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■娘たちの転換準備(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2016-11-05
 
そして2月13日(土)。千里が「大阪から戻ってきてから」ファミレスの夜勤に入っていたら、桃香が今日はひとりでやってきた。何だかたくさん参考書とかを鞄に入れている。
 
「桃香、どうかした?」
「いやぁ、図学の追試落としちゃって」
「え?模範解答を覚えておいて書いたんじゃなかったの?」
「それが今年から図学の追試の内容が変わっていたんだよ」
「ありゃぁ」
「全然気付かずに全く見当外れの回答ばかり書いて。実はそういう回答をした学生が5人もいたというので、レポート書けば単位くれるということになった」
 
「ああ」
「それで今夜中に書き上げて明日の朝いちばんに提出」
「お疲れ様。じゃ、壁際の人の通りがあまり気にならない所に案内するよ」
 
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と言って千里は桃香を案内して奥の方に行く。
 
その時桃香は
「ん?」
と思った。
 
「千里、今日はスカート穿いてるんだ?」
 
「え?これはショートパンツだよ」
「・・・私にはスカートに見えるが」
 
「ほら、ここがちゃんと両足に別れてるでしょ?だからこれはショートパンツなんだよ」
 
「うーん・・・それならキュロットなのでは?」
「キュロットってパンツの一種でしょ?」
「いや、キュロットはスカートの一種だ」
「そうだっけ?」
 
「でも可愛いよ」
「そ、そう?」
と言って千里は少し照れる。
 
「写真撮らせて」
と桃香。
 
「え〜〜!?」
 
それで桃香は自分の携帯で千里の女子制服姿を撮影していた。
 
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2010年2月14日(日)。
 
バレンタインデー本番であるが、千里たちはこの日、千葉県冬季クラブバスケットボール選手権大会という大会に出場する。
 
この大会はやや複雑な方式で行われる。
 
前提として昨年10月に行われたクラブ選手権大会、12月に行われたクラブ選抜大会の優勝者・準優勝者が特別扱いになる。
 
ここで選抜大会は選手権大会の3位以下のチームで行われているので、要するにこの4チームは実質的に千葉のベスト4ということになる。ここから冬季大会の準決勝の出場チームを下記のように決める。
 
a.選手権優勝者
b.選抜優勝者
c.選手権2位と選抜2位の勝者
d.残りのチームで予選をしてその1位
 
選手権は1位ローキューツ、2位フェアリードラコン、選抜は1位サザン・ウェイブス、2位フドウ・レディースであった。フェアリードラコンとフドウ・レディースで11日に試合をやって、フドウ・レディースが勝っている。また11日には残りのチームで予選を行い、サクラニャンが勝ち残った。それでブラケットは次のようになることになった。
 
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ローキューツ┓
      ┣┓
サクラニャン┛┃
       ┣
サザン・ウェ┓┃
      ┣┛
フドウ・レデ┛
 

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ローキューツの初戦の相手となったサクラニャンは佐倉市付近のバスケ好きの女子が集まって結成されたチームだが、実は全国的な強豪である佐倉市のD短大、同系列の四街道市D高校出身の選手が多数入っており、あなどれないチームである。
 
この準決勝サクラニャンとの試合に千里たちは話し合って国香を第1ピリオドだけ使うことにした。
 
本人は「もう大丈夫」と言ってはいるものの、無理させないようにしようということにした。
 
そこで浩子/夏美/夢香/国香/麻依子というメンツで出て行く。
 
このピリオド、国香は自分で復活をアピールしただけあって、ひじょうに良い動きを見せた。よく走るし、シュートも良い精度で放り込む。瞬発力が微妙な感じだが、これはおそらく骨折した所をかばっているのでそういう動きになるのだろう。自分で身体に自信を持てるようになってきたら、恐らくもっと良くなる。
 
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「でもこの試合、私の出番は無いみたーい」
と玉緒が言う。
 
「うーん。ごめんね〜。第3ピリオド少し出る?」
「じゃ2分くらいだけ」
「OKOK」
 
それで玉緒を結局3分ほど出してあげたものの、こちらの地力が向こうに勝った感じで、20点差で快勝。千里と誠美・来夢はこの試合には出なかった。誠美と来夢は温存し、千里は隠したというところだ。
 
