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■女の子たちのアジア選手権(11)

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第3ピリオド、向こうは馬/勝/魏/王/劉とシューターを外してフォワードを3人並べる方式で来た。こちらは朋美/千里/玲央美/江美子/誠美というオーダーで行く。
 
中国は前ピリオド後半に勝さんが完璧に抑えられたため、3人のフォワードを使い分ける作戦で来た。
 
それでもこちらは千里が勝さんにピタリと付き、残りの4人がダイヤモンド型のゾーンで守る態勢を変えない。
 
勝さんにボールが送られた場合は高確率で千里が停める。王さんや魏さんが進入を試みてもゾーンで阻止する。王さんも魏さんもそれでもかなり強引に進入を試みるが、全て中国側のチャージングを取られた。
 
それにこのピリオドでは中国側はシューターが居ないので、どうしてもうまく進入できない場合に、スリーを撃つという選択肢がとれない。何度か王さんがスリーを撃ったものの全て失敗した。
 
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一方日本の攻撃の際は千里に勝さんが張り付いているのでスリーは狙えないものの、逆に勝さんを千里が引きつけている間に玲央美か江美子のどちらかがうまく進入し、得点を挙げていく。
 
それでこのピリオドは日本側がわずかにリードし、20対24のスコアで終えることができた。ここまでの点数合計は72対54である。
 

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点差としては18点あるのだが、日本側ベンチでは追い上げムードなので、あまり焦る気持ちは無かった。このくらいは充分射程距離という意識が選手たちの間にはあった。
 
最後のインターバル、水分補給しながら話し合う。
 
「向こうはさすがにファウルがかさんでいるね」
「うん。王さんがもう4つ、馬さんと勝さんが3つ。魏さんと林さんが2つ」
「ゾーンを破るのにかなり強引な進入してるからね」
 
「こちらは朋美ちゃん、彰恵ちゃん、百合絵ちゃんが2つずつ、玲央美ちゃん、誠美ちゃん、華香ちゃんが1つ」
「百合絵と玲央美のファウルはうまく勝さんに嵌められたんだよなあ」
「でも勝さんも千里を嵌めようとして逆に自分がファウルになってる」
「シリンダーを早い時期に移動させておくんだよ」
と千里。
「玲央美もうまく勝さんのブロッキングを引きだしたね」
「相手のシリンダーのぎりぎりを通過する技をやられたから、こちらも同じことをしてみせた」
と玲央美。
 
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「江美子ちゃんはゼロだったんだね」
「見てると相手の手の届く範囲をギリギリ避けながら侵攻してるんだよね。凄くフットワークがいい」
と百合絵。
 
「そうそう江美子ちゃん、最近凄くフットワークが良くなっているんだよね」
と朋美も言う。
 
「うん。ちょっと特訓してるんだよ」
と江美子が言い、玲央美が頷いていた。
 

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第4ピリオド、中国は勝さんを下げて、馬/林/魏/王/劉という第1ピリオドと同じメンツで来た。
 
「たぶん体力の限界なんだろうな」
 
実は昨夜彼女のビデオを送ってくれた人からの情報でも、中国の国内大会で彼女はだいたい前半のみ、あるいは後半のみという使われ方をしているらしい。しかも1試合おきとかにしか使わない。恐らくあまり体力が無いのではないかと想像した。だからこそ情報を与えないというのも兼ねて、決勝戦のみに使うことにしたのだろう。実際彼女は第3ピリオドの最後の方ではフットワークが初めの頃からするとかなり疲れた感じになっていたのである。
 
こちらは早苗/千里/彰恵/桂華/サクラというオーダーで行く。
 
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千里は第2ピリオドからずっと出っ放しであるが、体力はまだまだ充分であった。そしてこのピリオド、やっと勝さんのマーカーというお仕事を完了した千里が本来のシューティングガードのお仕事に戻った。ピリオド開始早々スリーを打ち込み、追撃の烽火(のろし)を上げる。
 
