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それで“姫様道中”では、越智さんが白い服と白い袴で先頭を歩き、狩衣を着けた和弥がその後を歩き、馬に乗った姫様役の男の子(馬には横乗りしている)か続き、上臈役の男の子たちが徒歩で続いて(姫様よりきつい気がする)、町内を一周した。行程は1kmくらいだった。ただし坂もあったから、わりと体力を使った。確かにこれは女の子にはけっこう辛いかもという気はした。上臈の後にはサムライ衣裳を着けた氏子の男性が10人、最後尾には巫女さんたちが続いた。
昼間は祝詞を奏上する中巫女舞が奉納されるが、これはまゆりが取り仕切った。女子大生の巫女さんが笛を吹いてくれた。太鼓は越智さんが叩いた。
15時から奉納小学生相撲大会が開かれるが、行司を頼むと言われる。
「ほんとは宮司が裁くんだけど、お祖父ちゃんは無理だし、私は女は土俵にあがれないし」
「まあいいよ」
それで狩衣に白い足袋を履き、軍配を持って行司をした。拝殿の前にクッションマットが敷かれ、そこにペイントで丸く土俵の円が引かれていた。怪我しないようにということなのだろう。今はいろいろめんとくさいよなと思う。土の土俵で怪我したら、やれ補償がどうの、神社の責任がどうのという話になりそうである。一応選手はスポーツ保険に入ってもらっているということだった。更に準々決勝未満では、押し倒しなどの危険?なワザが禁止されており、ほとんど押し出しや送り出し・突き出しなどで決着が付いた。体格差のある場合は吊り出しもあった。
しかし小学生たちの熱戦はなかなか素晴らしかった。選手の中には女の子もいた。この子は準々決勝まできて、後述の前川君に負けた。(服装は男女とも体操服)しかし、女は土俵にあがれないという話は???女の子の選手がOKなら、まゆりちゃんが行司してもいいじゃん。
やがて決勝戦となる。
「番数も取り進みましたるところ、かたや前川、こなた田代、この相撲一番にて結び」
(口上は越智さんに教えてもらった:この人神社のことについて色々詳しい。この人が宮司を継ぐことはできないのだろうか???:そういう話は当然あったが、奧さんが反対している。実は越智は素麺屋の継承問題にも関わっている:その内書くことになる)
結果は前川君が勝って東の大関、準優勝の田代君は西の大関となった。
「おめでとう」
「ありがとうございます。でもこれで来年は姫様役しないといけないから気が重い」
「俺も上臈役だけど女の服とか着たくないよな」
「化粧までされるしな」
え?そういうシステムなの?まあ相撲で優勝するような子なら倒れることもあるまい。
夕方には神楽の奉納があった。神事は夜まで続くものの、和弥は18時で上がらせてもらい、花絵の家に行った。
5月2日の夕方、和弥がそろそろ帰ろうとしていた時、宮司住宅から宮司の奧さんが青い顔で出て来てまゆりを呼ぶ。
「お祖父ちゃんがトイレに行こうとしていて廊下で倒れて起き上がれないみたいなの」
「それは119した方が良い」
それでまゆりは救急車を呼んだのだが、行きがかり上、和弥も平田茂行が運び込まれた病院に、まゆりと一緒に向かった。救急病棟の病室のベッドで寝ている平田さんは生気が無く、素人目にも、かなりやばい感じがした。彼が「翻田さん」と和弥を呼んだ。
「どうしました?水でも汲んできましょうか?」
彼はいきなり和弥の手を両手で掴んだ。そして言った。
「翻田さん、お願いです。まゆりをあげますから、あなたがうちの神社を継いでもらえませんか」
そんなことお願いされても困る〜。
しかし平田さんはそれだけ言うとガクッと脱力した。まゆりがナースコールを押す。看護師さんは来るとすぐにドクターを呼んだ。やってきた医師が患者の様子を見ている。目を開けて瞳孔を確認している。これやばいのでは?医師は言った。
「お気の毒ですが」
ちょっとぉ!
