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ところで“しあわせ工務店”は受注していて建築途中あるいは未着手の注文がいくつかあった。
まず建築途中であった1軒に関しては、元々のしあわせ工務店のスタッフに加えて、九重たちや山山家具・播磨アルミのスタッフまで動員してすみやかに仕上げることにした。
山山家具のスタッフが結構役に立った。木材を組み合わせて釘を打つという点では家具作りも家作りも共通する部分がある。山山家具の若いスタッフの友人達10人くらいをこの機会にこの会社に吸収したので人間のスタッフは20人ほどになった。
腕力を使う場面では、九重達が重たい部材をウィンチも使わずに平気で高所まで運んで加工するので、しふわせ工務店の大工さんたちが見取れていた。それでこの家は10月中に竣工した。元々12月竣工予定で、そこに工務店の社長の死去で大幅に工事が遅れるのではと思っていたのがかえってスピードアップしたので喜ばれた。家の建て替えのクライアントだったので、仮住まい利契約を延長すべきか悩んでいたらしい。
未着手の5軒に関しては口が上手いし、いかにも“できそうな”雰囲気を持つ青池に、ユニット工法への変更を打診させた(万奈は適当そうに見えるし、南田でも信頼感に欠ける)。費用が大幅に安くなり工期も短いこと、そして耐震性が高いことをアピールし、5件中4軒が工法の変更に同意してくれた。この4軒も年内に竣工したのであまりの速さに驚いていた。(本来は来年6月くらいの予定)
どうしても木造軸組構法でないと嫌だというクライアントには仕方無いのでその工法で建てたが、トイレやバス、子供部屋などにはユニット部品の使用を許容してくれたので、3月中には竣工し、予定では6月末竣工だったので喜ばれた。以降は軽量鉄骨構造、重量鉄骨構造、ユニット工法しか受け付けないことにした(原則はユニット工法)。
スーパーのプリンスは兵庫県東部に10店の店舗を持つ地場スーパー“ハーバー”を実質配下に収めた。どうもプリンセスを買収するつもりで用意していた資金を、千里のプリンス株保有で買収ができなくなったことから、そちらに転用したようである。
お店の名前はハーバーのまま変わらないがハーバー各店舗にはこのような掲示が出た。
「ハーバーは2008年9月付けでプリンス・プリンセス・グループに参加しました。このため、各店舗に新型レジを導入し、プリンスの電子マネー“プリカ”や私鉄各社のPasmoが利用できるようになります。また発行済みのハーバーの商品券はプリンス・プリンセス各店でもお買い物にご利用できます」
(日本語が少し変だがまあ意味は分かるだろう)
お客さんは和歌山地盤のプリンスには馴染みが無いものの、同じ県内の播磨地区で展開していたプリンセスは知っている人が多く安心感があったようである。
プリンセスの交野は「うちがこういう掲示を出す羽目になるところを村山さんのおかげで助かった」と胸をなでおろした。
彼は思った。
「買収をしかけてきた企業(プリンス)の株を逆にこちらが買うというのは、いわゆるパックマン戦術だな。しかしよく流動性の低いローカル企業の株を25%も買えたもんだ。やはりあの子は凄い。絶対に敵にはまわせない人だ」
パックマンというのはゲームの名前。襲ってくるモンスターを逆に捕食することでレベルアップするので、企業買収に対する防御策として逆買収を仕掛けるのをパックマン戦法と言う。アメリカのソフト産業の再編では逆買収がかなり見られた。
大阪府北部に6店舗を持つスーパー・ソーラの社長がプリンセスに接触してきた。
「単刀直入に。うちを買ってもらえませんか」
「それはなんで」
「私も年ですが息子がスーパーとか継ぐ気は無いと言うもので」
「息子さんは何をなさってるんですか」
「新聞社に勤めているんですよ。社員にも後継の経営者になってくれる人がなくて。私も昨年は3ヶ月入院してましてね」
「ああ」
それで茨木市に大型店舗を持つプリンセスに接触してきたということだった。交野と片倉は話しあってソーラを吸収することにした。
結果的に販売先が拡大したことから西日本新鮮産業はお魚の仕入れ先を増やすことになる。これは特に九州方面の漁業者や養殖会社と契約を進めた。他に山陽地方また長野・岐阜に多数の農園を開設することになる。また万桜では姫北ハム系列の養豚場やプリンセスと提携する養鶏場に飼育頭数の増大を要請し、養豚場などを増設する土地を提供した。
9月22日 - 自由民主党は、東京都千代田区永田町の党本部で、自由民主党総裁選挙を挙行する為の両院議員総会を開催、麻生太郎幹事長が351票を獲得、第23代自由民主党総裁に選出され、直ちに総裁就任した。
9月24日、福田康夫内閣が総辞職した。同首相の在任期間は363日と、日本国憲法下では史上7位の短命政権となった(前任者・安倍晋三の366日を抜く)。
※下記は“2008年時点での”戦後の主な短期政権(首相臨時代理を除く)
東久邇宮稔彦王 54日(旧憲法下)
羽田孜 64日
石橋湛山 65日
宇野宗佑 69日
芦田均 220日
幣原喜重郎 226日(旧憲法下)
細川護熙 263日
片山哲 292日
福田康夫 363日
安倍晋三 366日
第170回国会臨時会召集。福田内閣総辞職を受けた首班指名選挙で、衆議院では自由民主党の麻生太郎総裁が、参議院では民主党の小沢一郎代表がそれぞれ内閣総理大臣に指名され、両院協議会で両院が合意に至らず、日本国憲法第67条の規定に則り、衆議院の指名が有効となり、麻生太郎が第92代内閣総理大臣に指名される。
