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■娘たちの危ない生活(2)

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「しかし・・・・」
と桃香は言う。
「どうかした?」
「毎日ブリの照り焼きを食べていると、美味しいんだけど、さすがに飽きてくる気もする」
「取り敢えずもう少し減るまでは食べ続けないと、他の食材が冷蔵庫に入らないし」
「そうなんだよなあ」
「半分以下に減らないと、私は自分の冷蔵庫を持ち帰れない」
 
桃香は言ってみた。
 
「それだけど、冷凍室が空いてもずっと冷蔵庫ここに置いておかない?」
「それでは私が生活に困る」
「だから、千里ここに引っ越しておいでよ」
「レイプ魔のアパートに引っ越して来たら、私何されるやら」
「ごめーん。絶対あんなことはしないからさ」
 
千里は少し考えて言った。
 
「でも私、彼氏居るんだけど、ルームシェアだと彼氏連れ込むのに困るんだよね」
「それは私も恋人を連れ込んだ時にはDo not Disturbの札を出しているから、千里も彼氏と一緒に居る時はあれを出しておけばいい。そしたらみんな遠慮するよ。私もどこか適当な所に泊まるし」
 
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泊めてくれるガールフレンドがきっと何人も居るんだろうなと思う。
 
「それって現在進行中ってのをわざわざ表示する訳だ?」
「あははは」
「でも私どっちみち、明日から月末まで居ないし」
「へ?何で?」
 
あれ?桃香にはバスケの合宿という話はしてなかったっけ?と訝るが、まあいいやと思う。
 
「フランスに行ってこないといけないのよね。28日に帰ってくる予定。引越の件はその後考えるよ」
「お仕事か何か?分かった。でもフランスか?いいなあ」
「少なくとも観光する時間は無いと思う」
「お仕事なら仕方ないか。フランスのどのあたりに行くの?」
「南仏なんだよね。トゥールーズとかマルセイユとか」
「何か美味しそうなワインとかシャンパンとか見たら、お土産に買ってきてよ」
「まあそのくらいはいいよ」
 
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千里はやはりサウナが効くかなと考え、市郊外にあるスーパー銭湯まで行った。今男の身体になっていることは忘れることにして! ふつうに受付で赤い鍵をもらい、女性用脱衣室に入って裸になる。
 
むろんちゃっとタックしているので、見た目には女の股間にしか見えない。
 
『まあお股に少々変なものが付いてても気にしなければいいよね』
などと心の中で思いながら、普通に浴室に入り、身体を洗って湯船に浸かった。
 
ああ・・・これは効くなと思う。少し入ってからサウナ室に入り、高温に身体をさらす。午前中なので、浴室にも数人しか居なかったし、サウナにも全然人がいなかった。
 
結局2時間くらい入ってからあがる。
 
『別に男の身体でも自分が女だと思っていれば女湯に入っていいんだよね?』
などと勝手なことを考えていたら
『いや、それ絶対間違っている』
と《いんちゃん》から突っ込まれた。
 
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『これ、いつ女の子に戻るの?』
『明日の朝までには戻るよ』
『だったらいいや。でもなんで2日も男の子の身体になってた訳?』
 
『この2日間は男の身体で過ごすことが絶対に必要な2日間だったらしい。私も理由は知らない』
と《いんちゃん》は言った。
 

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でもだいぶアルコールが抜けた気がするなあと思い、通りがかりのドラッグストアでアルコール・チェッカーを買って、息を吹きかけてみた。
 
《−−−−》という表示である。
 
『これどうしたんだろ?』
『測定不能ってこと』
『なんで?』
『アルコール濃度が高すぎ』
 
うむむむむ。
 

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千里はその足でそのまま総武線に乗って東京に出た。横田倫代が昨日入院した都内の病院に行く。
 
「こんにちは」
と言って入って行くと、倫代と両親が居る。
 
「検査はどうでした?」
「問題無いということです。15時から手術です」
「良かったね。頑張ってね」
「はい」
 

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「そうだ、村山さん」
と倫代の母が言う。
 
「はい?」
 
「先日から村山さんのアパートに泊めて頂いていて、ふと本棚に月刊バスケットボールがたくさん置いてあるのを見て、つい読みふけってしまったのですが、あれもしよかったら、倫代が入院している間、お借りできませんか?」
と倫代の母。
 
