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「え?転校生が入ってくるんですか」
と千里たちは驚いた。1年生に転校生があり、剣道部に入ってくるらしい。
「全中でベスト8まで行った子」
「それは楽しみだ」
と双葉。
「ああ、私の高校3年間で唯一出られる大会という夢が消えてしまう」
と知代。
「転校生は半年間大会に出られないから今転校してきたら3月の大会から出場OKかな。選抜予選には間に合わないけど、魁星旗から使えることになるかな」
と香織が言うが
「彼女はお父さんが転勤になってそれに伴う一家移住での転校だから制限外。だからすぐ出場できる」
「やはり私の夢は消えた」
と知代。
「あきらめないで。その子もしくは大ちゃんに勝てばいいんだから」
と光。
「私かピカちゃんに勝つのでもいいよね」
と香織。
「そそ。むしろともちゃんが今のカオ・ビカ・ダイの一角を崩せるようにならないと、選抜や魁星旗の連覇は厳しい」
「ともちゃん、毎日私とやろうよ」
と双葉が言っている。
「はい。頑張ります。よろしくお願いします」
自分や清香よりは双葉との対戦のほうが知代には勉強になるかもと千里は思った。あまりにも力の差のある人との対戦では学ぶのが難しい。
この転校生は楢橋美穂ちゃんと言った。身長は160cmと低いのに物凄く強い。光や大が彼女に1本取られていた。双葉とも結構いい勝負をした。
「電車で神戸まで通学してE高校に行こうかと思ったんですけど、H大姫路もここ1〜2年強くなったよと聴いて」
「歓迎歓迎」
「それにE高校さん、特待生の枠が満杯だったみたいで」
「どこも特待生の枠ってそんなに多くないからねー」
「うちはたまたま空いてたのよね。大ちゃんの他にもうひとり声を掛けてた子は大阪の高校に行っちゃったから」
「ああ。あの子かな」
国体の近畿ブロック大会で凄く強い1年生が居た。花本涼世がかなり苦戦していた。きっとあの子だろう。
「でもお父さん何のお仕事?」
「山畑ゴムってゴルフクラブのメーカーなんです」
「大企業では無いか」
「でもお陰で全国とばされます。私生まれは静岡なんですけど、小学3年の時に東北の仙台に行って、中学1年の時に九州の久留米に行って、今度は姫路です」
「東へ西へと大変ね」
「でも高校在学中に再度父が転勤しても私は卒業までここに居ますよ」
「その時は適当な下宿先探してあげるよ」
自分達が出た後大ちゃんと2人で泊めてもいいよなと千里は思った。大はアパート暮らしである。女の子の一人暮らしで心配してお母さんがしょっちゅう富山から出て来ているようである。鐘丘先生も週に2回くらいアパートを訪れている。
千里家に住まわせる場合、男の子だと誰かさんの手で女の子に改造されちゃう危険?があるが、元々女の子であれば問題無かろう。
9月7日(日)、H大姫路では文化祭が行われた。今年も千里は吹奏楽部から応援を頼まれたので夜梨子が銀桃を持って行き吹いてきた。
(銀桃はオフセットでインラインの銀狐より吹きやすい)
「来週の日曜、大会があるからよろしく」
「OKOK」
9月11日 - 明治製菓と明治乳業が2009年春をめどに経営統合し、持ち株会社を設立することを発表(11月26日に両社が臨時株主総会を開催、持ち株会社の社名は明治ホールディングスとなる)。
9月14日(日)、吹奏楽の大会があったので、夜梨子は銀桃を持って市民体育館に行き、演奏に参加してきた。今年も銀賞だった。
9月16日 - アメリカ証券会社大手リーマン・ブラザーズの経営破綻に伴い、同社日本法人リーマン・ブラザーズ証券および関連会社が東京地方裁判所に対し民事再生法適用申請。リーマン・ブラザーズ証券の負債総額は計約3兆9000億円と、2000年に倒産した協栄生命保険に次ぐ戦後2番目の大型倒産となる。
9月19日、事故米問題で太田誠一農相と白須敏朗農林水産省事務次官が辞職を表明。
9月20日(土)
卓球部の秋の大会があり、3年生の片山君や優花にとっては高校最後の大会になった。片山君は“男子”として参加したのだが、試合前に
「君女子じゃないの?」
と言われていた。
「男子です」
と言う声も女の子のような声である。
「何か性別を確認できる物持ってる?」
「これでいいですか?」
と言って、彼は住基カードを見せた。
「ああ、確かに男と書いてあるね。ごめんねー」
「いえ」
住基カードは公世のアドバイスで作っておいたものである。彼は生徒手帳の写真も女子制服を著た写真が貼られているので、むしろ女である事を証明してしまう。
彼はこの大会で準優勝して高校最後の花道とした。でも表彰式で賞状を渡してくれた大会長さんから
「女子なのに男子の部で2位って凄いね」
と褒められた!
