書を開封し、中身を読んで頷いてから
 
「成績の優秀な女子には念のためこういう検査を受けてもらうことがあるのよ。優勝した**さんにも昨年検査受けてもらったのよね」
 
へー!女子アスリートって大変だ!
 
ちなみにチラッと見えた診断書の中にはこのようなことが書かれていた。
 
《患者・村山千里の性別は女性である。
体型:思春期を迎えた女子の標準的な体型である。全体的に丸みを帯び、骨盤が発達し掛かっている。なで肩でバストがふくらみかけている。喉仏は見られない。体毛は全体的に薄い。陰部の発毛は女性型である。
外陰部:大陰唇・小陰唇・陰核を認め、女性の股間の形をしている。
内性器:CTスキャンの結果、卵巣・子宮・膣を認める。
睾丸や陰茎らしき物はいっさい認められない。
血液検査の結果、女性ホルモンの量はE2,P4ともに女性の標準内である。男性ホルモンの量は女性の標準内である》
 
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まあ、普通かな、と千里は思った。
 
スポーツ少年団の人は
「村山さんも、お医者さんの診断で間違いなく女性であるということが確定したから、引き渡しを保留していたこの2枚を渡すね」
 
と言って、千里に
《平成13年度・留萌地区小学生夏季剣道大会・女子3位》
という賞状と
《認定証・剣道三級》
という認定証を渡してくれた。
 
「3級以上の認定者は剣道連盟に登録して欲しいんだけどいい?」
「はい」
 

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剣道の級位は8級または6級から始まる。千里は昨年は5級認定をもらったのだが、今年は「君は4級を受ける必要は無いから3級を受けなさい」と言われ3級の試験を受けた。ところがその後、突然この日呼び出されたのであった。
 
ちなみに夏の大会の時は千里は男子の方にエントリーしていたのに、実際に対戦に出て行くと「君女子じゃん。名前を書く所を間違ったね?」と言われて強制的に女子の対戦表の方に移動されてしまった。それで女子の方で勝ち上がって3位になってしまったのである。ちなみに準決勝で千里に辛勝した他小の6年生女子が優勝して道大会に進出している。
 
春の大会の時は顧問が千里が戸籍上男子であることを忘れていて最初から女子としてエントリーされていた(昨年はまだ初心者だったので大会には出ていない)。それで女子の部で準優勝してしまい「いいのかなぁ?」と思った。夏の大会では最初男子として登録していたのと、多分3級になると性別の扱いが厳密になるのだろう。
 
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そして厳密にチェックされて、女子選手と判定されてしまったようだ!?
 

「だったら、この登録申請書に記入してくれる?」
とスポーツ少年団の人は言った。
 
「分かりました」
と答えて、千里は申請書に記入した。
 
村山千里・むらやまちさと
平成3年3月3日生
性別 女
留萌市** *番地*号
電話 0164-**-****
留萌市立N小学校
 
「はい、ありがとう。これで登録して、登録証はこの住所に郵送するね」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
 

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千里はこの日学校は公休にしてもらって、スポーツ少年団→病院→スポーツ少年団と廻り、14時頃学校に戻ってきたのである。剣道部の顧問の先生に報告して、渡された賞状と級位認定証を見せた。
 
「お疲れ様。病院で何か言われた?」
「いえ。特に」
「でもスポーツ少年団からはこれを渡されたのか」
「はい」
 
顧問の先生は「うーん」と声を出してしばらく考え込んでいたが
「まいっか」
と言って、認定証と3位の賞状を返してくれた。そして千里が職員室を出ていった後、スポーツ安全協会に電話を掛けた。
 
「すみません。うちの学校の児童でそちらのスポーツ保険に加入している子の記載事項が誤っているのに気付いたので修正して欲しいのですが」
 
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「はい。はい。会員登録番号は******です。ええ、村山千里です。剣道部です。それで誤っていたのは性別で、女子なのに誤って男子と登録していたようで。はい。ああ、変更できますか?はい、よろしくお願いします」
 

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2001年10月4日(木).
 
