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■娘たちの衣裳準備(3)

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そういった経緯もあり、ふたりは深い友情で結ばれたのである。しかしこの春以降は、実業団に入った星乃は忙しそうにしていたし、いい入団先が無く、実質的に引退状態になってしまった桂華としては気分的に連絡しにくい状況が続いていた。
 
「ステラ、オールジャパンは惜しかったね」
と桂華は星乃に言う。
 
「まあその前に社会人選手権にも行けなかったからなあ」
「確かに実業団のトップの方はプロに近いレベルだけどね。でも今年はあまり使ってもらえなかったみたいだし、ステラがもう少し出られるようになれば」
 
「いや、それが私、クビになっちゃって」
「え〜〜〜!?」
「上の方と対立しちゃってさぁ」
「あらら」
「だから今は親の家に居候状態」
「バスケは?」
「10月以降は全然できてない。練習したいとは思うけどひとりじゃできないしさ。でもどこか公共の体育館とかでも借りて少しやろうと思って、それで気分一新するのに新しいバッシュ買いに来たのよ」
 
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「だったら、私たちと一緒にやらない?」
 
「ダイはどこのチームに入っているの?」
と星乃が尋ねた。
 
「チームじゃないんだけど、取り敢えず毎週1回木曜日の夕方に江東区のS体育館で練習しているんだよ」
「へー」
 
「メンツは、中嶋橘花、溝口麻依子、秋葉夕子、村山千里」
 
「おぉ!なんかそれ凄いメンツだ。私が行っていいのかなあ」
「たぶんこのメンツの中ではステラが千里の次に強い」
「ダイの次にね」
 
それで次回の練習に桂華は星乃を連れて行き、大歓迎された。それで木曜日に江東区のS体育館に集まるメンツは6人になったのであった。
 

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星乃が加入して6人になった日、秋葉夕子が言った。
 
「これだけ人数がいたらチーム名をつけてもいいんじゃない?」
「ああ。名前があった方が体育館の予約を入れやすい」
 
すると麻依子が言った。
「40 minutes(フォーティー・ミニッツ)」
 
「バスケットの試合が40分だから?」
「1日40分練習すればいいよ、という気楽なチームを目指す」
「あ、それもいいね」
 
「じゃマークは40分までしかない時計で」
 

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そんな話になった所で千里は言った。
 
「ユニフォーム作ろう」
 
「予算は?」
 
「今参加しているメンツの分は私がお金出すよ。背番号の希望は早い者勝ち」
と千里。
 
「私はマイケル・ジョーダンの23」
「じゃ私はシャキール・オニールの34」
「だったら私はマイケル・クーパーの21」
「私は一度付けてみたいと思ってた1番かな」
 
「じゃ私は・・・」
と千里が言いかけた所で星乃が
「千里は33だ」
と言った。
 
「なんで?」
「平成3年3月3日生まれの3P女王で、コートネームもサンだから、33が最も千里にふさわしい番号だ」
と星乃。
 
「じゃそれで」
と麻依子が言い、千里の背番号は勝手に決められてしまった!
 
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しかし千里としてはスペインのレオパルダで付けているのと同じ番号なので、混乱しなくて済んでいい!と思った。
 

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「でも千里、そんなにお金あるんだっけ?」
「去年私結婚を目前に婚約破棄されたからさ。結納金が手付かずで残ってるんだよね。向こうのお母さんは返却不要と言った。だからそれを使っちゃう」
 
「いいの?」
と夕子が心配する。
 
「うん。婚約破棄記念で。私は恋よりバスケに生きる女だよ」
 
と千里が言った時“どこかで”着メロが鳴る。
 
曲は『恋するフォーチュンクッキー』である。千里は
「ちょっと御免」
と言うと、練習着の“中”に左手を入れ、胸の付近からフィーチャホン(T008)を取り出す。右手に持ち左手小指でオフフックすると、体育館の隅に言って電話を受けた。貴司からである。何だかみんながこちらを見ているので携帯と口の間を左手で覆い、小声で話す。
 
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「あぁ。ウィンターカップ見に来る?うん。準決勝以降の日のチケットは確保できるよ。じゃ、前日にいつもの場所で。オールジャパンはどうする?来られる?じゃそちらも11日から13日までのチケット確保しておくから。そちらの詳細はまた27日に会った時にでも」
 

