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■少女たちの修復(5)

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(C) Eriki Kawaguchi 2019-05-18
 
2001年7月28日(土).
 
千里はひとりでJRに乗って旭川に出た。
 
祖父(父の父)十四春の一周忌があるのである。
 
本当の一周忌は29日であるが、日曜にやると出席者は翌日の月曜日が辛いので1日早い土曜日に行うのである。
 
本来なら父あるいは父と母、あるいは千里と玲羅も含めて4人で出るべきところなのだが“諸事情”で千里が父の代理ということで1人で出席することにしたのである。“諸事情”の中身は“お金が無い”ということだろうなと千里は思った。
 
大人が行くとなれば、交通費も掛かるし、お土産代とか宴会代?とか色々掛かることになる。千里1人なら、交通費も子供運賃だけで済む!
 
喪服であるが、昨年の葬儀の時に着た服はもう入らなかった。それで新しい喪服を買ってもらうことになったが、千里は「ワンピース型がいい」と主張した。すると母も
「お父ちゃんが一緒じゃないからいいか。どうせ去年ワンピースの喪服で献花してるしね」
と言って、少しゆとりのあるワンピースタイプの喪服を買ってくれた。それにズボン型だとあまり大きすぎるサイズは変だが、ワンピース型は多少サイズが大きくてもそんなに変ではないのである。
 
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もっとも旭川までは普段着で行き、現地で喪服に着替えるように母からは言われた。
 

留萌557-649深川656-728旭川
 
実際には、千里は面倒が無いように、留萌から深川に向かう列車の中でワンピースの喪服に着換えてしまった。
 
旭川駅には“誰か”が迎えに来てくれるということだったが、20代の女性が運転する青いスターレットが千里の立っていた所から5-6mくらいの場所に停まり誰かを探しているようである。千里は走り寄った。
 
「おはようございます。村山千里ですが」
「ああ。千里ちゃん!私、村山春貴(むらやま・はるき)。啓次の孫」
「初めまして。去年の葬儀の時はお母さんに親切にして頂きました」
 
すぐ千里が乗って車は出る。
 
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それで一周忌が行われるセレモニーホールに向かった。
 
運転しながら春貴さんは
「千里ちゃんって、あれなんだ!」
と言った。
「あ、分かります?」
「同類だからね〜」
と春貴さんは笑いながら言っている。
 
「去年の葬儀の時、春貴(はるき)さんのことが話題になってました。天子おばあちゃんが、一周忌には女の喪服着せて連れておいでと言っていたんです」
 
「らしいね〜。だから今回は親戚関係に女子デビュー」
「よかったですね」
「うん。少し恥ずかしいけど、男の格好では出たくないもん」
「その気持ちすごく分かります」
 
「千里ちゃんのこと、私はうちの母からは『髪の長い女の子だから』と聞いた」
「ああ。私のことをそもそも女の子と思っている人の方がたぶん多いです」
「私も小さい頃からそれしておきたかったなあ!」
と春貴さんは羨ましそうに言った。
 
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十四春の一周忌の出席者はこのようであった。
 
(1)喪主 天子(十四春の妻)
(2)望郎の娘・満洲子と夫の康夫
(2)サクラの息子・礼蔵と妻の竜子
(5)啓次の息子・鐵朗と妻の克子、娘の春貴・夏美・秋恵
(5)庄造の息子・国男と妻の智子、その息子の春道と妻の章子、その娘の美郷
(1)武矢の娘(?)千里
(4)弾児と妻の光江、息子の顕士郎と斗季彦
 
合計20名。
 
(望郎・サクラ・啓次・庄造・十四春が兄弟)
 
さっき千里が言及したように、昨年の葬儀の時は春貴は女性用喪服で出席したいと言ったのを母が認めてくれなかったので「男性用の喪服を着ろというのであれば出席しない」と言って欠席した。しかし天子が「性別を変更することは恥ずかしいことではない。来年は女性用の喪服を着せて連れてきなさい」と言った。それで今年は女性用喪服を着た春貴を連れてくることになり、結果的に妹たちの夏美・秋恵も来ることになった。そして「春貴ちゃんが来るなら」と言って、小さい頃仲良しであった春道も春貴に会うのを主目的として出席することになったのである。それで啓次系と庄造系の出席者が多くなった。
 
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喪主の天子さんは目が見えないし、69歳と老齢でもあるのでので、実際にはほとんどの作業は、光江(弾児の妻)さんと竜子(サクラの息子・礼蔵の妻)が仕切っていたようである。千里は会場に着くと
 