なお彼は会場のトイレは“ちゃんと”女子トイレを使用した。むろんトイレではノートラブルである。
彼は大会が終わった後は“女子更衣室”で制服(もちろん女子制服)に着替え、女子のチームメイトと一緒に町に出て、可愛いグッズなどを見て、ロッテリアを一緒に食べた。
3年女子の武藤さんは
「雅ちゃんの女らしさを見習いなよ」
と言われていた。彼女はサンリオショップの中に入れず、外で待っていた。
「ぼくはスカート穿いてても『最近は男の子もスカート穿くのね』と言われるんだよね」
「男の子がスカート穿いてもいいと思うよ」
「女子トイレではよく通報されるし」
「たいへんね」
彼女は試合前に「君ほんとに女子?男子じゃないよね」
と言われたらしい(いつものこと)。彼女も性別証明のために住基カードを持ち歩いている。トイレなどで通報されたらそれを見せるらしい。
「温泉で女湯に入ろうとして逮捕されたことあるけど、パンツ脱いでみせたら『ああ、性転換手術は終わってるのね、だったら女湯に入っても良いよ』と言われた」
「ほんとにたいへんね」
9月21日(日)、また大手予備校の模試があり、千里や清香はこれを受けた。模試はこのあと11月にもあり、それが最後の模試になる。今回の結果は10月下旬に通知される予定である。
公世は「私立は学費掛かるし」と言って。京都教育大学と京都府立大学に絞ったようである、双葉はまだ大阪体育大学の線も残しているが、清香の「この4人で一緒に住もう」という声に応えて、公世と同じ京都教育大学・京都府立大学、それに京都女子大学も候補に入れているようである。公世に「一緒に京女(きょうじょ)に行かない?」と声を掛けていたが、むろん公世は「ぼくは男子だから女子大には行かないよ」というお返事。
清香は同女(同志社女子大学)狙いで、滑り止めに花園大学を考えているようである。女子剣道部のあるところというのは、絶対条件である。京都には女子大が多く清香でも通りそうなところも結構あるが、剣道部のあるところは少ない。
しかし清香が同女の合格圏内に入ってきた場合、もう少し頑張ると、京都産業大学・京都教育大学あたりも見えてくる。もし清香・双葉・公世の3人が京都教育大に行くなら、千里もそこに行ってもいいかもという気もした。
きーちゃんから「剣道の練習場が取れる広さの土地を確保できたよ」という連絡があった。
行ってみると、京都市南部のわりと開けた地域である。
「全部で約100坪。後ろの部分が7間×12間あるから道場作れるよ」
「2階建ての道場にしようかな。1階住居で2階道場とか。でも高かったのでは?1億とかしなかった?」
「そうでもない。20坪1800万円の物件と7間×4間の再建不可物件の建売住宅が3つ隣接しているのを各々別々の不動産屋から買った。建売住宅は1800万から2000万で合計5500万、どれも古家(ふるいえ)付きだから安かった」
「なるほどー」
別々の不動産屋からって4人のきーちゃんで同時に買ったのかな?
(実は2人のきーちゃんと月夜とロデムである)
「合筆すれば家を建てられる。古家は適当に崩して」
「うん。崩させる」
表側の家は20坪の敷地ぎりぎりまで建物がある。建蔽率も何もあったものではない。しかし全部合筆すると104坪だから建坪62坪延べ床面積104坪の家まで建てられることになる。ぎりぎり道場付きの家が作れる。
剣道の試合場は10m×10mだが、周囲にスペースが欲しいから道場としては11m×11m以上欲しい。しかし建物を建てる時、境界線との間に50cmの隙間を作る必要があるから結局敷地としては12m×12m欲しい。7間は12.6mだから7間×7間の土地があると安心である。これを2階建てにすると延べ床面積は98坪である。敷地が104坪なら余裕だ。
(計測し直したら奥側の土地の奥行きは7間より少し長い14mあった。家の建て面積が7間×4間だった。建蔽率規制の無かった昔の家だから敷地にぎりぎり建ててる。境界50cmだけ守ってる)
またここは北が崖なのもいいなと思った。北に住宅があると斜線規制が出るので建てられる建物の高さに制限が出る。崖なら規制は無い、(竹刀を振るのに天井の高さが欲しい)
「この付近は以前湖か何かの底だったみたい」
「さすがだね。京都の朱雀になっていた巨椋池(おぐらいけ)の跡地の一部だよ」
「なるほどー。でもここ風水的にはそんなに悪くないよ」
「私も思う」
「あれ〜。ここ伏見稲荷からも近い」
千里(特に赤や緑)は“神社センサー”を持っているので付近にある神社を感知する。
「うん。2kmちょっとかな」
ときーちゃんも言っている。
ということは京都教育大にも近いな、と千里は思った。そして伏見から近いことでしばしば京平がここには遊びにやってくることになる。
「じゃ万奈たちの手が空いた時に少しずつ工作させよう」
九重が細かい作業用に零波というやや荒っぽいものの若くて元気な関西組の女の子龍を貸してくれたので、ここの古家を崩すのは彼女にやってもらった。
古家4軒を崩したことでエントランス4間(7.2m)×5間、奥側12間×8間(路地として使っていた部分を含む)の更地が出現した。ここの奥北側に寄せて7間四方2階建ての家を建てるつもりである。間取りはゆっくり考えるとして取り敢えず雑草防止のシートを張ってもらうことにした。
「ちなみにここの地面を5mくらい掘ってもらうのは大変だよね」
「そのくらい平気ですよ。広さは?」
「7間×7間の部屋が取れるサイズ」
「小さいですね。どうせなら30間四方くらい掘りません?」
「敷地からはみ出るよ」
「地面は触らずに地中で広げればバレませんって」
「それは他人の物件の侵害だよ」
あの九重が“やや荒っぽい”と言ってた訳が分かる。わりと無茶な子だ。こういう子好きだけど。
「7間×7間が取れるように8間×8間でお願い。敷地からはみださないようにね」
「ラジャ」
それで彼女は穴を掘って山止めもしてくれた。