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■娘たちの再訓練(8)

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その日(7月7日)の夕方から練習に参加する。取り敢えず紅白戦をしようということになる。まずはD銀行の1.5軍レベルのチームと、千里たちU19組で対戦することにした。
 
「そちらのポジションは何何だっけ?」
とキャプテンの奥山さんが訊く。
 
「私がPG、村山がSG、佐藤がSF、高梁がPFですね」
と早苗が説明する。
 
「あ、その背の高い2人はどちらもセンターじゃないんだ?」
「高校時代はセンターで登録されてたんですけど、あまりセンターのお仕事してないです」
と玲央美。
「すみませーん。私、リバウンド取るの下手くそなんです」
と王子。
 
たしかに王子の欠点は勘の悪さだ。
 
「よし、そしたらそちらに交代要員も含めて2人回そう」
 
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と奥山さんが言い、早苗と一緒に今年入った若手2人をこちらに回してくれた。取り敢えずこちら3人が自己紹介すると、向こうも自己紹介してくれる。
 
「東海林八恵(とうかいりん・やえ)です。ポジションは一応スモールフォワードなんですけど、結構ガードもやってます」
と165cmくらいかなという人。彼女はM大山形の出身らしい。早苗のY実業と並ぶ山形県の強豪校である。
 
「去年の国体でお見かけしましたね」
と千里が言う。
「はい、国体にも早苗ちゃんと一緒に出ました。あっけなく負けましたけど」
「まあ愛媛Q女子高は強いから」
 
ちなみに「東海林」という苗字は、有名歌手のおかげで「しょうじ」という読み方が広く知られているが、この苗字の発祥の地と言われる山形地方では「とうかいりん」とそのまま読むのが普通である。「しょうじ」という読み方は分派の秋田系らしく、東海林の苗字の人達に寺院の承仕(しょうじ)職をしていた人が多かったからとも言われる。東海林太郎も秋田市出身である。
 
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「梅津真美です。ポジションはセンターです」
と180cmくらいの子が言うが、千里たちは内心『おっ』と思った。
 
「まあ、声を聞けば分かる通り、真美ちゃんは男の娘だけど、ふつうの女の子以上に女らしいから」
と早苗がフォローする。
 
「私、この身長で女装で出歩いていてもすぐリードされちゃうんですけど、あっリードって分かりますかね?」
 
「うん。分かるよ」
と千里も玲央美も言う。
 
「でもバスケチームに居ると、あまり目立たなくて居心地がいいんです」
と真美。
 
「背の高い人が多いもんね」
 
「ふだんは銀行のお仕事してるんですか?」
「はい。窓口業務やってます」
「ほほお」
「もう声のことは気にせず笑顔で対応してますけど、お客さんにすぐ覚えてもらって、けっこうお得ですよ」
「まあ声は開き直りだよね」
 
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「真美さん、高校時代は女子制服着てたの?」
「男子制服でした。中学高校の6年間は黒歴史にしたい気分」
「なるほどなるほど」
「でもこの銀行の面接受けに来た時はバスケ部の先輩の女子から女子制服を借りて受けに来たんです」
 
「うちのバスケ部の男子チームの方に在籍してたんですよ。でも籍はそちらにあっても実際の練習はほとんど女子と一緒だったんです。女子チームとしても背の高い人は練習相手として貴重だから」
と八恵が言う。
 
「私、この銀行にもその背の高さのおかげで入れてもらった気がします」
と本人は言っていた。
 
「うん、貴重、貴重」
 
「真美さん身体はいじってるんですか?」
「女性ホルモンは高3の時から飲んでるんですけど、まだおっぱい小さいんですよ。今度ボーナスもらったら去勢しようと思って予約だけ入れてるんです」
「おお、頑張ってね」
 
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「彼女は一応うちのバスケ部の正式部員としてバスケ協会にも登録はしているんですが、公式戦には出さないことにしています」
「なるほどー」
 

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それで取り敢えず10分ハーフの試合をすることになる。
 
が・・・・2分経ったところで奥山さんからストップが掛かる。
 
「これ勝負にならないね。選手交代」
 
ここまでの2分で点数が0-14なのである。千里や玲央美がどんどん相手選手からスティールして、攻めて行くし、リバウンドも真美が張り切って取ってくれるので、完璧に一方的な試合になってしまった。一方的になったことで、相手選手が戦意喪失してしまった感もある。千里がスリー2本、玲央美と王子が2ポイント2本ずつ入れている。
 