麻生太郎新首相による新内閣組閣で、小渕優子(小渕恵三元首相の子)が、戦後最年少の34歳で内閣府特命担当大臣(少子化担当相)で初入閣。第1次岸信介改造内閣で郵政相に就任した田中角榮の39歳を大幅に更新。閣僚名簿を官房長官ではなく首相自ら発表した。
9月下旬。大阪府から連絡があった。
「村山さんが吹田市**町に所有しておられる土地に関して、ここを大阪モノレールの新しい路線が通ることになりまして、土地収用法にもとづき収用させていただきたいのですが」
「分かりました。土地全部ですか」
「全部です」
こういうのは一部だけ残されたりするのがいちばん困る。全く何にも使えない土地の固定資産税だけを永遠に払い続ける羽目になる」
「価格は所定の計算方法で計算してお支払いします」
「ああ、お任せしますよ」
ごねたって絶対それ以上はくれない。強制収容されるだけである。
それで大阪府から支払われた金額は約5000万円だった。1800万で買った土地なのに!差額で結果的に京都(南)の土地を買った代金の半分くらいを補填できた。
収用価格は周辺の土地取引価格を参考に決められるが千里は現金でこの土地を買っているので土地取引としては記録されていない。
「え〜吹田市の土地、売っちゃったんですか?」
と九重たちが不満そうである。
「モノレールの線路にするんだって。おかみにはさからえないよ」
「霊道はどうなるんですかね」
「まあ線路の基盤の下に埋もれてしまうね」
大阪モノレールは懸垂式ではなく跨座式なので普通の鉄道の線路と同様に基盤が作られるはずである。
「ああ、折角の餌場が」
「まあカメラでも持って撮り鉄の振りしてモノレールの線路近くをうろついててもあまり咎められないと思うよ」
「あ、それはいいですね。カメラ持ってこ」
「女子中生を盗撮しようとする痴漢と誤解されないようにね」
「私は勾陳さんとは違いますよ」
確かにあいつは危ないなと千里は思った。痴漢と間違えられるのではなく、むしろほんとに女子中生の盗撮とかしかねん。捕まっても引き取りに行ってやらないぞ。
「でも吹田市の物件は何に使うつもりだったの?」
とジェーンはロビンに訊いた。
「自分でもよく分からない。何か大阪の近くに土地が欲しかったのよね」
「今となっては王実運輸の株券を獲得するためだったとしか思えないね」
「全くだね」
「でも全部収用されてよかったね。切れ端1m×10mとかだけ残ったら悲惨」
「あの隣の土地の所有者はそうなった気がする」
「mulberry field, mulberry field」
「何それ」
「桑原、桑原、を英語で言ってみただけ」
「今の人には“くわばら”自体が通じないよ」
「こういうケース、英語では何というんだろう」
「Oh! Jesus Christ(ジーザス・クライスト)」
「仏教徒のアメリカ人だったら?」
「うーん。宗派によるな」
9月30日
住友生命保険、損害保険事業(子会社のスミセイ損害保険)から撤退、三井住友海上火災保険と提携し、今後は同社の商品販売および長期契約の2010年内までの切り替えを行うことを発表。
九重達がしばらく、しあわせ工務店(現・3丁目工務店)のフォローで忙しいので、その間、大力工務店に臨時スタッフを入れることにした。京都の南邸や大山崎司令室は彼らに建ててもらうことになる。
・由布(ゆう):九重の従弟。実の弟のように仲が良い。この臨時スタッフグループの中心になってくれた。
・零風:紅一点のはずが、誰も女と思ってくれず、しばしば着替え場所に困っていたようである。腕力も食欲も男並みである。お酒も大好き。よく由布から「もう少し丁寧に仕事しろ」と注意されていた。
・箱田:実は伊豆霧の紹介で入れた。元々は関東(伊豆諸島)出身だが、10年くらい前に関西に移ったらしい。腕力はあるし、釘が打てるし、役に立つ子だった。また電気系統に強いので配電関係も彼にしてもらった。(電気工事士の資格も持っている)
彼は感電にも耐性があり「電気椅子に座らせられても5分間生きてる自信がある」などと言っていた。“電気に強い”の意味が違う??(電気椅子による処刑では1分間電気を流す)
・那川:清川の友人。きちんとした性格なので、精密な作業にはだいたい彼が投入された。
・滝野:七瀬の弟である。男の子ではあるが力仕事よりどちらかというと交渉とかデスクワークが好きなので、万奈の直属にして設計を担当させた。設計助手ということにする。来春どこか設計を学べる大学に入ってもらい建築士を目指してもらううことにした。
「武庫川女子大学とかでも学べるよ」
「ぼく男の子ですー」
「女の子に変えてあげようか?」
「ちんちん無くしたくないですー。スカートとかも穿きたくないです」
果たして彼はずっと男の子のままでいられるだろうか。取り敢えずパンティとブラジャーをプレゼントしておいた。姉の七瀬によれば女装させると結構可愛くなるらしい。
(姉が居る弟は女装させられやすい)
西日本新鮮産業は、姫路市に近いたつの市に食品工場を建設した。留萌の三泊にあるのと似たような仕様で、かいわれ大根、もやし、豆苗、アルファルファ、エノキダケなどを自動で生産する。生産自体は自動なので、材料投入・点検・検品、出荷などのスタッフがいればよい。ここで生産したもやし系食品をプリンセス・プリンスグループのお店に出荷する。