その日、志水照絵は「今日はヒデちゃん帰ってくるかなあ、徹夜かな」などと呟きながら、帰ってきた時のためにシチューを作っていた。明日からワンティスのツアーが始まるが、夫の英世はツアー・ミュージシャンとして参加することになっており、ここしばらくずっと練習で帰って来ない日も多かった。
 
夜8時頃、玄関の開く音がする。
「ヒデちゃん、お帰り!」
と言って、ガスを止め玄関に行くが、戸惑う。
 
「高岡さん?長野夕香さん?」
 
「ただいま。このおふたりは知っているよね?上げていい?」
と英世。
「もちろん。汚い所ですが、どうぞ」
と言って、照絵は高岡猛獅と長野夕香をあげた。夕香はまだ産まれて1ヶ月くらいと思われる赤ん坊を抱いていた。
 
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「可愛い女の子ですね」
と照絵は思わず言った。
「りゅうこって言うんです」
と夕香は言った。
「夕香さんの・・・妹さん?」
「あ、いえ。私の子供です」
「いつ産んだんですか!?」
 
「産まれたのは8月20日です」
と高岡が言った。
 
「まさか、高岡さんと夕香さんの子供なんですか?」
「そうです」
 
「いつご結婚なさったんですか?」
「それがまだ結婚していないんですよ。事務所とレコード会社が結婚を認めてくれなくて」
「認めるも何も子供までできているのに!?」
 
「それでさ、照絵。この赤ちゃんを預かることにした。ツアー中悪いけど、この子の面倒をひとりで見ていてくれない?」
 
「いいよ!ツアーの終わる11月4日まで?」
と照絵は確認したのだが、夫はとんでもないことを言った。
 
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「実はずっと、この子のことを公(おおやけ)にできるまで、ひょっとしたら2〜3年預かることにしたんだよ」
 
「え〜〜〜!?」
 

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2001年10月7日(日).
 
千里たちN小合唱サークルのメンバーは一部の保護者と一緒に東京に出た。合唱コンクールの全国大会に出場する。今年も北海道は中心空港(新千歳空港)から羽田までの交通費が生徒分と引率者2名分まで出ている関係で、飛行機を使用したツアーにする方がJRを使うより安くなっていた。それで大手旅行代理店でツアーを組んでもらい、千里たちは前日にバスで旭川空港まで行って羽田まで飛び、土曜日は会場の下見だけしてホテルに入った。
 
昨年は千里が羽田空港で死亡?して蓮菜により蘇生されるという軽い(?)事故があったのだが、今年は“この日は”何事もなくホテルに入った。今年の参加部員数は29名である。
 
6年生10人・5年生9人・4年生10人。
 
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この人数には、ピアニストの阿部さん・美那、トランペットの海老名君を含む。なお5年生の参加者9人は下記である。
 
5年生:蓮菜・穂花・佐奈恵・千里・小春・映子・紗織・美都+ピアニストの美那
 
この他に馬原先生、教頭先生、それに保護者が24名(男4,女20)参加している。
 

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5年生女子の部屋割りは昨年と同様、蓮菜・穂花・佐奈恵・千里で1部屋、映子・紗織・美都・小春で1部屋になっている。
 
(1組の穂花たちは小春を2組の児童だと思っている。2組の映子たちは1組が5人いるから1人あふれて小春が2組の部屋に来ていると思っている)
 
「そういえば昨年もこの組み合わせで泊まったんだった。私千里ちゃんと同じ部屋に泊まったこと忘れていたよ」
と佐奈恵が言っている。佐奈恵は宿泊体験の部屋割りを決めた時、最初うっかり千里を男子でカウントしていたのである。
 
「私、この3人に裸も見せたじゃん」
「そのことも忘れていた!」
 
「まああまりにも千里が自然に女の子しているから、記憶に残らないんだな」
と蓮菜は解説している。
 
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そういう訳で今年は千里の性別問題も特に話題にされることはなく、普通に順番にお風呂に入って(順序は蓮菜が千里→蓮菜→穂花→佐奈恵と決めた)、10時には灯りを消して寝た。
 

