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食分は既に0.2くらいまで拡大している。千里は“おエツ”と一緒にこの“モノレールの終点”っぽい所の近くにある神社にお参りした。
古風な神社である。鳥居の所に大きな提灯が掲げられていて、何とか明神と書かれているが、その明神の上にある文字は千里には読めなかった。鳥居をくぐって10mも先には拝殿がある。ここでふたりは正式に、2拝2拍1拝でお参りした。お賽銭はエツが千里に渡してくれた小銭を使用した。
この小銭は丸い銅貨で四角い穴が空いている。千里は表面に浮き彫りにされた漢字を読んだ。
「かん・つう・えい・・・・じつ?」
「寛永通寶(かんえいつうほう)。この文字は最初に上下に読んでそれから右左と読むんだよ。左側の文字は似てるけど實(じつ:新字体実)ではなくて、寶(たから:新字体宝)ね」
「へー」
「銭形平次って、これを投げて相手をやっつける岡っ引きを主人公にした時代劇があったんだけどね」
「お金を投げて、それを拾っている内にやっつけちゃうの?」
「うーん・・・。どう説明すればいいのか」
とエツは困っていたようである。
(この時点で「銭形平次」は村上弘明版(2004-2005)は未放送。北大路欣也版は1991-1998年に放送され、水曜日20時台だったが。1998年は千里は小学2年生で原則として夜8時就寝だったし、水曜日は武矢不在で、津気子には時代劇を見る趣味が無かった。多分「ためしてガッテン」か「速報歌の大辞テン」を見ている)
最初の神社にお参りした後、少し細い道を歩いたら、エツは1軒の民家の玄関引戸を開ける。勝手に入っていいの〜?などと千里は思っているが、エツは中に入り、正面にある広い階段を登る。3階くらいまで行くと、廊下を通り、宴会でもしているような部屋を通って、やがて誰も居ない三角形の部屋にきた。その部屋の中に入ると、その奥にあった滑り台!を滑る。
これがかなり長い距離を滑り降りた。降りた下にあったドアを開けると、その真向かいにまた古風な神社があった。
さっきの神社と同様に大きな提灯が掲げられていて、何とか明神と書かれているのだが、やはり明神の上にある文字が千里には読めない。ここでもまた寛永通宝を1枚もらい、それをお賽銭にして、2拝2拍1拝でお参りした。
この神社にお参りした時、拝殿の階段の所に、おくるみに包まれた可愛い赤ちゃんが置かれていた。
「可愛い!女の子だよね?」
と千里は言った。
「さあ、どうだろう?」
「もし男の子だったら、女の子にしてあげたいくらい可愛いよ、この子」
「そうかもね」
と言ってエツは微笑んでいる。
「でもお母さんはどうしたんだろう?」
「お母さんは死んじゃったんだよ」
「え〜〜!?お父さんは?」
「お父さんも死んじゃった」
「じゃこの子1人?」
「そうかもね」
「可哀相!こんなに可愛い子なのに。誰か育ててあげられないのかな?」
「もし誰もいなかったらどうする?」
「困ったなあ。私が大人だったらこの子を育ててあげたいくらいだけど」
「千里のその気持ちだけで、きっとこの子は救われるよ」
そんなことを言っていたら、ちょっと不思議な夫婦(?)がやってきた。
その夫婦(?)は背の高い男性が小袖に女帯を締めていて、背の低い女性が男物の服を着て羽織袴姿なのである。ふたりもその拝殿の前の赤ちゃんを見て困惑したように抱き上げて話し合っている。やがて2人はその子を連れて帰っていった。
「あの人たちが育ててくれるのかな?」
「そうかもね」
とエツは言った。
「でも千里ちゃんがこの子を助けたいと思ったから、あの夫婦が来てくれたんだよ」
「へー!でも良かった」
千里たちは次の神社に行くのに、今度は“藪知らず”のような林の中を通り抜けてやっと到達した。4番目の神社に行くのには、水着に着替えて泳いだ!
