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■娘たちのドラゴンテイル(10)

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運転席の千里(こうちゃん)が窓を開けると“彼女”は言った。
 
「すみません。そちらが品川ナンバーなのを見て。私、東京からヒッチハイクで来たんですが、このままお帰りになるのでしたら、もし良かったら東京まででなくてもいいので、岡山か京都付近あたりまででも乗せて頂けないかと思いまして」
 
政子が嬉しそうな顔をして冬子の袖を引いた。それは彼女の声が男声だったからである。
 
「すみません。私たち、まだ明日の神在祭(かみありさい)も見ますので」
と千里が答える。
 
「そうでしたか。あれ?神在祭って、今のがそうじゃないんですか?」
「今のは神迎祭(かみむかえさい)で、神在祭は明日の朝10時からですよ」
「ほんとですか!?」
「名前が紛らわしいですよね」
 
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「良かったぁ!神在祭の写真をヒッチハイクで撮ってこいという罰ゲームだったんですよ」
と“彼女”は言っている。
 
「気付いて良かったですね!」
と、千里が言った。
 
しかし東京から出雲までヒッチハイクとか、なんて鬼畜な罰ゲームなんだ!?と冬子やゆまは思った。
 
(政子は“彼女”自身に関心を持っているので罰ゲームという話までは聞いていない。一方、千里(こうちゃん)は“介入”されていることを感じていた。この子との出会いはたぶん必然だ)
 
「ありがとうございました。でしたらどこかで野宿して明日を待ちます」
と言って彼女は車を離れようとしたが、政子が声を掛ける。
 
「待って。雪も降っているのに、野宿は辛いし、女の子は襲われますよ。私たち道の駅まで行くんですけど、そこまででも乗って行かれません?」
 
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「いいんですか?」
 

千里は一瞬ゆまと顔を見合わせた。しかし頷き合う。
 
千里(こうちゃん)は彼女を同乗させることに抵抗感を感じるメンツがここに居ないか一瞬考えたのだが、誰もそういう人はいないと結論付けた。ゆまは一瞬この車がパナメーラのような気がしていたので、パナメーラは4人乗りだから乗せるのは困難と思ったのだが、すぐにインプレッサであることを思いだし、インプなら5人乗るじゃんと思い、頷いた。
 
定員問題については千里(こうちゃん)もすぐ気付き、結局は東京で出がけにゆまがパナメーラを車止めにぶつけて壊した時点で既に《誰かさんのシナリオ》が働いていたのだろうと考えた。
 
要するにこれは神様たち?のお遊びのようである。《こうちゃん》はワクワクした。多分この《お芝居》に参加するために自分はここに居るのだと思った。
 
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多分・・・この子を本当の女の子に変えてあげてもいい!!
 
いつやっちゃおうかなぁ。今夜やったらダメかなあ?と《こうちゃん》は笑みが出そうなのを我慢しながら考えていた。
 

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冬子が後部座席の真ん中に乗り、助手席の後ろに“彼女”を乗せた。
 
「お世話になります。鹿島信子(かしまのぶこ)と申します」
と彼女は丁寧に言ってお辞儀をしてから乗ってきた。
 
「信子ちゃん? 私は冬子、こちらは政子、運転席に居るのが千里、助手席に居るのはゆま」
と冬子がこちらの4人を紹介した。
 
「女の子同士だから、名前呼びでいいよね?」
と政子が笑顔で言う。
 
「そ、そうですね」
と言いつつも信子は照れていた。
 

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千里(こうちゃん)が運転するインプレッサは途中コンビニに寄った上で、道の駅・湯ノ川まで走り、そこで車中泊する。信子はアルミの断熱シートを持っているということで、それで道の駅の施設の隅で寝るということだった。
 
千里に扮している《こうちゃん》が姿を消したまま付いてきている《すーちゃん》に視線をやる。《すーちゃん》は頷いて、信子を守るようにその傍で休んだ。
 

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この日のレオパルダの練習は体育館の電気系統の不調で17時すぎに打ち切られた。これは日没してしまうと練習にならないので、その前に全員帰られるようにしようということでの早めの打ち切りである。
 
(11月12日のグラナダの日没は現地時刻18:02)
 
それで千里はシャワーを浴びて17:20頃に日本に戻してもらったが、この時、インプの車内に《こうちゃん》が居て、《すーちゃん》は道の駅の施設の中にいたので、《きーちゃん》は千里を《こうちゃん》と入れ替えた。これが日本時刻では11/13 1:20頃である。
 
みんな車内で寝ているので千里も寝るしかないようである。それでトイレに行ってきてからと思い、車を出て道の駅のトイレに向かう。すると冬子も起きたようで、一緒にトイレに行った。
 
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冬子は千里を心配するように言った。
 
「千里、8月頃にもしかして何かあった?」
 
千里は泣くような笑うような混乱した表情で答えた。
 
「言えるようになった頃に、言うことにする」
「うん」
 
ただ千里はひとこと言った。
「私、悪い女かも」
 
冬子は少し考えてから答えた。
 
「たぶん開き直ればいいと思う」
 
すると千里も少し考えてから笑顔で答えた。
 
「そうする」
 
しかしこの夜《こうちゃん》は思っていたより早い時間に、千里の代わりにスペインに飛ばされてしまったので、信子に“おいた”をすることはできなかったのであった。
 

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11月13日は早朝から出発する。信子は道の駅を出発する時まだ寝ているようだったので、
「何か困ったことがあったら遠慮無く連絡してね」
というメモを冬子の携帯番号と一緒に書いて残しておいた。
 
