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H大姫路の剣道部は7月下旬には玉龍旗で福岡に行ってきたのだが、戻るとすぐの8月1日、今度は男女一緒に新幹線で京都に向かった。インターハイに出場するためである。今年のインターハイは“06総体THE近畿”として近畿地方の複数の府県に跨がって行われる。兵庫県でもテニスが行われるし、バスケットは大阪だが、剣道は京都市の京都府立体育館(島津アリーナ)であった。
(大阪・京都・滋賀・奈良・兵庫・和歌山・山梨)
一行は到着するとまず会場に行き、会場の下見をするとともに道具の検査を受けた。京都市内のホテルで泊まる。夕食は焼き肉であった。今回は毎日焼き肉となっている。これは好評であった。
「変な懐石料理とか出されるより、こういうのがいいよね」
「まあ懐石料理はそもそもお腹が減る料理」
「そうそう。お腹が減るから温かい石を抱いて我慢するというのが懐石料理」
「そうだったのか」
「だからボリュームがあったら懐石料理では無い」
「我慢の美学だね」
「我慢したくない。たくさん食べたい」
「やはり焼き肉がいいね」
「でも京都の郷土料理って何だろう」
「湯豆腐とか湯葉とか」
「あまりありがたくない」
「舞鶴の肉じゃが」
「舞鶴地方というより海軍さんだな」
「海軍さんならカレーもいいね」
「カレーだかシチューを作ってもらおうとしたら肉ジャガが出来ちゃったという奴ね」
「まあ見たことも無い料理を伝聞だけで作るのは難しい」
「ラーメン作ろうとしてうどんができるようなものか」
「それもありそう」
「しかしそうか。舞鶴も京都か」
「福井か兵庫みたいな気がしちゃうよね」
「天橋立(あまのはしだて)も京都府」
「小浜(おばま)は福井県」
「ああ、地理が分からなくなった」
インターハイは高校剣道の四大大会の中で唯一個人戦が行われる。個人戦は各都道府県から2名ずつに加えて開催県から更に2名て48×2=96名の選手によるトーナメントで行われる。
8月2日、
初日は個人戦の1〜4回戦が行われた。
千里と清香は県大会では引き分けで抽選により、千里が1位相当、清香が2位相当として本戦にでてきているが。どちらも1回戦からだった。でも多分清香の方が強い相手と最初から当たっている。しかし、この日は千里も清香も順調に勝ち上がった。
男子では公世も順調に勝ち上がった。兵庫県2位だった川添君も勝ち上がった。彼は白い道着を着ていた。公世も白い道着である。
「川添さんって声も女の子だね」
「なんか性転換したらしいよ」
「へー」
「きみちゃんに負けたから『女に負けたからちんちん切って女になる』と言って性転換手術受けたらしい」
「きみちゃんが男子の部に出ているせいでそんな犠牲者が出てたのか」
「しかし思い切ったことを」
「でも髪型も可愛くしてたし、可愛い色の携帯使ってたし、女子制服着こなしてたし、女の子を楽しんでるみたい」
「まあいいんじゃないの?」
「男子高校生はみんな性転換して女子高校生になればいいのよ」
「それでは人類が滅亡する」
「そうかな。子供を産む人が増えて人口倍増したりして」
「難しいな」
「分かった。精子を保存してから性転換すれば少なくとも減ることは無い」
「なるほど。それが推奨か」
「だったら男の子は精子が出るようになったらそれを保存してもらって性転換するということで」
「中学は全員セーラー服だな」
「小さいうちはオスで大きくなるとメスになる魚とかいるよね」
「大人が女ばかりになったら争い事も減るかもよ」
「その説は絶対怪しい気がする」
「全員酔っ払えば喧嘩もできず世界が平和になるという説並みに怪しい」
「交通事故は増えるな」