千里のマークは王さんがしているのだが、彼女のほうは疲れが出てきていて、どうしても反応が遅れる。それで千里の瞬間的な変化で置いてけぼりになる。2個続けてスリーを入れられたので、3度目はかなり強引に千里のシュートを止めようとして、千里の腕にぶつかってしまう。
 
これで王さんは5ファウルで退場になってしまう。むろん千里は腕を当てられようともきれいに決めており、フリースローも入れて一気に4点である。中国は代わりに張さんを入れてくる。
 
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千里は予選リーグの時も王さん・張さんの両方とマッチアップしているが、やはり張さんは王さんほど凄くない。体力は充分あるのだろうが、千里の難しいフェイントや、激しい左右の動きに完全には付いてこられない。それで千里の勢いは止まらない。
 
そして第4ピリオド4分が過ぎた所で日本は80対69と、かなり点差を縮めていた。
 
中国は魏さんを下げて勝さんを再投入する。
 
すると彰恵が「ここは私に任せて」と千里に言った。
 
彰恵は千里が第2ピリオド後半からずっと勝さんを停めるために色々考えた動きをしているのを見ていた。そこで彰恵も彼女流に勝さんを停めにかかったのである。基本は千里がやったように、敢えて少し距離を置いて守ることである。それによって相手の初動に惑わされずにしっかり相手の確定した動きを見て防御することができる。このあと彰恵は一切勝さんに仕事をさせなかった。そして彰恵が勝さんを抑えている間に千里は得点を重ねる。千里に警戒しすぎると、その間に桂華がゴールを狙う。
 
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そしてここから2分で日本は中国に全く得点を許さないまま千里の3連続スリー成功を含む猛攻で80対79と1点差まで詰め寄る。
 
中国は勝さんを諦めタイムを取って選手交代。白さんを投入してきた。馬/白/林/張/劉というオーダーである。白さんは千里のマーカー役だ。日本もフォワードを玲央美と江美子に交代する。早苗/千里/玲央美/江美子/サクラというメンツである。
 
確かにポイントガードの白さんはマークがうまい。第2ピリオドに出ていただけなのであまり疲れてない。それで何とか千里をしっかりマークすることができた。しかし千里が使えなくても玲央美と江美子という日本側の中核フォワード2人が頑張って得点する。しかし中国側も必死である。張さんと劉さんが少々のファウルは覚悟でどんどん突っ込んできてゴールを狙う。
 
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残り1分で87対87と同点になっている。
 

中国は林さんがわざとファウルをしてゲームを停め、馬さんを下げて代わりに陳さんを入れて来た。白/林/張/陳/劉というオーダーになるが、この最後の時間のゲームメイクはスモールフォワードの張さんが中心になった。白さんは千里の専任マーカー、林さんはシュート係である。その林さんのスリーが最初決まって中国は残り40秒で90対87と3点のリードを確保する。中国側の応援席が興奮する。走り出して警備員に取り押さえられる人まで出ていた。
 
日本側が早苗のドリブルで攻め上がる。千里には白さんがピタリとマークに付いている。しかし早苗がこちらにパスの構えをするので、それを取ろうと千里はダッシュする。白さんがそれを追ってパス筋に入ろうとする。それを見て千里は急速反転してエンドライン方向に走る。しかしエンドライン近くのスリーポイントライン付近に陳さんが走り込んできてカバーする。
 
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千里はその陳さんの顔をしっかり見た上で、彼女が外側に出てきたことで空いた制限エリアの中に突っ込んだ。
 
慌てて陳さんがゴール下に戻る。
 
が千里は1歩で急停止して、次の瞬間後ろ向きに2歩ステップしてスリーポイントエリアの外に出る。
 
陳さんの顔を敢えてしっかり見たのが心理的な引っかけになっている。反転した時、貴司がくれた新しいバッシュが凄まじい衝撃を吸収してくれた。千里は一瞬、これ古いバッシュだと無理だったなと思った。
 
早苗は千里が反転した次の瞬間、矢のようなパスを投げている。それを飛びつくようにして取る。白さんが全力でこちらに戻ってるのを横目で見ながら、着地し、そのバネを利用してシュート!
 