「私も出たいなあ」
などと今日はマネージャーとしてベンチに座る薫が言う。
 
薫は2月20日以降の公式戦に出られることになっている。あと6日である。
 

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もうひとつの準決勝はフドウ・レディースが勝って選抜のリベンジを果たした。ここはJI信金(KL銀行に吸収予定)に入った近江満子(旭川R高校出身)が一時在籍していたチームである。強豪校出身の選手が多く、ひじょうに強いチームだ。
 
男子の試合をはさんで女子の決勝となる。
 
浩子/千里/来夢/麻依子/誠美
 
というメンツで出て行く。このチームとは10月に千葉クラブ選手権の準決勝で当たっている。来夢と誠美がローキューツに合流したのは11月3日の総合千葉予選準決勝からで、フドウ・レディースはこの2人を見ていない。それで向こうは前回痛い目にあった千里に向こうのエースの人が付くダイヤモンド1の守備体制を敷いてきた。そしてこの人は千里を研究してきていた雰囲気があった。千里のプレイはインターハイやウィンターカップなどの映像が動画サイトに出ているのでおそらくそれを見て研究したのだろうと千里は思った。
 
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しかし千里は彼女を完璧に圧倒した。10月の頃の千里と今の千里では全くレベルが違うのである。やはり12月の「スペシャルマンス」の期間に日本代表の活動で無茶苦茶鍛えられたので、技術的にも精神的にも別人といっていいほど進化していた。
 
千里は彼女を振り切ってどんどんスリーを撃ち込む。
 
更に4人で守るゾーンはどうしても5人のゾーンよりは弱い。そこにベテランの来夢が巧みに侵入し、得点を挙げる。またシュートが外れても長身の誠美がほぼ全部取ってしまう。
 
相手は充分強いチームなのだが、試合は最初からこちらが押し気味になる。
 
千里をマークするのは物凄く消耗するので、第2ピリオドは別の人がマークする。この人は第1ピリオドはベンチに居て体力を温存していたようだ。そして第1ピリオドの千里の動きを観察していたようである。しかし見ていたからといって停められるものでもない。彼女も千里に簡単に振り切られる。
 
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そういう訳で、この試合はワンサイドゲームになってしまった。国香が「私も出たーい」と言っていたので、第4ピリオドに出した。エネルギーが余っていたようで、このピリオドだけで10得点する活躍を見せる。
 
試合は結局、32-98のトリプルスコアでローキューツが勝ち、優勝した。
 

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大会終了後、ファミレスに入って打ち上げをした。
 
「やはり優勝って気持ちいいね〜」
と夏美が言う。
 
「今期何回優勝したんだっけ?」
と夢香が訊く。
 
「4月の春季選手権は準優勝、7月の夏季選手権でチーム結成以来の初優勝、8月のシェルカップで準優勝、9月の関東選抜で優勝、10月の千葉クラブ選手権で優勝、総合千葉予選で優勝、総合関東予選でBEST4、12月の純正堂カップで優勝、1月の栃木乙女カップで優勝、今日の冬季選手権で優勝。優勝は7回かな」
と浩子が手帳を見ながら言う。
 
「関東総合で優勝したかったね〜」
「優勝してたら夢のオールジャパンだったもんね」
「来年は行きたい」
「まあ練習しようよ」
「千里がもう少し練習すると行けるかも」
「ああ、千里は練習のサボりが多い」
 
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おそらくこのチームでいちばん練習しているのが夢香、次いで夏美であろう。そのあと浩子で、最近はこれにバスケが面白くなってきたという玉緒もよく出てきている。そして麻依子と千里はサボり気味、来夢はむしろひとりで基礎トレーニングをやっているようである。誠美は出身校の東京T高校で後輩たちの指導をしながら自分も練習させてもらっているようだ。
 
「来夢さん、4月から行くチーム決まったの?」
と国香が尋ねる。
 
「うん。実はその話、しなきゃと思ってた。茨城県のハイプレッシャーズからわりと色よい返事をもらっているんですよ」
 
「それは良かった!」
「エレクトロウィッカほど強くないから、出場機会も多いと思うし」
「うん。強いチームだと使ってもらいにくいという問題もあるんだよね」
と監督も言う。
 