「しかし女に負けたら女にならないといけないなら、ぼくはとっくに女の子になってる。ちーちゃんにもさやちゃんにも勝てないし」
「きみちゃんは既に女の子だと思っている人が多い」
「困るなあ」
「それできみちゃんに負けた川添さんが“女に負けた”ショックで性転換したし」
「元々女の子になりたかったのでは」
「きみちゃんとこには、入学以来男の子からのラブレターがもう30通くらい来てるとか」
「そんなには来てない。5-6通だと思う。でもちーちゃんやさやちゃんの方が多いでしょ?」
「いや双葉ちゃんが多い」
「多分千里ちゃんや清香ちゃんには恐れ多くて出せないから、手頃感で私に来るんだと思う」
この日のお昼は大会主催者で用意したお弁当を食べたが、清香が「こんなんじゃ足りん」と言って会場近くのラーメン屋さんに入り、ラーメンを食べた。千里・双葉・公世も付き合ったし、会場ロビーで遭遇した川添さんも誘って一緒に行った、
千里・清香・双葉・公世に川添と全員が白い道着にジャージの上着を羽織っている。下はむろん袴である。
「夏の袴って涼しくていいよね」
「スカートと似たようなもんだよね」
「クールビズとか、みんな袴を穿けばいいと思う」
「それ割りと賛成」
「スカートでもいいけどね」
「クールビズは全員スカートを穿けばいいと言ってた人があったけど、袴の方が現実的」
「どっちみちトイレの改造が必要だ」
「男子トイレの個室増やさなきゃね」
川添さんからは
「こんなんも作ってもらった」
と言って女子制服を着た写真がプリントされた生徒手帳も見せてもらった。
「すごーい。もう女子生徒なんだ?」
「ぼく自身は別に性転換してなないんだけど、女の子の格好で出歩くのはかなり味をしめた」
「性転換は時間の問題だな」
「自分でもそんな気がする。姫路の不思議な女医さんに1日限定で女の子にしてもらったら、凄く調子がよかった。1日限定で女の子になったとか誰も信じてくれないだろうけど」と彼は言ったが
「いや、それ凄く信じる」
と千里と公世が言ったので、彼の方が驚いていた。きっと彼は15年後までには男性と結婚して赤ちゃんを産んでそうだ。公世は女の子になるのか男の子に戻るのか微妙だけど。
公世は自分の生徒手帳も彼に見せていた。
8月3日。
大会2日目は団体戦の予選リーグが行われた。団体戦は47都道府県から1チームずつと、開催県から追加で1チームの48チームが出ており、3チームずつの予選リーグが行われる。各リーグの1位が決勝トーナメントに進出する。兵庫県代表のH大姫路は千葉県・香川県とであった。オーダーはこのようになっている。
先鋒・島根芽依(3年・三段)
次鋒・武原玲花(2年・三段)
中堅・島根双葉(1年・三段)
副将・村山千里(1年・三段)
大将・木里清香(1年・三段)
県予選とは先鋒だけが交替している。双葉はこの夏の昇段試験に合格して三段になった。
予選リーグ初戦の千葉代表との試合では最初の3人で勝って、千里と清香は座ったままだった。第二戦・香川代表との試合では島根姉は勝ったが。武原は敗れた。しかしそのあと双葉と千里が勝って勝利。2勝で決勝トーナメント進出である。今日は清香は出番が無かった。
男子の方も1年生トリオの活躍で2勝し、決勝トーナメントに進出できた。
この日のお昼も主催者から配られたお弁当を食べたが、やはり清香が「足りない!」と言って、会場の外に出て、島根姉妹・千里・清香・男子の1年生トリオの7人で庶民的な中華飯店に入り、天津飯を食べた。
(一般にこの料理は関東では天津丼(てんしんどん)、関西では天津飯(てんしんはん)と呼ばれる。地域によって色々味付けも異なるらしいが詳細はグルメ関係のサイトに譲る)
