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■女の子たちのアジア選手権(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-05-30
 
その日は遅いこともあり練習ができなかったものの、それでは身体がなまるというのでみんな体操をしたり、部屋の中でパス練習したりまた階段の上り下りなどをして過ごした。
 
10月31日は主催者側が割り当ててくれた市内の中学校の体育館で軽い練習をした。直前にあまり重い練習をすると疲れが残るというので、ここから先は疲れない程度の練習である。その中学の生徒たちが歓迎してくれて、女子生徒たちと昼食会もした。
 
「ここって女子中?」
「いや、共学みたいだよ」
「男子生徒の姿は全然見ないね」
「女子制服を着てるんだったりして」
「まさか」
 
インドネシアはイスラム国ではあるが、中東諸国よりは緩くて中学も共学が多いらしいが、日本などに比べるとやはり男女の壁は高いような雰囲気もあった。
 
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「向こうの子から聞き出したよ。男子生徒は私たちが移動する間は教室の中に入っているように言われているんだって」
「ほほお」
「教室は一緒だけど男女を左右に分けているらしい」
「そういう配置は日本でもわりと最近まであったよね」
 
ここの中学の女子バスケットボールチームと「軽い」手合わせもしたが、彼女たちは凄く喜んでいた。彼女たちはバックロールターンを知らなかったので、3人の子に指導してあげたが、その中の2人がすぐに覚えて「凄いです」と日本語で感想を言っていた。将来、この中からインドネシア代表が生まれるかもねなどと千里たちは話をした。
 

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11月1日は開会式が行われて前回優勝の中国から優勝旗が返還された。
 
前回は2007年1月29日から2月5日までバンコクで開催されていて日本は2位に終わっている。花園さんたちの活躍で予選リーグは1位で通過したのだが、決勝戦で予選リーグでは2位であった中国に逆転負けを喫してしまった。花園さんが第3ピリオドに5ファウルで退場になってしまったのが痛かったらしい。花園さんが居ないと背丈に劣る日本はリバウンドをことごとく中国に取られて試合をひっくり返されてしまった。その後花園さんは無駄なファウルをしないプレイをできるようにするために、ゼロから鍛え直したのだと、いつか彼女は語っていた。その成果が昨年夏のインターハイでのN高校との超クリーンな試合だったのだろう。花園さんは今回も日本を発つ前に電話して来てあらためて注意してくれた。
 
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「ファウルを誘うのがうまい選手もいるからさ。日本と同じ感覚でいたら危ないから。特に千里は絶対仕掛けられるよ」
「うん。気をつける」
「何か言われたり、変な事されても平常心でね」
「ありがとう。肝に銘じておくよ」
 
この日はセレモニーの後、また各国ごとに割り当てられた場所での練習となり、千里たちは昨日と同じ中学に行って、この日も軽く汗を流した。
 

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同日、11月1日札幌。
 
KARIONの札幌公演が行われたので、蓮菜たちDRK (Dawn River Kittens)のメンバーは関係者枠でチケットを手配してもらってみんなで見に行った。
 
のんびりと出てきたので札幌に着いたのはお昼前である。そのままみんなで札幌ラーメンを食べてから会場まで行く。蓮菜が美空にメールをして、もし時間が取れるようなら打ち合わせたいことがあるので会いたいというと、裏口まで来てというので行く。美空がマネージャーの望月さんと一緒に出てきてくれていて、一緒に近くのレストランに入った。望月さんは自分は少し離れた席にいるのでお友達同士ゆっくりおしゃべりしてくださいと言ってふたりきりにしてくれた。
 
「初全国ツアーおめでとう」
と蓮菜は言ったが
 
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「初日から遅刻して叱られちゃった」
などと美空は言っている。
 
「ああ、美空ちゃんは朝に弱いって言ってたね」
 
DRKの印税の振込先について変更する場合は自分に連絡して欲しいということを言い、またDRKの名前の権利について蓮菜・千里・花野子の共同所有ということにしておきたいと言い、美空からは快諾を得た。蓮菜が用意しておいた書類に署名する。
 
「ところで千里から聞いたんだけど、蘭子ちゃん、別のユニットでもデビューしたのね?」
と蓮菜は尋ねる。
 
「ああ。結局こちらと兼任ということになるみたい」
と美空。
 
「よく掛け持ちできるね」
「今月は向こうの全国ツアーとこちらの全国ツアーが重なるんだけど、向こうはだいたい夕方からの公演、こちらは昼間の公演なんで、両方掛け持ちするらしい」
 
