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2月上旬、公世は「嘘〜!なんで?」と声をあげた。
「どうしたの?」
「いや、大学受験の時に性別を疑われた場合に備えて自分が男だと証明するものをパスポートか住基カードか作っておきなさいと教頭先生に言われたからさ、手数料の安い住基カード作ろうと思って申請してたのを今日学校の帰りに受け取ってきたんだけどさ」
と言って、公世はその住基カードを千里と清香に見せてくれた。
「性別:女になってる」
「女と書いてあるね〜」
住基カードの表面右側には公世の写真が貼られており、その左側には
平成2年9月7日生・性別:女 と記載されていた。
「これできみちゃんが女の子であることは証明されたね」
「これで公世は安心して女子大を受けられるぞ」
「いやだ〜〜!」
「実際、公世にはちんちんとかも無いんだし、女ということで問題無いじゃん」
「ちんちんはあるよぉ」
「いや、そんなもの無い」
「やはり住基カードじゃダメかなあ。パスポート作るべきだったかなぁ」
「パスポート作っても女で発行されるというのに1カペイカ」
(1カペイカは0.04円くらい)
千里はきーちゃんを呼んだ。
「これどう思う?」
「住基カードが女で発行されたということは公世ちゃんは実際に住民票に女として記載されているのだと思う」
「え〜?」
「姫路市に転入した時に間違われたのかもね。本人が女にしか見えないから」
「どうしよう?」
「このまま女として人生送ればいいのでは。卵巣があってペニスが無いんだから、公世ちゃんは間違い無く女だし」
「賛成」
「いやだ」
「単純ミスなら訂正してもらう手もあると思う」
「それ市役所に申し出ればいいの?」
「基本的にはそうだけど、弁護士にやらせた方がいい。役所って一般の人の話は聞いてくれないから」
「そもそも本人が女にしか見えないからなあ」
「実際に医学的にも女だしね」
それできーちゃんはコネのある弁護士にこの件を依頼した。
弁護士さんは最初公世をFTMさんかと誤解し、その誤解を解くのに苦労した!
弁護士さんは留萌市役所で公世の戸籍謄本を取得した。これには公世はちゃんと男(長男)と記載されている。ところが姫路市役所で取得した住民票ではなぜか長女と記載されていた。本当は公世には姉が居るから女だとしても二女のはずである。単純に長男とすべきところを間違ったのだろう。それで弁護士さんは単純なミスとして姫路市役所に訂正を申し入れた。それでこれは住民課の課長さん決裁で訂正が行われ、公世の住民票は男(長男)に訂正された。それで住基カードの再発行を求め、2月末には公世は性別男と記載された住基カードを手にしたのである。
「良かったぁ」
「もったいない。せっかく女子大生になれるチャンスだったのに」
「女子大生になってたら大学卒業後はOLになって、お嫁さんになれたのに」
「お嫁さんとかなりたくない」
「でも男の子とセックス可能な身体だし」
「いいお嫁さんになりそうなのに」
「きみちゃん料理も上手いし」
「いいお母さんになるよね」
2008年2月、テレビ番組にもよく出ている“スーパー霊能者”火喜多高胤が旭川のA大学にこの春新設される保健福祉学部の教授に就任するということが発表され、大学に多数の批判が寄せられた。
「何を教えるんだろう」
「やはり邪霊に憑かれた患者から邪霊を祓う方法では」
「医学と神霊学の統合だな」(*7)
「これからの病院には護摩壇が必要になる」
「お医者さんも般若心経覚えなくちゃ」
「九字を切ったり真言唱えたり」
(*7) 臓器移植の場合にレシピエントの霊的な処置は重要という意見もある。確かに拒絶反応には精神的な面もあるかも。
その夜、リビングで清香はトランプのソリテアをしていた。
「惜しい!あと少しであがれたのに」
「さっきJが出て来た時に使わずQが出てくるのを待つべきだったね」
「そんなこと言うなら千里やってみろよ」
それで千里がやると、きれいにあがることができた。
「うまく行ったね」
「こんなのいつでもあがれるよ」
と言って千里はもう一度したがまたあがってしまう。
「ずるしてないよな」
「いや見てたけどズルは無かった」
と公世が証言する。
「こんなのあがれて普通だよ。あがれないのが分からない」
「いや毎回あがれるのが分からない」
(ソリテアは筆者は大学生の頃はほぼ確実にあがれていましたが、最近はもうダメです。あれは記憶力半分、勘半分のゲームです。そのどちらも良い千里ならあがれて当然)
「なあ千里」
と清香は言った。
「うん?」
「高校出て大学入ってからさ」
「うん」
「同じ大学に行けなくても最悪同じところに住まないか」
「それは現実的な提案だね」
正直な話、清香が合格できる程度の大学には千里が行きたくない。
「千里は京都に行くのか」
「それを考えている」
「よし。私も京都に行こう。公世も京都に行こう」
「まあ考えてもいいよ」
「双葉も誘おう」
「偶数になるのは理想的だね」
それで千里はきーちゃんに、京都市内で最低10m×10mの広さが採れる土地が見付かったら風水とかの環境が悪くてもいいから確保してくれるよう頼んだ。
「1年後まででいいから」
「分かった」
「お墓の隣とか線路のそばとかでもいいから」
「ああ。千里なら平気だろうね」
そういう場所はむしろ眷属たちの“餌場”になるだろうなときーちゃんは思った。
2月9日、近畿地方・東海地方から関東地方にかけ積雪があり、公共交通機関に混乱が発生した。
お正月に出て来て清香に英語を教えてくれたシルビアはその後も清香の部屋に時々出て来てはやはり英語を教えてくれた。
「凄く勉強になる。ところで少し身体も動かさない?」
「それはサリーの担当だな」
ということで別の千里が出てくる。この千里はシルビアより年上で24-25歳くらいの感じだった。全身銀色の防具に銀色の竹刀である。
「白銀の剣士だな」
「私強いからね」
「その竹刀の材質は?」
「クロム合金。軽すぎて公式戦では違反。防具はジュラルミン」
しかしこの千里が自分で強いと言うだけあってめちゃくちゃ強かった。最初の頃、清香はこの千里にじゃんじゃん1本を取られた。彼女は言った。
「君は結構隙がある。だからそこを突かれるとやられる。普通の相手なら相手が攻撃に入ってから君のスピードで防御できるけど物凄く動きの速い相手だと防御が間に合わない」
「それ普通の千里にも言われたことある。気を付ける」
しかしこれで清香の剣道が随分進化したのである。千里も公世も
「清香最近強くなった」
と言っていた。
rの家で受験勉強中の玲羅は姉に尋ねた。
「何かお庭に建ててるの?」
「ああ。ピアノを置く部屋を建ててるんだよ」
「わっ」
「グランドピアノ置くには広い部屋が必要だからね」
「何か大変なことになっているような」
「入試が終わる頃には使えるようになると思う」
「随分お金掛かってるみたいだけど、ありがとう」
そういえば姫路の家のピアノルームも広いもんなと思う。
九重が顔を出して言った。
「玲羅さん気にしないでください。俺たちはこういうの建てるのが楽しくてやってるから。お礼も千里さんからお酒もらったら充分だし。材料も千里さんが持ってる山から切り出した木を使ってるからほとんどコスト掛かってないんですよ」
「へー」
この部屋は内寸が18畳(6半間×6半間)とし、“空気の体積”確保のため天井は5m確保した。防音工事もした上で、ヒバの音響壁を立ててもらっている。床や天井は音を柔らかくしてくれる杉である。
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女子高校生・冬の夜なべ(7)