「ああ。いいですよ。バックナンバー全部もってきてあげてください。結構暇つぶしになると思いますし」
「ありがとうございます。ではお借りしますね」
 

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しばらく3人と話している内に医師が入って来て、色々お話があるようなので千里は席を外した。
 
20分ほどして医師が病室から出てくる。病室内をチラッと見ると、穏やかな雰囲気なので特に問題は無いのであろう。
 
それで室内に入ろうとした所で、医師から声を掛けられる。
 
「あれ?君ももしかしてMTF?」
「あ、はいそうですが」
「ちょっと話さない?」
「はい・・・」
 
それで千里は医師と一緒に診察室に入った。
 
「君、プレオペ(手術前)だよね?」
「そうですね。今日はそうかな?」
「今日はって、日によって違うの?」
「うーん。。。どうなんでしょう?」
「手術の予定とかは入れてる?」
「来年くらいに手術したいなあ・・・と思っているのですが」
「GIDの診断書は取ってる?」
「あ、いえ」
 
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「じゃ、診察してあげるよ」
「はあ」
 
それで千里は採血、採尿された上で、血圧とか脈とかも測られる。更に心理テストのようなものまでやらされ「自分歴」も書かされた。あまり矛盾が起きないように、非常識にならないように、書いておく。小さい頃からよくおちんちんを取り外してもらっていたとか、小学4年生の時に卵巣を移植されたとかは書けない!また説明が面倒なので高校時代は最初から女子制服で通学していたことにした。
 
そして1時間後にまた診察室に入った。
 
「お酒飲んでます?」
「すみませーん」
 
まあ血液検査でアルコール分が高く出たんだろうなと思う。
 
「あんた未成年でしょ。ダメだよ」
「ごめんなさい」
「それは置いといて、診ましょうか」
 
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性器などの状態を確認された。
 
「毛を剃っているのはなぜ?」
「タックするためです」
「なるほどね。これ立つことあります?」
「いえ。一度も立ったことはありません」
 
医師が性器に触っているのに全く反応しないので尋ねたのだろう。
 
「バストはかなり発達していますね。女性ホルモンはいつ頃から?」
「小学4年生頃から飲んでますが」
 
正確には飲んでた訳じゃないけどね〜と思う。女性ホルモンは体内にある卵巣が勝手に放出していただけで。
 
「ああ。自分史にも書かれていますね。どうもこれ男性機能は既に死んでいるようですね」
「そうでしょうね。そもそも射精もしたことないですから」
「夢精も経験無い?」
「無いです」
「睾丸内から細胞取っていい?」
「痛そうですけどいいですよ」
「うん。痛い」
 
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と言って医師は千里の睾丸に針を刺して細胞を採取した。顕微鏡で見ている。
 
「精子も精原細胞も全くありませんね。完全に死んでいます」
「まあそうでしょうね」
 
そこに精子が存在したら驚きである。でもそのあたりも医者には話せない。
 
医師は色々書類を見ている。
 
「心理学的なテストを見ても、書いてもらった自分歴を見ても間違い無くあなたは性同一性障害です。診断書書きますね」
「よろしくお願いします」
 
と言いつつ、何だか物凄く無駄なことをしている気がした。
 
「手術はどこで受ける予定ですか?」
「タイで受けるつもりです」
「でしたら英語で書いておきましょう」
「はい、よろしくお願いします」
 
と言うと、医師は診断書を書き始める。
 
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「まだ1枚も診断書もらってなかった?」
「はい」
「だったら、どこか別の医師にも再度診断受けて、診断書書いてもらって。あなたならすぐ出るはずですよ。診断書が2枚無いと手術してもらえないからね」
「そのようですね」
 