むろん夕飯は昨日と同様、焼き肉である。でも清香は会場からの帰りにマクドでビッグマックを2個!買っていた。島根姉妹はラーメンを食べてきたらしい。千里もアイリスにミスドを買ってきてもらったが清香が「あ、いいな」と言うので、半分分けてあげた。代わりにマクドのポテトをもらった。
8月4日、最終日。
午前中は個人戦の準々決勝以降が行われる。準々決勝の千里の相手は先日の玉竜旗で準決勝で当たって負けた福岡のN学園女子高の大将だった高田さんである。いきなりこんな強い相手に当たるなんてと思ったが、向こうも嫌そうだった。
こんな強い相手には先制攻撃あるのみと考えて千里は試合開始と同時に相手に突撃し、面を1本取る。そのあとは双方1本を取れないまま推移し時間切れ。結局千里が最初に取った1本が効いて千里は何とこの強敵に勝ててしまった。超ラッキー!と思った。
準決勝の相手は大阪代表の青木さんであつた。千里が2年前の全中で負けた相手である。彼女は試合開始と同時に飛び込んできて千里から小手を奪った。そしてその後はどちらも1本取れないまま時間切れとなる。それで青木さんの勝ちである。千里が準々決勝でやったのと同じことを彼女はした。千里を強敵と認め、その強い相手に勝つ作戦で来たのだろう。強敵と認められたのはいいが、負けては仕方ない。それで千里はこのインターハイ個人戦ではBEST4で終わった。なお清香もBEST4だった。千里と清香は3位の賞状を持ち帰ることになる。優勝は千里に勝った青木さんである。
なお準決勝で清香に勝った人は2年前の全中で清香に対戦ではほぼ勝ってたのに反則負け(道具の検印漏れ)した人であった。今回はきっちり向こうが勝ったが清香と大舞台で再戦できて、ふたりとも泣いて握手をしていた。
(二人は2年前「インターハイでまた会おう」と誓っていたが、それが実現した)
この件、2人が泣いていたので記者の目を惹き、剣道雑誌にも取り上げられて「いい話だ」という声が多かった。いい話ではあるが、負けては仕方ない。彼女のほうも因縁の清香には勝ったものの、決勝で青木に負けて、優勝できなかった。
男子では公世も川添君も準々決勝で負けてBEST8であった。
この日のお昼は前日・前々日同様にお弁当を食べた後、また外に出て、今日はきつねうどんと稲荷寿司を食べた。お店に行ったのは島根姉妹・千里・清香・公世の5人で稲荷寿司を“3皿”注文した。
「1皿で30個あるんですが」
「大丈夫です。行けます」
それでほんとに完食したので、お店の人が驚いていた。
午後からは団体戦の決勝トーナメントが行われる。
1回戦の相手は岡山代表であった。強かったが何とか島根姉妹と千里で勝って勝ち上がる。清香が「私の出番が無い」と文句を言っている。
準々決勝の相手は鹿児島代表だった。島根姉も負けたが、双葉・千里・清香で勝って勝ち上がる。清香はやっと試合ができてご機嫌であった。
準決勝の相手は福岡のT高校である。島根姉と武原さんが負け、双葉と千里が勝ったあと、大将戦に勝負が掛かる。しかし清香は相手大将の安川さんに負けてしまった。
「ごめーん」
「いや清香で負けたのなら仕方ない」
それでH大姫路は団体戦BEST4で終わった。優勝はそのT高校である。決勝では大将の安川さんは座り大将だったのでH大姫路との一戦が事実上の決勝だったと言われた。
男子の方は準々決勝で負けてBEST8だった。
H大姫路の一行は表彰式の後、新幹線で姫路に戻った。戻ってから、打ち上げで姫路駅近くの焼き肉店で焼き肉(但馬牛)を食べた。
「来年は優勝したいね」
「また頑張ろうよ」
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女子高校生・夏はスカート(8)