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■娘たちの衣裳準備(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-11-18
 
12月28日はウィンターカップで女子の決勝戦が行われ、愛知J学園が勝った。この日もまた8人は午後から常総ラボで濃厚な練習をした。
 
「今回の遠征はウィンターカップ観戦以上に、千里先輩たちに鍛えられました」
と美月が言う。
 
「まあ練習は楽しいよね」
「今日は特にハイレベルの決勝戦見た後だからか熱が入りますね」
と広海。
 
「君たち何時ので帰るの?」
「はまなすで帰るんですよ。ですから石下駅を17時の列車に乗れば間に合います」
 
石下17:34-17:59下館18:02-18:25小山19:03-20:33仙台20:38-22:23新青森22:32-22:38青森22:42-6:07札幌6:51-8:16旭川
 
「だったら、そろそろ出ないといけない?」
と夏恋は言ったのだが
 
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「もったいない。朝までやろうよ」
と千里は言った。
 
「えっと・・・」
「帰りの飛行機代、出してあげるからさ」
「マジですか?」
「明日の朝、羽田まで送ってあげるし」
「わぁ・・・」
 
「暢子、鍵のカード渡しておくから、明日閉めて出てくれる?」
「OKOK」
 
それで8人の練習は休憩や食事をはさみながら深夜0時まで続き、最後はシャワーを浴びる気力も無いまま、宿泊室の布団に潜り込んだ。
 

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12月29日4時過ぎ。千里は横田広海たち4人を起こして、インプの座席に座らせた。
 
「寝てていいからね」
「寝てます」
 
「だけど広海ちゃんって、倫代ちゃんよりしっかりしている気がする」
「そうですね。だから小さい頃はふたりで一緒にいると、私が姉であちらが妹と思われることも多かったです」
「ああ、そういう姉妹はよくいる」
「その頃から“姉妹”だったんですか?」
と亜寿砂が訊いた。
「そそ。兄と妹なんですよと言うと、私が男で兄だと思われていた」
「なるほどねー」
 

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千里は羽田まで1時間ほど掛けて走り、昨日の内に予約していた4人のチケット(羽田6:40(ADO-51)8:00旭川)を受け取ってチェックインする。そして
 
「まだ眠そうにしてるから、旭川に着いてから朝御飯食べるといいよ。念のためおにぎり買っておいた。お茶はセキュリティ通った中で買うといいよ」
と言って、横田に1万円札を渡した。
 
「先輩ほんとに色々ありがとうございました」
「インターハイ行こうね」
「はい!」
「広海ちゃんも大学で頑張ってね」
「頑張ります」
 
それで千里は4人を見送った。
 

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4人を見送った後、千里はそのまま関空行きに乗った。ADOもANAもどちらも第2ターミナルである。
 
羽田7:25-8:40関空
 
貴司は最初千里とウィンターカップを見る予定だったのだが、唐突にシェンチェン(深圳)への出張が入ってしまったのである。それで浮いたチケットを千里は暢子に渡して暢子がウィンターカップを見ることができた。深圳での交渉は大変だったようだが、何とか昨夜妥結して契約書にサインをもらうことができた。それで貴司は朝の便で関空に戻ってきたのである。
 
香港2:45-7:10関空
 
昨夜の内にこの便に乗るという連絡があったので千里はすぐに羽田から関空への朝1番の便を予約し、待ち合わせることにしたのである。
 
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千里は関空に着くと、貴司の波動を探し、やがて見つけるとそこに行った。
 
「お疲れ様。待たせてごめんね〜」
と言って千里は貴司に抱きついた。
 
「いやこちらも飛行機が1時間遅延したから、そんなに待たなかった」
 
「じゃ一緒に行こう」
 
それで関空の駐車場に駐めていたA4 Avantに乗り込む。千里が運転して大阪市内の会社まで走る。10時頃会社前に到着。貴司をおろす。
「近くの駐車場に駐めて待っているから、報告に行って来て」
「うん」
 
1時間ほどで終わったという連絡があるので、車を出して貴司を拾う。そして千里の車は府道2号を走って30分ほどで貴司のマンションまで行った。駐車場に入れて車を駐める。
 
千里は車をロックし、サンシェードを付ける。一緒に後部座席に行く。
 
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キスする。貴司がもう我慢出来ないように千里を抱きしめ、胸を揉む。
 