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翌日朝6時に起きてホテルのラウンジでバイキング方式の朝御飯を食べた後、荷物を持って9時にホテルの玄関に集合する。
 
ホテル最寄りの上野駅から山手線に乗って、原宿まで移動する。ここで内回り(上野→池袋→原宿)に乗るか、外回り(上野→東京→原宿)に乗るかという問題があるのだが、ツアーに付き添ってくれている添乗員さんは
 
「時間差は微妙でどちらに乗ってもいいのですが、折角北海道から東京に出てこられているから、秋葉原や東京・渋谷などを通過する外回りにしましょうか」
 
と言って、3番線に連れて行った(内回りなら2番線)。このことで添乗員さんは後で平謝りすることになる。
 

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もう通勤時間のピークは過ぎているので、無茶苦茶混雑しているということもない。そして東京駅まで来た時のことだった。いきなり凄い音がして車両の窓ガラスが割れた。
 
「きゃー!」
という悲鳴があがる。教頭先生が
「みんな伏せて!」
という声を掛け、それでみんな身体を縮めて座り込む。持っているバッグなどを頭の上に乗せる子も多い。
 
更に何だか物凄い音が連続で起きた。怒号のようなものも聞こえる。
 
騒動は3分ほどで終わったのだが、千里たちには10分くらいのように感じた。
 

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静かになったあと、教頭先生が
「怪我している人はいない?」
と声を掛ける。
 
みんなそっと立ち上がる。各自自分の身体をチェックするが、千里は特にどこかに痛みなどを感じる箇所は無かった。教頭先生が
 
「お互い隣の人の身体もチェックしてあげて」
と言うので、千里は隣の蓮菜の身体に触って確認する。蓮菜も千里の身体に触る。
 
その時、
「あっ」
という声を出した子がいる。海老名君である。彼は教頭先生の隣に立っていたので、教頭先生とお互い身体を触っていた。
 
「トランペットのケースが」
 
最初に窓ガラスが割れた時、彼は思わずそのケースから手を放してしまったらしいのだが、そのケースが彼の所から数m先に飛んで行っていて、ケースに穴が開いているのである。
 
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「中身は?」
と言われてケースを開けてみる。
 
「管体に穴が!」
 
トランペットの管体の途中に穴が開いていた。
 

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実はこの日東京駅で乱射事件があったのである。
 
ホームで男がサブマシンガンを乱射したのだが、偶然にも同じホームに居た警視庁の刑事(特殊部隊出身の刑事さんだったらしい)が犯人を狙撃。刑事の銃弾が犯人の肩に当たって、乱射は短時間で終了した。この人が居なかったら、被害はかなり拡大していたであろう。
 
アメリカの同時多発テロの直後なので警察も緊張したし世界中に速報されたのだが、犯人の男は(所持していた運転免許証から)40代の日本人で、取り調べに対して「面接で落とされたのでやった」と供述した。交友関係やネットの書込みやメールなどをかなり調査したようだが、結局、同時多発テロを起こした団体などとの思想的つながりも無いようであった。サブマシンガンはネットで買った!?と供述した。武器売買の闇サイトから購入したようであった。
 
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そしてこの事件での死者はゼロ!だった。
 
割れた窓ガラスなどで怪我した人が数十名、また気分が悪くなって救急車で搬送された人などもいたものの、弾丸に当たった人は誰も居なかった。しかし東京駅で銃を乱射したのに死者無しというのは、乱射が短時間で終了したにしても奇跡的である。ただ、海老名君以外にも、荷物に弾があたって物が壊れた人が結構あったようであった。
 
N小のトランペットの場合、後で警察が調べたのでは電車の天井に当たって跳ね返った弾が床にあった楽器ケースを貫通したのだろうということだった。
 

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少女たちの修復(9)

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