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千里たちの高校、旭川N高校の比較的近くにあった公立高校、旭川M高校出身の中嶋橘花は、高校卒業後、茨城県のTS大学に進学し、ここのバスケット部で、松前乃々羽・中折渚紗・前田彰恵・橋田桂華と出会う。この5人は能力が卓越していたので“TS大学フレッシャーズ”の名前を与えられ、あちこちのオープン大会を荒らし回った。
大学を卒業した後は東京都内の大学の大学院に進学したのだが、ここのバスケ部はあまり強くなかったし、そもそも学部生のみで院生は対象外と言われた。それで橘花は、この春以降、バスケを出来る環境が無くて、悶々としていた。
そんな時、昨年結婚して今年の春に赤ちゃんを産んだ河合麻依子から「一緒に練習しない?」という電話を受ける。
「江東区の体育館で、木曜日の夕方なんだよ。地下鉄の駅から少しあるけど、歩くだけで軽いウォーミングアップという感じ。今いるメンツが千里と秋葉夕子」
「千里!?あの子、今何してるの?」
「去年の春にローキューツを退団した後はフリーみたいね。日本代表の活動はやっているけど」
「所属チーム無し?」
「そうみたい。でも全く衰えてないよ」
「シューターって、自己鍛錬だけしてれば意外と行けるのかもね」
「うん。そうかもという気がした」
千里はスペインのチームに加入していることを秋葉夕子にさえ言っていない。言えば日本に居ることを説明できない。
「そのメンツなら参加したいなあ。あ、待って。(橋田)桂華もいい?あの子も練習相手が居ないってこぼしてて、今年は何度か手合わせしたのよ」
「へー!あの子なら歓迎されると思う」
それで江東区の体育館に木曜の夕方から練習するメンツに11月21日からは橘花と桂華が加わり、5人になったのであった。
12月1日(日)に千里と貴司は3度目の人工授精を行った。
貴司はこの週末は実業団リーグの試合は無いのだが、仕事の方で上海出張が入り、11月29日(金)の深夜まで掛けて、相手との交渉が終わった。それで朝一番の便で帰国する。
PVG 11/30 9:25 (CA164) 11:10 KIX
会社に戻って報告を済ませたら14時頃であった。千里との待合せ時刻は夕方だったので、それまで何しようかなと思っていたら、その千里から電話が掛かってくる。会社の外で待っているということだったが
「奥さんここまで来てるの?あがってきてもらえばいいよ」
と高倉部長が言うので、千里にそう言うと、あがってきて
「部長さん、休日なのにお疲れ様です」
と笑顔で挨拶する。部長も
「ごめんね。まだ新婚なのに、こき使っちゃって」
と千里に笑顔で言っている。
貴司はもう自分と阿倍子の結婚式に高倉部長や船越監督が出席したのかも知れないということは忘れることにした!
「これ通りがかりのお店で買ってきたものですが、よろしかったら」
と言って、千里はバレンシアの町で買ったブニュエロ(Bunuelo)を渡す。
「なんか大きなドーナツだね」
「ブニュエロというんですよ。スペインのバレンシア風のドーナツですね」
「へぇ。バレンシア・オレンジのバレンシア?」
「そのあたりが微妙で」
「うん?」
「バレンシアはオレンジの大産地なんですけど、バレンシア・オレンジというのはアメリカのカリフォルニア産のオレンジなんですよね」
「へ!?」
「カリフォルニアでオレンジの栽培に成功した人が、オレンジの名産地であるバレンシアにちなんで“バレンシア・オレンジ”というブランド名を付けただけなんですよ」
「じゃスパゲティ・ナポリタンとか、トルコ・ライスとか、天津飯とかの類いか!」
「まさにそれです」
