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■娘たちの再訓練(3)

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最終日まで試合があった場合、おそらく翌日8月3日に帰国、4日に解散式くらいのスケジュールになるのではなかろうか。その後、元の時間の流れに戻してもらえるのだろう。
 
ともかくも、千里と玲央美はここで逃げる訳にもいかないし、江美子に付いてNTC(東京都北区にある味の素ナショナルトレーニングセンター)に行くことにし、江美子のランエボの後を千里のインプが追随する形でそちらに向かった。
 
入口では江美子が3人分のIDカードを提示してくれたのでそのまま中に入り、駐車場に駐めた。車を降りてアスリート・ヴィレッジに向かう。
 
「はい。IDカード。さっき渡すの忘れちゃった」
と江美子は言ってカードを2人に渡す。
 
そして玄関の所には高田コーチが居て
「おお、来たな、待ってたぞ。朝飯食べたら記念撮影だから」
と笑顔で言った。
 
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千里たちが江美子と一緒に食堂に入って行くと、赤い髪を男子みたいに刈り上げた人物が、千里を見て飲んでいる最中の牛乳を吹き出してしまった。それをまともに顔に掛けられたのが向かいの席に座っていた熊野サクラである。
 
「ちょっとぉ!」
とサクラ。
「ごめーん!」
とその人物。
 
「村山さん、その節はごめんなさい。殴らないでね」
などと彼女は千里に言っている。
 
「その節って何だっけ?」
「いや、12月のウィンターカップで、村山さんとこの山川さんだったっけ?を殴っちゃったから」
 
「ああ。あの件はあの時、高梁さんちゃんと謝りに来て話は済んでるじゃん。山川じゃなくて山下(紅鹿)だけど、本人も何とも思ってないよ」
「ほんとにー?」
 
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「チームメイトになるんだし、仲良くやろうよ」
と言って千里は笑顔で手を出すので、高梁王子はおそるおそる手を出して千里と握手した。
 
「でも高梁さん、今年は倉敷K高校、インターハイに出られないの?代表に参加するって」
と千里は尋ねる。
 
インターハイに出る高校の選手は日程が重なっているため世界選手権に出られないのである。
 
「うん。K高校は今年はインターハイ出てない。今年のインターハイ代表は岡山H女子高。でもそれ以前に、私、K高校辞めちゃったから」
と彼女は言う。
「え〜!?」
 
「その件は私も聞いてる」
と佐藤玲央美が言う。
 
「なんか同窓会の内紛が波及して、女子バスケ部の監督とか女子バレー部の監督とか、強い部の監督が軒並み解任されちゃったんだよ」
「うっそー」
 
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「それでかなり転校生が出たんだよ。転校生は半年間公式戦に出られないから。それで高梁さんもインターハイに出られなくて、結果的に日本代表に選ばれたんでしょ?」
 
「そうなんですよ。監督が解任されてコーチ陣も全員道連れ解任で、どうしよう?と思ってた時に、田中(真璃子・旧姓藍川)コーチの紹介でアメリカに武者修行に出ることになって。費用もスポンサーがいるからということで渡航費も含めて全部出してもらったんですよ。形の上では岡山のE女子高に転校して、そこから同じ系列のアメリカのR高校に留学してるんです」
 
「岡山ならH女子高がバスケ強いのに」
「ええ。K高校のバスケ部からH女子高に5人転校しました」
「わっ」
「あの子たちインターハイには出られないけどウィンターカップは出られるからベンチ枠争いが熾烈になったらしい」
「きゃー」
 
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「今年のウィンターカップの台風の目になるね」
と他人事のように前田彰恵が言う。
 
「でも私はアメリカに行きたかったから、そのルートのあるE女子高にしたんですよ」
「なるほどー」
 
「それと私がE女子高に転校したのが1月中旬なんですけど、それを聞いて今年の高校受験生で倉敷K高校や岡山H女子高を受ける予定だったのをE女子高に変更した子が何人か居るらしくて」
 
「ほほお」
 
「だから今年のウィンターカップまでは私が不在だけど来年のインターハイ県予選では、やすやすとH女子高に優勝はさせません」
「うん、頑張れ、頑張れ」
 

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「でもアメリカはどうですか?」
と橋田桂華が訊く。
 
「入った学校はほどほどに強い所なんですよ。まあ州大会の上位に食い込める程度」
「だったら、高梁さん、物足りなくない?」
「技術的にはそういう面もあるけど、なんといってもみんな体格が良くて」
「ああ」
 
「私、初めて自分より体格のいいチームメイトや対戦相手とやることになって、脳内革命が起きている感じ」
「そういう経験は貴重だね」
 
「それとやはり日本とはゲームに対する身構えみたいなのが違うんです。凄くポジティブだしアグレッシブだし合理的だし大雑把だし。何したっていいから点数取った方の勝ちって考え方。変な作戦とか無いんです。とにかく相手に勝てって。それだけ。シンプル。日本に居た時より水が合う感じです」
 
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「確かに高梁さん、アメリカ向きの性格かもと思うよ」
 
「それとなにより、男に間違えられることがないのもいいです」
「ああ、それは良いことだ!」
「私より男らしい子が何人も居るし」
「さすが、アメリカ!」
 
「そうそう。私、実際にはE女子高には全く通(かよ)ってなくて、制服さえまだ作ってないんですけど、いったん在籍する形にするから、転入試験を受けに行ったんですよね。それと面接と。その時、いきなり言われたんです。『すみません。うちは女子高なので男子の転校生は受け入れられないんですけど』って」
 
