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■娘たちの危ない生活(10)

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『千里は大学生を辞めるべきではないと思う』
と《びゃくちゃん》が発言した。
 
『なぜ?』
 
『千里は大学生というのを隠れ蓑にして、現在の曖昧な性別をそのままにしている。これが大学生をやめて社会人になったら、男か女か、どちらかに強制的に分類されることになる。でもそれは千里が性転換手術を受けることになっている2012年7月まで保留していた方がいいんだよ。そうしないと矛盾点が大量に吹き出して、千里の存在そのものが歴史から抹消されるよ。これは大神様にも助けられない』
 
歴史から抹消されるのは嫌だな、と千里も思う。
 
『確かに学生だとそのあたりのモラトリアムがあるよね』
 
『実際、モラトリアムをむさぼるために学生やってる人も多いでしょ』
『確かにそれはそういう子が結構いる』
 
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紙屋君とかどうするんだろう?と実際千里は心配している。
 
『しかし千里が言うようにもう掛け持ちは限界に達していると思う』
と《りくちゃん》が言った。
 
『千里は学生生活で授業に出ている時間だけで6時間×5日=30時間、その準備のために同程度の30時間、バスケの練習を平日5時間・土日10時間で45時間、作曲作業で40時間くらい使ってる。これだけで145時間。1週間168時間から引くと23時間しか無い。全部睡眠に当てても1日3時間ちょっとしか寝られない。食事や風呂の時間も考えたら、既にオーバーフローしている』
と《りくちゃん》は詳細な分析を言う。
 
『実際千里の作業のかなりを俺たちが現実に代行してるもんなあ』
『Cubaseに打ち込むのは最近ほとんど私がやってる気がする』
『千里は移動時間はほとんど寝ている。誰かが代わりに身体を動かしてる』
 
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『それ以外でもファミレスと神社でバイトしてる』
『そのバイトはどちらも辞めるべき』
『同感、同感』
『でもそれは千里の収入をカモフラージュするために必要なんだよ。作曲家をしていることはあまりオープンにしたくない』
『神社は?』
『俺たちの餌場として重要』
『それがあるんだよなあ〜』
『極めて強烈な邪気を帯びた奴が来るからなあ』
 
『だったらさ』
と《とうちゃん》が言う。
 
『俺たちの餌場の確保もあるのなら、千里の生活の一部を誰かが常時代行するしかないと思う』
『誰が?』
 
『神社のバイトは貴人にしかできんな』
『え〜〜〜!?』
『だって、龍笛を吹けるのは貴人だけ』
 
『ファミレスのバイト、私がしてもいいよ』
と《てんちゃん》が言う。
『じゃ、その2つのバイトはそれで決まり』
と《せいちゃん》。
『ちょっとぉ。決まりなの?』
と《きーちゃん》が文句を言っている。
 
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『あとは、学生と作曲とバスケのどれかを誰かが代行すればいい』
『作曲は千里本人にしかできん』
『Cubaseの入力は大裳やってやれよ』
『まあ今でもやってるからね。それでも千里の作業が半分はある』
 
『バスケも千里本人にしかできん』
『そうなると、取り敢えず大学卒業まで誰か千里の代わりに学生をするしかない』
『誰がする?』
『理系の話が理解できる奴でないと無理』
『それは青龍か、白虎か、貴人だ』
 
『私は生物とか医学に化学までは分かるけど高度に専門的な数学は分からない』
と《びゃくちゃん》。
『俺は男だぞ。女の千里の代理をするのは無理がある』
と《せいちゃん》。
 
《きーちゃん》はため息をついて言った。
『しょうがない。私が神社のバイトと学生の2役してあげるよ。神社は基本的に土日だけだし』
 
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『そしたら、千里は作曲とバスケに専念すればいい』
と《とうちゃん》が結論付けるように言った。
 
『ほんと?きーちゃん、てんちゃん、ごめんね』
 
『まあ、私たちは過去にかなり眷属使いの荒い宿主とたくさん付き合っている。千里はそういう人たちに比べたら、私たちをとても大事にしてくれている。だから、2〜3年くらいなら、何とか代理してあげるよ』
と《きーちゃん》は笑顔で言った。
 
そういう訳で千里はこの後、学部時代の後半2年間は、基本的に大学には行かないことにしたのである!
 

