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■娘たちの衣裳準備(8)

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26日の朝は5時頃寝たものの、8時頃目が覚めてしまう。どうもお酒を飲んでいたので眠りが浅くなったようだ。ホテルの朝食バイキングにでも行って来てから、また寝直そうかと言ってラウンジに行ったら、向こうでこちらにお辞儀をする女子がいる。千里も笑顔になって暢子と一緒にそちらに行った。
 
「おはようございます」
「おはよう」
 
と挨拶を交わす。それは旭川N高校の後輩・横田広海であった。千里は2011年12月にN高校がウィンターカップに出てきた時、遠征メンバーの中にこの子がいたのを見ている。他に高校生っぽい女子が3人同席している。横田の後輩かな?と思った。彼女が紹介する。
 
「こちらうちのバスケ部の後輩、2年生の横宮亜寿砂、1年生の志村美月、そして来年の春入部予定の福井英美です」
 
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すると暢子はその入部予定という福井英美の手を握った。
 
「君、凄く強いね」
「いえ、若生先輩の足元にも及びません」
「おお、私を知っているか!」
「はい、若生暢子先輩と、村山千里先輩ですよね?」
「よしよし。君はきっと伸びるぞ」
と暢子はご機嫌である。
 
「紹介する前に分かったみたいだけど、2008年ウィンターカップ決勝戦で札幌P高校と延長5回に及ぶ死闘を演じた時の中心選手、若生暢子先輩と村山千里先輩だよ」
とあらためて横田広海が紹介する。
 
「死闘して勝ったんですか?」
と志村美月が訊くので
「いや、負けた」
と暢子が答える。すると志村美月が
「なーんだ」
と言ったので暢子の怒りが爆発する。
 
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「貴様、インターハイにもウィンターカップにも出てきてない癖に偉そうに言うな」
と言ってヘッドロックを掛ける。
 
「いたたた、やめてください。暴力反対」
と志村美月は言っているが
「いや、今のは美月ちゃんが悪い。謝りなさい」
と横田広海は言っている。
「申し訳ありませんでした」
「よしよし」
と言って暢子は手を離す。
 
「まあ偉そうなこと言えるのか、私たちが弱いのか、後で手合わせしない?」
と千里は提案した。
 
「手合わせって?」
「君たち4人vs私たち2人ってのでどう?」
「やりたいです!」
と嬉しそうに福井英美が言った。
 

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朝食を取りながら話した。
 
「ああ。ウィンターカップ見に来たの?」
「はい、そうなんです。旭川N高校は昨年も今年もインターハイ・ウィンターカップに出られなかったけど、やはり全国レベルを見ておきたいよねと言って。それで英美ちゃんも誘って4人で出てきたんですよ。英美ちゃんの分の費用は私たちがサービス」
 
「おお。後輩を厚遇するのはよいことだ」
 
「いつから見ているの?」
「昨日からです。あまり下の方の試合を見ても仕方ないし。昨日が3回戦だったから、かなりハイレベルな戦いを見ることができました」
「決勝戦まで見る?」
「はい。それでチケット確保してきました」
 
「よし。千里、私たちも見に行こう」
と暢子が言うと
「もう売り切れてますよ」
と志村美月が言う。
 
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「貴様はいちいち私を怒らせたいのか」
とまた暢子は美月にヘッドロックを掛けている。
「先輩。こんなことしてたら、新入生がここは暴力部活かと思って逃げちゃいますよ」
などと美月が言うので
「これはマナーの悪い奴への教育だ」
などと暢子は言っている。
 
「暢子、チケットならあるから私たちも見ようよ」
と千里は言った。
 
「あるの?」
「別の人と見に行くつもりでチケット確保していたんだけどさ。その人が行けなくなっちゃったんだよ」
「ほほお」
と暢子は千里の顔を見ながら言った。
 
「じゃそのチケットを有効利用させてもらおう」
 

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それで朝御飯を食べた後、千里と暢子はチェックアウトするのだが、見ていたら横田たち4人もチェックアウトしている。
 
