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(C)Eriko Kawaguchi 2017-07-22
千里はフランス遠征が終わって解散した後、車で千葉市に戻り、自分のアパート近くの月極駐車場に駐める。そして荷物を持ってアパートまで戻ったところで
・・・・唖然とした。
「何これ〜?」
と声を挙げる。
そこには瓦礫の山があったのである。
しばらく呆然として見ていたが、立札が立っているのに気付く。
「住民の方へ。**不動産千葉北支店までご連絡ください」
とあるので電話してみた。
「ああ、村山さん!連絡が取れなくて困っていたんですよ。ご実家の方にも電話が繋がらないし」
電話が繋がらないって、また電話料金未払いで停められたのか?
「ええ。仕事でしばらく留守にしてたんですよ。それで、アパートが瓦礫の山になっているのですが、何があったんですか?」
「26日の夜から27日朝にかけて大雨がありましてね。その時にアパートが崩壊してしまったんですよ。誰か生き埋めになっているかも知れないというので、警察・消防でかなり捜索したのですが、誰もいないようだということで。住人と連絡が取れないというので、警察もかなり焦っていたようなのですが」
あはは・・・
「どうしても遺体とか見つからないので、恐らくは旅行中だろうということになりまして」
「海外に行っていたので」
「そうですか!よかった。では警察の方にはこちらから連絡しておきますので」
「分かりました。でも、これ部屋にあった荷物とかは?」
「こちらのスタッフで回収できるだけは回収しましたが、洋服などは泥まみれですし、本とかもかなり濡れているのですが。支店に来て頂ければお渡しできます」
「分かりました。参ります」
それで取り敢えず行ってみたが、回収したものは取り敢えず、不動産屋さんが所有している倉庫に置かれているということで、そちらに一緒に向かった。どうもかなり悲惨な状況である。
「洋服類は取り敢えず洗ってみて、ダメだったら捨てるしかないかなあ」
「泥はなかなか落ちないんですよね」
と不動産屋さんも言っている。
夏物衣料とか高い服などは桃香のアパートに持ち込んだ段ボールに入っている。また日常的な着換えも半分くらいは桃香のアパートに持ち込んだ衣装ケースに入っている。ここにあるのは、冬物の着換えの一部と、貴司が置いていた男物の服である。また書籍類については、ふだん使いの本や辞書類は桃香のアパートに持ち込んだ本棚に入っている。ここで被害に遭ったのは、主として使用済みの教科書類や漫画や小説、雑誌の類である。
あちこちでもらった賞状やメダルの類い、楽器やパソコン関係、楽曲のデータの入ったハードディスク、CD/DVD関係も雨漏りを恐れて桃香のアパートに運び込んでいたので無事である。
しかし・・・振袖をここに置いてなくて良かった!振袖2つの内、渋谷の呉服店で作ったものは桃香のアパート、鳳凰柄のは留萌の貴司の実家である。
それとアパートが崩壊したのが、倫代が退院した後で良かったと思った。倫代は19日に退院したので、ご両親も既に北海道に引き上げていたはずである。週末まで残っていたらやばかった。
それでいったん不動産屋さんに戻り、事務的な手続きをする。アパートの契約については解約ということにした。敷金を全額返してもらう。更にお見舞い金まで頂いた。
取り敢えず荷物を引き取らなければならないので千葉市内の友人からまたまた軽トラを借りてきて再度不動産屋さんに行った。“男手”があった方がよさそうなので、《こうちゃん》に20代くらいの男性に擬態してもらった。
「20代・・・に見えないんだけど?」
「そうか?」
「いっそ女の子になる?」
「男手が必要ということじゃなかったの?」
「オカマさんだと言えばいいよ」
取り敢えず《千里の従兄》ということにすることにした。
それでまた荷物の置かれている倉庫に向かう。
「では整理がついたところでご連絡ください」
と言って不動産屋さんはいったん帰る。
衣類・書籍類以外では、洗濯機、掃除機、エアコン、家電品類、本棚、調理器具類や食器類などがある。洗濯機は大きな木材か何かの直撃を受けたようで、見ただけで使用不能と思われたし、本棚は折れているし、食器類も陶磁器のものは全部割れている。千里の部屋は1階なので、落ちてきた2階の材木などに押し潰されたのであろう。