平田さんの通夜はその日5月3日、葬儀(神葬祭)は4日にいづれも姫路市内の葬儀会館で行われ、K神社本社の宮司・松岡さんが取り仕切った。平田さんの遺体は3日の午後にはいったん自宅に戻った。そこに有明町のK神社本社の宮司・松岡さんと、兵庫県神社庁の人事部長さんで笠間さんという人が来て神社の後継者について話しあった。この人事部長さんは神戸市内の大きな神社の禰宜でもあり、平田さんとは古い友人でもあったらしい。
「宮司の孫の平田まゆりと申します。私が現在この神社の禰宜を務めております。このまま私を新しい宮司に任命して頂けませんか」
とまゆりは言った。
松岡さんも頷いている。
宮司・禰宜などの任命権はあくまで神社庁にある。
「そちらの方は?」
と笠間さんは和弥を見て言う。
「皇學館時代の友人です。お祭り期間中、お手伝いをお願いしておりました。臨時の権禰宜をしてもらっていましたが」
「婚約者さんとかではないんですね」
「ただの友人です。それに私は北海道の留萌P神社の禰宜をしておりますので、こちらの神社には関われません」
と言って和弥は“留萌P神社禰宜・翻田和弥”の名刺も渡した。花絵が千里の家のプリンターを使って作ってくれたものである。
「北海道と兵庫ではさすがに神職の兼任は無理ですね」
「祖父が彼を私の恋人かと勘違いして臨終の際に君が神社を継いでくれなんて言い残したのですが、そもそもただのお友達ですから」
「なるほど」
「今回は祭りの間だけ頼まれて臨時で権禰宜を務めてますけどね」
「ちなみに翻田さん、ご兄弟とかは?」
「姉がひとりいるだけです。ですから、私が唯一の跡取りなんですよ」
「なるほど」
「父が普通の会社員になってしまったので、現在神社は78歳の祖父が守ってるんですよ。自分もいつお迎えが来るか分からんからと言われて先月、私が禰宜になりました」
「どこも後継者難だね」
などという話をして笠間さんは十分理解してくれたと思ったのだが、連休明けの8日、まゆりから連絡があり
「私を宮司に任命する辞令と翻田君を禰宜に任命する辞令が届いた」
と言ったのである。
「なんでそういうことに」
「あの人、話を半分も聞いてない」
とにかく和弥はいったん姫路に行くことにした。宇治山田から近鉄で難波に移動しJRで姫路に行って、姫路駅には花絵に迎えに来てもらった。花絵の家にまゆりさんが来て、辞令を見せた。花絵の家には近くに住む村山千里も来ていた。彼女は留萌P神社の巫女をもう10年ほど務めていた。この4月に姫路市内の高校に進学して姫路に越してきた。同じ団地内に住んでいる。そして立花K神社の巫女も務めている。
花絵は言った。
「話は簡単だよ。あんたが姫路立花K神社と留萌三泊P神社の神職を兼任すればいい」
「近所なら神職兼任はよくあるけど、姫路と留萌の神社の神職を兼任するなんて物理的に不可能」
「神戸空港から旭川空港までジェット機なら1時間半だよ。充分いける」
「神戸から旭川に飛ぶ便とか存在しない。伊丹からでも1日1本だし」
「ビジネスジェットを1個買えば良い」
「そんなお金は無いしパイロット雇うお金も無い」
「千里ちゃん、ジェット機とか持ってないよね?」
と花絵が言うと、千里ちゃんは
「きーちゃん?」
と傍に居る30代の女性に訊いた。あれ?この人、いつからここに居たんだ?と思った。しかし彼女は言った。
「よし。1機買おう」
「(驚いて)え〜!?」
花絵が、パチパチパチと拍手している。なんか車でも買うような感覚だ。この人凄いお金持ちなのだろうか。
「千里、あんたも留萌・旭川にたくさん用事がある」
と彼女は言っている。
「え〜!?」
と嫌そうに村山さんが言う。
しかし本当に天野さんはジェット機を買ってしまったのである!
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女子高校生・夏はスカート(2)