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■娘たちの転換準備(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2016-11-04
 
海道天津子は年末年始に大量の仕事を片付けた後、下宿している遠縁の叔母に
「しばらく山籠もりしてきますね」
と告げた。
 
天津子は神道系新興宗教の教会の旭川教会長の孫娘で、霊感が強いことから、そこの信者さんたちに生き神様のように崇敬されていたのだが、ここにいたら自分は天狗になってしまうと認識し、普通の神社の宮司さんと結婚したこの叔母(正確には祖母の従妹の娘になる)の所に、3年半ほど前から下宿しているのである。在宅中は普通の神社の巫女として奉仕しているが、結構な数の<ファン>ができている。
 
「いつ戻るの?」
「2月22日の期末試験までには帰って来ます」
「あんた、全然学校行ってないね!」
 
天津子は一応中学2年生である。
 
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「出席日数不足にはならないようにしてますよー」
「まあ死なないようにね」
「はい。では行ってきます。母ちゃんから電話あったら適当に言っといて下さい」
「あんたのお母ちゃんもなんか諦めてる雰囲気だね〜」
 
それで天津子は最小限の着替えと非常食だけを持ち、JRで某所に移動した後、山に入った。
 
一面の雪景色である。
 
「さて取り敢えず40kmくらいジョギングするか」
と言って天津子は走り出した。チビも一緒に天津子を守るように同じペースで雪原を走った。
 

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千里は昨年(2009年)の秋から地場のファミレスで主として夜間のバイトをしていたのだが、千里がこのバイトを始めたのには幾つかの理由があった。
 
ひとつは自分が作曲家として活動しているということをあまり他人には言いたくないので「見せかけ」のバイト先が欲しかったこと。そして夜間の作業は学校の授業とぶつからない上に、結構暇な時間帯が発生し、その時間帯に勉強をしたりあるいは作曲の作業ができること。その場合に、むしろアパートに居るより集中して取り組むことができることであった。鴨乃清見ブランドの多数の名曲がこのレストランの厨房の片隅で生まれている。
 
また千里はそもそも料理を作ったり、人と接っするのが大好きで、この仕事は千里にとって「天職」でもあったのである。
 
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千里はここに就職する時、戸籍通りでないとまずいかなと思って男性として就職したものの、千里が男子トイレや男子更衣室を使おうとすると、たちまち問題が発生。トイレは女子トイレを使うよう言われ、更衣室も女子更衣室を使ってくれと言われた。
 
ただ、この時期まで千里は男性用の制服を着ていた(ただしズボンは男子用ではサイズが合わないので女子用のズボンを穿いていた)。それでもクリスマスの時にはうまく丸め込まれて、サンタガール仕様の制服を着ていた。
 

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千里がファミレスに勤務するのは火木土の夜である。
 
それで千里は1月22日(金)から翌日に掛けて、大阪に行ってくることにした。
 
金曜日の授業が14:30に終わるとすぐ大学近くに駐めていたインプの後部座席に乗り、毛布をかぶって目を瞑り
 
『じゃ、こうちゃん、大阪までお願い』
と言って眠ってしまう。
 
『千里は俺をお抱え運転手だと思ってるな』
などと《こうちゃん》は文句を言いながらも、車を出し、ひたすら首都高・東名・名神・大阪中央環状線と走って、豊中市の千里(せんり)ICを降りた。
 
《こうちゃん》の運転でも千葉から大阪まではどうしても6時間は掛かる。それでも千里が飛行機や新幹線ではなく車で大阪まで行くのは、その間にぐっすりと寝たいからである。
 
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《こうちゃん》は桂川PAで千里を起こしたので、千里はトイレに行ってから化粧水パックをして『顔の調子』を整え、そのあと後部座席で軽くメイクをしておいた。
 
21時頃、貴司のチームの練習場となっている体育館に《こうちゃん》は車を付けた。千里は車を降りて体育館の中に入っていく。貴司たちが練習をしている。その様子を2階席から見ていて、千里は胸のときめきを覚えた。
 
やはり私ってバスケしている貴司に惚れているんだろうな、とあらためて思う。貴司が何かの拍子にこちらを見て目が合う。千里が笑顔で手を振ると貴司もにっこりと笑い片手を挙げた。
 

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千里がじっと練習を見ていたら、シューティングガードの竹田さんが千里に気づいた。すると竹田さんは大きく振りかぶってこちらにボールを投げて寄越す。ボールはストライクで千里の腕に納まる。
 
竹田さんが「行って行って」みたいな感じの手振りをしている。千里は微笑んでゴール目掛けてボールをシュートする。男子用の7号ボールはちょっと大きいなと感じたが、少しだけ感覚を調整して撃った。
 