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「頑張るね!」
「建前上はKARIONの蘭子とローズ+リリーのケイは別人ということで」
「そんなの見たら分かるじゃん」
「DJ OZMAと綾小路翔みたいなものということで」
「なるほどー」
 

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「だけどあのマネージャーさん、背が高いね」
「うん。千里さんと同じくらいの背じゃないかなー」
「バレーとかバスケとかしてたとか?」
「あ、誘われたけど1日でクビになったらしい」
「ああ」
「背が高いかどうかと運動神経はあまり関係無い」
「確かに確かに」
「むしろ身体が大きい分、筋肉をしっかり鍛えてないと小さい人にスピードでかなわないんだって言ってましたよ」
「そういうのあるかもね」
 
「私は背が低いけど、とろいと言われるけど」
と美空。
「うーん・・・」
 
「でも望月さん、背が高いから男かと思われたりすることがあって、可愛い服ばかり着ていたなんて言ってた」
「ああ、分かる分かる」
 
「でもその可愛い服を着ようとするとサイズが合わないんだって」
「そのあたりも大変そう」
 
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2008年11月2日。
 
インドネシア・メダン市内のホテルで朝起きた時、千里はまたまた昨日までと自分の身体が違うことを認識する。
 
『女子高生の身体になってるんだよね?』
と《いんちゃん》に確認する。
『そうそう。これは国体本戦の時の身体の続き』
『少しお腹が重たい気がする。これって黄体期?』
『そうだよ。国体本戦の最中に排卵を起こしたから今生理周期の16日目』
『起こした?』
『あ、ごめーん。言うの忘れてた。本当は今日あたりが排卵日だったんだけど、今日排卵させると、次の生理がウィンターカップの3日目に来るんだよ』
『それはさすがに辛い』
『だから3日早く排卵を起こしたんだ』
『へー、そんなことができるんだ?』
『次の生理は12月21日、ウィンターカップの2日前に来るから』
『了解〜。でも私、ウィンターカップに行けるの?』
『それは道予選を戦う薫ちゃんたち次第だね。私たちにも未来のことは分からないよ』
『ふーん』
 
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さて、この日、アジア選手権は初日を迎える。
 
会場はGOR Angkasa-Pura(アンガサ・プーラ競技場)。「アンガサ・プーラ」というのは「空中都市」という意味で、空港などを運営しているインドネシアの国営企業らしい。
 
初日の相手は台湾であるが、夕方18時からの試合なので、千里たちは午前中に軽く練習をした後、午後は休憩し、16時すぎに再度軽いウォーミングアップをしてから会場に入った。
 
相手はこちらとだいたい似たような背丈のチームであった。篠原監督はこの相手にPG.朋美(6)/SG.渚紗(8)/SF.彰恵(5)/PF.江美子(11)/C.誠美(13)というオーダーを先発させた。様子伺いという雰囲気もある。
 
向こうは最初立て続けに得点を奪い、一時的に4点のリードを奪った。しかしすぐに渚紗の連続スリーで追いつき、その後は江美子と彰恵が競い合うように点を取り、誠美も相手の188cmのセンターに一歩も引かない頑張りでリバウンドを取り、あっという間に逆転。その後適宜選手交代しながら試合を進めたが96対67で快勝した。
 
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試合が終わったのが19:20頃だったので着替えるとみんなで食事に行く。するとインドチームが食事中で
 
「ニッポン団、おはよー、おいでなさい!」
などと怪しげな日本語で声を掛けてくるので、近くのテーブルにこちらも行き、こちらも
「ナマステ、サッスリエガール、ノモシュカール」
と片言のヒンズー語とパンジャビ語とベンガル語で言っておいた。
 
その後、一昨日と同様に(英語で)おしゃべりが始まる。最初は今日の試合の話である。
 
「日本、勝利おめでとー」
「インド、今日は残念だったね」
 
「今日はいちばん勝てる可能性ある相手だったから、いっぱい頑張ったんだけど、負けちゃった」
 
今日のインドはマレーシア戦だったのだが、前半で大差をつけられ、後半必死に追い上げたものの及ばなかったのである。
 
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「最初、向こうの高さにめげた」
「マレーシアも中国も背が高い選手がいるねー」
「なんか大人と子供の試合って感じだったよ」
「でも結構善戦してたのに」
「最初にあの背の高さで圧倒されて精神的に負けてしまった気がする」
「また頑張ろうよ」
「明日も長身選手の多い中国。2連敗確定」
「逆にそういう無茶苦茶強いチームからは何かを学ぶつもりで対戦するといいよ」
「ああ、そうだよねー!」
 
