広告:ここはグリーン・ウッド (第1巻) (白泉社文庫)
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■娘たち・各々の出発(8)

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合宿は明日からなのだが、夕食後8時から自主練習するよ〜という話があり、練習場に出て行く。出てきているのはアメリカでリーグ戦中なのでそもそも今回の合宿に参加しない羽良口さん、卒業に必要な単位を落としてしまい、追試も落として卒業式に出られなかったものの、担当教官とバスケ部顧問の嘆願で温情で今夜中にレポートを書き上げたら卒業させてもらえることになった月野さん(明日朝からの参加になる見込み)を除く21人、それに王子を加えて22人である。
 
「よし。ベテラン組とヤング組で試合しよう」
とアシスタントコーチの夜明さんが言う。
 
「ん?」
とお互い顔を見合わせるが、このような分類になった。
 
■ベテラン組
SG.三木エレン(1975) SF.山西遙花(1978) PF.簑島松美(1978) PG.福石侑香(1979) PG.富美山史織(1981) C.白井真梨(1981) PF.宮本睦美(1981) C.黒江咲子(1981) PF.花山弘子(1981) SF.早船和子(1982) SG.川越美夏(1982)
 
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■ヤング組
PG.武藤博美(1983) SF.広川妙子(1984) C.馬田恵子(1985)
SF.佐伯伶美(1986) C.石川美樹(1986) SF.千石一美(1986) PF.寺中月稀(1987)SG.花園亜津子(1989) SF.佐藤玲央美(1990) SG.村山千里(1991) PF.高梁王子(1992)
 
「おぉ!私はヤング組だ!」
と広川さんが喜んで(?)いる。
 
「ポジション的にもわりとバランス取れたね」
「センター2人ずつだし」
「ヤング組はポイントガード1人だから、妙子ちゃん、ポイントガード役してよ」
「分かりました!」
 
今回の代表候補に入っているもうひとりのポイントガードはアメリカのWNBAに参戦している羽良口さんである。
 

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最初は
福石/三木/山西/宮本/白井
武藤/花園/佐伯/寺中/馬田
 
というメンツで始める。
 
千里はこのベテラン組のスターティング5がつまり、本番でのスターティング5の一番手なのだろうと思った。もっともポイントガードは羽良口さんになるのだろう。
 
アメリカ出身の白井さんと中国出身の馬田さんという帰化選手同士でのティップオフになった。白井さんが勝ってベテラン組が攻めて来る。山西さんが中に侵入してシュートするが外れる。白井さんと馬田さんでリバウンド争いして、馬田さんが取り、反転。ヤング組が速攻を掛ける。佐伯さんが中に入るが、それはおとりで、相手の守備がそこに集中した隙に武藤さんは亜津子にボールを送り、スリーポイントラインの所から美しくシュート。
 
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決めて3点。
 
ヤング組が先行する。
 

試合はシーソーゲームで進んだ。しかし千里は第1ピリオドの試合を見ていて、これは凄いレベルのゲームだと思った。隣に座っている王子も
 
「これすごいですねー」
と言っている。
 
「凄いでしょ。私は昨年も候補に入ってて最終メンバーには残れなかったけど、合宿中は快感だったよ」
と美樹が言っている。
 
「この人たちを今から引きずり降ろすんだと思ったら、興奮しない?」
と玲央美が言う。
 
「楽しいね」
と千里も言った。
 

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第1ピリオド、ヤング組はメンバー交代しなかったが、ベテラン組は適宜交代しながら出ていた。各々のチームの選手管理は、三木さんと武藤さんがやっている。
 
第2ピリオドでは玲央美・千里・王子が最初から出してもらう。千里は亜津子とハイタッチして出て行った。このピリオドで千里はベテラン組の川越美夏とマッチアップすることになる。千里にしても亜津子にしても、この人に勝つことが最終的なロースターに残る絶対条件となる。
 
最初の2回、千里は敢えて邪魔せずに彼女を通した。美夏が首をひねっていたが、その後、千里は彼女を完全封鎖した。最初の2回の彼女の動きを見て千里は彼女を完全解析したのである。
 
美夏は最初は「残念」という感じの顔だったのが、次第にマジになってくる。しかし千里は冷静に彼女を停めるし、向こうがスリーを撃っても全部たたき落としたり、指を当てて軌道を変えた。
 
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結果的に美夏の得点は最初の2ポイント、3ポイントの2本5点のみ。対して千里はこのピリオドだけで5本のスリーを撃ち込み、15点を奪った。玲央美も12点、王子も10点取り、この3人だけで37点、他の人の点まで入れると41点でこのピリオドは8-41という恐ろしい点差となった。前半を終えて28-59でヤング組のリードである。
 
夜明コーチが三木エレンと何か話している。そしてコーチは言った。
 
「今日の試合はここで打ち切り」
 
あぁ・・という感じの声がベテラン組から漏れた。が、この時声をあげたのが美樹である。
 
「え〜!?私まだ出てないのに」
 
「ごめんごめん。第3ピリオドに出そうと思ってた」
とヤング組キャプテンの武藤さんが言った。
 
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「今回の合宿の最後にまたこの組み合わせで対戦するから。今日の結果を悔しいと思った者は頑張って鍛錬するように。そして今日の結果が良かったと思う者も慢心せず、次は更に差を付けてやるぞという気持ちで臨むこと」
 
