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■娘たちの衣裳準備(10)

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青葉・朋子・桃香・千里・彪志の5人はその後ものんびりとした時間を過ごし、0時になったら
「明けましておめでとう」
と言い合う。
 
2014年の幕開けである。
 
昨年は一昨年の婚約破棄のショックの後、迷走した1年になってしまったけど、今年は自分を建て直すぞと千里はこの年明けに誓った。
 
桃香はさっき御札と一緒に並べた御神酒をおろしてきて、全員のグラスに注ぎ、おとそ代わりにして乾杯した。
 
1月1日から3日まで、千里は日中「バイトがあるから」と称して出かけていた。青葉たちはファミレスのバイトなのだろうと思っていたが、実際には千里が勤めるファミレスは年末年始がお休みである。それで桃香は神社の方のバイトに行くのだろうと思っていたようである。
 
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きーちゃんが12月31日の遅くまで神社に勤めてくれたので、3ヶ日は休んでもらって、その3日間は千里自身が神社に奉仕した。
 
1月2日には鹿島信子が神社に来訪し、まさに身の上相談をした。
 
彼女は実は出雲で5人で1部屋に泊まった晩に自分の身体は唐突に女の子の身体になってしまったのだと言った。そしてその時『お風呂に入っていたら、千里さんが入って来て、自分の胸にブレストフォームを貼り付け、おちんちんを引き抜いていった』夢を見たと言った。
 
あぁ、なるほど《こうちゃん》の仕業かと思ったものの、本人は女の子になれて嬉しがっているようなのでこのままで良いだろうと思う。ただこのままでは社会生活に不都合があるだろうしとも考え、社会的な性別を移行させるため、病院の受診を勧める。
 
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「でもこういうのどこを受診したらいいんでしょう?」
というので、射水市で性に関する相談と治療をしている病院があるのでといい、自分も5日に高岡に帰省するので、その時、一緒に行かないかと勧めた。取り敢えず電話してみるように言ったので、信子は電話をしてみたが、婦人科医の増田先生もこのケースにひじょうに興味を持っていたようであった。
 
信子は長岡市の実家にいる母に連絡し、1月6日に母も長岡から射水市に移動して一緒に先生と会うことにした。
 

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1月4日は青葉・朋子・桃香・千里・彪志の5人で一緒に近くの神社に初詣に行った。各々おみくじを引いたが、千里は「縁談:よし、出産:安し」とあるのを見て、貴司との仲はかなり修復され、京平の妊娠に成功することを確信した。
 
「千里、おみくじどうだった?」
と桃香。
「私は就職:叶うと書いてあったが」
と言って覗き込む。
 
すると千里も見ていなかったのだが、千里のおみくじには「就職:かなわず」と書かれている。就職も何も、私プロバスケット選手だもんね〜と思っていたら、どうもみんな心配してくれているようである。
 
「今勤めているファミレスでバイトを続けるとかは可能なの?」
と朋子が尋ねたが
 
「ずっとというのは本部がいい顔しないと思う。バイトのフロア係はある程度入れ替わっていくことを想定しているから。実際、今勤めている店でも3年以上勤めている人はいないもん。私は例外的な長期キャリア」
と言う。
 
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どちらかというと、さっさと辞めたい。辞表は提出しているのだが「あと少し、あと少し」と言われて引き留められている状態である。この春から店長になってくれないかという話もあるのだが、これ以上はまり込みたくないので、断っているところだ。
 
「お嫁さんに行くとかは?」
と青葉が言う。
 
ドキッとした。しかし今年は阿倍子さんに妊娠を成功してもらい、結局は予定通り来年2015年に京平は生まれることになるのだろう。それまでは阿倍子さんには貴司の法的な妻であってもらわないといけないので、今年は自分は貴司と結婚できない。それはやむを得ないことと、無理矢理自分を納得させている。
 
