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■少女たちの修復(3)

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千里は「月食を見る女子の部屋」ということで、蓮菜・恵香・穂花と一緒の部屋に割り当てられていた。
 
「月食見る人は早くお風呂に入ってすぐ寝なさいということだったし、すぐお風呂行こう」
と蓮菜がいい、全員着替えとタオル、シャンプーセットを持って地下の大浴場に行く。それでエレベータを降りておしゃべりしながら通路を歩き、やがて左側に男湯、右側に女湯という分岐点に達する。
 
ここで千里が「じゃ、また後でね」と言って、男湯の方に行こうとしたら、蓮菜に身体をキャッチされた。
 
「こら待て。どこに行く?」
「だから男湯」
「千里は女の子なんだから、男湯には入れないはず」
「そうだそうだ。女の子は女湯に入らなきゃ」
「小学5年生にもなって、混浴はダメ」
 
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「だいたい千里、男湯に入ろうとしても、従業員さんが飛んできて摘まみ出されるよ」
「うーん。そうかも」
「そもそもスカート穿いているくせに男を主張する意味が分からん」
「主張はしないけど・・・」
 
「だから千里はこちらに来なさい」
「私たちと一緒に女湯に入ればいいね」
 
ということで、千里は女湯に強制連行されたのである。
 

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蓮菜たちが千里を女湯の脱衣場に連れ込むと、チラッとこちらを見る子もあるが、誰も特に騒いだりはしないようである。それで蓮菜たちは4つ並びのロッカーを取り、そこで服を脱いだ。千里は恥ずかしがりもせずに平気な顔で蓮菜たちとおしゃべりしながら、サマーセーターを脱ぎ、ブラウスを脱ぎ、スカートを脱ぎ、キャミソールを脱ぎ、パンティも脱いだ。
 
「まあ予想はしていたが、女にしか見えないね」
と恵香。
「これで男湯に入れる訳が無い」
と穂花。
 
「ここでは深く追及しないで」
と千里が言うので、他のお客さんもいるしということで追及しないことにしてそのまま一緒に浴室に入った。しかし同じクラスの子からはかなり千里のお股に視線が行っていたようである。
 
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身体を洗ってから浴槽に入るが、千里は同じクラスの女子たちから
 
「乳首大きくなってきたね」
とか
「おっぱい少し膨らみかけかな?」
などと言われて、かなり触られた!
 
「だけどそもそも体型が女の子っぽい体型じゃない?」
という声もある。
 
「そうそう。全体的に丸みを帯びている」
「ほどよく脂肪が付いているし」
「ウェストがくびれているし」
「千里ちゃん、ウェストはいくつ?」
「分かんなーい」
 
「これはかなり細いよ」
と触りながら言っている子がいる。
「少なくとも私よりは細い」
と蓮菜が言う。
 
「ゆみちゃん(優美絵)と比べてみたいな」
「ゆみちゃんは?」
「疲れたから少し寝てるって。お風呂は後で入ると言ってた」
「あの子は月食は見ないの?」
「そんな夜中に起きる自信無いって」
「あの子体力無いもんなあ」
「動物園でも最初の1時間くらい見て回って、あとは売店で座って休んでいたみたい」
 
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「千里ちゃん、下も触ってもいい?」
「そちらは勘弁して〜」
「まあ下は、この際いいことにするか」
「万が一変なものが発見されたら警察沙汰になるし」
 
ということで下は触るのを勘弁してもらった。
 

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しかし千里が女湯に居ても違和感のない状態だというのがみんなに認識されるとその後は、湯船の中で結構ふだん通りのおしゃべりが始まり、楽しい時が過ぎた。
 
「あ、でもそろそろ上がって寝なきゃ」
ということで月食鑑賞組はみんな6時半頃までにはお風呂を上がり、身体を拭き新しい下着をつけ、パジャマ代わりの体操服を着て各自の部屋に戻った。
 
そして千里や蓮菜たちは「おやすみー」と言って灯りを消して眠った。ちなみに部屋の寝る場所だが、恵香と穂花が奥に寝て、穂花の手前が蓮菜、恵香の手前が千里で、千里と蓮菜は並んで寝る形になる。蓮菜が「たぶんこれが平和」と言っていた。
 

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22時過ぎ、桜井先生が巡回してきて、小さな声で
 
「月食を見たい人は起きてね」
と言った。それで千里が目を覚まし、千里もやはり小さい声で
「月食の時間みたいだよ」
と言う。
 
それで蓮菜が起きて、蓮菜が穂花に呼びかけて起こす。恵香は・・・
 
起きない!
 
「起きない子はそのままで」
と桜井先生も言うので、3人が体操服の上にフリースを着て部屋の外に出た。
 
他の部屋の子たちも廊下を歩いている。エレベータでホテルの屋上に出た。
 

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屋上は普段は施錠してあるのだが、今夜は特別に月食観測のため宿泊客に開放したらしい。
 
「くらーい。灯りつけないの?」
「灯りつけたら月食が見にくい」
「今夜は満月だからわりと明るい方だよ」
「へー。ちょうど満月でよかったね」
 
「いや、月食は満月の時しか起きない」
「え?そうなの?」
「今日科学館でそういう説明やってたじゃん」
 
「うん。日食は新月でしか起きない」
「へー!」
 
どうも日食・月食の仕組みが分かっていない子が多いようである。昼間の科学館での説明もちゃんと聞いていなかったようだ。
 
月食は地球の影が月の表面に落ちる現象なので、太陽−地球−月の順に並んでいる。月は太陽の反対側にあるから満月(望)である。日食は月が太陽を隠す現象なので、太陽−月−地球の順に並んでいる。太陽と月が同じ方向にあるから新月(朔)である。
 