「さあ。始めようか。楽しい楽しい精液採取」
 
と千里は言って、貴司のズボンを下げ、トランクスを下げる。もう準備万端になっている。千里が握ってからほんの数回動かしただけで作業は終わってしまった。
 
「今日はすぐ行っちゃったね」
「だって9時頃から、ずっとお預けだったんだもん」
「毎回これで行こうか」
「やだ」
 
ディープキスをする。それから採精容器をビニール袋に入れ、貴司が名前も書く。
 
「じゃ、またね」
と言って再度キスしてから千里は車を降りた。
 

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千里が降りていった後、貴司はそのまま少し仮眠した。それから目を覚まし、千里の居ない車内を寂しく思った。首を振ってから阿倍子に電話した。
 
「うん。出張終わって今マンションの下まで戻ってきた所。今から一緒に病院に行こう。駐車場まで降りておいでよ」
 
一方、駐車場を出た千里は千里中央駅に向かう。そして新幹線で東京に帰還した。
 
新大阪13:00-15:33東京
 
『千里、助手席に置いて来た紙何?あれ』
と《こうちゃん》が訊く。
 
『知ってる癖に。ただの卵巣機能低下の呪いだよ』
『・・・何なら阿倍子の心臓を停めてこようか?』
『それは禁止。来年中に妊娠しなかったら適当な彼氏をあてがって離婚させてよ。あの人、女一人では生きていけないタイプみたいだもん』
 
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『呪いが掛かっていたら妊娠しないのでは?』
『ふふふ』
『まあ彼氏は適当なのを探しておくよ』
『よろしく〜』
 

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12月29日、篠田その歌が引退ライブをした。彼女は○○プロから2005年にデビューして約9年間の歌手活動を終えたのだが、冬子は実は彼女が選ばれたオーディションの本当の優勝者だった。年齢が足りないため失格となり優勝者が告知される前に辞退したのである。しかし冬子はその後、篠田その歌の伴奏者を務め、また“秋穂夢久”の名前で彼女に楽曲を提供し続けた。この引退ライブそのものには出席を辞退したものの、事前に会って、9年間の活動をねぎらい、餞別を渡してきた。その歌は“秋穂夢久”の正体をここに至るまで知らなかったので、超絶驚いていた。
 
12月30日、大西典香が引退ライブをした。彼女は2007年の葵祭スペシャル番組でデビューし約6年半“おとなの歌手”として活動してきた。世間的には篠田その歌も大西典香も《上島ファミリー》とみなされてきたが、実際には篠田その歌の活動では秋穂夢久の貢献が大きかったし、大西典香も特大ヒット曲は全て鴨乃清見の作品である。鴨乃清見は露出が著しく少なく、実は大西典香本人なのではとも言われていたが、大西は否定していた。
 
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千里はこの日朝から横浜エリーナに行き、大西典香のスタッフさんたちにBlue Islands航空のアメニティグッズを配った。スプーンやボールペンなどであるが、典香本人と上島先生・雨宮先生、事務所の谷津さん、鈴木社長にはティーカップと皿のセットを渡した。
 
「これ何?」
と知らない人がいるので
 
「チャネル諸島で運航されているローカルな航空会社なんですよ。秋に1度行ってきたので、その時、買い込んでおいたんです」
と千里が言うと
「あそこ1度行ったことある」
と鈴木社長が言うのは、さっすが!と思った。
 
「どこにあるんですか?」
「イギリスとフランスの間で所属は曖昧。一応イギリス王室直属。だからイギリスではない。マン島と同様にタックスヘイヴンになっている」
「なるほどー」
 
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(ブルーアイランド航空はチャネル諸島とイギリス各地との間に空路を持っている。フランスへの航空便は存在しないが、シェルブールなどから多数の船便がある。千里はサンドラやシンユウと一緒に船便でそこを訪れた)
 

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「それと、ココ・シャネルのシャネルというのは、このチャネルのフランス語読みなんだよね」
と鈴木社長は博識な所を見せる。
 
「そこの出身なんですか?」
「お父さんの家系がそちらから出ているらしい。本人はフランス中部のメーヌ&ロワール県の慈善病院で生まれている」
「慈善病院?凄く貧乏だったんですかね?」
 