きれいにゴールに飛び込む。
 
「おぉ!!」
と歓声があがった。
 

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21:15頃、練習が終わる。千里も入口の所に移動する。
 
先に出てきた、監督さんや先輩たちに千里は会釈する。船越監督は千里を認めて
 
「さすが世界のスリーポイント女王は精度が凄いね」
と言ってさっきの2階席からのシュートを褒めてくれた。
 
「まあアウトオブバウンズですけど」
と千里は言っておいた。
 
「君が男子ならうちのチームに入ってもらいたいくらいだよ」
「残念ながら性転換するつもりはないので」
「まあ君が性転換すると細川が困るかも知れないね」
「その時は貴司に性転換してもらうということで」
「ああ、それでもいいね」
 
やがて貴司が出てくる。もう大半の選手が出てきた後である。だいたい貴司は着替えが遅い傾向がある。
 
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「お疲れさま」
「何(なに)で来たの?」
「車で来たよ。乗っていく?」
「うん」
 
それで駐車場に行き、車に乗ってまずはディープキスをする。
 
「夏だったらこのまま押し倒したい」
「まあ風邪引くから、マンションに帰ってからにしようよ」
「そうだね」
 
「あ、これここに来る途中、見かけて買っておいた」
と言って千里はタコヤキを出す。
 
「なんかいい匂いがすると思った」
と言って貴司はタコヤキをつまむ。
 
「まだ暖かいね」
「毛布掛けておいたからね」
 
「大阪にいると、タコヤキとかお好み焼きとかしょっちゅう食べている気がするけど、やはりこれ美味しいと思うよ」
と 貴司は言っていた。
 
「そうそう。あらためて一部昇格おめでとう。年末年始はずっとN高校の後輩たちと一緒に合宿やってたから、来られなかった」
 
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「うん。いいよ。でもこないだの伏見での出来事は今でも夢を見ているようだ」
「夢だと思ってていいと思うよ」
 
「でもなんでだろう?京平の顔を思い出せないんだよ」
「思い出せないかも知れないけど、再度会えば分かると思うよ」
「なるほどー。そういう仕組みか」
「まだこの世には存在しない子だから」
 
「生まれるのは2015年と言った?」
「そうだね。まだ5年先。私も大学院を出てるし」
「千里が産んでくれるんだよね?」
「まさか。私は子宮無いから産める訳ない。だから他の女の人に産んでもらってね」
「それでいいの?」
「どうせたくさん浮気するくせに」
「うっ・・・」
 

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タコヤキはふたりであっという間に食べてしまうので、千里はそこで紙袋を出す。
 
「それからこれ今年のバレンタインね」
 
「ありがとう」
と言って貴司も笑顔で受け取る。
 
「なんかゴージャスな包み紙に入っている。高そう」
「生チョコ25個、トリュフ25個、焼きチョコ25個、それにマカロン、クッキー、チョコケーキのセット。まあお値段は想像に任せる」
 
貴司は早速包み紙を開けて中を見る。
 
「美味しそう!!ミルクティーか何か欲しい感じだ」
「じゃ買い物に行く?」
「じゃついでに何か食べようよ」
「そうだね」
 
「その前に千里を食べたい気分なんだけど」
「ふふふ。食べてもいいけど、そんなことしてるとスーパーが閉まるよ」
「くそー。残念だ」
 
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それで貴司が運転して千里中央駅そばのセルシーまで行く。
 
地下の駐車場に車を駐め、2階のダイエー食料品売場で、アッサムの茶葉と、若干のおやつや、残っているお総菜などをゲットする。
 
いったん荷物を車に置いてからサイゼリヤに入る。
 
ハンバーグステーキ“3つ”とサラダ、シーフードピザ、フライドチキン、それにドリンクバーを2つに一番絞りをグラスで1杯頼んだ。
 
ビールが来た所でドリンクバーでコーラを注いできた千里と乾杯する。
 
「お疲れ様!」
 
貴司が美味しそうにビールを飲む。
 
「車をマンションに置いてから来たほうが良かったかな。そしたら千里もビール飲めたのに」
「私はまだ18歳だからダメ」
「硬いこと言わなくても」
「未成年にお酒飲ませている所見つかったら、貴司が処分食らうかもよ」
「うーん・・・」
 
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やがて料理が来る。
 
「でも千里、大学院まで行くわけ?」
と貴司はハンバーグを食べながら訊く。
 
「行くつもりだけど」
と千里も同じくハンバーグを食べながら答える。
 
「大学出たら、大阪に来て一緒に暮らさない?修士取りたいなら、こちらの大学の大学院に行ったっていいじゃん。学費くらい僕が出すよ」
 
「そうだなあ。まあその時になってから考えるよ」
「うん」
 

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「今夜は泊まっていくよね?」
「もちろん。明日の夜10時からバイトがあるから、こちらを午後3時くらいに出るよ」
 