「おはようございます。私でできることなら何でもしますから言って下さい」
「おはよう。千里ちゃん。じゃ、このお花、お部屋に持って行ってくれない?」
「はい」
 
それでお花2つを1つは小春に持ってもらって、一周忌法要が行われる部屋に持って行った。
 
その他、伝言を頼まれたり、お坊さんを案内したり、千里は結構しっかり働き、「充分戦力になっている」と春貴さんから褒められた。彼女もたくさんお手伝いしていた。
 

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お坊さんは9時半に来て下さったのだが、いちばん遠方から来た人を待って、法要は10時から始まった。
 
最初に天子さんの短い挨拶があってから、お坊さんの読経が1時間!ほど続いた。千里はこの会場が椅子席でよかったと思った。正座で1時間なら確実に足がしびれてしまう。
 
お経が終わった後は焼香をしてから美郷ちゃんが献花をした。葬儀の時、本来は玲羅と美郷がする予定だったのが、加藤さんの勘違いから美郷(みさと)ではなく千里(ちさと)がしてしまったので、あらためて今回は美郷にしてもらった。
 
その後、お坊さんのお話が10分ほどあり、最後の挨拶は弾児さんがした。本当は千里の父がすべき所であるが本人が来ていない。
 
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法要が終わった後は、この部屋に銘々膳を運び込んで食事をする。結果的にはほぼお昼の時間になってしまった。この食事会では最年長である康夫さん(実は天子さんより1つ上である)が献杯の挨拶をしてくれた。
 
全ての予定が終わったのは13時頃である。お坊さんを送り出してから解散となるが、実際にはほぼ全員が今日は旭川泊まりである。それでホテルに移動することとなった。
 
「千里ちゃんは?」
「私は日帰りです。これからJRで留萌に戻ります」
「あら、行事だけ出て、すぐ帰るのは、ゆるくない(大変)でしょ?あんたもホテルに来て少し休んで行きなさいよ」
「でも私、ホテル予約してないですよ〜」
「子供1人くらい平気平気」
 
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ということで半ば拉致に近い感じで連れて行かれたのであった。
 

ホテルに来たのは、天子と弾児一家以外の全員である。つまりこの15人である。
 
(2)望郎の娘・満洲子と夫の康夫
(2)サクラの息子・礼蔵と妻の竜子
(5)啓次の息子・鐵朗と妻の克子、娘の春貴・夏美・秋恵
(5)庄造の息子・国男と妻の智子、その息子の春道と妻の章子、その娘の美郷
(1)武矢の娘(?)千里
 
春貴が「千里ちゃん、おいで」と言って、そばに置いたので妹の夏美・秋恵にも可愛がられたが、夏美や秋恵は千里を普通の女の子と思っているようだった。
 
ホテルでは各自の部屋でまずは普段着に着替えた後、お風呂に行く。お風呂は男女別なので、女湯に行ったのはこの10人である。
 
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(1)満洲子
(1)竜子
(4)克子、春貴・夏美・秋恵
(3)智子、章子、美郷
(1)千里
 
千里が平然として女湯の脱衣場に入っていくので、春貴は「ふーん」という顔をしていた。そして千里が服を脱いで全裸になると腕を組んで考えていた。
 

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しかし当の春貴自身が、みんなの“観察対象”になってしまった。
 
「おっぱい大きいね」
「ちんちんはもう付いてないのね」
「ボディラインが女の子にしか見えない」
などと言われて、たくさん観察され、たくさん触られていた!
 
「おっぱい、やわらかーい」
「これってシリコン入れてるの?」
「女性ホルモン飲んで自然に大きくしましたよ」
と答えながら彼女は千里の胸に視線をやっている。
 
「ちんちんも女性ホルモンで無くなったの?」
「ちんちんは自然には無くならないから手術して取りましたよ」
「すごーい。あんなの切ったら痛くなかった?」
「痛かったですよ。痛みが取れるまで半年かかりましたから」
「きゃー!大変な手術なのね」
「ええ。でも女の子になりたかったから覚悟して受けました」
 
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「手術ってモロッコに行ったの?」
「モロッコで手術していた先生はもう20年以上前に亡くなったんですよ。最近はタイで受ける人が多いです。タイには性転換手術をする病院がたくさんあるんです」
 
「へー!タイなんだ?」
「だからタイは性転換した人多いですよー。世界中からタイに手術受ける人が来ますし」
 
「でもそんなにたくさんあるんだ?」
「まあたくさんあるから、ピンからキリまでありますけど」
 
「春貴ちゃんは、ピンの方?キリの方?」
「国際的にも定評のある所で受けましたよ」
「それ下の方はちょっと恐いね」
「だと思います。安いでしょうけど、適当そうですよね。ちゃんと使えるヴァギナにならなかったり」
「ヴァギナも造るんだ?」
「作らないとお嫁さんになれませんから」
「あら、だったら春貴ちゃん、お嫁さんになれるの?」
「結婚してくれる男性がいればですけどね〜」
 