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「まだ向こうの来期の枠がハッキリしてないから確定じゃないんだけど。万一枠が足りない時はマネージャーでもいいから雇ってくれませんかと言っている」
 
「マネージャー名目でもWリーグの選手たちと一緒に練習できるのは大きいだろうね」
 
「うちみたいなチームでやっていく場合は、他に仕事持たないといけないからその兼ね合いが大変だもん。プロチームに行けば生活費だけは心配しなくていいから」
 
「うん。もっともハイプレッシャーズの給料はかなり安い」
「そうなんですか?」
「大きい声では言えないけど、いちばん安い給料もらっている人が***万とか」
「それはなかなか厳しい」
 
「そちらに入る場合、いつから合流するんですか?」
「こちらの大会が終わってからでいいと言われてる。だから3月20-22日の全国クラブ選手権まで出てからだよ」
と来夢。
 
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「それって来週の関東クラブ選手権で上位に入らないと行けないですよね?」
と玉緒。
 
「うん。だから全国行こうよ」
「今のメンツなら充分行けると思うよ。来週は頑張ろう」
 

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打ち上げが終わったあと
「バレンタインのチョコ買おうよ」
と夏美が言い、何となくみんなで、そごうのチョコレート特設売場に行った。
 
監督とコーチは帰ったし、誠美も「興味無い」と言って帰った。国香が異様に張り切っていた。
 
「薫は彼氏居るの?」
と麻依子が訊く。
 
「居ない。これまで男の子からラブレターもらった経験も無い」
と薫は言っているが、彼女の場合は高校2年で性別変更しているので、無理無いところでもある。
 
「いや、それは大半の子がそうだと思う」
と夏美。
 
「千里は例の彼に贈るの?」
と薫が訊いたので
 
「その話、詳しく!」
という声が出る。
 
「10万人の観客の前でその彼氏とキスしたんだよ」
と麻依子が言う。
 
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もう今更なので千里は笑っている。人数はもう適当にインフレーションしてくれ!という感じだ。
 
「すごーい」
「だいたーん」
 
「そうだなあ。まあチロルチョコでも贈ってやるかな」
と千里が言うが
 
「彼氏が居るならチロルは可哀相だよ。せめて2000円くらいの贈りなよ」
と夢香。
 
「仕方ない。買ってやるか」
「うん。頑張れ」
 
既に5万円もするチョコを渡して来たとは言えないなあと千里は思った。
 

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それでみんなで適当に選ぶ。来夢はボーイフレンド数人にばらまくと言って500円のを8個買っていた。しかし国香は2000円のチョコを3個買っている。
 
「それ、どうするの?」
「本命3人に贈る」
「本命が3人もいるのはおかしい」
「そうだっけ?」
 
「職場の人?」
「色々〜。ネットつながりとかもいるし」
「ほほお」
 
国香が入院している間に国香が所属していた営業所は閉鎖されてしまい、所長もいない営業所に国香だけが在籍しているという不思議な状態になっていたのだが、退院してから会社側と交渉した所、国香は群馬県の営業所への転属を提案され、結局退職することにした。今は全国的な居酒屋チェーンで夜間の仕事をしている。後にブラック企業として槍玉に挙げられた所ではあるが、身体も精神も丈夫な国香はハードな深夜の仕事を平気でやりながら、日中はジョギングをしたり体育館に出てきて夏美たちとバスケの練習をしたりしている。しかしmixiにもかなりハマっているようである。よく練習の合間に携帯をいじっている。
 
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千里がチョコを眺めていたら、バッタリと大学の友人、美緒に遭遇する。美緒は豪華なチョコを5つ手に持っている。
 
「千里もチョコ選び?」
「うん。まあ」
「そうだよね。千里ならチョコ贈るよね」
と言って、何だか美緒は納得している雰囲気。
 
うーん。大学でまたなんか言われそうだなと思う。
 
「でも美緒、随分豪華なの持ってるね」
「ああ、これは本命チョコだから」
「5個あるけど」
「本命の彼氏が今5人いるのよ」
「頑張るね〜」
 
美緒は「じゃ千里も頑張ってチョコ持ってアタックしなよ」と言ってレジの方に行った。
 

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