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■娘たちの悪だくみ(6)

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4月5日の夜、千里が葛西のマンションで作曲作業をしていたら、バスケ協会の強化部長・吉信さんから電話が入る。
 
「村山さん、君の現在の登録は?」
「すみません。3月31日まではローキューツに籍だけ置いていたのですが、更新しなくていいと伝えたので、4月1日以降は無所属です」
 
「だったら君に所属をつけてあげるよ」
「え?」
「君を特別強化選手として、スペインに派遣したいんだけど」
「スペインですか!?」
 
「スペインは若手の強化システムが凄いんだよ。それでLFB(Liga Femenina de Baloncesto, スペイン女子バスケットボールリーグ。baloncesto=basketball)のレオパルダ・デ・グラナダ(Leoparda de Granada)という所の育成チームに合流して欲しい。受入れ側の居住許可証は取得した。君、スペイン語はできたっけ?」
 
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「私、小さい頃にアルゼンチン出身の友人が居て、彼女が話すスペイン語はけっこう覚えたんです。でも本国のスペイン語とは少し違うと思います」
 
「ああ、でもアルゼンチンのスペイン語ができたら、たぶんすぐに本国仕様のも覚えられるよね?」
「そんな気はします」
 
「それで9月までの約半年間」
「半年・・・」
「10月からは国内のWリーグのチームを紹介するからさ。そこの育成選手になってよ」
「そうですね・・・・・」
 
千里もそろそろWリーグに行く「年貢の納め時」かもという気はした。育成選手になれば来期からはそのままトップチーム入りの可能性が高い。この時期Wリーグはリーグが開幕するのが秋なのに選手登録は春までに終わっていなければならないという不思議なシステムになっていた。だから今年5月までに登録されていない選手はその後チームと契約しても10月か11月に始まるWリーグの試合に出場できない。
 
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「派遣の費用、渡航費・向こうのチームに支払う研修費は協会が払う。現地での交通費、滞在費は自己負担。そのあたり細かい規定は追ってメールするけど、結果的にはたぶん生活費を含めて個人負担が申し訳無いけど月10万円くらい発生することになると思うんだけど」
と吉信さんは言うが
 
「ああ、その程度は全然問題無いです」
と千里は言った。
 

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「それでね。これ君のことを知っているある人物(*2)と話したことなんだけど、プライベートなことに突っ込んで申し訳無いけど、婚約破棄は物凄いショックだったと思う。君はきっと新しい土地で少し時間を過ごした方が復活できると思う」
 
「そうかも知れませんね・・・」
「君のパスポートの期限はいつだっけ?」
と訊かれたので千里は自分の常用バッグの中からパスポートを取りだした。
 
「2015年4月まで有効です(*3)」
「だったら大丈夫だね。すぐに渡航のために必要な手続きを進めるから、ビザとかが取れたらすぐ向こうに飛んでくれる?」
「分かりました。行ってきます」
 
千里もここはいったん“退却”して出直した方が良さそうな気がしたのである。現状では貴司の愛人にはなれるかも知れないが、今彼は自分と婚姻するつもりはあまり無い気がしたのである。千里が積極的に貴司を誘惑するから、その生理的快感を貪っているだけなのではなかろうかと、貴司の心に疑問さえ感じる。
 
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だって私がおちんちん刺激しても大きくならないし。私とはしばらく性的なことはしないつもりなんだろうな、などと千里は思っているが、大きくならないのは理歌たちの呪いのせいである。
 
「取り敢えずパスポート番号教えて」
「はい。M*-*******です」
それで復唱確認して、吉信部長はすぐに手続きをするということだった。
 

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(*2)そのことはずっと後に知ることになるが、千里をU18-21で指導したアンダーエイジ日本代表の高田裕人コーチ(札幌P高校コーチ)である。高田は実際には佐藤玲央美および藍川真璃子ともかなり話し合って千里の育成チーム派遣を決めた。高田は千里がスペイン語ができることを知っていたし、玲央美も真璃子も「あの子はお金持ちだから少々費用が掛かるのは問題無い」と言った。レオパルダは真璃子がコネを持っていた。
 
(*3)これは“パスポートF”である。実は千里がU18アジア選手権に出るために取得したパスポート(パスポートM)はこの年の5月に期限が切れる。それで、きーちゃんがもうひとつのパスポート“F”の方と入れ替えておいたのである。Mのパスポートも、きーちゃんの手で延長手続きがなされることになる。
 