「ブランドとして定着しちゃってるから仕方ないけど、今みたいなグローバルな時代だったら本家からクレームが入っていた所だね」
「ですよね。あ、お茶でも入れてきますね」
と言って千里は給仕室に行って部長にコーヒーを入れて来た。
「済まないね。社外の人なのに」
「いえ、○○さんとかに教えて頂いたんで」
そんなことをしている内に貴司の方は帰宅準備ができたようである。それで
「お先に失礼します」
と言って、一緒にオフィスを出た。
近くの駐車場にA4 Avantを駐めていたので、それに乗って少しドライブに出る。
「そうだ、千里。今年も年賀状頼める?」
「OKOK。ハガキは買った?」
「実はまだ買ってないんだけど」
「送る人は?」
「100人。例によってそれ以上送るのは禁止なんで」
「たいへんね〜。じゃハガキも買っておくよ」
「助かる。リストはあとで渡す」
「市川ラボの机の上に置いておけば回収しとく」
「了解」
と言ってから、貴司は常々疑問に思っていたことを訊く。
「あそこって、洗濯物も洗ってもらっているし、食事もほとんど食料品とか買いに出ることもないし」
「まあ、毎日のように行っているからね。毎日じゃないけど」
「でも千里とはなかなか会えない」
「私と結婚したら、毎日一緒に過ごせるかもね」
「うーん・・・・」
「貴司は千里(せんり)のマンションにはどのくらいの頻度で帰ってるの?」
「相変わらず週に1回、郵便物をチェックしにいくだけだよ」
「阿倍子さんと御飯とか食べないの?」
「全然」
「・・・・貴司、それ実は別居状態では?」
「うーん。。。僕としては元々同居するつもりが無かったし」
千里は少し考えたが、過度には期待しない方がいいと思った。
「まあいいや。私は、私と貴司の婚姻届けが提出できるようになる日を、気を長くして待つことにするから」
「すまん」
この日は姫路城を一緒に見て、夕食もその近くで取る。その後市川町に行き、ラボに車を停めて20時半すぎまで居室でイチャイチャしていた。その後、貴司は女体偽装!して女物の下着を着け、ドラゴンズの練習着を着て上に上がって行った。
「彼、かなり女装にはまりつつあるね」
と唐突に後ろから声があるが、千里は驚きもせずにそちらも見ずに答える。
「まあ浮気防止には効果があるみたいですし。アクアリリーさんでしたっけ?」
「ノンノンノン!その名前発音しちゃいけない!」
と向こうは慌てている。
しかし彼女(彼?)の声がとても清らかなので、それで千里はこの人の“格”の高さを感じ取った。
「でもたくさんお世話になっている。今の段階ではかえってNBLとかbjに行くより鍛えられている気がする」
「まあ彼は本当は強くなければクビになるという環境で鍛えられるべきだけどね」
「そうなんですよね〜」
「でもボクたちも来年度いっぱいくらいまでは彼の相手をしてあげるよ」
「それ以降はドラゴンズ解散ですか?」
「この仲間、結構楽しくなっちゃったから、そちらがよければ、ずっとここに居ていい?」
「もちろん。皆さんのおうちも用意しましょうか?」
「欲しがる子がいたら相談させてもらおうかな。それより、彼の会社の方がたぶんやばい」
「・・・・」
「彼には言わないでね」
「それは守秘義務ということで」
「ふふふ」
彼女(彼?)も上に上がって練習に行ったので、千里はベッドに入って少し仮眠した。その後でバレンシアに行っている《すーちゃん》と入れ替わり、この日の試合(11/30 18:00-20:00, JST:12/1 2:00-4:00) が行われる会場に行って、試合に出場した。
戻ってきたのは朝5時頃である。机の上に年賀状の送り先を納めたUSBメモリーと1万円札があるので《せいちゃん》に渡す!