とコーチは言った。
 

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2010年4月7日(水)。
 
この日朱音や友紀たちはいつものキャンパスではなく、少し離れた所にある医学部のキャンパスに来ていた。今年の健康診断が行われるのである。
 
「あれ?なんか顔ぶれが少なくない?」
「桃香はきっとまた寝ているのではないかと」
「去年もそれで別検査になってたよね」
「あと来てないのは、美緒と千里かな」
 
「千里は男子の方で受けるんじゃないの?去年も男子で受けたと言ってたよ」
「確かに宮原君や佐藤君が健康診断で千里と遭遇したと言っていた」
 
「でも千里は去年の健康診断で、生物科の香奈にも目撃されている」
「うーん・・・」
 
「去年私は健康診断に女子のトップくらいに来たんだけどさ、その時建物から出てくる千里と会って、女子会に誘ったんだよ」
と真帆が言う。
 
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「出てくる所を見たのか」
「だったらやはり男子の時間帯に受診したってことかな」
 
そんなことを言っている内に美緒がやってくる。
 
「ぎりぎりかな」
「採尿した?」
「あとから回る。レントゲン先にしてと言われてこちらに来た」
 
その時、看護婦さんがひとりこちらにやってきた。
 
「あなた方、数理物理学科?」
「そーでーす」
 
「数理物理学科の村山さんは、公用で後日別検査になったらしいから。来てないのを心配してはいけないから伝えておいてと言われたんだけど」
 
「はい、分かりました」
と玲奈が代表して答えた。
 
看護婦さんが去った後、お互いに顔を見合わせる。
 
「公用って何だろう?」
「さあ。何か学校の用事をしてる?」
「あるいは部活で大会に出ているような場合は認められるよね」
「千里部活何かしてた?」
「昼休みにバスケットボールをドリブルしてるの見たことある」
「へー!」
「そういえば高校時代にバスケやってたという話は聞いたことある」
「そういえば聞いた気もする」
「それで丸刈りにしてたとか言ってたよね」
「千里の丸刈りって想像つかないなあ」
 
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「じゃバスケ部に入っているんだっけ?」
「そういう話も聞いたことない」
 
「でもそういえば4月になってから、まだ千里を見てないなとは思ってた」
「履修票とか大丈夫かな?」
「私あとで電話してみるよ」
「明日が提出期限だもんね」
「まだ提出してなかったら、代わりに提出してあげるか」
 
「でもさあ、なぜ千里の件を私たちに伝達する?」
と友紀が訊く。
 
実はその問題を全員悩んでいた。
 
「やはり千里は女子ということになっているのでは?」
「そうとしか考えられないよね?」
 
「ところで桃香が来てない件は?」
と美緒が尋ねる。
 
「桃香は男子の時間帯に受診していたりして」
と友紀。
 
「まさか!?」
「いや、桃香は何度か男子トイレで立っておしっこしている所を男子に目撃されているらしい」
「じゃ、桃香、ちんちん付いてるの?」
「去年、別検査にしたのも、実は男だからだったりして」
 
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「いや、私、一度桃香と一緒にファミレス行ったら、カップルの方にプレゼントですといわれてアイスクリームもらったことある」
 
「まあ確かに桃香って見た目が結構男」
 
「桃香の性別についても、どうも疑惑があるよなあ」
 

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4月8日(木)。
 
美幌町では、訪問着を着た桃川がピンクの真新しいランドセルを背負い、可愛いガールズスーツを着たしずかの手を引いて、小学校に出て行った。入学式に臨みそのあと教室に入る。田舎の学校なのでクラスは1つだけである。これまで保育所で一緒だった子も多いので、しずかは見知った顔の友人たちと明るく言葉を交わしていた。
 
しずかは今女の子である歓びを感じているかのようである。タックは朝してあげたので、日々メンテしながら来週末くらいまでは持つはずである。来週の金曜日にいったん外して、皮膚を休養させたあと、月曜日の朝、またしてあげるつもりでいる。
 
そして桃川はしずかの様子を見ながら《母の歓び》を感じていた。
 
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同じ日、函館では理香子が《黒いランドセル》を背負って美鈴と一緒に小学校に出て行き、2年生のクラスに転入した。
 
服装も男の子みたいなズボンだし、髪も男の子のように短く刈っている。
 
それなのに担任の先生が黒板に『もちや・りかこ』と名前を書いて紹介したので、教室がざわめく。
 
「なんで女みたいな名前なんですか?」
とひとりの男の子が質問する。すると理香子が自分で答える。
 
「ぼく、男の子になりたいんだけど、とりあえずチンコ無いから、女の子ということになってるんだよね。誰かチンコ譲ってくれたら男の子になれるんだけど、君、ぼくにチンコくれない?」
 
「いやだ。チンコはやれない」
 
しかしこの強烈なやりとりで、理香子はその後すっかり『男扱い』してもらえる状態になり、腕相撲でもクラスの男の子たちを連覇して、空手を習っているという祐川君という男の子にだけ負けた。
 
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「餅屋、お前、名誉男子と認めてやるよ」
とその祐川君が言った。
 

そして同じ日、旭川市内の幼稚園に、司馬光子が織羽の手を引いて登園した。織羽はこの幼稚園指定のスモックのボタンを女の子仕様の左前に留めている。スモック自体は男女共通なのだが、男の子は右前に、女の子は左前に留めることができるようになっている。まだ寒いのでズボンでもいいと思ったのだが本人はスカートが好きなようなので、ロングスカートを穿かせている。
 
この子は神社で見ていても、やや孤独癖があるようで、集団生活に馴染めるか少し心配したものの、他の女の子から声を掛けられると一緒に楽しく遊んでいるようで、光子も少しホッとしていた。
 
 
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