千里は土曜日の午後3時に大阪を出て6時間走って千葉に戻り、10時から朝6時までファミレスでバイトした上で、日曜日は9時から夕方5時まで神社の巫女さんをするつもりである。バスケの大会がない時はこれが千里の標準的な週末の過ごし方である。ハッキリ言って往復のガソリン代・高速代で3日分の深夜バイト代が吹き飛んでしまう。
 
「OKOK。じゃさ、帰りの運転大変だろうから、帰りは僕が半分運転するよ。そのあと千葉から新幹線で帰るから」
「まあ。たまにはそれもいいかもね」
 
ひとりの方が眠っていけるんだけどなあとは思う。
 
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「だけど、母ちゃんから叱られたよ」
と貴司が言う。
 
「なんて?」
「千里に指輪を贈ったこと、こちらにも言っておけって」
「うふふ」
 
千里はバッグの中から指輪ケースを出すと、アクアマリンの指輪を左手薬指に填めた。
 
「まあこれつけている時は、私は貴司の奥さんだから」
「つけてない時は違うの?」
「貴司のお友達かなあ」
「じゃずっと僕の奥さんで居られるようにいつもつけていられる指輪を贈ろうか?」
「残念。バスケする時はつけられないからね」
「うーん。。。それがあるんだよなあ」
「貴司もでしょ?」
「まあね」
 
「だから普段の私たちの愛の印はこちらだよ」
と言って千里は携帯に取り付けたストラップの金色のリングを見せる。
 
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「そうだね」
と言って貴司も自分の携帯に付けた同じリングを見せる。
 
「でもこれ少しお互いにリングが傷んできてると思わない?」
「ああ、それ私も気になっていた」
 
と言って千里もそのリングに触る。真鍮製のリングなので、どうしてもくすみが出るし、内側の方は錆び(緑青)も出ている。
 
「また酢に浸けて錆びを落とそうか?」
 
これまで何度か2〜3分酢に浸ける方法で当初の金色の輝きを取り戻させている。
 
「うん。それもした方がいいと思うけど、いっそ、錆びにくい素材のものと交換しようか?」
 
「そういう素材ってある?」
「金(きん)のリングとかは?」
と言って貴司は千里を見るが
 
「金(きん)は携帯じゃなくて指につけたいな」
と千里は言う。
 
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「じゃ酸化発色ステンレスにしようか」
「何それ?」
「千里は理系だから、ステンレスってどういうものか知ってるよね」
「鋼(はがね)とクロムの合金でしょ?」
「そうそう。『鉄と』と言わない所がさすが」
「鋼(はがね)は鉄と炭素の合金。でもステンレスの場合炭素の含有率が低い」
「よく分かってる。なぜステンレスが錆びないか分かる?」
「それはクロムが空気に触れて酸化物が形成されて表面を覆うからだよ」
 
「そこまで分かっていれば話は簡単。その酸化物の層の厚さをコントロールすると、光がステンレスの酸化膜表面で反射したものと、膜の底で反射したものが干渉する」
 
「その干渉で色が出る訳か!」
「そうそう。シャボン玉が色付いて見えるのと同じだよ」
「すると、その被膜の厚さを変えることで色が変わるのかな?」
「そういうこと。実はうちの製品でもある」
 
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「なんだ!」
 
貴司は営業用のカバンの中からカタログを出してみせる。
 
「会社に行ったら実物のサンプルもあるから明日朝ちょっとオフィスに行って取ってくるよ」
と貴司は言っているが、写真で見る限りは結構きれいである。
 
「きれいな色だね!」
 
「でしょ。こんな感じで赤、青、緑、茶色、そしてゴールドと発色するんだよ」
「これ耐久性は?アルマイトの色つきとかはすぐ色褪せるよね」
「うん。アルマイトの彩色はこういう被膜の厚さで色を付けているんじゃなくて染料を加えているんだよ。だから色褪せる」
「そうだったのか」
「ステンレスの場合は染料ではなくて、被膜の厚さで光の干渉を変えることで発色させている。だから、ものすごく耐久性がある」
 
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「でもお高いんでしょ?」
「僕がプレゼントするよ」
「だったら歓迎」
「うちの工場の人に頼んで、時間の空いている時に作ってもらう」
「なんだ」
「ちゃんと伝票は通して代金払うよ」
「まあ払わなかったら業務上横領だよね」
「サイズは僕たちの左手薬指のサイズにしようよ」
「あ、それもいいね。その指輪を付けられないくらい太ったら破談ということで」
「その時は指輪を作り直そうよ!」
 

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