「この水着可愛い!」
「気に入ったらあげるよ」
「ほんとに?」
千里はこのようにして、月食が始まった22時半頃から、食が最大となった0時頃まで、1時間半ほどの間に様々なダンジョン?を通り抜け12個の神社にお参りしたのである。
12番目の神社にお参りした所に《きーちゃん》がいた。
「お疲れ様。これでかなりよく引き締まったと思う。元の所に戻すね」
「うん」
病院の一室。若い妊婦とその夫が医師の説明を受けていた。
「よかった。じゃもう大丈夫ですか」
「何とか安定した感じですね。念のため1日休んで明日退院になさいませんか」
「そうします」
千里はいつの間にかホテルの屋上に居た。
桜井先生が
「さあ、もう12時だから、寝ようか」
と声を掛け、みんな立ち上がってぞろぞろと部屋に戻った。
「だけど戸坂先生が言ってた、携帯電話の話、本当にその内携帯電話でテレビが見られたり、買物ができたりするようになるかも知れないね」
と玖美子が言う。
「桜井先生が言ってた件はどう思う?千里」
と蓮菜が訊いた。
「携帯電話がお財布になるって話?私なら携帯電話を落としそうで恐い」
と千里が言うと
「確かに千里は落とし物・忘れ物が多い」
と穂花も言っていた。
千里がすんなりとお返事したので、蓮菜は腕を組んで何か考えていた。
なお10時半に起きられなかった恵香は結局朝まで寝ていて
「え〜!?もう終わっちゃちゃったの?起こして欲しかった」
などと言っていたが
「起こしても起きなかったじゃん」
と言われていた。
翌日、2001年7月6日(金)は北海道伝統美術工芸村を訪れた。雪の美術館・優佳良織工芸館・国際染織美術館という3つの施設が並んでいる。近年特に観光客に人気なのは雪の美術館である。館内が美しく雪をテーマにレイアウトされているが、ここで「お姫様体験・王子様体験」というのがあり、各クラスから1名選んでしてもらえるということであった。
「よし、じゃんけん」
ということで、男子・女子おのおのジャンケンで体験する人を決めた。女子では千里は最後まで残ったが、最後のジャンケンで玖美子に負けた。
千里は「負けた〜!」と言って悔しがったが、そういう千里を蓮菜が腕を組んで見ていた。
留実子は男子の方のジャンケンに参加。そして最後まで残って、美事王子様体験を勝ち取った。
「花和の王子様はちょっと見てみたい気がする」
「なんか格好良い王子様になりそう」
というので、これは男子からも女子からも期待度が高かった。
2人は2組で選ばれた2人とともに、他の児童とは別れて、着付け・メイクをしてもらう。
他の子は美術館の中を見てからお姫様体験コーナーに戻った。4人の着付けが終わっている。
「花和かっこいい!」
という声が2組の男子からもあがっていた。
「花和くんのお嫁さんになりたい」
と女子たちからも声があがり、留実子は得意そうであった。
留実子は女物の服を着ればけっこう女に見えるのだが、こういう格好をすると男にしか見えないのである。かなりの美男子である。
「花和くん、女の子を両腕にぶら下げたりできる?」
などという声が出る。
「軽い子なら」
「だったら、優美絵ちゃんと萌花ちゃん」
それで2人がぶらさがろうとするのだが、優美絵は腕力が無さすぎてぶらさがっていられない。すぐ落ちてしまうので記念写真が撮れない。
「千里ならできるよね?」
とお姫様の格好をしている玖美子が言う。
「私でいいなら」
と言って、留実子の右腕にぶらさがった。萌花より千里の方が重いので、千里が右腕の方がよい。
この状態で記念写真を取り、2組で王子様の衣装を着けた前川君も「すげー!」と言っていた。もっとも前川君が留実子の性別を認識しているかは微妙だなと千里は思った。
昨日はラーメン村で食事したのだが、この日は空港に行き、空港見学した上で(結果的にピーク時間をずらして)空港内のレストランで昼食を取った。その後旭岳ロープーウェイに行き、上に登って姿見池までの散策コースを歩いた。
ここで体力の無い子は夫婦池の所で駅に戻って良いということで、主として女子で姿見池まで行く自信の無いという子が戻っていっていた。鞠古君や祐川君などが「戻ろうかな」などと言っていたが、留実子が鞠古君に「一緒に行こうよ」と誘うので、鞠古君は頑張ることにした。でも祐川君は帰った。
千里は、蓮菜・恵香・穂花・美那などのグループでしっかり姿見池まで歩き通し、旭岳が池に映る美しい姿を見ることができた。
「鞠古もこれで男になることができたな」
などと留実子が言うと
「花和もこれで男になれたな」
と鞠古君が言い、留実子は嬉しそうにしていた!?
この2人の感覚はよく分からないと思う千里であった。
旭岳を降りたらその後はバスでまっすぐ留萌に戻った。到着は18:30の予定だったのだが、実際には18:20くらいに到着した。それで結構親が迎えに来るのを待っている子も多かった。
千里は今日は金曜日で父が帰港する日なので、母は父にかかりっきりであり迎えには来ない。留実子は両親が共働きで時間の自由が利かないのでお迎えは無い。それで一緒にバスで帰ろうと声を掛け、学校を出てバス停に行こうとしていた。ところがそこに早めに迎えに来ていた鞠古君のお母さんが声を掛けてくれた。
「花和さん、送っていくよ。そちらのえっと、千早ちゃんだったっけ?も」
「すみません。千里です」
「あ、ごめーん。よく一緒に遊んでいるよね?おうちどこだったっけ?」
「**町なんですが」
「ああ、花和さんの家の近くなのね。あなたもお迎え無いの?」
「はい」
「だったら乗って行きなさい」
「はい、ありがとうございます」
それで千里がシャレードの助手席に乗り、留実子と鞠古君が後部座席に乗って、自宅まで送ってもらった。実際には千里は留実子の家の所で一緒に降りた。
「ちょっと寄っていきたかったので」
「あらそう。今日はお疲れ様」
「送ってくださってありがとうございました」
それで千里は留実子の家に一緒に入る。
「そのスカートを穿き替えたいんでしょ?」
と留実子が言う。
「そうなのよね〜。お父ちゃん帰っているから」
「お父さんがいても堂々とスカート穿いていればいいのに」
「そのあたりは色々と・・・」
「まあいいや。そうだ、僕またスカートを親戚からもらっちゃったから千里にあげるよ」
「ありがとー。助かる」
それで千里は留実子の家で、そこに置いている!自分のズボンに穿き換え、ついでに留実子からまたスカートなど女物の服をもらって紙袋に入れて、歩いて帰宅した。
父は今週は大漁だったと言ってご機嫌でサッポロビールを飲んでいた。
「ただいまあ」
「おお、帰ったか。千里、お前も飲め」
「小学生がお酒飲んでたら逮捕されるよ」
「何だ。面白くないな。津気子も飲まないし」
「お母ちゃんは病気が全快するまで、そんなの飲めないよ」
「まあいいや。刺身食え」
「うん。もらう。いただきまーす」
と言って千里はお刺身を食べていたが、母は千里の胸の付近がどうも気になるようであった。