「君たち今夜の宿は?」
「ネットカフェかなあ」
「昨夜はたまたま割引券もらったんでここに泊まったんですが」
「へー」
 
それで6人でウィンターカップを見に行った。
 
この日は男子3回戦の一部と、女子の準々決勝4試合が行われる。10:00から2試合と11:30から2試合である。
 
「昨日も凄いと思ったけど、今日はまた凄い」
と横宮亜寿砂が声をあげる。
 
「上位まで来るチームは1〜3回戦では主力を温存するんだよ。ボーダー組のお仕事は、主力を疲労させないまま、上位までチームを進出させること」
と暢子は言う。
 
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「それって、とっても大事な役割だという気がする」
と福井英美。
「3回戦までに主力がクタクタになってしまったら、準々決勝、準決勝では体力勝負で負けるよ」
と暢子。
 
この日の結果
大阪E女学×80−84○愛媛Q女子
静岡L学院×67−82○市川A高校
東京U学院×58−69○愛知J学園
愛知A学園×64−67○岐阜F女子
 
愛知A学園は愛知県代表だが、普段の年は圧倒的に強い愛知J学園に勝てず、なかなか全国大会に出て来られない。しかし今年はJ学園がインターハイに優勝してウィンターカップ自動出場になったので出てくることができた。つまり旭川N高校に立場が似ている。但し今年のインターハイに北海道から出場したのは札幌P高校と旭川L女子校で、N高校は出場を逃している。
 
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午後から男子の試合もあるのだが、千里たち6人は常総ラボに移動した。
 
千駄ヶ谷13:33-13:47秋葉原14:00-14:32守谷14:48-15:20石下
 
石下駅からはタクシー2台に分乗して常総ラボに入った。
 
「こんな所にこういう真新しい体育館があるとは」
「ここは様々な経緯があって、結果的に私が管理しているんだよ。だから自由に使っていいから」
と千里は説明した。
 
「ここ何時まで?」
「何時まででも。深夜でも使っていいよ。周囲に家が無いから」
「確かに。向こうは運動公園だし、こちらは学校か何かのようだし」
「但し窓はしっかり閉めてね」
「いや、さすがに寒いから閉める」
 
美月が何か考えているようである。
「千里先輩、ここ深夜でも使っていいのなら、この体育館の隅で寝てもいいですか?」
 
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「体育館の隅で寝てもいいけど、下に宿泊室があるから、そこで寝た方がいいね。多少の寝具もあるよ」
と千里。
 
「おぉ!」
 
「ここは美月だけ体育館で寝て、他の子は宿泊室で寝るということで」
と暢子。
「なんでそうなるんですか〜?」
 
どうも美月と暢子は“相性が悪い”ようである。
 

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準備運動をしてから試合を始める。千里は電子得点板を持って来て、得点を自動カウントモードにした。
 
「スリーを入れた時は得点板の3Pボタンを押すと3点で処理される。フリースローの時は1Pボタンを押しておく」
 
「すごーい」
 
それで試合を始めるが、圧倒的である。暢子と千里の2人だけで攻撃するのを4人でどうやっても停められない。逆に4人で攻めて来るのを千里が巧みにスティールしてしまう。
 
40分間やるつもりだったものの、まるで勝負にならないので10分で打ち切った。
 
「参りました」
と美月が頭を床に付けて言った。
 
「私たちがインターハイに行けなかった訳が分かりました。可能な限り、私たちを鍛えてもらえませんか?」
 
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「よしよし。ではウィンターカップ終わりまでここで泊まり込み合宿ね」
と暢子は楽しそうに言った。
 

12月27日(金).
 