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それで2分ほど話して切った。携帯をまた練習着の“中”の胸付近に戻す。それでみんなの所に戻る。
 
「千里、いくつか質問があるのだが」
と橘花が言う。
 
「な、なんだろう?」
と言いつつ、結構焦っている。
 
「千里、携帯どこに入れてんの?」
「ああ。ブラジャーの中。緊急の連絡が入った時にすぐ取り出せるんだよ。汗掻くけど、携帯は防水だし」
 
「ブラジャーの中!?」
「それはガラケーだからできるワザだな」
「同感。iPhoneではとても入らん」
 
「女子限定の入れ場所だよ」
「その言い方は誤解を招く」
「男子でもブラジャーすればできるよ」
「男子はたくさん入りそうだ」
 

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「それより、もっと重要な質問なのだが」
「な、なにかな?」
と千里は冷や汗を掻きながら尋ねる。
 
「今の電話の相手、細川君だよね」
「え、えーっと・・・」
「さっき、恋よりバスケに生きる女だとか言ってなかった?」
「そうだよ。私は恋はすっぱり諦めて」
 
「嘘つけ!」
と言われて、千里はたじたじとなる。
 
「要するに彼氏が他の女と結婚しても、付き合い続けているのか?」
「ちょっと、こんな誰が聞いているか分からない所ではやめて」
 
「大丈夫。私は口が硬い。親友以外には話さない」
と橘花。
「私は人の秘密を無闇にもらしたりしないよ。仲間内だけに留めておく」
と夕子。
「私は放送局の異名がある」
と星乃。
 
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「ちょっと待て」
 

ともかくも、そういう訳で 40 minutes のユニフォームは、ホーム用上下・ビジター用上下・練習用上下、それにパーカーのセットで、貴司からもらった結納金を利用して、いきなり50組も作ってしまったのである。
 
背番号に関しては、初期に注文した分(この直後に加わった暢子を含む)はユニフォーム屋さんに入れてもらったが、その後加入した人の分は、そういうのが好きな橘花がレタリングしてくれた。40 minutesのロゴデザインは星乃である。
 
「取り敢えず作って余った分は常総ラボにストックしておこう」
と千里は言った。
 
「何それ?」
「ああ。私の私設体育館 Private gymnasium」
「そんなものがあるの〜〜〜!?」
 
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それで千里のインプと麻依子のレガシーに分乗して、実際に行ってみる。
 
「狭いけど新しいし、きれい」
と星乃。
 
「まああまり使ってないからね。ここはいつでも自由に使っていいよ」
と千里は言ったのだが
 
「さすがに遠すぎる」
という意見が多かった。
 
「でもいつでも使えるというのはいいね」
「24時間使えるよ。使い終わったら電気消してね」
「つけっぱなしにしたら電気代が恐ろしい」
 
「じゃこのメンツには鍵のカードを配るよ」
「ああ。カードをスキャンしてたね」
 
それでカードを全員に配るが、桂華はここまで来る足が無いと言って返却した。
 
「もし来る場合は誰かに連れてきてもらうことになりそうだし」
「まあそれでいいね」
 
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「ちなみにこのカードには各々個別idが入っているから、誰が入退室したか自動的に記録される仕様。もし電気点けっぱなしになっていたら電気代を請求するということで」
 
「怖っ!!」
 
「まあセンサーが付いてるから誰も居ない状態で10分したら消えるんだけどね」
「よかったぁ!」
 

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龍虎はその日、彩佳・桐絵から
「制服の採寸に行こうよ」
と誘われて、近くのショッピングセンターまで出かけた。
 
「中学から送られてきた書類では、制服は3月までに用意すればいいけど、2月・3月は洋服屋さんが高校の制服の制作で忙しくなるから、公立中学に進学する生徒はできたら1月までに冬服だけでも作っておいて下さいと書かれていた」
と龍虎は言う。
 
「制服は高いから、家庭の経済事情次第では、とりあえず冬服だけ作っておいて夏服は4月になってからということにする所もあるだろうね」
と彩佳。
 
「宏恵はそれで行くと言ってた。冬服作るのも年明けてからにしてと言われたって」
「あそこはお姉さんが高校進学、お兄さんが大学進学なのよ」
「辛い。辛すぎる」
「3年間隔で子供ができると、同時に進学するから財布が悲鳴をあげる」
「悲鳴くらいならいいけど財布が死亡したりして」
「ああ、こわい」
 