掃除機は使えそうだったし、エアコンも丁寧に掃除すれば使えそうな感じであった。ホットプレートやオーブントースターなどの家電品はきれいに水洗いして乾かせば復活しそうな気がした。鍋の類い、スプーンなどの金属製食器、パイロセラムの皿などは洗えば使えそうである。またバスケットボールが3個あったのも洗えば問題無いようである。靴類は半分くらい無事である。靴箱の中に入っていたからだろう。
廃棄するしかないものは、よければ不動産屋さんの方で処分してくれるということだったのでお願いすることにして、とりあえず仕分けをすることにした。
「書籍類は必要なら買い直した方がいいと思う」
と《りくちゃん》も実体化して見ながら言う。
「たいていは1年生の時や2年前期に使った教科書なんだよね。あとは漫画や小説の類い」
「タイトルを書き写してリスト作ってやるから、それで検討しなよ」
「そうする。じゃお願い」
それで《りくちゃん》《せいちゃん》《いんちゃん》の3人で手分けして雨と泥に濡れてしまった本のリストを作ってくれた。衣類は元々段ボールに入っていたものはかなり無事に近い。洗濯すればいけそうである。衣装ケースに入っていたものがダメージが酷いので、これを「洗ってでも何とか着たいもの」と「捨てても仕方ないもの」に分類を試みたのだが、何とか着たいものはあまり無かった。貴司の服がかなりあるので、貴司に電話してみた。
「貴司さあ、うちのアパートに置いていた貴司の服で、大事なものとかあった?」
「え?どうだっけ?どうかしたの?」
それで千里が昨日の大雨でアパートが崩壊し、洋服などが全部雨に濡れ泥まみれになったことを伝えると、貴司はびっくりしていた。
「それ千里、海外遠征中で良かったね!」
「ほんとほんと。中に居る時に、いきなり崩れたらびっくりするよ」
「びっくりするくらいならいいけど、生き埋めになったら大変だよ」
それで貴司もどうしても必要な服などは無いと思うということであった。それで結局、ダメージの酷い衣類と、書籍の大半は廃棄することにした。本は全部で600冊ほどあったのだが、陰干しなどすれば大丈夫そうなのが150冊ほど、復旧は困難ではあるものの再入手も困難で、何とかしたいのでページをスキャンしてデータで残そうということになったものが50冊ほど、そして漫画など、廃棄しても惜しくないものが200冊ほど、そもそも復旧不能なもの、激しく破れていたりバラバラになっているものが推定200冊ほどであった。
それで必要な物・使える物だけを《こうちゃん》《げんちゃん》《とうちゃん》で手分けして軽トラに乗せる。
仕分けができた所で不動産屋さんに連絡し、来てもらった。
「では残ったものはこちらで処分しておきますので」
「ありがとうございます。お手数お掛けします」
さて、これからどうするかと考えたものの、結局一時的にでも桃香のアパートに同居させてもらうしかないという結論に達する。それでまずは軽トラは崩壊したアパートの近くに借りていた月極駐車場にいったん駐め(荷台全体にブルーシートを掛けておく。このブールーシートも不動産屋さんが「これをお使い下さい」と言ってくれた)、そこに駐めていたインプで、桃香のアパート近くの駐車場に移動し、とりあえず海外に持っていったバッグを持ち、桃香のアパートに行った。
「あ、千里おかえりー。帰国したの?」
と桃香が声を掛けてくれる。
「うん。これお土産のボルドーワイン」
と言って、グラーブの赤と白を1本ずつ出して渡す。
「おお、凄い!本場物のワインだ」
と嬉しそうである。
「でも2週間の海外出張って大変だね。休む話は先生たちには通っていたみたい。ノートは玲奈たちが取ってくれてたよ」
「ありがとう。でも参った参った」
「何かあったの?」
「今日帰国したんだけど、うちのアパートが昨日の大雨で崩れちゃっててさ」
「え〜〜〜!?」
「取り敢えず桃香んちにしばらく泊めてよ」
「それはずっと泊まってていいよ」
と桃香は言った。
それで2人の「同居」(千里的見解)は始まったのである。
ちなみに桃香は「大雨でアパートが崩れたので」という部分はあまりよく聞いていなかったようである!