ということで、向こうは1.5軍チームが下がってレギュラー組が出てきた。奥山さん自身も参戦する。奥山さんはPGである。
 
ここまでの点数をリセットして、また0-0から10分ハーフということにする。
 
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するとさすがにレギュラー組はそうやすやすとはこちらにやられない。今の2分間のゲームを見ていたので、スティールにかなり警戒するし、千里のスリーはヤバいと見て、向こうのエース格と思われるフォワードの穂波さんが千里をピタリとマークした。リバウンド争いでも、さすがに向こうの正センター・門中さんは強い。真美より身長は低くても8割くらい取ってしまう。
 
それでも千里は穂波さんを振り切って早苗からのパスを受けてスリーを撃つし、玲央美も王子も体格がいいので、社会人の選手たちに全く負けずに中に進入してボールをゴールにたたき込む。更に玲央美はどんな距離からでもシュートするので、シュートに行くタイミングが読めず、相手選手がひじょうに守りにくそうにしていた。
 
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結果的には36-42でU19側の勝ちである。
 
「あんたら強ぇ〜」
と奥山さんが負けを認めた。
 
「まあ初顔合わせだったから」
と千里。
 
「研究されると、こう簡単にはいきませんよ」
と早苗。
 
「よし。じゃ、明日の対戦は早苗ちゃん、こちらに入ってよ。私がU19側に入る」
と奥山さんが言う。
 
「あ、それも面白そう」
 

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練習は21時半頃終わった。寮にお風呂が無いので、練習場所から銭湯に寄ってから帰宅することにする。
 
が、銭湯に行くとなると当然トラブる!
 
千里・玲央美・王子が、付き合ってくれた早苗と一緒に銭湯の女湯の暖簾をくぐると速攻で番台のおばちゃんから言われる。
 
「あんたたち、男湯は向こう」
「私たち全員女です」
「ふざけないで。警察呼ぶよ」
 
「いや、本当に女ですから、何でしたら裸になるところを観察してください」
 
するとおばちゃんは本当に番台から降りてきて玲央美たちが脱ぐところを見ていた。おばちゃんは早苗と千里はふつうに女だと思ったようである。しかし、玲央美と王子については、男だという疑いを持ったようで、主としてその2人を見ている。
 
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トレーニングウェアを脱ぐと
「ふーん。女の下着つけてるんだ」
と言う。
 
そしてブラジャーを取ると
「ちゃんとおっぱいあるんだね」
と言っている。
 
そしてパンティまで脱ぐと
「ほんとにちんちん付いてないね!」
などと感心したように言った。
 
「あんたたち性転換手術したの?」
などと訊かれるが
 
「とりあえず生まれた時から付いてなかったようです」
「欲しいと思うことはありますけど」
「男装はさせられたことあるけど」
「生理もあるし」
などと2人は言っていた。
 

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千里たちが山形で練習している間、サクラと華香は実は高田コーチが個人的にコネを持っていた茨城県内の高校に行ってそこの男子バスケ部員と一緒に練習をしていた。
 
ふたりはとにかく「勘」を取り戻すことが大事で、そのためこの一週間はひたすらリバウンドをやらせることにした。そこの部員たちにどんどんシュートを撃ってもらい、サクラや華香と、そのバスケ部の長身センターとでリバウンドを争わせたのである。男子なので180cm以上の部員が多い。特に向こうの正センターの人は188cm、サブの人が186cmある。サクラ(180cm)も華香(182cm)も女子としては物凄く身長が高いのだが、さすがに男子とやるとこちらが低い。その不利な条件の中でいかにしてリバウンドのボールを取るかという練習をさせた。
 
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男子高校生が取ったリバウンド数とサクラや華香が取ったリバウンド数をカウントしておいて、高校生が勝ったらその差の分だけハンバーガーをおごるなどと言ったら高校生たちが張り切って取りまくっていた。毎日500本(土日は1000本)のリバウンド練習をしたのだが、初日は高田コーチは彼らにハンバーガーを200個もおごるハメになった(食べきれない分はギフト券で渡した)。しかし2日目以降は少しずつサクラも華香も覚醒してきて、数は減っていった。
 
高校生でまだ夏休み前なので、彼らが稼働できるのは16時くらいから20時くらいまでである。それで日中はふたりにはジョギングをさせたり、シュートの練習などをさせていた。
 
「これU19の合宿よりしんどい」
「そりゃ、そのくらい頑張ってもらわなきゃ」
と自分の高校(札幌P高校)を放置して、ふたりの面倒を見てくれている高田コーチは言った。
 
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7月10日(金)、サクラが先月まで勤めていた居酒屋から給料が振り込まれていた。その金額を見たサクラは驚愕した。実は最初1桁読み違えていたのを華香に指摘されて「うっそー!」と叫んだのである。
 
すぐに高田コーチに見せたのだが
 
「なるほどね〜。多分こちらが訴訟をちらつかせたのと、日本代表になるような選手なら争うと手強いぞと思って、きちんと残業手当の計算をして本来払うべき金額を振り込んできたんだろうな」
と言っていた。
 
