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■娘たちの衣裳準備(6)

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「でも先生、結果的に振り付けは今日やったみたいに脇で踊るボクのはジュテとかの入らない、日出美ちゃんと純粋に対称な動きの方がいい気がしました」
と龍虎は言った。
 
「うん。私も思った」
とひとりの先生。
 
「だったら、ドラゴンフェスティバルでは今日の振り付けで踊ってもらおうか」
「はい」
 
「じゃドラゴンフェスティバルの時も龍ちゃんは女の子衣裳で」
「え!?」
 
「あ、それがいいですよ。龍ちゃん本当は女の子だもん。男の子衣裳つけるのは可哀相」
と鈴菜が言った。
 

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バレエ発表会の翌日、12月24日、龍虎は宏恵と待ち合わせて一緒に駅まで行った。
 
「クリスマスコンサートって、てっきり市のイベントかと思った」
と龍虎が言うが
「夏のコンテストで県大会に行ったから、その参加校が今回招待されたのよね」
「そんなレベルの高いイベントで、何度かしか合わせてないボクがソロを歌っていいの〜?」
「大丈夫。龍は充分上手い」
 
そして宏恵は言う。
「ソロは他のパートと合わせる必要が無いんだよ。堂々と目立って歌えばいいから、龍向きだよ」
 
駅には既に10人ほどのコーラス部員が集まっていた。お互い挨拶を交わす。龍虎たちの後にもどんどんやってきて、8:30には全員が揃った。それで先生に引率され、先生が団体乗車券を見せ、係の人のいる改札口を通過して電車に乗り込んだ。改札では駅員さんが人数だけ数えていた。
 
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「こういう乗り方したの初めて」
「修学旅行の時もこの方式だったじゃん」
「あっそうか!」
 

さいたま新都心駅で降り、少し歩いて辿り着いたのは、大宮アリーナである。
 
「ここでやるの?」
と龍虎は訊く。
 
「凄いでしょ?県大会はサウンドシティだったから、私たちもこの大会場は初体験だよ」
と宏恵。
 
「すごーい。こんな所で歌うなんて気持ち良さそう」
と龍虎が言うと
 
「やはり龍ちゃんにして正解だったみたいね」
と佐和美ちゃんが言っている。
 
「最初実は瑞香ちゃんに声を掛けたんだけど、大宮アリーナと聞いて、そんな凄い所で歌う自信無いといって逃げられたのよね」
 
「あははは」
 
「でも瑞香ちゃん以外の女子であんな高い声が出る子いないよ、と言っていたらさ、女子でなくてもいいのなら、きっと龍ちゃんが出るという話になって」
 
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「うーん・・・」
 
「女子の制服着てもらうのは気の毒だけど、それも龍ちゃんなら着てくれるよという意見になって」
と佐和美が言うので
 
「ちょっと待った」
 
「ボク、女子の制服着ないといけないの〜〜?」
と龍虎がしかめっ面で言うので、宏恵が頭を抱えている。
 
「それはもう本番直前になって、それを着るしかないという状況にしてから言うってことにしてたのに」
と宏恵。
 
「え〜〜?そうなの?ごめーん」
と佐和美。
 
「でも龍ちゃん、よくスカート穿いている気がするもん。女子の制服着られるよね?」
 
「あまり女の子の服着たくないんだけど。しょっちゅう着てたら、ボク、女の子になりたい男の子かと誤解されちゃうもん」
 
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「それは大丈夫だよ」
と宏恵が言う。
 
「そう?」
 
「既にみんな、龍はそのうち女の子になるつもりだろうと思っているから今更」
「うっ・・・」
 
「実際、龍、女の子の服を着るの嫌いじゃないでしょ?女子の制服着て歌ってよ」
と宏恵は言う。
 
「まあここまで来て断れないからやるよ」
と龍虎は渋々言った。
 
「でも、ヒロ、そういう話は最初にしといてよ」
「ごめーん」
 

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そういう訳で龍虎はコーラス部の女子制服を着て、クリスマス・イベントで歌うことになったのである。
 
会場に“男女別の”控室があるので、男子部員は男子控室に行くが、龍虎は宏恵と一緒に女子控室に行く。ここで制服が配られるので龍虎はSサイズの制服を受け取って着た。
 
「全然違和感無いね」
とあまり龍虎の女装を見ていない子から言われる。
 
「女の子の服を着ると女の子にしか見えないよね」
「いやむしろ龍ちゃんは男の子の服を着ていても女の子にしか見えない」
「まあそれが龍のよい所であり、また問題点でもあるね」
 
「龍ちゃん、今日は女子トイレ使ってよね」
「いや龍はふだんから女子トイレを使っている」
「そういえばそうだ」
 
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「どっちみち中学ではセーラー服着るんでしょ?」
「学生服を着るよぉ」
「でもこないだ制服の採寸会場に居たよね?」
と花菜ちゃんが言っている。
 
なんかあれ随分多くの人に見られているみたいだなあと龍虎は思う。
 
「採寸はしてもらったけど作るのは男子制服だよ。ボクはサイズが小さすぎて男子の既製服は合わないないんだよ」
「なるほどー」
 
「男子制服が合わないから、女子制服を着るのね」
「違うって」
「女子制服、着たくないの?」
「えーっと・・・」
 
「なるほど迷う訳か」
と花菜ちゃんが納得するように言った。
 

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イベントは午前中に埼玉県内の小中学校のコーラス部が20組出演して歌い、午後からは桜野みちる・海浜ひまわり・神田ひとみというアイドル3人のステージがあり、今日の観客の半分くらいはそちら目当てなのではと宏恵は言っていた。
 