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千里は、桃香の部屋に置かせてもらった荷物の内、書籍のスキャン用に購入したパソコン・スキャナ&プリンタのセット2台を新しいマンションに移動した。また楽器類もほとんどをそちらに移した。他にあちこちでもらった、賞状やメダルの類いも移した。
 
家具屋さんで2段ベッドを買ってきて、下の段は外して収納空間として使う。寝る時はこの上段で寝ることにする。
 
(このマンションは誰にも秘密にして貴司にさえ教えない)
 
千里がここにワンルームマンションを借りたのは、自分でも分からない何かの予感で、賞状やメダルの類い、それに作曲関係のデータなどを一時的に桃香のアパートに移していたものの、あそこは多人数が出入りするので、セキュリティを考えてもあそこには置けないこと。むしろ自分の住居と分離した方がいいと考えていたこと。
 
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それともうひとつは桃香と同居するのはいいが、桃香が恋人を連れ込んでいる時に千里自身が寝る場所をどこかに確保しておく必要があったことである。
 
そしてどうせそういう場所を確保するなら、駐車場のそばがいいなと考えたのであった。それで不動産屋さんに「代わりの住まい」という名目で探してもらった。このワンルームマンションは千里が貴司・桃香および4人の子供と一緒にさいたま市内の一軒家を買って暮らし始めた2020年の末まで10年ほど使うことになる。
 

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C大学は現在、春休みに入っているが、桃香はバイトに明け暮れていた。追試代わりのレポートは3本ともちゃんと認めてもらい、留年は免れた。
 
2年から3年に進級する際、数物科の数学コースの中でも更に基礎数学分野と情報数学分野に分けられることになる。ここで桃香は情報数学を希望した。正直、桃香には代数や解析の難しい話がさっぱり分からないのである。それでコンピュータとかの話なら大丈夫だろうという考えである。朱音はSEになりたいというので情報数学の選択、友紀と美緒は学校の先生を志すということで基礎数学の選択である。
 
さて・・・千里は情報数学を選択した。それは千里は数学基礎論をやりたいと考えていたからである。いくら《きーちゃん》に任せるといっても、出席できる範囲では出席したい。その時、集合論・数理論理学などの話は大いに興味のある所だ。《きーちゃん》も集合論・カテゴリー論などは勉強したことがあるということだったので、これを学べる筧井准教授のゼミに入りたいと考えた。すると筧井先生は、情報数学なのである。
 
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数学の中でも最も純粋に数学的で、基礎数学の中でも最も基礎である数学基礎論が多くの大学で情報数学コースや応用数学コースに置かれているのは、それがコンピュータの基礎理論だからである。コンピュータという仕組みは20世紀初頭に数学基礎論の中で「計算可能とはどういうことか?」という考察が行われた時に複数の研究者が考え出したチューリング機械という仮想の機械から出発している。それで数学基礎論はコンピュータの関連研究ということで情報数学の中に置かれてしまっているのである。
 
そういう訳で結果的に千里と桃香は同じコースに進むことになった。
 
数物科の女子は従って次のように別れることになった。
 
基礎数学 友紀・美緒
情報数学 千里・桃香・朱音
物理学 真帆・玲奈
 
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但し千里は情報数学ではあっても数学基礎論の専攻であれば基礎数学分野の代数や幾何・解析などの単位も取っておく必要がある。カテゴリー論がその付近ともクロスオーバーしているのである。逆にプログラミングの実習などは課される時間数が短くなる。
 

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ところで、お正月にもらってきたブリは2月の中旬にやっと全部消化することができた。毎日食べていたらもっと早く無くなっていたのだろうが、さすがに飽きて来て最後の方は週に1度くらいしか食べていなかった。
 
しかし千里が桃香の所に来て以来、桃香は朝御飯を毎日食べることができるようになっていた。また遅刻せずにバイト先に行くこともできるようになり
 
「最近ちゃんと出てきてるね。偉い偉い」
などと所長に褒められた。
 
千里がごはんを作ってくれるのは、桃香のアパートに泊まりに来る朱音や玲奈などにもメリットをもたらす。確実にごはんが食べられるし、何か予定があるのを言っておけば、ちゃんと起こしてくれるのである。それで朱音たちまで
 
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「千里はずっとここに居てくれていいからね」
と言っていた。
 
「千里はもうこの宿舎の寮母さんだな」
などと桃香まで言っていた。
 

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2月17-20日の4日間は東京北区のNTCでU21代表の第3次合宿が行われた。
 
今回の合宿では、元NBAのジョージ・メイスン氏を招き、その指導を受けることになった。こういう大物を招聘できたのは、実は藍川真璃子のコネである。メイスン氏の従姉でWNBAに所属していたこともあるメアリー・メイスンがギリシャのチームに居た時、藍川の指導を受けたことがあったのである。
 
U21のメンバーは全員ひととおり英語はできる(将来のWNBA進出可能性を考えてちゃんと勉強している子が多い)ので、ほとんどの子がメイスン氏と通訳無しでコミュニケーションできた。特に千里・玲央美・彰恵・王子の4人は全くストレス無く英語が話せる。やや怪しかったのがサクラと朋美だが、他の子が通訳してあげて、何とかなっていた。
 
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それで最初は協会の通訳の人が入っていたのだが、どうしてもワンクッション入る形になるので1日目の途中から「君はもういいよ」と言われて、全員英語で直接やりとりするようになった。
 