「それはもっとハードルが高い」
と千里は言った。
 
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「もし仕事先が見つからなかったら、私のお嫁さんにならない?」
と桃香が言ったので、千里は苦笑しながら
 
「私、男の人と結婚したいよぉ」
と答えた。
 

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青葉たちは1月5日の最終新幹線で帰宅する予定だったのだが、5日の午後は5人(青葉・朋子・桃香・千里・彪志)でアパートで過ごした。
 
(千里や桃香の学年の子たちの多くは卒業したので、最近はこのアパートは“宿泊所”の役目を終了しており、結果的に誰もいないことの方が多い)
 
するとテレビで『08年組』の特集があっていた。蔵田孝治と海野博晃による対談のあと、XANFUS, AYA, ローズ+リリー, スリーピーマイス、KARIONの順に30分ずつ録画された演奏が流れた。そしてKARIONの演奏の最後の数分がKARIONのリーダーいづみと、スイート・ヴァニラズのLondaの短い対談になっていた。
 
「蘭子ちゃんって、実はKARIONのデビュー以来、ずっとキーボード弾いていたんだって?」
「そうなんです。だからトラベリングベルズの最古参メンバーなんです」
 
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といづみは答えて、昨年春頃から噂されていた蘭子=水沢歌月というのは最初からKARIONに参加していたことを認めた。この答えには全国の多くのKARIONファンがやはりそうだったかと思った。
 
「蘭子ちゃんって、それなら歌の方にも実はかなり頻繁に参加してたのでは?」
「実はこれまでに発表したKARIONの四声の曲、ほぼ全てに蘭子は歌唱参加しています」
 
これには驚いたファンもあったが、半数くらいのファンは「そうかもね〜」と思った。しかし最後の2人の会話には、全国に衝撃が走った。
 
「KARIONの四声の歌って結構多いよね。どのくらいの比率かな?2〜3割?」
 
「五声や六声以上の歌以外の全てが四声です。KARIONがこれまで発表した曲の中に三声しか使われていない曲は存在しません。ですから実はKARIONは《4つの鐘》という名前の通り、最初からいづみ・みそら・らんこ・こかぜ、4人のユニットだったんです」
 
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この“らんこ”問題について、レコード会社やプロダクションに問い合わせが殺到したものの、どちらも「テレビで放送した以上のことはお答えできません」と回答した。ネットではこの問題について論議される内に、古くからのファンから
 
「“蘭子”というのは、柊洋子のこと」
という情報が流される。実際初期のKARIONのライブにはいつも柊洋子が同行しており、和泉・美空・小風と一緒に4人でサインにも応じていたのである。昨年KARIONの“4等分サイン”がテレビの鑑定番組に出され、事務所が本物であることを認めたというのが話題になっていたが、その4人目が蘭子=柊洋子だった。
 
そして古いファンから柊洋子の写真が出されると、ネットは騒然とする。
 
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「これローズ+リリーのケイじゃん」
という声に対して
 
「同一人物ではという噂はあった」
「同一人物だとみんな確信していた」
と古いファンの意見はあるものの、
「同一人物という噂はあったけど様々な状況から否定された。名古屋のKARIONライブが終わった1時間後に金沢のローズ+リリーの公演会場で目撃されたこともある」
という意見もある。
 
「名古屋から金沢までは直線距離でも150kmある。常識的に考えて移動不能」
「あれは多分推理小説的なトリックだと思う」
「きっとミサイルに詰めて撃ったんだよ」
「ケイならあり得るな」
 
「ミサイルってそんな距離飛ばせるんだっけ?」
「自衛隊は50kmくらいの射程のしか持ってないけど米軍のトマホークなら3000km飛ぶよ」
「加速度に耐えられるの?」
「ケイならきっと行ける」
 
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そして結局1月の下旬にはネットの大勢は「たぶん蘭子=水沢歌月はローズ+リリーのケイと同一人物」という意見で固まった。特に大きな証拠とされたのが“名前の秘密”である。
 
