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■少女たちの修復(7)

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25m,50mのクロール、平泳ぎ、背泳が終わってから最後は100m自由形で、これに出るのは男子20名・女子3名と発表された。これまでの体育の時間に測定したタイムによる“単純分け”で3組に分ける。つまりタイムの速い8人を最終3組に、次に速い8人をひとつ前の2組に、それより下のタイムの子を1組に入れる。但し女子はタイムによらず1組にまとめて入れられた。
 
そういう訳で、1組は男子4名、女子3名のはずなのだが・・・実際にスタート台の所に並んだのは、男子水着を着た児童3名と女子水着を着た児童4名である。この問題にはほとんどの人が気付いていなかった。
 
実際には1-4コースが男子で5-7コースが女子に割り当てられていたのだが、コース決めのジャンケンで千里はいちばん勝ったので4コースを取った(千里は基本的にジャンケンに負けることはない)。それで男子水着の子が1-3コース、女子水着の子が4-7コースに居るという状態になったのである。
 
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千里は留実子と小春もいるし、6年生で水泳スクールに行ってる矢子さんもいるし、自分は最下位決定だから気楽に行こうと思ってスタート台に立つ。「用意」の声で前傾姿勢を取る。笛の合図を聞いて飛び込む。
 
飛び込んだ後、しばらくは身体をまっすぐにして、勢いである程度進む。その後クロールを始める。千里は肺活量が大きい(らしい)ので、だいたい8回に一度息継ぎをすれば行ける。この息継ぎの時に体勢が乱れるのだが、それを今年の夏は桜井先生の指導でかなり修正することができた。
 
壁まで到達するので、いったん立ち上がり、再度泳ぎ出す。立ち上がった時になにげなく左手を見ると、みんなかなり前を行っているようである。ああ、やはり私はかなり遅いなと思い、あまり遅くなると次に泳ぐ人たちに迷惑になるし、もう少し頑張ろうかと思った。それで千里はこれまでより頑張って手足を動かした。2度目の折り返しでは(さっき左手を見たしと思い)右手を見ると、やはり自分より先を行っている。きゃー。私かなり遅れているのでは?やはり100mに出る人って、みんな速い人ばかりだから、もっと頑張らなきゃと思う。それで千里は必死に手足を動かして泳いだ。
 
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3度目(最後)のターンで千里は右側を見たら、さっきのターンの時よりは差が縮まっている気がした。それで千里はこの調子で頑張ろうと思い、疲れている手足に「頑張れ〜!」と言いながら泳ぐ。
 
そして壁タッチ。
 

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ストップウォッチで計測していた6年生から
「お、これいい記録」
という声が掛かった。
 
「え?そんなにいい記録なんですか?」
と千里は思わず訊いた。
 
「1分29秒4。これB級突破してない?」
と隣の5コースを泳いでいて既にプールの上にあがっている矢子さんに訊いた。
 
「“女子”の1級は突破している」
と彼女は言った。
 
「1級ってなんか凄いいい記録?」
と千里は驚いて訊いた。
 
「ううん。水泳の資格級はいちばん低いのが1級で最高が15級」
「普通の級と逆なんだ!」
「紛らわしいよね。でも千里ちゃん頑張ったと思うよ」
と彼女は笑顔で言った。
 

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全員退水してから、千里は“女子で2番”と聞いて驚いた。
 
「この組の1番は女子の加成(矢子)さん、2位が男子の広沢君、3位が高沢君、4位が村山さん、5位が花和(留実子)さん、6位が溝江君、7位が深草(小春)さん」
 
と記録係の6年生が言った。
 
留実子より上だったというのに千里は驚いた!
 
もっともタイム差はわずか1秒である。
 
「千里は身体が細いからきっと水の抵抗が小さくてスピードが出たんだよ」
と小春が言う。この言葉はむしろ悔しそうな顔をしていた留実子に言ってあげている感じもした。
 
記録係の6年生は
「加成さんは資格級Aの8級相当、広沢君がBの4級相当、高沢君が2級相当、村山さんと花和さんは1級相当かな」
と基準表の冊子を見ながら言っている。それで記録票に記入してくれた。
 
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むろん公式の記録会ではないから公認記録ではないが、それ相当ということである。
 

100mの男女の上位3人には記念品が出るということで、矢子さん、千里、留実子に水色のペーパーウェイトが渡された。千里が渡されたものには「留萌N小学校平成13年水泳大会2位」という文字が入っている。
 
千里は
「これはるみちゃんのものだと思う」
と言って彼女に渡そうとしたが、留実子は
「いや。千里は本当に女子だから、それをもらっていてよい」
と言い、小春も矢子も笑顔で頷いていたのでもらっておくことにした。
 
でもお父ちゃんに見つからないようにしなきゃ!
 