そのあとしばらくは日本人の女の子の恋愛観について色々質問されて
「私たちはそれやると殺される〜」
などと向こうの子たちは言っていたが、日本人やアメリカ人の恋愛感覚に彼女たちは大いに関心を持っていたようである。
 
ちなみに「殺される」というのは誇張表現ではなく、向こうの感覚でふしだらな女性はリアルに生命を奪われることがあるらしい。
 
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「私、日本かアメリカに留学しようかなあ」
「それで国際結婚しちゃうのもいいよね」
 
などといった声もあがっていた。
 
その後、日本やアメリカの人気歌手に関しても結構話した。そしてかなり話したところで、唐突にパルプリートちゃんが言った。
 
「でも今日の日本・台湾戦、江美子ちゃんと千里ちゃんは1本もシュート外さなかった」
 
「よく見てたね!」
「よくあんなにちゃんと入るなあと思って見てたのよ」
「パルプリートちゃんも練習いっぱいするといいよ」
 
「ね? 練習少し見てもらえません?」
「いいよ」
 

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高居さんから照会してもらったら、今回の大会の会場になっている体育館のサブコートを使っていいということだったので、こちらの千里・江美子・桂華・玲央美、向こうのパルプリート、レーミャ、パルミンダル、ステファニーの双方4人、および双方のコーチと通訳1人ずつが付き添い、そちらに入った。
 
江美子と桂華がレイアップシュートのいくつかのパターンの模範演技、玲央美がダンクの模範演技、千里がスリーの模範演技をしてみせる。それを見ながらインド側の4人は
 
「ダンクかっこいいー」
「ステファニーちゃんの背丈ならできる」
「どのくらい飛べばいいんですか?」
「ステファニーちゃん、188cmだから手を伸ばせば230cm近くになるはず。だから75cm程度飛べばだいたいゴールの高さに到達する(バスケのゴールは305cm)」
 
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「ステファニー、やはりジャンプする練習だよ」
とレーミャが言っている。
 
「チサトさん、どうしてそんなに遠くから入るんですか?」
「基本的にボールをリリースする直前まで絶対にゴールから目を離さないこと。リングの少し上のポイントに当てるような感じで撃てばいいんだよ」
と千里。
 
「まあ後は練習あるのみだよね。千里は毎日何百本と練習してるでしょ?」
と桂華が言う。
「うん。だいたい1日500本から1000本くらい練習するよ」
「きゃー。そんなに練習するのか」
「練習は嘘つかない(Practice never tell a lie)って私たちは言うんだよ」
「ああ、何となくその意味分かる」
 
その日は彼女たちのシュートを見てあげて、各々の子に少しだけアドバイスした。するとレーミャのレイアップがかなり改善したし、パルプリートはスリーを3本も入れて喜んでいた。
 
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「だけど、私たちとの対戦前に私たちにこんなに色々指導してくだっていいんですか?」
と向こうのコーチさんが心配そうに言う。
 
それに対して付き添ってくれた高田コーチはこう答えた。
 
「敵に塩を送る、という日本の言葉があるんですよ。敵は敵として、相手が困っていたら助け合う。日本で内戦を130年ほど続けた戦国時代 civil war pediod とでも言えばいいのかな、そんな時代があったんですが、その時に有力な領主に上杉という人と武田という人がいて、領地が隣り合ってずっと争っていたのですが、ある時、内陸の武田が塩が手に入らずに困っていた時に、海に面した領地を持つ上杉が自分の国で取れた塩を武田にプレゼントした故事があるのです」
 
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「なぜプレゼントするんです? 相手が弱った方がいいのに」
「人の弱みにつけ込むのは卑怯だというのが日本人の考え方なんですよ」
 
「おお、武士道ですね」
 
「でもこんなに教えてもらって私たち強くなって日本を苦しめたらどうします?」
とレーミャが尋ねる。
 
「日本の国技、相撲では自分を指導してくれた先輩に実際の試合で対戦して勝つことを『恩を返す』repay the debt of gratitude と言います。後輩が自分を倒すほどまでに成長したことを先輩は喜ぶんです」
 
「それって仕返しする(revenge)という意味じゃないですよね?」
とレーミャが確認する。
 
「逆ですよ」
と高田コーチ。
 
「いや、たぶんそれも武士道なんでしょう」
と向こうのコーチ。
 
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「そうですね。結構こういう考え方は日本人に根付いているんですよ」
と高田コーチ。
 
「いいなあ。私、やはり日本に留学しようかなあ」
とレーミャは言っていた。
 

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