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■娘たちの危ない生活(6)

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「うん、OKOK、ゆっくりどうぞ〜。私もしばらく仮住まいだし」
「それ大変だったね」
 
「何かあったの?」
「いや、一昨日の大雨で、私のアパートが崩壊してしまって」
「ありゃあ」
 
「それで今友だちのアパートに取り敢えず寄せてもらっているんだよ」
「大変だね!」
 
「どっちみち近い内に引っ越ししようと思っててさ、荷物半分くらいその友だちの所に置かせてもらってたから、ギターとかプライスレスな篠笛とか、あちこちでもらったメダルや賞状の類いとかは全部無事」
 
「それは運が良かった」
「賞状の類いがやられてたら悔やんでも悔やみきれない所だったね」
 
「プライスレスな篠笛って何?」
 
「それ、千里が高校時代に京都で不思議な人からもらった篠笛らしくて」
「うん?」
「どうも平安時代のものらしい」
「凄い!」
 
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「でも千里以外誰も吹けない」
「へ?」
「何人かの管楽器奏者さんに吹いてみてもらったけど誰も音が出せない。でも私が吹くとすごくきれいな音が出るのよね」
 
「それはたぶん千里が非常識だからだな」
「みんなから、そう言われる」
 
「そういう訳で、その笛は、ちゃんと吹けるものであれば数千万円の価値があるらしいが、千里以外誰も吹けないので、値段が付けられない。それでプライスレスらしい」
 
「凄いのか凄くないのかよく分からん」
 

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29日は祝勝会が終わった後も、麻依子たちと結構遅くまで千葉市内のファミレスで話して(話題はフランス遠征のことがメイン)から別れて帰ったので、桃香のアパートに帰還したのはもう夜中すぎであった。桃香は明日は朝6時から電話受付のバイトなので、良かったら起こしてと言っていた。
 
それで千里は朝4時半に起きて朝御飯を作り、桃香を起こして食べさせる。
 
「じゃ桃香、新しいアパートとか見つかるまで取り敢えずお世話になるけど、家賃は半々ということでいいのかな?」
「ずっと居てもいいんだけど。でも家賃は半々でいいかな。共益費込みで6000円だから、3000円ずつにしよう」
「じゃ取り敢えず2月分の3000円と1月分の日割り400円渡すね」
「細かいな!日割りはいいよ」
「じゃ、そこの招き猫ちゃんに入れちゃおう」
と言って、千里は招き猫の貯金箱に400円を入れた。
 
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それで朝御飯を終えるとバイトに出かける桃香を送り出したのだが、桃香が出がけに千里のお股に触るので、ギョッとする。
 
「ちょっと桃香!」
「ごめん。ごめん。出かけてくるね、ハニー」
などと言って桃香は千里な投げキスして出て行った。
 
「もう!」
 
千里は《いんちゃん》に訊いた。
 
『なんで私、また男の子になってるの〜?』
『これから夏くらいまでの間は、しばしば男になったり女になったりするみたい』
『いやだよー』
『男の子の時間が残っているんだから仕方ない』
 

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ともかくも、その日は、スーパーや家電量販店を巡り、取り敢えず必要なものを買いそろえた。洋服も結構買った。冬物衣料が投げ売りされているので、それを随分買ってきた。エアコンと、スキャナ付きプリンタ、FAX付き電話は修理に出してみることにした。ダメになった本を《りくちゃん》たちが作ってくれたリストで見ていて30冊ほどあったほうがいい本があったので、Amazonで古本!を見て注文を入れた。
 
救えそうな本は眷属の子たちが手分けしてページを全部めくっては1ページごとに吸水用にティッシュペーパーを挟んでいってくれた。それを6畳の部屋に並べて陰干しにする。《せいちゃん》に新たに本棚を2個買ってきてもらい、その上にも並べた。
 
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《せいちゃん》にはA3までスキャンできるプリンタとスキャナの複合機2台とハードディスク6台、作業用のパソコン2台を買ってきてもらい、《きーちゃん》と《せいちゃん》で手分けして、本自体は救えないもののデータで残したい本を、ページ単位でスキャンしてもらった。2人で分担してやってもらうために2セット買ってきたのである。
 