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ボールはダイレクトにネットに飛び込む。
 
90対90の同点!
 
日本側の応援席から物凄い歓声。
 
中国側が攻めて来る。残り27秒。日本はプレスに行く。
 
しかし何とか張さんがボールをフロントコートに運ぶ。ここで中国はパスをゆっくり回し始めた。24秒をギリギリまで使ってからシュートしようという魂胆である。残り3秒では何もできないだろうから、確実にゴールを決めて勝ち逃げしようという考え方だ。万一失敗しても同点で延長だから悪くない選択である。
 
これに対して日本側客席からも中国側客席からもブーイングが入る。確かにここで攻めないのは観客には納得できないだろう。しかし中国側は20秒近くまで使ってから陳さんが中に進入してきた。江美子のそばを通過し、ゴール近くからレイアップシュート・・・・
 
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と思ったのだが、陳さんはボールを持っていなかった。
 
本人がジャンプした後で「あい?」と声を出した。なぜボールが無い?と戸惑っているような表情。
 
そしてその時既に江美子がボールをドリブルして物凄い速度で反対側ゴールに向けて走り出していた。
 
残り6秒。
 
江美子のスティール成功を信じて早苗と千里が既に全力疾走している。江美子の行く手を林さんが阻む。江美子は反対側のサイドを走る早苗に素早いパス。早苗は飛びつくようにしてパスを受け取るとそのまま2歩で踏み切って、かなり遠い距離からシュートを撃つ。
 
しかし入らず、ボールはバックボードで跳ね返ってくる。
 
そのボールに千里と張さんが飛びつく。一瞬の差で千里が取るが体勢が崩れていてさすがにシュートはできない。倒れながら後方に居る玲央美に床を這うような速いパス。そして玲央美は受け取ったら即シュート体勢に移る。近くに居た劉さん(201cm)が、ほぼタックルに近いホールディングをしたが玲央美(182cm)の体勢は全く崩れない。このあたりがさすが物凄い筋力を持っている玲央美である。
 
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美しいフォームでシュート。
 
直後に試合終了のブザーが鳴る。
 
ボールはきれいな軌跡を描いてゴールに飛び込んだ。
 

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審判がゴールを認めるジェスチャーをしている。得点掲示板に90対92の表示。日本側の客席が物凄い歓喜に包まれた。
 
千里は大きな笑顔で玲央美に抱きつく。そのあと江美子が玲央美に抱きつくが、江美子は興奮のあまり玲央美にキスしてる!
 
日本側の5人がお互いに抱き合ったりしている内に審判が整列を促す。双方の選手が(だいたい)整列する。審判が「92 to 90, Japan」と言って日本の勝利を告げた。最後にキャプテンマークを付けていた早苗と白さんとで握手してお互いの健闘をたたえ合った。
 
こうして日本女子はU18アジア選手権を初制覇したのであった。
 
両軍の選手がベンチに座っていた選手も含めて相手ベンチに挨拶に行く。そして日本チームは大きな日章旗を振る客席に手を振って答えた。花束や人形を投げ込む客も居る。千里は思わず飛んできた人形を受け止めたが、藤咲なでしこの人形だ。
 
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「よりによって」
とサクラ。
「男の娘の人形を千里に命中させるとは凄い」
と桂華。
 
千里は苦笑いしながら投げてくれた人に手を振った。
 

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日本と中国の選手が汗を掻いた服を着替えるために退場するが、アリーナではすぐに表彰式が始まる。千里と玲央美はスタッフさんに呼ばれて、まだ着替え前ではあるが出て行った。
 
韓国のイさん、中国の王さんと劉さんがいたが、劉さんはゲーム最後のホールディングについて玲央美に「Ms Sato, Excuse me about that holding」と英語で謝っていた。玲央美は「OK, OK」と返していた。
 
「Best Five. Point Guard Lee Korea, Shooting Guard Murayama Japan, Small Foward Sato Japan, Power Foward Wang China, Center Liu China」
と発表される。
 