「ね、偶然かも知れないけど、『柊』の字の右側が『冬』だから『柊洋子』という名前の中に『冬子』が隠れているよ」
 
「おぉ!!!!!!!」
 
「残りの『洋木』も『唐本』の変形かも。『洋』の字は『カラ』とも読む。『木』と『本』は棒が1本あるかないかの違い」
 
「きっとチンコ取ったから棒が無くなったんだよ」
「やはり、あれってKARIONデビュー前に手術して女になってるよな?」
 
「本人は否定してたみたいだけど、たぶん間違い無い。本来18歳未満は手術してもらえないのを闇の手術受けたんだろ」
 
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「ちんちんも無くなって、すっかり女の子になっちゃったね」
と母は龍虎の身体を触りながら言った。
 
龍虎の入浴中に、いきなり母が入って来たのである。
 
「学生服を注文したみたいだけど、セーラー服も頼まなくていい?」
「セーラー服では通学しないよぉ」
 
「でもこの割れ目ちゃん上手に作ってある。こういう偽装の仕方は初めて見た」
「千里さんがしてくれたんだよ。これ自分ではできない」
「やはり女の子になりたいのね?」
「違うよー。おちんちんがあるように誤魔化すのにFTMの人が使う偽おちんちんを使ったから、それを取り付けるのに割れ目ちゃんが必要だったんだよ」
 
「じゃ学校には偽おちんちんつけて通うんだ?」
 
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「ボク一昨年女性ホルモンを間違って渡されて、それ飲んでいた間は身長が伸びたのに、やめたら伸びが止まったんだよ。それで身長をもっと伸ばしたいから女性ホルモン飲んでた。でも152-153cmくらいまで行ったら、飲むのやめようと思っている。そしたらおっぱいも自然に小さくなって行くし、おちんちんもまた摘まめる程度までは戻ると思うんだよね」
 
「そういうことだったのか。それなら正直にお母ちゃんに言えば良かったのに」
「ごめーん」
「ちゃんと言ってくれたら、割れ目ちゃん作る手術受けさせてあげていたし」
「要らない!」
「割れ目ちゃん欲しいんでしょ?」
「別に欲しくないよー」
 

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「でもあんたこんなにおっぱい大きくして学校の身体検査はどうしてんのよ?」
と母は龍虎の胸に触りながら言う。
 
「女子と一緒に受けてるよ。ボクの担任の先生、ボクのこと女の子と思い込んでいるんだもん。クラスの女子たちもボクが女子トイレ使うのも、体育を女子と一緒に受けているのも容認してくれているし、女子更衣室を使う所までは容認してくれている」
 
幸恵はしばらく考えていた。
 
「中学校の身体検査はどうするのよ?」
「それどうしようと思っている」
「女子で通した方が楽じゃない?女子として就学させて下さいって、私、学校に掛け合ってあげるよ」
「それは男子として通いたいんだよ。ボク男の子だもん」
 
龍虎が「自分は男の子」と言い切ったので、幸恵は「ふーん」と思った。
 
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「だったら学校に身体検査は1人別にして欲しいと申し入れてあげようか?病気の後遺症でホルモン異常があって、バストが膨らんでいるからと言って」
「助かるかも!」
 

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さて、青葉・朋子・千里・桃香の4人は1月5日夜の新幹線で高岡に移動した。
 
東京20:12(とき347)21:20越後湯沢21:30(はくたか26)23:38高岡
 
信子は翌日朝いちばんの新幹線で移動してきた。
 
東京7:00(とき303)8:11越後湯沢8:20(はくたか2)10:27高岡
 
信子のお母さんはこの連絡で出てきた。
 
長岡7:05-8;29直江津9:07(はくたか2)10:27高岡
 
直江津から高岡までは、はくたかの指定席に信子と並んで座り
 
「あんた本当にすっかり女の子になっちゃったね」
と言い、信子もちょっと涙腺が潤った。
 

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