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しかし更衣室で矢子さんから言われた。
 
「千里ちゃん、女子の1級は突破しているんだけど、男子の1級の記録には及んでない」
「あぁ」
「でも男子の記録としても1級にかなり近い数値だよ。頑張れば来年は多分4級以上にはなるよ」
と彼女は笑顔で言う。
 
「でも私、ターンできないから、立ち上がって折り返していて、その度に左見たり右見たりしてて、みんなから凄く遅れていると思ったから遅すぎて迷惑掛けないようにと頑張ったのに」
と千里が言うと、彼女は少し考えていた。
 
「25mのターンで千里ちゃん、どちら見た?」
「えっと・・・左かな?」
「50mのターンは?」
「右」
「75mのターンは?」
「左」
 
「千里ちゃん、ターンする度に左右は入れ替わるからさ、それって男子の方しか見てない」
「え〜〜〜〜!?」
 
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千里は全く気付いていなかったのである。
 
「千里ちゃん、真ん中のコース泳いでいたから気付きにくかったかもね」
「そっかぁ」
 
「千里ちゃん算数ってあまり得意じゃないでしょ?」
「かなり苦手。実は去年くらいまで九九も怪しかった」
「でもまあ男子に追いつこうと頑張ったのはよいと思うよ。千里ちゃん、女の子だって男子に負けていてはいけない。男に負けない女の子になろう」
 
「・・・それいいかも知れない」
 

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2001年9月11日(火)、日本時間21:46.
 
アメリカ・ニューヨーク(現地時間同日朝8:46)、マンハッタンのワールド・トレードセンター北棟にボーイング767-200ER型機が激突した。
 
千里はこの時間、寝ていたのだが、22時のニュースで台風情報を見ようと思ってNHKをつけた津気子がこの報道に驚き、大きな声をあげた。それで千里も起きてしまった。
 
「なんかマンハッタンの高層ビルに小型機が激突したらしい」
と母は言ったが、小型機というのは情報の混乱で、定員が200名クラスの大型機である。それで千里もすっかり目が覚めてテレビを見ていたら、30分もしない内に(現地時刻9:03)今度は別の飛行機(こちらも767-200ER)が南棟に激突した。
 
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「どうなってんの?これ?」
 
当初は何かの事故と思っていたので、津気子も千里も何が起きているのか分からないままテレビを見ていた。
 
ビルの高い階でタオルか何かを振っている人の姿がテレビに映る。あの人助かるだろうか?などと思って見ていたら22:59(現地時刻9:59)南棟が崩壊、更に23:28(現地時刻10:28)北棟も崩壊した。
 
津気子も千里も声をあげることもできずテレビの画面を見ていた。
 
この2つの飛行機はテロリストによりハイジャックされたものであった。他に別のハイジャックされた飛行機が国防総省(ペンタゴン)に激突。更にもう1機もハイジャックされたが、これは乗客による反撃で目標(国会議事堂あるいはホワイトハウスだったとも)に到達する前に墜落した("Let's Roll")。
 
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同時多発テロと呼ばれた事件である。
 

翌日学校ではこの事件のことでもちきりだった。この日は授業が始まるのが少し遅れた。おそらく児童から何か訊かれたような場合の対応などを話しあっているのではと思った。
 
数日後、恵香が奇妙な話を持ち込んできた。
 
「あのテロ事件、元から予定されていたというのよ」
「というと?」
「破壊されたワールド・トレードセンターの住所はニューヨーク、クイーン・ストリート33番地なんだって。だからQ33NYと略せる」
 
と言ってその日恵香は学校のパソコン室で、メモ帳を開き Q33NY と入力した。
 
「これをね。フォントをWingdingsに切り替えるの」
と言って操作する。
 
「わっ」
「きゃっ」
といった声があがる。画面はこのような表示になった。
 
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「飛行機がビル2個に突っ込んで髑髏になる」
「右端の星みたいなのは?」
「これ何とかの星っていってユダヤ教のシンボルらしいよ」
「じゃユダヤ教が絡んでいるの?」
「逆々。事件を起こしたイスラム過激派はイスラエルを敵視していて、アメリカはイスラエルを支援しているから、アメリカを攻撃したんじゃないかって」
 
「でもなんで住所にこんなのが隠れているわけ?」
「たまたまこういう住所の場所がこのワールド・トレードセンターだったんじゃないかな」
「じゃターゲットは住所で選ばれたんだ!?」
 