それで5人でアリーナ中央に出て行き、お互いに握手したりハグしたりしあう。インドネシアの民族衣装を着た女子高校生っぽい子からひとりひとりTISSOT(ティソ)製の銀色の腕時計をもらった。スポーツ用のPRC200というタイプのようで《Best5 - 2008 FIBA Asia Under-18 Championship for Women》という刻印が入っている。これはこの世に5個しか存在しないものだ。
 
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5人がいったんアリーナの端まで下がった所で「MVP Sato Japan」と呼ばれる。玲央美が腕時計を千里に預けて出て行き、地元の女子高生プレゼンターから同じTISSOTの金色のペンダント・ウォッチをもらった。大会長と再度握手してから高く掲げて観客に示していたが、こちらに戻って来てから「時計ばかりいくつももらってどうしよう?」などと言っていた。見せてもらったが《MVP - 2008 FIBA Asia Under-18 Championship for Women》の刻印が入っている。この世にただ一つしか存在しないものである。
 
「金色のペンダント・ウォッチって金メダルみたいだね」
「うん。だけど付けて行く場所に悩むよ」
「確かに!」
 
そばにいる韓国のイさんが「いいなあ。見せて見せて」と日本語で言って「すごーい」と声を挙げていた。
 
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「次はU21か22かで自分がこういうの取れるように頑張ろう」
などとも言っていた。
 
千里たち5人は再度握手をしてからアリーナから出た。
 

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成績部門での表彰も行われる。
 
「Scoring Leader Sato Japan, Three point Leader Murayama Japan, Rebound Leader Liu China, Assist Leader Ma China」
 
中国の控え室から馬さんが急いで出てきて王さんとタッチして、日本の2人とも握手し、馬・劉・千里・玲央美の4人でアリーナに出て行く。プレゼンターから表紙付きの賞状をもらい、また大会長さんと握手した。賞状の中身は英語で書かれているが、表紙には「Sertifikasi」と書かれている。中国の2人が小声で何か話していたので、佐藤さんが隣り合っている劉さんに話しかけている。それで千里に「インドネシア語で認定証という意味らしい」と教えてくれた。
 
そのあとチームの表彰に移りますと言われたので千里・玲央美も中国の2人も急いで控え室に着替えのため戻った。
 
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汗を掻いた下着を交換し、今日試合で着なかった方のユニフォームを着て、その上におそろいのウィンドブレーカーとロングパンツを穿く。それで全員で出て行く。アリーナ中央に、横長の表彰台が設営されている。日中韓の3チームが全員その後ろに並ぶ。
 
最初に「3rd place, Korea」と呼ばれ、韓国チームが右側の表彰台に乗り、全員インドネシアの民族衣装を着た女子高生プレゼンターから銅メダルを掛けてもらう。その次に「Runner up, People's Republic of China」と呼ばれ、中国チームが左側の表彰台に乗る。全員銀メダルを掛けてもらう。そして「Champion, Japan」と呼ばれ、千里たちは観客席の声援に手を振りながら表彰台中央の最も高い所に登った。全員プレゼンターから金メダルを掛けてもらう。千里は首に掛けられたずっしりと重いメダルの感触を歓喜の中で噛みしめていた。そして優勝のトロフィーを主将の朋美が受け取る。ひときわ大きな声援が送られ、千里たちは両手でたくさん手を振った。
 
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そして国旗掲揚である。君が代の音楽がこのメダンGORアンガサ・プーラに流れる。千里は大きな声で歌った。
 
「君が代は千代に八千代にさざれ石のいわおとなりて苔のむすまで」
 
君が代の歌に合わせて会場に大きな日の丸が登って行く。
 
感無量だ。
 
歌が終わり、日章旗がいちばん上まであがった所で会場全体から大きな拍手があった。
 
そのあと退場するが、ロビーに出てから日中韓の選手はお互い入り乱れて握手したりハグしたりして、お互いの健闘をたたえ合った。
 

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女の子たちのアジア選手権(11)

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