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「ボク西山君に聞いてみたんだけどさ、ふつう男子は学ランだから既製服で行けることが多いけど、ボクは身長もだけど体型が特殊だからたぶん既製服では無理って言われた」
と龍虎は言う。
 
「それは言えてる。龍は今ウェストが52だけど」
と彩佳が言うと
「細すぎ!」
と桐絵が言う。
 
「男子のズボンは普通ヒップをウェスト+20cmで作るんだよ。ところが龍のヒップは78cmあるんだな」
 
「入らないじゃん」
 
「だから、龍がもし学生服を着るとしても、オーダーしないと無理」
と彩佳は言う。
 
「なるほどー」
「まあそもそもウェスト52なんて学生服の既製品が存在しない」
「ああ。そうだろうね」
「男子制服の既製品はふつう小さいのでも64cmくらいから」
「ずり落ちちゃうね」
「西山君とか、かなり細いけどW70あるって言ってたよ」
「西山君、細いのに!」
 
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「まあそういう訳で龍は間違い無くオーダーコース」
「そういうことになるか」
 

採寸はできたら1月6日までにと言われている。まだ時間的な余裕があるので、この日実際に採寸場に来ていたのは、龍虎たちの小学校の6年生では、この3人だけだった。ただ、市内の全中学の制服採寸をしているので、他の学校の女子も数名いた。
 
龍虎は「わぁ、みんな女の子ばかりだ」と思ったが、服の採寸は別に裸になったりする必要もないので、女子だらけの採寸会場に入っても特に緊張したりはしなかった。
 
「君たちはどこの中学?」
と係の女の人から訊かれる。
 
「QR中でーす」
「OKOK。じゃ測ろうね」
と言って、最初に彩佳のサイズを測る。
 
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「君はこれもう注文していい?」
「お願いしまーす」
「冬服だけ?夏服も?」
「夏服もお願いします」
 
続いて桐絵が採寸してもらい、やはり夏服・冬服ともに注文する。
 
最後に龍虎が採寸される。
 
「身長147 バスト75 ウェスト51 ヒップ76 肩幅37 袖丈52 スカート丈53」
 
係の人が龍虎のウェストラインから膝頭より少し下までの長さを測った時、彩佳と桐絵は素早く視線を交わしたが、ふたりは放置した!
 
龍虎はぼんやりと係の人の言葉を聞いていたので「スカート丈」と言われたことに全く気付いていない。
 
「普通、制服は身長10cmくらいの余裕をもって作るんですけど、あなたの場合、かなり身長が小さいので10cm余裕をもつと、大きすぎる気がする。5cmくらいの余裕で作りましょうか」
 
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「あ、はい、お願いします」
「ただ今後身長が伸びたら、中3くらいで作り直しになる可能性もあるけど」
と係の人が言ったが
 
「たぶん155cmくらいまで身長が伸びたら、誰か卒業生の制服をもらえると思う」
と彩佳は言った。
 

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「ああ、それがいいかもね。147cmに5cmの余裕を見て152cmくらいで作る場合は、こういうサイズの人が少ないから、譲ってもらうのも難しいでしょうけどね」
 
「この子、小さい頃に病気したからだと思うんですけど、学年でいちばん背が低いんですよね」
「あらあ、病気したんだ?」
「でもこの1年でかなり身長伸びたよね」
「うん。去年だと小学3年生並みと言われてたもん」
 
「だったら・・・7cmくらいの余裕を見ておく?」
「それでもいいかもね」
 
「これすぐ注文してもいいかな?」
と係の人が訊いたのに対して龍虎は
「はい」
と答えたのだが、彩佳がストップを掛けた。
 
「すみません。この子の注文はいったん保留しておいてもらえますか?」
「いいですけど、遅くなると注文量が増えてきて、極端に仕上がりが遅くなる場合もありますよ」
「はい。数日中にはどうするか決めますので」
「分かりました。連休前の12月20日までに注文を頂けましたら、1月中には仕上がると思いますので」
「はい、よろしくお願いします」
 
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娘たちの衣裳準備(3)

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