「うん。お父さんは下着の行商をしてたけど、物凄く貧しかったみたいね。それなのに男の子2人・女の子3人の子だくさん」
 
「それ避妊してないからじゃんじゃん産まれたのでは?」
「まあそういうことだろうね」
 
「あとチャネル諸島の中にはジャージー島というのがあって、体操服とかのジャージはこの島特有の織物が起源だし、ジャージー牛乳もここ原産の牛のお乳だね」
「へー!」
 
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ライブは午後から始まったが、鈴木社長の提案で、鴨乃清見は謎の人物という演出にし、覆面をかぶって出演した。いくつかの曲ではピアノ、いくつかの曲ではフルートを演奏する。最後はアンコールで千里のピアノ演奏で『ブルーアイランド』を歌った。
 
大西典香の最後のライブの最後の曲である。
 
演奏が終わってから、大西典香とハグして彼女をねぎらった。そして一緒に観客に挨拶して幕が降りた。
 
ライブが終わった後は典香・鈴木社長と一緒に新国立劇場に移動し、RC大賞の授賞式に出た。ここで典香は歌わなかった。『ライブの演奏がラスト』というポリシーである。それで代わりにCD音源が流されていた。典香は前に出て賞状だけ受け取ってきた。彼女は明日の紅白にも出場しない。
 
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この授賞式にはローズ+リリーやKARIONも出ていて、冬子と政子も来ていたのだが、千里には気付かないようであった。美空だけがこちらに気付いて手を振ってきたので、笑顔で手を振り返した。
 
授賞式が終わった後、千里は葛西に帰ってぐっすりと寝た。
 

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青葉と朋子は年明けまでずっと千葉に滞在していたのだが、12月30日には、青葉が建てることにしている神社の件で、L神社に行って話し合いを持った。基本的にはL神社の境外摂社扱いにしてくれることになった。取り敢えず週に1回くらい誰か神職が巡回して祝詞をあげてもらえる。青葉がL神社に年間管理料を支払う。
 
その翌日、12月31日、《きーちゃん》がL神社で巫女服を着け竹ぼうきを持って、境内の掃除をしていたら、この神社でのバイトを知らなかったはずの桃香が笑顔で手を振りながらやってくる。
 
千里は常総ラボで軽く汗を流していたのだが、きーちゃんから
 
『桃香がL神社に来た。交替するよ』
 
と直信があり、次の瞬間には彼女と服を残して中身だけ入れ替わる。
 
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桃香は友人から、千里によく似た人がこの神社で巫女をしていると聞き、それは本人なのではと思い、確かめに来たと言った。
 
「千里の龍笛、聴けるか?」
「今、昇殿祈祷すると聴けるよ」
「小祈祷5000円でいい?」
「大祈祷2万円を申し込むと特別バージョンの龍笛が聴けるよ」
「商売上手だな」
 
しかし桃香は2万円払って大祈祷を申し込んでくれたので、特別長いバージョンの千里の龍笛を聞くことができた。
 
この日は緊急に入れ替わったので、龍笛まで交換されていなかった。それで千里はきーちゃんの普段使いの龍笛(花梨製)で吹いたが、それでも龍が3体やってきて雷を落として行ったので、あれは龍笛のせいではなく、私の演奏自体で龍が来るのか、とあらためて認識した。
 
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桃香は彼女の所に寄ってから帰宅すると言っていたので、千里はいったん《きーちゃん》と入れ替わって常総ラボに戻ってから、午後3時で練習を切り上げ、年越しそば・エビ天・伊達巻きを買って桃香のアパートに戻った。
 

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桃香が真利奈のアパートに寄ってから自分のアパートに帰還すると、千里はもう帰っていて、年越しそば・伊達巻き・エビ天などを買ってきており、朋子・青葉と一緒に年越しそばや晩御飯を作っている所だった。
 
「桃姉、神社に行ってきたんだ?」
「うん。このもらったお札はどこにどう置けばいいんだ?」
 
「あ、私が置くよ」
と言って青葉は本棚の一画に場所を作ってそこに、お札や御神酒を並べた」
 
「本当は正式の神棚を置いた方がいいんだけどな」
 
「でもどうせ1年もすればあんたたち引っ越すんじゃないの?」
「まあどこに就職するかによるな」
 

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娘たちの衣裳準備(9)

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