メイスン氏の指導はシンプルである。
 
「バスケットは点をたくさん取った方の勝ち」
「相手が戻る前に点を取れ」
「相手の虚を突け」
 
といったことであった。
 
それで特にファーストブレイクの状況をかなり練習した。
 
メイスン氏は世界と戦う場合、日本人は背丈が無いのが絶対的に不利だから、その分早く動き回らなければならないと言った。それはまさに日本のバスケットの基本であり、昨年U17の監督を務めた城島さんなども言っていたことであった。またメイスン氏は、速攻で使えるいくつかのフォーメーションを教えてくれた。その方法は、千里たちには結構新鮮に見えた。
 
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しかしこの4日間はひたすら走る4日間にもなった。メイスンは選手たちを本当にたくさん走らせた。練習を始める前にコートの端から端まで28mのダッシュを50本やる。練習がひととおり終ってから陸上競技場で10km走らせる。全員ヘトヘトになって宿舎に辿り着き、シャワーを浴びてから死んだように寝ていたが、物凄く充実した4日間でもあった。
 

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合宿は2月20日の夜8時に終わったのだが、シャワーを浴びて着換えて玲央美と一緒に退出しようとしていたら、バスケ協会の赤井さんからメールが入っているのに気付く。手が空いたら事務局の方に来て下さいとある。
 
「あ、私も同じメールが来てる」
と玲央美が言うので一緒に行くことにする。
 
「ああ、お疲れ様です。あと高梁さんも呼んでいるので彼女が来てから」
と赤井さんが言うが
 
「高梁はきっとメールなんて気付きません」
と千里も玲央美も言った。
 
それで結局赤井さんは王子の部屋まで行って直接連れてきた。部屋で寝ていたらしい。
 

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「正式には3月14日に発表予定なのですが、あなたたち3人を日本代表フル代表として召集しますので、よろしくお願いします」
と赤井さんは言った。
 
「代表候補・・・ですよね?」
と玲央美は確認を求めたが
「いえ。この3人は確定です」
 
「おぉ!」
などと王子は言っているが、千里と玲央美は顔を見合わせた。
 
「結局、フル代表の監督は誰がするんですか?」
と玲央美は尋ねた。
 
「アジア選手権は暫定的に、一昨年U16、昨年U17を率いた福井W高校の城島さんが指揮します。あなたたち3人は城島さんのご指名です」
 
「学校の方はどうするんです?」
「インターハイ本戦の時期だけ学校に戻ります」
「大変ですね!」
「基本的にフル代表の監督は専任になってもらう方針なんですけど、どうしても適当な人がいないので、兼任という条件で城島さんが引き受けてくれたんですよ。何人か絶対このメンツは入れてくれという指名も条件で、その条件を協会は受け入れました」
 
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「他にはどういう人が指名されたんです?」
「ここだけの話にしてください。羽良口さん、横山さん、花園さん、馬田さん。あなたたちも入れて7名。あとの5人は候補者の中から調子を見て選定」
 
「私たち3人は置いといてその4人は外せないと思います」
と千里は言った。
 
「これもここだけの話ですが、どうも外人さんの監督を上は考えているみたいですね。でも交渉に時間が掛かっている」
「うーん。。。」
「だから今年のアジア選手権を城島さんで乗り切り、来年のロンドン五輪は外人さんの監督で行こうということのよう」
と赤井さん。
「ロンドンに行けたら、ですよね」
と玲央美が言う。
 
「まあそれが問題なんですけどね」
と赤井さんも言った。
 
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来年2012年のロンドン五輪に出るには、今年8月のアジア選手権(大村市)で優勝するか、3位以内に入って2012年6月にトルコで開かれる最終予選に行き、そこで5位以内に入ることが必要である。
 
赤井さんからは、U21が終わるまでは、U21の合宿とフル代表の合宿の掛け持ちになるので大変だとは思いますがよろしくお願いしますと言われて会談を終えた。千里と玲央美はそのまま退出するが、王子は今夜はこのままここに泊まって明日の朝の新幹線で帰ると言っていた。
 

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「だけどそうなると、実際問題として今年の前期も千里、ほとんど大学に行けないのでは?試験はレポートに代えてもらえるかも知れないけど、そんなに授業に出られない状態で、大学に行く意味ってあるの?」
 
と玲央美は帰りの車の中で千里に言った。
 
親友だからこそ言える核心を突く発言である。
 
「それ悩んでいるんだけどね〜」
と千里も言った。
 
一応先日、眷属たちとの話し合いで、4月以降、学校への出席は《きーちゃん》が代行してくれることになった。しかし本当にそれでいいのか、千里はまだ悩んでいた。
 
「今ならまだいくつかWリーグで来年の枠が完全には固まってないチームあるよ。もし行く気があったら、私連絡してあげるよ」
「ありがとう。もう少し悩んでみる」
「あまり悩んでいると、どこも16人の枠、埋まっちゃうよ」
「うん。分かってる」
 
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それで玲央美とは別れて、桃香のアパート方面へ車を向けた。
 

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娘たちの危ない生活(10)

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