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「でも性転換手術して女の身体になってもも、戸籍は男のままじゃないの?」
「今はちゃんと戸籍上の性別を変更出来るんですよ。だから私はちゃんと戸籍上も長女になってますよ」
 
「あら、春貴ちゃんが長女なら、夏美ちゃんは次女になったの?」
「いえ。夏美は長女、秋恵は次女のままです」
「だったら長女が2人いるんだ?」
「そうなんですよね。再婚した人とかも長女が2人できることもありますね。それと同じですよ」
「ああ、そういう話は聞いたことある」
 
「でもヴァギナがあって、戸籍も女だったら結婚してもいいという男の人もいるかもね。春貴ちゃん美人だもん」
 
「赤ちゃんも産めるの?」
「それはできないんですよ〜。卵巣や子宮までは無いので」
「それは無いんだ?」
「今の技術ではそこまで作れないんですよね〜」
「誰かから移植するとかは?」
「卵巣や子宮の移植は困難みたいですよ。拒絶反応が凄いらしいです」
「へー」
 
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「一般的に最初に性転換手術を受けた人とされているリリー・エルベという人も、卵巣や子宮の移植手術による拒絶反応で亡くなったんですよ」
 
「あらぁ、可哀相!」
「だから現在そういう手術はしていません。将来的にはES細胞を使うと本人用の卵巣・子宮を作れるようになるかも知れませんけどね」
 
「何それ?」
「万能細胞といって、何にでも進化出来る細胞なんですよ」
「へー」
「ただしこれを作るには、受精卵のごく初期の細胞を採取して保存しておく必要があるんですけどね。だから生まれてしまった以降はもう無理です」
と春貴は説明する。
 
(体細胞を万能細胞に戻すIPS細胞の発見は2006年)
 
「受精卵から細胞取るって恐くない?」
「失敗すると赤ちゃん流れちゃうだろうから、そういう技術が確立するのはまだ20-30年先でしょうね」
「へー」
 
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「でも万能細胞があれば、腎臓や肝臓、心臓だって作れるから、将来心臓移植とかは、きっと自分の心臓のスペアを作って交換出来るようになりますよ」
 
「それすごーい!」
「そこまで行くのは100年後かも知れないですね。目的の臓器に育てるのって、凄く難しいみたいだから」
 

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結局、この日のお風呂の中では女性親族たちから春貴が質問攻めにあい、集中的に観察されていたので千里は誰からも注目されたりすることもなく、のんびりと浴槽につかっていた。お風呂の中では美郷ちゃん(小6)とたくさん話したが、美郷ちゃんは千里を普通に女の子と思っているようだった(ふつう男の子が女湯に居る訳が無い)。
 
それで充分暖まって、あがった。ちなみに千里は去年もお風呂で竜子さんと克子さんに裸を曝している。
 

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春貴さんが「宴会が始まってお酒が入る前に」と言って、お風呂からあがったすぐ後、千里を旭川駅まで車で送ってくれたので、それで留萌に戻った。
 
車の中で訊かれた。
 
「千里ちゃん、お股を上手に偽装してるね〜」
「えへへ。あまり深く追及しないで下さい」
「うんうん。いいけどね。でも胸も膨らみ始めている感じだし、女性ホルモン調達してるんだ?」
「はい。だから中学に入る頃までには何とか小さなおっぱいくらいできるのが目標です」
「頑張ってね。だったら声変わりもキャンセルできそう?」
「声変わりなんて絶対嫌です」
「あれは私も絶望した。この声を出せるようになるまで苦労したし」
「大変そう!でも女の人が話しているように聞こえますよ」
 
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「そそ。あんたポイントが分かっているね。声は声の高さではなくて話し方が重要なんだよ。女の声に聞こえる必要は無い。実は女でも男みたいな声を出す人はたくさんいる。大事なのは女が話しているように聞こえるようにしゃべることなんだよ」
 
「へー。私、今何か大事なこと言ったのかな?」
「ああ。あんたは今朝から見ていて思ったけど、自分で大事なこと言っててそれに気付いていない傾向もある。巫女(みこ)体質かもね」
 
「みこって神社の?」
「うん。あんたは巫女になれるかも」
「それもいいなあ」
 
そういう訳で、春貴は千里がお股を女性股間に見えるよう偽装していると思ったようである(タック技法はこの頃ニフティの某サイト付近を震源地に少しずつ知られるようになっていった)。小学生で女性の性器外観を獲得済みというのは普通あり得ない。もっとも千里の女性型股間は母の卵巣を癌治療の薬物や放射線から守るための暫定的?なものである。
 
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旭川15:10-16:54留萌(留萌本線への直行便)
 

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少女たちの修復(5)

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