台湾のCD制作企業に出向していた太荷馬武は半年ほどの出向を終えてセントレア空港に戻ってきた。この先の自分の身の処し方については色々悩んでいるものの、とりあえず社長に出向の報告をしなければというので、考えながら空港内を歩いていた。彼は考え事をしていたので、空港内の一角が、道路工事用のバリケードで区切られていることに気付かず、バリケードとバリケードの間をうっかり通過してしまった。
 
向こうから走ってくる、ぬいぐるみ?をつけた人物がある。彼はぼーっとしていたので、その人物を見ても避けようとか逃げようといったことを考えなかった。
 
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それで衝突してふたりとも倒れてしまう。
 
「あ、すみません」
「こちらこそ、すみません」
と小さな声で交わす。
 
それで起き上がろうとした所、向こうから銃?を持った男が走って来て、こちらに向けて乱射する!?思わず太荷は
 
「危ない!」
と言って、ぬいぐるみを着た人物を突き飛ばした。
 
銃を乱射した人物が
「何だ貴様?」
と言う。
 
「君こそ何者だ?」
と言って太荷は彼をギロリと睨んだ。
 
彼は歌手のコンサート運営などに携わり、ヤクザと揉めたこともある。乱暴な相手には気合いが大事だと知っている。
 
向こうが飛びかかってきたのを、柔道の投げ技で床に叩き付けた。
 
男が「うーん」とうめき声をあげた所で
 
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「カッッット!」
という声が掛かる。
 

カメラや集音器?付きのマイクを抱えた人たちが寄ってくる。
 
「すみません。どなたでしょう?」
と30歳くらいの男性から訊かれる。
 
「え?これもしかして何かの撮影?」
と太荷。
「え?この人役者さんじゃないの?」
と銃を乱射し、太荷に投げ技をくらった男性。
 
「えっと・・・これは《特命刑事ダニャン》の撮影だったのですが・・・」
「すみませーん!」
と太荷が言った時、ひとりの撮影スタッフが声をあげた。
 
「あなた、もしかして元★★レコードの、たにさんですか?」
「はい。現在は別の会社に勤務しておりますが」
 
「ああ、あの人か!」
とこの場の責任者っぽい男性が言った。
 
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「でも今のシーン凄く良かった」
と別の男性が言う。
「うん。ボツにするにはもったいない」
と更に別の男性。
 
すると責任者っぽい男性は少し考えるようにしてから言った。
 
「たにさん、もし良かったら、ゲスト出演でいいですので、敵組織の大幹部という役をやってもらえません?」
 
「は!?」
 

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12月27日のウィンターカップは、岐阜F女子−市川A高校、愛知J学園−愛媛Q女子の試合が行われ、岐阜F女子と愛知J学園が勝った。6人は午後からまた常総ラボに移動したが、やはり4対4にしようということで、川南と夏恋を呼び出した。この2人は福井英美以外の3人には充分対抗した。
 
「英美ちゃん強いね」
と夏恋がマジで言う。
 
「この子が夏までに伸びたら、またインターハイに行けるかも知れません」
と横田広海が言う。
 
「うん。かなり鍵を握るだろうね」
と千里も言った。
 
そういう訳で英美には千里自身がマッチアップして、かなり熱の入った練習をした。
 

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「そういえば広海ちゃん。こないだ、お姉さんに会ったよ」
と夏恋が言った。
 
「わあ。堂々としてますでしょ?」
「男だった頃より逞しくなっている」
「そうなんですよね〜。男っぽくなる心配なくなったからといって日々トレーニングに励んでいるみたいです。握力70だそうです。お母ちゃんは頭痛いみたいだけど」
 
「本人は女にはなりたかったけど、OLとか看護婦とかするような気持ちは無かったから、警備員は天職と言っていた」
と夏恋。
 
「女性のお客様のボディチェックする時は、女性の警備員にしかできないんですよね。だから、必ず女性が1人以上いつも詰めてないといけないんです」
と広海。
 
「・・・あの子、ボディチェックするんだっけ?」
と暢子が言う。
 
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「毎日20-30人はあるそうですよ」
「姉貴は身長はあるけど、女にしか見えないから」
 
「・・・やめた。考えるまい」
と暢子は言っていた。
 
 
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