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「女になってもいい気はするけど、チンコ無くなるのは困る」
「おちんちん付けたまま女にはなれないなあ」
「だって俺のチンコ無くなったら、レンだって困るだろ?」
「別に。私はマサと結婚するつもりはないからマサのおちんちんが無くなっても問題無い。もし性転換手術したかったら手術代くらい出してあげるよ」
「いらない。でもすぐ外れちゃったね」
「あれはうまくやらないと結構外れやすいんだよ」
と千里は言う。
「何度か小便しているうちに端の方が緩んできて。風呂入ったらかなり外れやすくなって。そのあとレスビアンごっこしている内にほぼ外れてしまった」
「なるほどー」
「そのあともチンコの付け根付近の《綴じ目ちゃん》は外れなくて。だから実は3日くらい女の子気分になってしまった」
と田代君は言っている。
「それだけでも割と女の子っぽいでしょ?」
「うん。まだ女のままのような、それで一応チンコは小便には使えるから男に戻れたような変な感じだった。でもあの状態ではセックスもオナニーもできないのが辛かった。オナニーしようとすると接着した所が痛いんだよ」
「本来タックというのはもう男を辞めることにした人のものだから」
と千里は言う。
「《綴じ目ちゃん》が全部外れた後も、接着剤の破片が取れなくて完全に取れるのに1週間かかった」
「ああ。そのくらいは掛かる」
「千里から聞いてたから、剥がし液じゃなくて除光液使ってみたんだけど、それでも簡単には外れないね」
と蓮菜が言う。
「まあ本来外すことを想定していないから。接着剤って」
「実は剥がし液も使ってみたけど、熱くなってきたから慌ててお風呂場に行って流した」
と田代君。
「うん。剥がし液は強いから緊急の際には使えるけど、皮膚に付かないようにうまく使わないと危ない。やはり除光液の方が肌に優しいんだよ。除光液と剥がし液って成分はほとんど変わらないしね」
「それも初めて知ったよ。でも村山、あれをずっと小中学生の頃はしてたの?」
と田代君が訊く。
「そうだけど」
と千里。
「実際にマサで試してみて、千里がずっとタックしてたのは嘘だという気がしたよ」
と蓮菜。
「なんで?」
「だって、あんなの連続してできる訳が無い。だから友達にはタックしてると言っておいて、本当は小学4年生頃に、もう手術しておちんちんは取ってしまっていたのではという気がする」
と蓮菜。
「その件は誰も信じてくれないから、もうどうでもいいことにするよ」
と千里は笑って言った。
「そもそも私は今でも男だし」
「それはさすがにあり得ない!」
「だけど、村山って結構男っぽい部分もあるよな。決断力あるし、理系の学部に入ったし、自動車はMTだし。昔は小食だったけど、最近は結構食べるみたいだし」
と田代君は言う。
千里の前には料理の皿がもう3つ重ねられている。
「もっと女らしくすべきだと思う?」
と千里は微笑みながら尋ねる。
「ううん。ずっと昔俺村山に言ったことあると思うけど、男らしくとか女らしくというのでなく、自分らしくあればいいんだよ。それは天然女でもそうだけどな」
と田代君が言うと
「私はいまだかつて女らしくしようと思ったことないな」
と蓮菜が言う。
「まあお前は男だから問題無い」
と田代君。
「やはり、マサってホモなんだ?」
「俺は男とか女とか関係無く、レンが好きだからいいんだよ」
「まあタックでおちんちんが使えない間、私が男役、マサが女役してた時も結構気持ち良さそうだったし」
「あれはあれで気持ちいいけど、女にされているからいいのであって、あれを男とはしたくないと思った。それに俺は自分が入れる方が好きだ」
「ふーん・・・」
と言って蓮菜は微妙な笑みを見せている。
「でもレンにしても、村山にしても男っぽい部分があるから、かえって女らしいんだと思うよ」
と田代君は言った。
「意味が分からん」
と蓮菜が言う。
「いや、オカマさんとかでよくあるのは、異様に女らしい奴」
「ああ」
「今時そんな女は居ないよというくらいに女らしくて、逆に不自然なケース」
「それはあるかもね〜」
と千里も言った。
「あれは男から見た女の理想像を演じているんだよ」
と蓮菜は鋭い指摘をする。
「今時の女って、スカートも穿かずに化粧もせずに出歩くじゃん。内股で歩く奴なんてまず居ないし」
と田代君。
「内股で歩くと足が絡んで転ぶと思う」
と千里。
「足はまっすぐ出せばいいんだよ。外股も変だけど、内股も骨格に無理が行って姿勢が悪くなると思う」
と蓮菜は医学生らしい発言をする。
「まあだから村山も彼氏に愛されているんだろうし、レンのことも俺は気に入ってるんだよ」
「ルリちゃんは女らしい訳?」
瑠璃子というのは田代君の彼女である。一方、蓮菜は川村昇という男の子と交際している。田代君と蓮菜の関係は当人たちの話では「友人兼セフレ」である。
「確かに女らしいなあ。可愛い子ではあるけど、付き合ってて結構疲れる。だから疲れたら、レンとデートしたくなる」
「セックスしたくなるの間違いでは?」
「そりゃセックスはしたいさ」