家電品類は桃香のアパートのお風呂場で全部洗わせてもらったのだが、《りくちゃん》が細いブラシを使って奥の方に入り込んでいる泥とかをかなりきれいに落としてくれた。後は陰干しして乾燥させる。充分乾いた所で通電して動けば儲けものである。
 
また取り敢えず住所変更をしなければならないので、ネットで済ませられるものはネットで、電話などが必要なものは電話を入れた。この作業は千里ではうまくできないので《すーちゃん》に頼んだ。またアパート近くに借りていた月極駐車場を解約し、桃香のアパート近くにある月極駐車場を契約した。空きのある駐車場は《たいちゃん》が見つけてくれたのだが、場所が中心部に近い所なので、駐車場代を聞いてぎゃーっと思ったが、希望者がいくらでも居るので、空いているのを即契約しないと借りられない。
 
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そういう訳で夕方、桃香が帰って来た時は6畳の間はブルーシートを広げた上に大量の本や家電品が陰干しされている状態であった。
 
「なんか凄い」
「ごめーん。屋根のある所で乾かさないといけないから。今夜私、台所で寝るね」
「台所は寒いよ。四畳半で寝るといい。襲わないから」
「ほんとに襲わない?」
 
それで桃香の布団から1m!離して千里の布団を敷き、寝ていたのだが、まだ遠征疲れもあるし、そのあと試合自体には出なかったものの稲敷市まで往復してきて、今日は1日買物などで飛び回っていたので、かなり熟睡していた。そして夜中変な感覚で目を覚ますと・・・・
 
舐められている!
 
「ちょっと、桃香やめて。私を襲わないって言ったじゃん」
「ごめーん。セックスがダメなら、舐めるのはどうかなと思って」
「舐めるのも禁止!」
「純粋に快楽を味わうだけならいいじゃん」
「私は舐められても気持ち良くない!」
「そうなの?彼氏には舐めてもらわないの?」
「彼氏には一度もそれ見せたことない」
「どうやってセックスしてるのよ?」
「スマタだよ。おちんちんはふだんタックしてるもん」
「よく隠し通せるね!」
 
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それで桃香がもう舐めないと誓うので、今夜のことも無かったことにして、その日は寝た。
 

翌1月31日(月)。
 
この日は午後の講義が休講になり、授業が午前中で終わったので、その後役場に行き、住所変更届けを出した。また郵便局にも寄り、転送依頼を出す。更に警察署にも行って、免許証の住所書き換えを依頼した。また友人関係にも住所変更の通知をメールした(メールはきーちゃんに頼んだ)。
 
15時頃、桃香から電話が入る。
 
「千里さあ、来年くらいには性転換したいと言ってたじゃん」
「うん。桃香に精子あげる約束したから、それが終わったら去勢して、来年には性転換手術したいと思ってる」
「その性転換手術するのって、性同一性障害の診断書が2枚いるでしょ?」
「うん」
「もう2枚取ってる?」
「実は1枚しか取ってない。1枚は婦人科の先生に書いてもらっているから、もう1枚、精神科の先生に書いてもらわないといけないんだよ」
 
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「実は私の昔のガールフレンドで男に性転換したいと言っている子がいてさ」
「へー」
「お昼に偶然会って、さっきまで一緒にお茶を飲んでたんだよ。その子が既に診断書2枚持っているらしくて。千里のこと少し話したら、もしまだ診断書取ってないなら、病院紹介するよと言っているんだけど」
 
千里はそういえば先日倫代が手術を受けた病院でGIDの診断書をもらった時、《いんちゃん》が「近い内に似たようなことが起きるよ」と言ったことを思い出した。それで答えた。
 
「助かるかも。どこかに行けばいい?」
「もし来られるなら、東京の池袋まで来られない?」
「じゃ30分くらいで行くよ」
と千里は連絡した。
 
そして千里はいったんアパートに戻ると!シャワーを浴びてきれいな下着に着換えた。そして《きーちゃん》に池袋に転送してもらった。先日はいきなり診察を受けたので、結構恥ずかしかったのである。
 
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桃香と、その元カノらしき男性が居る。千里は会釈して寄って行った。
 