そういう訳で28日は取り敢えず桃香のアパートに泊めてもらったが、29日(土)はローキューツがシェルカップに出るので、稲敷市の江戸崎体育館に向かった。
衣類の洗濯、家電品の洗浄などは眷属たちにお願いする!実際には《いんちゃん》と《てんちゃん》で洋服をコインランドリーに持って行って洗濯乾燥を掛け、《りくちゃん》と《げんちゃん》で、家電品等の洗浄を桃香の!アパートの風呂場でしてもらった。ちなみに今日は桃香はバイトで朝から夕方まで不在である。
そういう訳で千里本人は、試合会場へ向かい、インプで走って行くので市内で何人かのメンバーを乗せて行った。
シェルカップはオープンな大会で、実業団、クラブチーム、高校や大学のチームなど色々なチームが出てくる。バスケ協会に登録のないチームも出てくる。先週既に1〜2回戦が行われており、この日は準決勝と決勝である。この試合には千里と誠美は出ないのだが、客席から応援する。
準決勝で当たったのは茨城TS大学であるが、向こうも彰恵と橘花はベンチに入っていない。スターターも1年生(自称TS大学マリーム)中心で、渚紗や桂華もベンチに座って様子を見ているだけの感じだ。千里と誠美がベンチにも入っていないのを見て、頷いている。彼女らは千里たちが出てきた時のために登録していただけという感じだった。
それでこちらも結局、麻依子と岬に薫はベンチに座っているだけで出ず、聡美中心に組み立てて試合を進めた。試合は接戦で最後までもつれる。向こうは桂華たちを投入するかな?と思って見ていたものの、最後まで出てこなかった。向こうも麻依子たちを投入するかな?と様子を伺っていた感じもあった。
それで結局62-64の1ゴール差でローキューツが勝った。
決勝点を入れたのは夏美であった。夏美と夢香は実力的には夢香の方が上で出場機会も多いのだが、お互いに良い意味でのライバル心を持っていて、この試合では2人が競うように点を取っていた。集計してみると、夏美が18点、夢香が16点取っていた。
試合終了後はずっとベンチに居た麻依子たちと桂華たちもベンチを出て、お互いに握手を交わした。客席の千里・誠美と彰恵・橘花も握手を交わした。
決勝戦の相手は茨城県のクラブチーム、サンロード・スタンダーズであった。昨年の関東クラブ選手権の準決勝で当たっているチームだ。向こうがフル戦力で来るようなので、こちらも麻依子たちを最初から出す。
昨年対戦した時は千里と誠美が入っていたが、今回はその2人抜きのオーダーである。序盤その戦力差で向こうが攻め立て、前半を終わった所で相手の8点リードであった。ハーフタイムに千里・誠美も入って検討する。それで相手の中心選手に薫が張り付くダイヤモンド1のゾーンで対抗することにした。
するとこれで相手の攻撃力をかなり削ぐことができた。一方でこちらは麻依子・岬・聡美が点を取りまくる。少しずつ追い上げていき、残り1分で追いつく。そして最後は司紗のブザービーターで1点差逆転勝利となった。最後決めた司紗が物凄く興奮していた。彼女はこの1年でほんとに成長した、と千里は思った。
優勝の祝賀会を稲敷市内のファミレスでしたのだが、その時、麻依子が思い出したように言った。
「そうそう。N高校の生徒で横田さんだっけ?」
「うん?」
「病気か何かで入院していたんだっけ?」
「まあ病気になるかな」
「それで入院中の暇つぶしにって、千里、その子に月刊バスケットのバックナンバーを貸してたんでしょ?」
「あ、うん」
「それ、退院する時に返そうと思ってたのに、うっかり先に千里のアパートの鍵を郵便受けの中に放り込んだ後で気付いたらしいのよ」
「あぁ・・・」
「それでどうしようかと思って、合宿やってた体育館に来てみたという所に私が居て」
「へー」
「それでそのバックナンバー、私が預かっているから」
「わぁ!」
あのバックナンバーが無事だったというのは嬉しい。自分が出たインターハイやウィンターカップの写真なども結構収録されていた。
「今私もなんか読みふけってしまっててさ。しばらく預かってていい?読み終わったら返すから」