「色々開き直ってるな」
千里は3月31日(水)の朝、貴司を会社に送り出した後、荷物をまとめてインプに乗り、《こうちゃん》と《きーちゃん》の運転で東京に戻り、そのまま北区の合宿所に入った。
すっかり顔見知りになった受付の人から部屋の鍵と今回の合宿の予定表をもらい、荷物を部屋に置いてから食堂に行くと、佐藤玲央美とステラ・ストラダの石川美樹さんが話しながら食事をしていたが、そのテーブルに意外な顔もあるので驚く。
「石川さん、こんばんは。ハイ!レオ。プリン、お久」
「どうもー。千里さん」
「美樹さんはうちの高校の先輩なんだよ」
と玲央美は石川さんを紹介する。
「村山ちゃん、昨年のU19世界選手権は凄かったね。私はミキでいいよ」
「では私も千里なりサンで」
「プリンは春休みで帰国したらしい」
「ああ。アメリカの高校にも春休みがあるんだ」
「イースターの前1週間が休みなんですよ」
「なるほどー!」
「今年は4月4日のオカマの日が復活祭だから、3月28日枝の主日から1週間がお休みで」
「でもプロテスタントって宗派によってイースターの日程が違ったりしないの?」
「そのあたりは私もよく分からないけど、取り敢えず今年は28日から4日まで休みみたいです。4月5日から授業が再開されるから、4日に着くように帰らないといけないので、4日の夕方の便で帰ります」
「それで間に合うんだっけ?」
「日付変更線を越えるから、こちらを4日の夕方出ると、向こうには同じ日の朝に着くんだよね」
「あ、そうか!」
「帰国する時は、28日の朝の便に乗ったのに29日の午後に着いたんですよ。なんか1日損した気分でしたけど、アメリカに戻る時は1日得する気分です」
「そのあたりは国際便にしょっちゅう乗っていたら、だんだん訳が分からなくなりそう」
「そういう人はもういちいち時計を直さずに自分の時計で動くみたい」
「ああ。そうしないと身体が持たないよね」
「まあそれで、せっかく日本に戻ってきているなら、あんたも参加しなさいとさっき三木エレンさんに言われて」
と王子。
「エレンさんが監督・チーム代表に話し付けちゃったみたいで」
「実家には帰らなくていいの?」
「一応29日夕方の新幹線で岡山に戻って実家に1泊して、30日はE女子校に顔出して、校長とか理事長と話して、ついでに制服も採寸して注文しました」
「ああ、今まで作ってなかったんだ?」
「使わないもんで。でも6月からはこちらの学校に復帰するし」
「もしかしてインターハイの県予選にも出る?」
「出ます」
「だったら今年の岡山代表はもうE女子校で決まりかな」
「私が帰ってくる以上確実にインターハイに出場させますと見得切ってきました」
「偉い偉い。さすがは王子ちゃん」
「何年生になるんだっけ?」
と美樹が尋ねる。
「2年生です。1年生をK高校で10ヶ月やって、ルビー高校で1年生を4ヶ月と2年生をここまで7ヶ月やって、あと2ヶ月やりますが、なんか変な気分ですけど、6月からE女子校で2年生を10ヶ月やることになりそうです」
「向こうとこちらと学期始めが違うからどうしようもないね」
「インターハイやウィンターカップの出場資格はどうなるんだっけ?」
「あれは1学年につき1回出られるらしいです。私、1年生のインターハイとウィンターカップに出た後、留学したから今年は2年生として出られるみたいです。年は他の子より1つ高いけど」
「ああ。じゃ来年も出られるんだね?」
「そうなるみたいです」
「北海道の方でインターハイまで出たあと1年間アメリカに留学して、その後同じ学年でウィンターカップ予選に出てきた人いましたよ」
と千里が言う。
「なるほどー」
「実はE女子校バスケ部と練習試合したんですよ」
と王子が言う。
「ん?」
「私と同じK高校出身の平野の2人対向こうのレギュラー5人で試合してダブルスコアで勝ちました」
「すごーい!」
「本当に女子ですか〜?と向こうの1年生から訊かれて殴っちゃろうかと思いましたけど、ぐっと我慢しました」
「偉い偉い」
ウィンターカップの時にもN高校の紅鹿を殴ってしまったが、どうも元々手の早い性格のようである。
「まあ私たちは性別疑惑もたれるのはいつものこと」
と石川美樹が笑って言う。
「それでそのまま3日まで向こうのバスケ部と遊びながら、実家でうだうだしているつもりだったんですけど、田中コーチ(藍川真璃子)から、ちょっと来てと言われて出てきて、ここに連れてこられたら、三木エレンさんに呼び止められて、あんたも参加しなさいと」
「バッシュとかは持って来てる?」
「はい。それは持って来てました。それで4月3日まで3日間だけ参加することになってしまいました」
「なるほど。なるほど」
「あ、そうだ。千里さん、夏に借りてたお金返します」
と言って王子はバッグから分厚い封筒を出す。
「実は田中コーチから借りたんですけどね」
と言って頭を掻いている。
「だったら遠慮無く受け取っておこうかな」
と言って千里は受け取り、自分のバッグの中に入れた。
「数えなくていいの?」
と石川美樹が訊く。
「真璃子さんが渡したのなら大丈夫でしょ」
「なるほど」