「こんにちは。村山です。よろしくお願いします」
「畑中と申します。よろしくお願いします。Gクリニックという所なんですけどね」
と彼はバリトンボイスで言った。
 
「名前は聞いたことあります」
「GIDの当事者の間ではわりと有名な病院ですからね」
「へー」
 
それで3人で一緒に電車に乗ってその病院まで行く。電車代は千里が3人分出した。
 

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予約無しで行ったが、まずは色々検査を受けてくださいと言われ、採血・採尿、レントゲンとMRIに心理テストまで受けさせられた。またまた自分史を書かされたが、先日一度書いているので、あまり悩まずに書くことが出来た。こないだ無かったのがレントゲンとMRIだが、骨格の状態、内性器の状態を確実に把握しておきたいのだろう。また女性の看護師さんからペニスのサイズ、睾丸のサイズ、バストのサイズを測られたが、バストはいいとして、男性器のサイズ測定は、ちょっと恥ずかしかった。もっとも心が女である千里としては、こういう検査を男性の看護師さんにはされたくない。
 
それで結果的に2時間後に精神科の先生の診察を受けることができたが、先生はあっさりGIDであると診断してくれた。
 
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「あなたは完璧すぎる。性同一性障害ではなく、むしろ性器が間違って発達したというのに近い。あなたには男性的な要素がみじんもない」
と先生は言っていた。
 
「普通なら数回通院してもらってから診断を出すのですが、あなたには疑いの余地がないですよ」
「私自身、自分が男だなんて思ったことは一度もないですし、初対面の人で私を男だと思った人も1人もいません」
と千里は言う。
 
「そもそも男性の二次性徴が全く出ていませんね」
「小学4年生の時から女性ホルモンを取っていたので」
「あなたの骨盤は完全に女性型に発達しています。肩とかも女性の形だし、喉仏も無いですね。これ本当は女性なのではと思いたくなりますが、卵巣や子宮はないから、半陰陽とかではないですね」
 
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「私、スポーツするので性別を疑われて遺伝子検査されたこともありますけど、遺伝子異常は無くてふつうのXYだと言われました」
「はい。こちらでも血液の遺伝子を確認させてもらいましたが、遺伝子的には普通の男性ですね。むしろ遺伝子と性器以外は全て女性と言うべきかな」
 
「それは割とこれまで何度も言われました」
 

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医師は色々な検査結果に再度目を通してから訊いた。
 
「手術はどうします?こちらで受けますか?」
「タイで受けたいと思っています」
「でしたら英語で診断書書いておきますね」
「よろしくお願いします」
 
そういう訳で千里の性同一性障害の診断書はあっという間に2枚揃ったのである。
 

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そういう訳で、19時頃には病院を出ることになった。
 
千里は待ってくれていた畑中さんと桃香に御礼を言った。
 
「ありがとうございました。おかげで診断書が2枚そろったので、いつでも性転換手術を受けられます」
 
「良かったね」
と畑中さんが言う。
 
「畑中さんはいつ手術を受けられるんですか?」
「俺は一応予約は入れているんだよ。今年の秋の予定」
「わあ、それは頑張ってください」
 
それで千里は2人を御礼に食事に誘いたいと言ったら、桃香が焼肉がいいというので、近隣の焼肉屋さんに入った。30分くらい食事をした所で電話が入ったので
 
「ごめーん。急用が入ったから私行くね。会計はしておくけど、追加オーダーとかで足りなくなったらこれで払って。あと帰りの交通費と」
と言って、支払い用の1万円札と交通費用に5千円札を渡した。
 
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それで千里は会計を済ませてお店を出た。
 
むろん2人にしてあげようという親切心である。
 
電話は不動産屋さんから、「市からお見舞いの品が届いているので、明日にでもお寄り頂ければお渡しします」ということであった。明日でもいいのだが、まだ時間があるので、《きーちゃん》に転送してもらい、閉店間際に不動産屋さんに飛び込んだ。
 
お見舞いの品というのは、お布団であった!
しかも2組もある。
 
おそらく被災した時に、ずぶ濡れ・泥だらけになった布団が2組あったからではという気がした。
 
結局不動産屋さんの男性社員さんが桃香のアパートまでその布団を運んでくれた。社員さんは「この階段を持って登るのは女性には大変でしょう」と言って、玄関の所まで持って登ってくれた。千里はよく御礼を言って「ほんのつまらない賄賂ですが」などと言って、ホテルの汚職事件、もとい!御食事券を2枚渡しておいた。
 
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娘たちの危ない生活(6)

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