それで千里は医師から診断書を受け取ると、受付で診察料と診断書代を払った。
 
《いんちゃん》がくすくすと笑っている。
 
『もしかして、このために私、男の子の身体に戻ってないといけなかったの?』
『そうみたい。千里、近い内に、もう一度どこかで似たような体験をすることになるよ』
 
『うーん・・・・』
 

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千里はアルコール問題を何とかしなければと思った。
 
『ねえ、びゃくちゃん、私の体内のアルコール抜けない?このまま合宿所に入ったら謹慎くらいそう』
『仕方ないなあ。今回だけだからね。もう少しお酒は自重しなさい』
『ごめん』
 
それで《びゃくちゃん》が身体からアルコールを抜いてくれた。感覚がいきなり変わるのを感じる。
 
『すごーい。これがシラフか』
『感覚の感度が違うでしょ?』
『そうそう。まさにそれ!』
 

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千里はまた病室に戻り、倫代やご両親と色々お話しした。やがて14:30くらいになり女性看護師さんが入って来て、服を脱がせ、手術着に着換えさせた。むろん千里は病室の外に出ている。
 
14:40くらいにストレッチャーに乗せられて手術室に連れて行かれる。14:50 手術室の中に入る。15:00手術中のランプが点く。直前に再度医師が本人に「性転換手術していいですね?」という確認をしたはずである。
 
千里は合宿所に入らなければならないので、両親に挨拶し、何か緊急事態などがあったら呼び出してくれと言って、北区の合宿所に向かった。
 

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取り敢えず電車で移動し、合宿・海外遠征の道具や着換えなどが入っている荷物はインプに積んでいるので、《こうちゃん》に持って来てもらう。赤羽駅で合流し、車を運転して合宿所に入った。
 
車を駐めてから受付を通り、食堂に行くと、結構な人数が居る。
 
「プリン、今日は遅刻しなかったね!」
と千里は高梁王子の顔を見て言った。
 
「ピクとジュンに誘われて、バッシュ見に行ってたんですよ。その後こちらに入ったから」
と王子は言っている。
 
「もっともスポーツ用品店に行くのに待ち合わせていたのには1時間遅刻してきたが」
と渡辺純子。
 
「ごめーん!」
 
どうも遅刻魔の王子が叱られないようにするため、先に集まる用事を作り、その後一緒に合宿所に入るようにしたのだろう。純子と絵津子の親切心だ。
 
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他に彰恵と玲央美が来ているので、夕食をトレイにもらってきてからふたりと同じテーブルに就いた。
 
「成人式どうだった?」
と千里が訊くと
 
「いやあ、恥ずかしかった」
と彰恵は言っている。
 
「TS市の成人式にだけ出るつもりだったんだけど、地元の成人式にも出てくれと言われて、9日そちらに出て10日にTS市で出たんだけどね」
 
「あ、私もそのパターン」
と千里が言うと
「私もそれ。じゃ3人とも似たようなパターンか」
と玲央美が言う。
 
「成人式の途中で『頑張っている新成人』ってコーナーがあって、そこで表彰状もらって、その後、新成人の言葉も朗読して」
 
「新成人の言葉は私もやった」
と千里。
「右に同じ」
と玲央美。
 
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「じゃ、みんなそのパターンか!」
 
「私はその後、新成人への記念の品の目録を受け取った。ついでにボール渡されてシュートもした」
と千里。
 
「決めた?」
「もちろん」
「さすがさすが」
「でもそれ外したらどうしたんだろう?」
「それは愛嬌だな」
 
「私なんかいつの間にか編集されている私のプレイシーンのビデオが流された」
と玲央美。
「きゃー。そんなんじゃなくて良かった」
と千里。
 
「ふたりともなかなかハードだな。私はその後出てきたバンドの人と一緒に『3月9日』を歌う羽目になった」
と彰恵。
 
「彰恵の歌って聴いたことない」
「あまり聴かないで〜」
「実は私は吹奏楽部と一緒にフルート吹く羽目になった」
と千里。
 
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「みんな色々余興にも駆り出されたんだ!」
と玲央美が驚いている。
「玲央美は何かやらされた?」
「ソーラン節をステージ上で踊っただけ」
「振袖でやらされるのは辛いな」
 

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