この噂は世界的に急速に広まったものの(日本でも2chを中心に騒ぎになる)、後に全くのガセであったことが判明する。ワールド・トレードセンターの住所は「クイーン・ストリート33番地」ではなかった。だいたい“女王の国”ではないアメリカにそんな名前の通りがある訳が無い。かつてクイーン・ストリートと呼ばれた通りは2つ存在する(現在のCedar Street, Pearl Street)が、どちらもワールドトレードセンターと接していないし、そう呼ばれていたのは独立前頃のことである。航空機の便名とか機体番号との説もあったが激突した飛行機の便名はAA11, UA175, 機体番号も N334AA, N612UA であって全く違う。なおNYが髑髏とダビデの星になる件は、Wingdingsフォントが公開された1992年にも一度話題になっていた。Q33NYのガセネタを考えた人はその時の騒ぎを覚えていたのであろう。
 
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千里はキョロキョロした。
 
また見知らぬ場所に来ているのである。
 
ひなびた農村のような雰囲気の場所である。しかし工場のようなものも遠くに見える。写真で見た昭和30年代頃の地方都市のような感じだと千里は思った。ただ空中に巨大なUFOのようなものが浮かんでいるのが不思議に思えた。
 
近くに申し訳なさそうな顔をした《きーちゃん》がいる。
 
「千里ちゃん、悪いんだけど、また封印をしてくれない?」
「今夜も月食だっけ?」
「違うけど、緊急のメンテが必要なのよ。一度封印の作業をしてくれた千里ちゃんなら、月食の晩でなくても、少し無理すれば何とか封印が出来るから」
 
「もしかしてアメリカのテロ事件に絡んでる?」
「そうなのよ。あれの余波が世界中に及んでいる。たぶんあちこちで同様のことをしている人たちがいると思うんだけど、日本はあんたたちがやってと言われて」
 
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「言われてって誰に?」
「うーん。。。何と言ったらいいものか」
「神様?」
「ごめん。それには返事出来ないけど、してくれない?」
「まあいいよ」
 

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例によって《きーちゃん》には千里に見えているUFOが見えないようだった。
 
千里はまたこないだと同様の小袖に着替えさせられたが、模様はススキではなく、牡丹か何かの花模様で、帯も略式の半幅帯ではなく正式の丸帯になった(袋帯や名古屋帯は江戸時代には無い)。
 
去年美輪子おばちゃんに着せてもらった振袖もよかったけど、この小袖もいいなあ。やはり和服を着るなら女物だよね!男物の和服ってつまらなそう、などと千里は思っている。
 
《きーちゃん》は今度は彼女自身が誘導して千里を多くの神社に連れて行った。
 
「今度は、きーちゃんが連れて行ってくれるのね」
と千里が言うと、彼女は不思議そうな顔をして
「こないだも私と一緒に回ったじゃん」
と言った。
 
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あれ〜〜?そうだっけ??と千里は訳が分からない気分だった。
 
こないだ巡回した時は神社ごとに掲げられている「○○明神」という提灯の上の文字が読めなかったのだが、今回は千里にも少し読むことが出来た。
 
最初の神社は徳*明神という名前であった(*の所が読めない)。千里はなんで今回は少し読めるのだろうと不思議に思った。また前回訪問した神社は全て鳥居から拝殿まで10m程度以内だったのが、今回は最初の神社で50m, 2つ目の海*明神では100m近く歩いた。3つ目の善*明神では30mほどだったが、4つ目の弥*明神ではまた100mくらい歩いた。
 
そして前回は12個で済んだものの、今回は27個も回ることになったのである。
 
「ここでおしまい」
と《きーちゃん》に言われて、千里はほっとしたように
 
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「疲れたぁ。でも今回は前より多かったのね」
と言った。
 
すると《きーちゃん》は不思議そうな顔をして
 
「前回回ったのと今回回ったのは同じ数の神社のはず」
と言った。
 
「え〜?でも前は12個だったけど、今回は27個の神社を巡ったよ」
と千里は言う。
 
《きーちゃん》は少し考えるようにしてから言った。
 
「前回も今回も回った神社の数は53個」
「うっそー!?」
 
「前回12個、今回27個しか千里ちゃんの記憶に残っていないとしたら、まだ記憶を残すことを許してもらえなかったのかもね」
 
「そういうことがあるんだ!?」
「次またこの結界をすることがあったら、次は53個全部記憶に残るかも」
「またやることあるの〜?」
 
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「よほどのことがない限りはしばらく大丈夫だと思うんだけどね」
と言いながら、きーちゃんはさすがにこの子が生きているあと1年半くらいの間に再度こういう事態が起きることはないだろう、と思っていた。
 

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少女たちの修復(7)

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