「桜野みちるは知ってるけど、海浜ひまわり・神田ひとみは知らない」
と龍虎が言うと
「同じ事務所の後輩なんだよ。いわゆるセット売りなんじゃないかな」
と宏恵は説明する。
「へー」
「その事務所、海浜ひまわりと神田ひとみの間にもうひとり居なかったっけ?」
と佐和美が尋ねる。
「えっとね・・・・千葉りいなちゃん」
「あ、それそれ!」
「あの子、なんか長期入院しているらしいね」
「病気?」
「病名はどうもハッキリしないみたい。親と事務所で揉めているという噂もあるよ」
「ふーん」
 
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「アイドルなんてハードワークだろうからなあ。身体の弱い子は務まらないんじゃない?」
「あそこの事務所は以前夏風ロビンも問題起こしているし」
「まあでも報道もされず噂にもならないまま消えて行く子も、あの世界には多い」
「言えてる、言えてる。アイドルなんて毎年数百人デビューするからなあ」
「その内、1年後まで残るのは1割以下というもんね」
「2年後にはそのまた1割以下」
「3年後まで生き残るのは1人か2人」
「3年生き延びたアイドルは、わりとその先まで生き残る」
「石の上にも3年か」
「枕営業とかもあんのかね?」
「怪しい事務所ではあると思う。さすがに大手ではさせないだろうけど」
 
龍虎は“枕営業”って何だろう?と思った。枕の売り歩き??
 
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QS小学校のコーラス部は全部で24名だが、ソプラノ14名(龍虎を含む)とアルト10名である。ただしこのアルトの中には男子が5人居て、彼らはスカートではなく同色の布で作られたショートパンツの制服を着ている。
 
「あれ〜。パンツの制服もあるの〜?」
と龍虎は言ったが
「龍ちゃんはスカートの方が可愛いからよい」
とみんなから言われた。
 
「パンツタイプの制服が存在することは男子部員がいることから安易に分かったはず」
「龍はこの手の問題では気付かなかったのか、気付かなかったふりをしているのか、どうも良く分からない」
とまで言われている。
 
「ま、いっか」
「実際スカート穿きたいんでしょ?」
「ボクなんか誤解されている気がするなあ」
「いや。よく理解されている気がする」
 
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今日歌う曲は合唱組曲『赤城山』から『夏祭り』と John Frederick Coots & Haven Gillespie 『サンタが街にやってくる』である。どちらにもソプラノソロがフィーチャーされているが、これは卓越した歌唱力を持った鉄田さんあっての選曲だった。
 
最初に歌う『夏祭り』は前半、ソプラノとアルトが掛け合うようにして歌っていく。ピアノ(6年生の梨菜ちゃん)による間奏を挟んで、龍虎のソロが入る。龍虎が歌っている間、他の子たちはハミングで歌っている。
 
このソロが30秒ほどあった後、また全員の合唱に戻りコーダとなる。
 

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この演奏を午後から出演する§§プロの紅川勘四郎社長が聴いていた。
 
紅川はマネージャーの田所、今回はアシスタント役として参加していて、来年デビュー予定の歌手・照屋清子(後の明智ヒバリ)と一緒に打合せをしていたのだが、龍虎のソロが始まった時、ピクッとするようにモニターを見た。
 
「ちょっとそのソロ歌っている女の子、ズームできる?」
「はい」
 
「この子、歌もうまいけど、凄く可愛いね」
と紅川。
「ちょっとスター性がありますよね」
と田所。
 
清子は手を口の所に当てて、じっとモニターを見つめていた。
 

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『夏祭り』が終わり、続いて『サンタが街にやってくる』を演奏しようとした時、ピアニストの梨菜ちゃんが突然、お腹を押さえて椅子から転げ落ちるようにして座り込んだ。
 
「梨菜ちゃん!?」
 
指揮をしていた先生、部長の宏恵が駆け寄る。
 
「どうしたの?」
「30分くらい前からお腹が痛かったんですけど、何とか頑張らなきゃと思っていたんですけど、もう我慢できなくなって」
 
「そんなの我慢したらダメだよ!」
と先生が言う。
 
「医務室につれていきますか?」
とイベントのスタッフさん。
 
「はい、すみません」
 
イベントのスタッフさんが車椅子を持って来てくれたので、梨菜をそれに乗せる。先生は「宏恵ちゃん、指揮をお願い」と言ってから、車椅子を押して連れ出す。イベントスタッフが医務室まで案内してくれるようである。
 
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さて・・・。
 
観客が騒然としているので、進行係さんが
 
「お騒がせしました。1分お待ち下さい」
と観客に案内した。
 
6年生全員で話し合う。
 
「私、先生から指揮頼まれたんだけど」
と宏恵。
「それがいいと思う。ヒロちゃんが指揮するのが、みんなが一番落ち着けると思う」
「それで誰がピアノ弾くかなんだけど」
「って、誰が弾ける?」
 
「一般的な『サンタが街にやってくる』なら、ピアノ弾ける子はたいてい弾けると思う。でもこれ先頭に語りながら歌う部分が入っているし、輪唱になる部分は伴奏が少し難しい」
 
「調も違う。ハ長調で書かれているスコアが多いんだけど、それでは一番下のシの音が出ない人がいるから、2度上げてニ長調にしているんだよね。だからシャープが2つ増えている」
 
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「結論。龍が弾いてよ」
と宏恵は言った。
 
「え〜〜〜〜!?」
「龍は初見に無茶苦茶強いんだよ。できるよね?」
「ニ長調なら弾けると思う」
「よし、それで」
 
「ソプラノソロは?」
「佐和美歌ってよ。こちらは声出るよね?」
「あ、うん」
 
「それで行こう」
 

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