(冬子は迷惑電話対策で数ヶ月おきに電話番号を変更するので、こういう時に教える番号としては最適である)
 
朝山神社と須佐神社を見てから10時頃に出雲大社に戻り、神在祭の行事を見学した。信子ちゃんもどこかでこれを見学しているのかな?などと千里も冬子も考えていた。
 
この日は神在祭を見た後、万九千社を見てから松江に移動し、お昼には宍道湖七珍の料理を食べる。その後、八重垣神社・神魂神社・熊野大社・須我神社・玉造湯神社を見てから、日没の時間に日御碕神社に行った。夕日の日御碕神社は龍宮のように美しかった。
 
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「ところで今夜も車中泊?」
「松江市内に宿を取っているよ」
「やった!」
「但し6畳の部屋1つだから、そこに4人寝る」
と冬子が言うと
 
「寝られるの〜?」
と不安そうな政子の声。
 
「私は高校時代の合宿で6畳に8人寝たりしてたよ」
と千里が言うので
 
「それは凄い!」
という声があがっていた。
 

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「でも千里、インプレッサを自由に使えるのに、別にミラを買ったのね?」
と政子が訊いた。
 
「あれはリハビリ用、兼、街乗り用かな」
「へー!」
 
「大学1年の時に買ってファミレスへの通勤とかに使っていたスクーターが最近調子悪くて困ってたんだよね。それで主として通勤にミラを使う」
「なるほど」
 
「それと冬子に指摘されたけど、8月に私、ちょっと辛いことがあって落ち込んでたんだよ。偶然通りかかった車屋さんで3万円のミラを見て、あ!安い!と思って衝動買いして、それで青森から宮崎まで走って来たら、かなりスッキリした」
 
「3万円は凄い」
「たくさん走るとスッキリするよね」
「車の衝動買いかぁ」
「ストレスあった時は無駄遣いすると気持ちが晴れる」
「確かに確かに」
 
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それで松江市内まで辿り着き、予約していた旅館に向かっていた時、政子が
 
「停めて停めて!」
と言うので千里はブレーキを踏み、車を脇に寄せて停める。するとすぐ近くに《鳥取方面》と書いたホワイトボードを掲げた信子がいた。
 
「まだ、このあたりにいたんだ?」
と助手席のゆまが窓を開けて声を掛けた。
 
「あ、どうも昨夜はお世話になりました」
と信子。
 
「大変そうね」
と政子。
 
「東京から出雲までも4日掛かりましたから、帰りもそのくらい掛ける覚悟で」
 
「着替えとかどうしてるの?」
「荷物になるから2着だけ持って来て実はもう2度着替えてしまいました」
「お風呂とかは?」
「トイレの中で、ボディ用のウェットティッシュで全身拭いてます」
 
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すると政子が言った。
 
「私たち、今夜は松江市内の旅館に女の子4人で六畳の部屋1つに泊まり込むんだけど、信子ちゃんも一緒に泊まらない?」
 
するとさすがに信子は
 
「それはまずいですよぉ」
と信子は言っている。信子は当然性別問題を考えている。
 
「大丈夫だよ。信子ちゃん、女の子だもん」
と政子。
 
「え?でもちょっと私特殊事情が・・・」
「平気平気。こちらも変な人多いし」
と言っていたら、
 
「あれ?女の子4人と言いました?」
と言って信子がゆまを一瞬見る。それで冬子と千里は一瞬視線を交わした。
 
信子はゆまを男性と思っているのである。
 
「1部屋しか取れなかったから、ゆまちゃんも今夜は女装して女の子になってもらうから」
と政子が言うと
 
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「わぁ。ゆまさんがいるなら、私もいいかなあ」
と信子は言った。
 

それで結局6畳の部屋に男1人女4人?で泊まり込むことになったのである。旅館で宿泊手続きをしていたら
 
「あれ?男の人も混じっているんですか?」
と番頭さんに訊かれる。
 
信子がギクッとした顔を見せたが、番頭さんは、ゆまを見ている!
 
それで千里が
「この子、男の子に見えるけど一応女なんですよ。スポーツとかするので髪を短くしてるんです」
と言うと
 
「ああ。女性5人だったらいいです」
と了承してくれた。
 
「食事を1人分多くしてもらえますか?」
「はい。それは大丈夫ですよ」
 

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なお旅館代・食事代については、千里が
「冬子はお金持ちだから、遠慮無くおごってもらうといいよ」
と言ったので
「すみません。だったらおごちそうになります」
と信子も言っていた。
 
この日の夕食では、政子待望の松葉蟹ほか、アオリイカ・ヨコウなど海の幸をたっぷり食べた。政子がたくさん食べるし、千里やゆまも結構食べるので、松葉蟹は3杯完食し、その食べっぷりを気に入った旅館の人から紅ズワイガニの足まで5本もらったが、それもペロリと食べ尽くした。
 
この食事が終わった所で千里(本人)は《こうちゃん》と交替でスペインに戻り、レオパルダの練習に参加する。日本に戻ってきた《こうちゃん》は指を折ってワクワクした気持ちで信子を見つめていた。
 
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