『例によって急ぐ順にリストを印刷するのと、ハガキ買ってくるの頼める?』
『OKOK』
朝御飯を作ってから貴司を起こす。
「おはよう」
「おはよう」
と言ってキスをする。
朝食を一緒に取ってからイチャイチャする。そしてそのまま射精させて採精容器に取る。ふたりとも眠ってしまうが、貴司は30分ほどで起きた。
「私寝てるから貴司、悪いけど届けてきて。今日は私ここに1日中居るから」
「分かった」
貴司は甘地駅から電車で往復して精液を病院に届けてきた。阿倍子はたぶん昼過ぎに病院に入り、この精液を子宮に投入してもらうだろう。
貴司が市川に戻ってきたのはお昼頃である。千里は11時頃に目が覚めてお昼を作って待っていた。ふたりは一緒にお昼を食べてから、しばらくおしゃべりをした上で、水泳1時間、バスケットを休憩を挟みながら4時間ほど練習した。
「千里、会う度に強くなっている」
「貴司も会う度に強くなっている」
「でも千里の方が伸びが大きい!」
「まあたぶん私の方が貴司より練習時間が長いだろうし」
「うーん・・・」
「来期こそNBLに行きなよ。やはり早い時期から各チームの動向を見ていて、自分を求めてくれそうなチームを探すんだよ」
「そうか。やはり闇雲に訪問してもダメだよな」
「もちろん。ポイントガードかスモールフォワードが足りてないチームを探すことと、そこの監督や経営陣のポリシーに納得できる所を探さないと」
と貴司に言いつつ、自分もWリーグのチームを探さないといけないよな、と千里は思っていた。
夕食に貴司が豚汁をリクエストするので、一緒に近くのマックスバリュまでA4 Avantで買物に行き、それから豚汁を作って食べた。食事が終わった後で
「私また少し寝る」
と宣言して下着姿になってベッドの左半分に潜り込む。貴司も下着姿でベッドの隣に潜り込んでくる。
「千里寝ちゃった?」
などと言っているので寝たふりをしている。すると貴司は千里の右手を勝手に取って自分の股間に当てている。千里は笑いをこらえて寝ているふりを続ける。
やがて貴司は千里の手の中で逝く。凄く気持ち良さそうである。それを感じて微笑ましい思いの中、千里は本当に自分を深い眠りの中に導いた。
20時半頃。貴司が目を覚ますので千里も起きる。貴司は例によって女体偽装してから練習着を着けている。
「じゃ次は私たちの結婚記念日、紙婚式にNホテルで」
「うん。僕も頑張るよ」
「一度ふたりともオールジャパンに出られるといいね」
「うん。行きたいね」
それでキスして貴司が練習に行くのを送り出した。こうして30時間ほどのデートが終わった。千里はそのまま地下に降りて、作曲作業室に入った。
貴司はほとんどこの市川ラボ1階の居室に住んでいる状態だが、実は千里も週末の試合の無い日には、日本の夜間になる時間帯はこの作曲作業室に居たりする(平日は日本の夜間はスペインでの練習時間に相当する)。
つまりこの時期、千里と貴司は“お隣さん”状態だったのである。
このことを貴司は知らない。この日はスペインの夕方18時(日本の午前2時)くらいまではここで作業し、その後スペインに移動する。ただし貴司の練習が終わる0時頃には夜食を届けておく(朝食も冷蔵庫に入れておく)。
千里が日本に来ている間はスペインには《すーちゃん》が居て、シンユウやサンドラなど、チームメイトに誘われて、町でショッピングしたり、お茶を飲んだりもしている。結果的にスペインで買った車・イビサは千里より《すーちゃん》の方が多く運転している。また、最近《すーちゃん》はスペインで千里の代役をしていることが多いので、ファミレスの方は《てんちゃん》《いんちゃん》あたりが代行していることが多い。
江東区の体育館で毎週1回練習しない?というのに誘われた橋田桂華は、新しいバッシュを買っておこうと思い、スポーツ用品店に行った。それでどれにしようかなあと迷うようにして見ていたら、近くにやはりバッシュを見ている女性がいるのに気付く。
「ステラ!」
「ダイ!」
ふたりは思わず抱き合って、勢いでキスまでしてしまう。
「待った待った」
「あんたレズっ気あったっけ?」
「それは否定しないが、今のは事故」
「じゃ今のは、なかったことに」
それは竹宮星乃であった。
ふたりは一緒にU18代表候補になっていたが、U18の時は直前に星乃が怪我して離脱し、桂華は代表になった。この時、桂華は星乃が怪我したから本来なら落ちるはずだった自分が代表になったと思っていた。U20の時は今度は桂華が直前に盲腸になり星乃が緊急召集されて代表になった。この時、桂華はこの2年間ずっと星乃に済まないと思っていたと語ったが星乃はそれを否定した。U18の時に落ちたのは自分の実力不足で怪我は関係無いと言った。
でもU21の時は最初から2人とも落ちた!