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「きーちゃん」
と千里は呼びかけた。
 
「言わなくてもいい。私が院生してあげるよ」
「ごめーん」
 
千里は今年はバスケ活動もしないつもりだったので、大学院に真面目に通学しようかなと思っていたのだが、スペインへの派遣ということになり、それは不可能になった。
 
それで《きーちゃん》に代理で通学して欲しいという話なのである。
 
「神社の巫女のほうもだよね?」
「うん。頼める?」
「まあ頑張ってみるよ。疲れたら巫女は辞職してもいい?」
「うん。その時は相談して」
 
「あと、てんちゃん、すーちゃん」
「何となく用事が分かる」
「申し訳無いけど、市川ラボの貴司の部屋に食糧の適宜追加と洗濯・掃除とかを頼める」
「まあいいよ」
 
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「ファミレスの方はどうする?」
「もう退職していいよ」
「じゃ話してみる」
 
しかし彼女らがファミレスに退職したいと伝えたら、これからゴールデンウィークだから今辞められるのは困ると言われ、それが終わったら退職しようとしたら、今人手が足りないからもう少し待ってと言われ・・・ということで、お仕事は続いて行くのであった。結局2人の他にいんちゃんも入れて、一週間交替で市川町と千葉でミッションをすることになる。移動は新幹線で眠っていった。
 

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半年間滞在するので、スペインの就労ビザを取らなければいけない(通常のシェンゲン圏共通ビザでは90日間しか滞在できない)。そのために健康診断を受けてくれと言われたので、翌4月6日千里はバスケ協会に行って用紙をもらった上で、指定された病院に行き、健康診断を受けた。
 
これが“ごく普通の”健康診断だったので、千里はホッとした。
 
思えば健康診断と言われて随分性別検査をされたよなあ、などと思う。千里の書類はもう完全に女性になっているので、今後ああいう検査を受けさせられることは・・・無いといいなあ。
 
健康診断は半日で終わり、またバスケ協会に戻ってパスポートとともに診断書を提出した。
 

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千里のビザはすんなりと4月12日(金)には発行されたので、スペイン大使館に自分で行って受け取ってきた。そして千里は4月13日にはフランスのシャルル・ド・ゴール空港への飛行機に乗っていた。
 
NRT 4/13 21:55 (AF277 12'55) 4/14 3:50 CDG
CDG 4/14 _7:00 (AF1000 2'05) 9:05 MAD 12:10 (IB8642 1'05) 13:15 GRX
 
この当時はスペインへの直行便が無かった(2016年復活)ので、パリ経由で飛行機を乗り継いだ。グラナダはスペイン南部なので、マドリッドから飛行機で1時間掛かる(鉄道(AVE)あるいは高速バス(ALSA)なら4時間半〜5時間)。
 

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レオパルダの本拠地はグラナダ郊外にあった。事務所らしき所に行き
 
「ブエナス・タルデス。メジャモ、チサト・ムラヤマ、デ・ハポン」
Buenas tardes. Me llamo Chisato Murayama de Japon,
 
と言うと
「おお、セニョリータ・ムラヤマ(*4)、お待ちしておりました」
Oh!, Srta. Murayama. Te estamos esperando.
 
ということで、取り敢えず中に通されてマネージャーの方と色々お話をした。
 
しばらく話をしていて
「あなたは日系アルゼンチン人?」
などと訊かれる。
 
「すみませーん。アルゼンチンの友人からスペイン語習いましたが、日本人です」
と答えておく。
 
「なるほどー」
「こちらに少し居れば本場のスペイン語も覚えると思います」
「バレ(OK)。でも普通に会話するには問題ないみたいね」
 
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(*4)スペイン語のセニョーラ・セニョリータの使い分けは、フランス語のマダム・マドモワゼルの使い分け感覚と似ている。既婚・未婚はあまり関係無い。むしろ成人女性であればセニョーラでよい。セニョリータというのは「こども」と分類された女性に対して使用するので、セニョーラと呼ぶべき所をセニョリータと言うと、怒る人もいる。
 
もっとも1970年代頃まではセニョーラ・セニョリータ/マダム・マドモワゼルは英語のミセス・ミス同様に既婚か未婚かで使用されていたので、年配の人の中にはそういう使い分けをする人もいる。
 
しかし、スペイン本国では(南米はまた違うかも)、独立した技能を持った女性は、年齢や婚姻歴に関わらずセニョリータと呼ぶ習慣がある。フライト・アテンダントとか教師などは40歳でも50歳でもセニョリータである。これは日本語の「お姉さん」という呼びかけの感覚に近い。レストランでウェイトレスを呼ぶ時もセニョリータである。
 
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だから20代の客が40代のウェイトレスと会話する時、20代の客は40代のウェイトレスをセニョリータと呼び、40代のウェイトレスは20代の客をセニョーラと呼ぶ!
 