「ああ・・・・」
「ありがち、ありがち」
「その手の話って、私たちみんな事欠かないよね」
 
「私は春先にバイト探してたとき、オカマさんと思われた。電話オペレータの仕事だったんで、これだけ女らしい声が出せるなら採用してもいいかな、って」
と玲央美。
 
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「ボクは就職先でふつうに男と思われていた」
とサクラ。
「ほら、これボクの健康保険証」
と言ってサクラが見せてくれた健康保険の保険証は「熊野サクラ・平成2年4月8日生・性別男」と書かれている。
 
「おお、すごーい!」
「任意継続するから、この保険証もうしばらくは有効」
「へー!」
「性転換しても行けるね」
 
「この合宿に入る前に健康診断受けたけど、『胸がまるで女性のように膨らんでいますね。肝臓の検査してみましょうか』と言われた」
「うむむ」
 
「確かに男性でも肝機能の低下で乳房が女性みたいに発達することがあるみたいね」
「へー」
「男性の体内にも女性ホルモンはあるけど、ふつうは肝臓で分解されてしまう。でも肝臓が弱っていると、その分解がうまく行かなくて、女性ホルモン過剰になっちゃうんですよ」
「ふむふむ」
 
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「それで、私は女ですから、と言ったら女性ホルモンの注射してるんですか?と」
とサクラ。
 
「あははは」
 

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食事をしている間に高田コーチが千里と玲央美のユニフォームを持って来てくれた。千里は1年ぶりに手にする日本代表のユニフォームに思わず頬ずりをしてしまった。
 
千里的には2008年11月にU18日本代表をした後、14ヶ月近くたった2009年12月の気分である。しかし今居る時間の流れは2009年7月であり、あれから経過した時間は8ヶ月にすぎない。千里がもらったユニフォームの番号は6番で、U18の時と同じである。玲央美もあの時と同じ10番のユニフォームだ。それを言うと彰恵が
 
「基本的に番号は去年と同じ。ただ誠美が出られなくて代りに王子(きみこ)ちゃんが入ったから、王子ちゃんが誠美の付けていた13番を付ける」
と説明してくれた。
 
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しかし合宿に参加するとなると、全然用意が無いぞ、と千里は思った。取り敢えずバッシュが無いのは困る。それと生活費はどうすればいいんだ?とも思う。おそらくキャッシュカードなどは(使うとタイムパラドックスを起こすので)使用できないだろう。
 
千里は現金をいくら持っていたか確認した。雨宮先生が突然無茶を言うので千里はいつも結構な金額の現金を持ち歩いている。
 
「うーん。30万円か。1ヶ月の生活費活動費としては微妙だなあ」
などと言っていたら、玲央美が
「すごーい。お金持ち〜」
と言う。
 
「玲央美はいくら持ってた?」
「いやコンビニに焼きそば買いに来ただけだったから財布には1000円くらいしか入れてなかった。それで五百円玉寄付の瓶に入れたから所持金300円」
 
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「じゃ、取り敢えず少し貸してあげるよ」
などと言っていたら
 
「村山さん、佐藤さん、荷物が届いていますよ」
と事務の女性が言う。
 
それで行ってみると、まずは現金書留を渡される。
 
「藍川さんから!?」
 
藍川さんから千里と玲央美に各々現金書留が2つずつ届いていて、中身を見ると各50万円ずつ入っていた。現金書留で送れるのが50万円までなので、2つに分けたのだろう。しかしこれだけあればU19をしている間の生活費や諸経費には充分だ。
 
「親切だね〜」
 
「お荷物はこちらなのですが」
と事務の女性が言うのを見ると、なんと見慣れたバッグが来ており、その中に着替えやバッシュ(ウィンターカップの記念にもらったもの)が入っていた。
 
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「あ、このバッグ、今年の春に見当たらなくて探していたやつだ」
「ここに届いてたんだね」
「うん。おばちゃんが送ってくれたみたいで送り主が奥沼美輪子になってる。でもこれ賢二おじさんの字だな。やはり旭川に忘れてきていたのか。玲央美のそのバッグは?」
 
「これ私もどこかに忘れてきていたと思ってた。送り主が小平京美だ。たぶん寮か部室に忘れてきていたんだろうな」
と言って玲央美は中を見ていた。
「ウィンターカップでもらったバッシュだ。取り敢えずバッシュが無いと困るところだった。あ、パスポートもここに入ってたのか」
 
「パスポートは無いとまずいよね」
「千里、パスポートは?」
「いつも持ち歩いているバッグに財布や運転免許証などと一緒に入れているんだよ。私に突然地球の裏側まで来いなんて言う人がいるもんだからさ。現金もそれで30万円入っていたんだけどね」
 
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「ふむふむ」
 

それで千里と玲央美はいったん部屋に行ってから日本代表のユニフォームを着て、厚手の靴下を履き、送ってこられていた荷物の中にあったバッシュを履いて、体育館に行った。全員並んで記念写真を撮るが、キャプテンの朋美・副キャプテンの彰恵のすぐ後ろ、2列目中央に千里と玲央美が並んだ。
 
U19日本代表はこういうメンバーになっていた。
 
4.PG.入野朋美(愛知J学園大学)
5.PG.鶴田早苗(山形D銀行)
6.SG.村山千里(千葉ローキューツ)
7.SG.中折渚紗(茨城県TS大学)
8.SF.前田彰恵(茨城県TS大学)
9.PF.橋田桂華(茨城県TS大学)
10.SF.佐藤玲央美(バスケット協会)
11.PF.鞠原江美子(大阪M体育大学)
12.PF.大野百合絵(神奈川J大学)
13.PF.高梁王子(岡山E女子高)
14.C.中丸華香(愛知J学園大学)
15.C.熊野サクラ(バスケット協会)
 
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娘たちの再訓練(3)

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