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そんなことを言っている間に、やがてひとりの子が
 
「あ、欠け始めた」
と言う。左上が少し欠けているのが分かった。
 
「わあ、始まった!」
という声があがる。
 

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千里はどこか知らない場所に来ていた。キョロキョロする。目の前に昨年合唱コンクールの全国大会で東京に行った時に会った《きーちゃん》がいた。
 
「こんばんは、千里ちゃん」
「こんばんは、きーちゃん。ここどこ?」
 
「どこだと思う?」
 
千里は周囲を見回す。どこか大きな町の郊外のような雰囲気である。5-6階建てのビルがわりとたくさん並んでいる。
 
空中に大きな円弧状の物体が上下2段ある。どうもモノレールの線路のようである。その線路が途中で切れているのは、そこが終点なのであろうか。しかし駅のようなものは見ない。
 
「江戸ですか?」
 
千里はなぜ「東京」と言わずに「江戸」と言ったのか分からない。しかし《きーちゃん》は驚いたように
 
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「よく分かったね!東京と言わずに江戸と言うところが凄い」
「じゃこれ江戸時代なんですか?」
「江戸時代も終わり頃だけどね。今は弘化四年八月十五日の江戸なんだよ」
「でもビルとかも建ってる」
「平成13年7月5日と少しダブっているから」
「ああ。混じっているんですか」
と言ってからふと空を見て気付く。
 
「月が欠けてる」
「そう。その日も月食だった。千里ちゃんが見ていた月食とわりと似た月食が起きた夜なんだよ。この夜にある人が江戸の町に結界をして、目前に起きようとしていた黒船来航から明治維新までの激動の時代に、魑魅魍魎が世に放たれて怪異をなさないようにした」
 
「ちみもーりょう?」
「オバケね」
「へー!」
 
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「西暦で言うと1847年9月24日で、千里ちゃんが居た元の時間から154年前。でもこの150年間に随分その結界が弛んできているんだよ。それで修復したいんだけど、いつでもできる訳じゃ無いのよね」
「へー」
 
「基本的には月食の晩にしかできないけど、結界をしたのと同じような月食はその後、1849, 1869, 1999, と3回しか起きていない。特に1869年の明治2年以降は1999年の平成11年まで130年間も起きなかった」
 
「そんなに珍しいんだ!」
「1999年7月28日の月食でもある人に修復してもらったんだけど、その人はもう亡くなってしまって」
「え〜〜〜!?」
 
「元々の結界をした人も、本当は皆既月食の夜にしたかったんだけど、もう寿命が残っていなかったから、その時の月食でしたのよね」
 
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千里は少し考えた。
「もしかして私がその修復をするの?」
 
「お願い出来ないかと思って」
「その作業したら私も死んだりしない?」
「大丈夫だよ。1847年の時も1999年の時も、作業したのはおばあちゃんだったから」
「だったら大丈夫だね」
 
と千里は安心して言っているが、《きーちゃん》は、さすがにこの子に、あんたはあと1年半くらいで死ぬとは言えないよなあと思っていた。
 
この作業は寿命が残り2年以内の“人間”にしかできない作業でもあるのだ。
 

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「だけど、江戸時代にモノレールがあったの?」
と千里は訊いた。
 
「え!?」
「だってあそこ空中にモノレールみたいな線路が2本あるから」
と千里は言っている。
 
《きーちゃん》は沈黙した。確かにあの付近に何かあるような気がした。しかし《きーちゃん》には何も見えないのである。
 
むろんモノレールの線路のわけがないのだが、何かの軌跡なのだろう。
 
「龍さんか何かの通り道かもね」
「へー」
 

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「それで私、何すればいいの?」
「私のお友だちと一緒に幾つかのお宮さんに参ってほしい。千里ちゃんがお参りしながら一定の道を歩けばそこが結界になる」
 
千里は江戸時代っぽい着物に着替えさせられる。白い小袖にススキの模様が描かれている。帯は薄青色と白系統の色で花模様が織り込まれた博多織っぽい半幅帯だが、千里はそのあたりはよく分かっていない。しかし小袖の模様が可愛いので千里は
 
「これ可愛い〜」
と喜んでいる。
 
一緒に回ってくれるお友だちというのを紹介される。
「おエツです。よろしく」
と青系統でトンボの模様が描かれた小袖を着て、やはり博多織っぽい黄系統の半幅帯を締めている30歳くらいの雰囲気の女性が挨拶してくれた。
 
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「千里です。よろしくお願いします」
とこちらも挨拶してから、千里は《きーちゃん》に訊いた。
 
「私の代わりに2001年に行っている人は何という方ですか?」
 
「え!?」
「ライトグリーンのトレーナーを着て、ブラックジーンズを穿いている」
 
「見えるの!?」
と《きーちゃん》が驚いたように訊く。
 
「向こうに小春がいるから、小春の目を通して見えますよ」
と千里は答えた。
 
「向こうで千里の代役をしているのは“おつう”ちゃん」
と《きーちゃん》は答える。
 
「3人お友だちなの?」
「まあそんなものかな」
 

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