実際あとで取り敢えずの連絡先として向こうに連絡していたバスケ協会のU19担当宛てに送られて来た明細でも残業時間が4-6月分で896時間と書かれていたのである。高田コーチは、自分でも計算していたようで「その残業時間の計算には異議がある」とは言ったものの、サクラはこれ以上争わなくていいですと言ったので、この居酒屋に関する件はそれで終わらせることにした。
 
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ちなみにサクラは向こうに「U19女子日本代表担当」と連絡していたのだが、向こうからの書類は「U19男子日本代表担当」に送られて来ていた。どうもサクラのことを向こうはずっと男性と思い込んでいたフシがある。
 
「でも助かります。これでU19が終わるまで生活できるし、妹にも学資が送ってあげられる」
 
「良かったね。じゃ君の仕事は世界選手権が終わってから考えようか」
と言われた。
 
むろんサクラは速攻で高田コーチに借りたお金を返したが、高田コーチはサクラにアドバイスした。
 
「妹さんにたくさん送ってあげたいかも知れないけど、たくさん送りすぎると向こうは無駄遣いをしがちだし、今月10万送ったら来月も10万送ってくれることを期待するよ」
 
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それでサクラは先月より少しだけ多い5万円送るだけに留め、今回振り込まれた給料も半分は何かあった時のために定期預金にした。
 

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そしてこの茨城での特訓では最終日はとうとうサクラ・華香が取ったリバウンドが男子高校生より上回り
「今日はおごらずに済む」
と高田コーチは言っていたが、サクラが
 
「それじゃ今日は僕がこの1週間練習に付き合ってくれた御礼に全員に2個ずつおごります」
と言って歓声が上がっていた。
 
それでサクラのおごりで向こうの部員40人と一緒にハンバーガー屋さんに行ったのだが
 
「でもU19日本代表の人たちとこれだけ競ることができたら僕たちもウィンターカップ県予選を突破することができるかも」
などという声が向こうの部員から出るので、高田が
 
「いや日本代表と言っても女子日本代表だから」
と言う。
 
すると向こうの部員たちはキョトンとした顔。
 
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「女子日本代表に男子選手が出てもいいんですか?」
「へ?この子たちは女子だけど」
 
「うっそー!?」
 
「ね、もしかして君たち、僕たちを男と思ってた?」
とサクラが言う。
 
「ごめんなさい!」
「男としか思ってなかったです!」
「え〜!? 女の子だったらデートに誘えば良かった」
 
華香が目を瞑って額に手を当てて、声を殺して笑っていた。
 

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千里は山形での練習で「練習の仕方」や「練習に対する姿勢」を思い出すことができた。この1年は「リハビリ」中心に練習してきていたので、軽い練習が多かった。それが実質プロの人たちに混じって練習していて、心構えを鍛え直されたのである。少なくとも彼女たちは30分単位で休んでおしゃべりしたりはしない!
 
「そうだ。私、高校時代はもっと練習していたのに」
「私も2時間くらいノンストップで練習していたよなあ」
などと千里はしばしば思った。
 
特に高3の時なんて実質バスケしかしてなかったもんね。
 
この一週間の練習では、取り敢えず「欠点だらけ」の王子については、実際に王子がこう攻めてきた場合にこう対抗されたらどうするか?というシチュエーションを設定して「そうか。それではダメだ」と彼女本人に気付かせるようにしてプレイを改良して行った。よくあるトリックプレイについても教えていった。彼女はその手のプレイに簡単にひっかかるのである。
 
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千里と玲央美に関しては本人たちとしては考えさせられることが多かったものの向こうの人たちには「教えることはない」「経験をひたすら積むだけ」と言われた。マッチングについては相性の問題があるので、いろんな人と組んで1on1をやらせてもらったが、相手正SFの鹿野さんが千里と最も相性が良かった。つまり千里をいちばん停めた。
 
鹿野さんにとっても千里のようなタイプとはあまり当たったことが無いということで、彼女は「あんたとやる時は自分がふだんあまり使っていなかった脳味噌の部分を使う感覚」と言い、彼女も千里との対戦を望んだ。
 
それでふたりで毎日かなりの練習を積んだものの、対戦成績はあまり変わらない感じであった。
 
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「またうちに来てよ。マッチングしたい」
「こちらもぜひさせて頂きたいです」
 
「ではまた伊勢で」
「はい、またあちらでもお互い頑張りましょう」
 
などと言葉を交わしてこの山形での練習を終えた。D銀行も16日からのサマーリーグに参加するのである。
 
 
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娘たちの再訓練(8)

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