そういう訳でこの場合は千里は《スポーツ選手》という特殊な技能者なので、たぶんセニョリータで良い。
 

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事務所で1時間ほど話した後、体育館に行きチームの人たちに紹介され、早速お手並み拝見ということになる。
 
まずは挨拶代わりにスリーを連続30本入れると育成チームのメンバーがシーンとしていた。
 
「育成チームじゃなくてトップチームに行った方がいいのでは?」
などと言われる。
 
「でも私これしか才能が無いので、きっとマッチングでは皆さんに負けます」
というと
 
「やってみようよ」
と28の背番号を付けた175cmくらいの黒人女性が言い、彼女と攻守10本ずつやった。
 
確かに彼女は強い。千里は2〜3割しか勝てなかった。
 
「やはり私は弱い」
と千里は言ったが、
 
「リディアにこれだけ勝てたら充分強い」
という声があった。
 
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「動体視力が物凄くいいみたい」
とも言われたが
「相手の身体に触れずにボールを弾くのは得意です」
と言うと、みんな感心するように頷いていた。
 
ともかくも千里はこのチームにすぐに受け入れられたようであった。
 

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「君の名前はこれ、チサト・ムラヤマでいいの?」
「はい、読み方はそれでいいです」
「チサトってちょっと長すぎる」
「でしたらコラ(cola)で」
「あ、あんたの髪、しっぽ(スペイン語でcola)みたいと思った!」
「じゃコラで」
 
「ちなみにお股にはコラは付いてないよね?」
「ああ。あったけど、邪魔だから幼稚園の頃にハサミで切っちゃいましたよ」
「マジ!?(En serio?)」
 
「希望の背番号とかある?」
「もし33が空いていたら」
「33付けてた**が3月で引退したんだよ。だったらそれあげるよ」
「グラシアス」
 
(スペイン語の c の音は英語のthの音に近い。それでGraciasはグラシアスと音写されることが多いがグラチアスにも聞こえる)
 
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そういう訳で三木エレンから将来付けるといいと言われていた背番号33はこのレオパルダで最初に付けることになったのである。
 

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滞在が長期間に及ぶが、バスケ協会がチームを通してアパートを借りてくれていたので、そこに入居することになる。それで事務局で鍵をもらい、最初は場所に案内してもらったが、本拠地の体育館から1kmほど離れた所にあった。部屋は日本で言えばワンルームマンションという感じで家具付き・駐車場付きで家賃460eur(約6万円)であるが、これは自分で払ってと言われた(但し家賃の半額相当が協会から補助される)。千里がクレカ払いでもいいかと訊くと「バレ」といわれるので、“例の”カードを提示したら、相手が目を丸くしていた。
 
銀行口座も必要なので、チームの事務の人に同伴してもらって大手銀行BBVAに口座を作る。取り敢えず4000ユーロ(約50万円)入金しておいた。スペインのトップ銀行はサンタンデール銀行でBBVAは2位の銀行だが、ここは南米やアメリカでも展開しているし、東京支店もあるので何かと便利だろうと事務の人は言っていた。
 
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結構な金額をいきなり入金したので、銀行の副支店長がレオパルダの人に
「この人の給料はいくらですか?」
と尋ねた。
 
「給料は2000ユーロ(これは育成費と相殺されるので実際にはもらえない)だけど日本バスケット協会から派遣されてきた育成選手です」
 
「あなたの昨年の収入は?スペイン語分かるかな」
と今度は千里に直接尋ねる。
 
「昨年1-12月の間の収入は150万ユーロくらいです」
と千里は流暢なスペイン語で答えた。
 
「・・・・・」
 
それで銀行は千里にクレジットカードも即交付してくれた!
 
しかし実際問題として“例の”カードは日本経由の国際決済になるので、直接ユーロで決済できるこのBBVAのマスターカードはその後も重宝することになる。
 
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育成チームの練習は基本的には試合が無い日は、平日の夕方6〜9時の1日3時間ということである。これは学生さんが参加できるようにするための設定である。但し午後2〜5時に任意参加の練習もあるので、千里は当然それにも参加する。午前中は自由時間ということのようである。
 
ESP(CEST) 14:00-17:00 = JST 21:00-24:00
ESP(CEST) 18:00-21:00 = JST Next day 1:00-4:00
 

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娘たちの悪だくみ(6)

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