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合宿は明日からなのだが、みんな身体を動かさないと調子悪いということで、夕食後許可を取って体育館で全員汗を流す。高田コーチ(札幌P学園)と片平コーチ(愛知J学園)も付き合ってくれた。
軽く(?)2時間ほど汗を流していたのだが、彰恵が言う。
「エミ(江美子)ちゃん、体力が随分ついた気がする」
「あ、同感、同感」
と桂華も言う。
「以前はけっこう休み休み練習していたのに、今日はもう2時間近くやってるのにパワーが全然落ちてない」
「うん。ちょっと特訓やって体力つけたんだよ」
「へー。どんな?」
「朝のジョギングやってるし、ニンニクの焼いたの食べてるし」
「ああ、ニンニクはスタミナ付くよね」
「臭いが問題なんだけどね」
そんなことを言っていた時、スーパーバイザーの高居さんが来て「みんな居るみたいだから好都合」と言い、インドネシアまでの航空券を配って例によって、名前・年齢・性別に誤りが無いかを確認させた。パスポートも例によって明日の朝いったんスタッフが預かるのでよろしくと言われた。
それを機に解散し、部屋に戻る途中で桂華から訊かれた。
「結局千里は性別・女のチケットでいいみたいだけど、どういう経緯でパスポートも女になっているんだっけ?」
「うーん。私、自分の性別のことを意識したことないから。まあパスポートの申請書には自分は女だと思っているから女と書いたよ。申告通りに発行してくれたんじゃないかなあ」
「でも本人確認で健康保険証とか見るよね?」
「健康保険証の性別も私は女になってたと思うけど」
「よく女で発行してもらったね? お父さんの被扶養者だよね?」
「私、バイトの収入が大きいから、国民健康保険なんだよ」
「へー!」
「その手続きする時、やはり自分は女だと思うから、性別・女と書いて申請したから、それがそのまま通ったんじゃないかな」
「その本人確認は?」
と桂華が訊いたのだが
「千里って確か生徒手帳も女子だったね?」
と玲央美が言う。
「うん。それはなぜか最初から女だったんだよ。私男ですけどと言ったけど修正してもらえなかった」
「要するに千里の本人確認書類って何を見ても女だから、自然とパスポートも女で発行されたのでは?」
「なるほどー」
「それって逆に、男のパスポートを申請してたら拒絶されてたね」
「あり得る」
「ね、もしかして千里が男の娘だというのが嘘なのでは?」
「うーん・・・・。自分でも自信が無くなってきた」
NTCでの合宿は25日から29日まで5日間、みっちり行われた。これがかなりのハードな練習で全員夕方にはくたくたになっていた。疲れがたまって怪我などしないように、練習のあとはお風呂に入って、そのあとマッサージもしてもらっていた。
この期間は女子のWリーグのプロチームや、男子の大学生チームなどに練習相手になってもらい、体格的に優位な選手との戦いに慣らした。
「これでウィンターカップでQ女子高と当たっても行ける気がしてきた」
などと言っている子もいて、江美子が苦笑していた。
ここに出てきている子の内、千里・渚紗・朋美(J学園大学)以外は既にウィンターカップ出場が決まっている。合宿所に入った時点では早苗の山形Y実業も未定だったのだが、26日の日曜に県予選で(早苗不在の中2年生PGが頑張り)優勝して出場を決めた。渚紗の所は秋田県の予選がアジア選手権の後で行われるので、渚紗も帰国後そちらに出場する予定である。
国内合宿の最終日29日。お昼の休憩に入る時、親戚の人が面会に来ているよと言われたので、みんなと別れて1Fのエントランスホールの方に降りて行った。
「お母さん!」
と千里は驚いたように声をあげる。
面会に来ていたのは貴司の母・保志絵であった。
「神社関係の会合で東京に出てきたのよ」
「それはお疲れ様です」
「これうちの神社で必勝祈願したから、御守り」
と言って肌守りをもらう。
「ありがとうございます。試合中は全ての装身具が禁止なんで付けられないけど、バッグに入れて持っていきます」
と言って千里はその御守りを受け取って胸に抱きしめた。
「ついでにお菓子買ってきた」
「みんなで分けます。たぶん一瞬で無くなります」
「それでさ、千里ちゃん」
「はい」
「こないだからちょっと気になってたんだけど、貴司との関係って今どうなってるの? 貴司に訊くとなんか曖昧な言い方してさ」
千里は微笑んだ。
「本当は3月でいったん別れたんですよ」
「そうだったの!?」
とお母さんは驚いた様子である。
「ごめんね。なんか色々とお嫁さんみたいなことしてもらって」
「いいえ。私は個人的にはむしろずっと貴司さんの妻のつもりでいます」
と千里は言う。
「ただ、北海道と大阪では自分たちの年齢ではとても夫婦関係を維持できないと思ったから、いったんリセットしようということにしたんです。私と貴司さんに縁があるなら、いつかまた夫婦に戻ることができると思っています」
お母さんは千里のことばをじっと聞いていた。
「千里ちゃん、大学は東京方面に行くつもりだっけ?」
「はい」
「いっそ大阪方面に行くとかは?」
「それも考えたんですけどね」
と千里は悩むように言う。
「私自分が大阪の大学に進学するか、あるいは進学とかせずに、もう貴司さんの奥さん、専業主婦になっちゃうというのも考えてみたんです。でも自分で占うと、それが凶と出るんですよ」
「へー!」
「東京方面の大学に進学するというのが吉と出るんです」
「なるほどねぇ」
「たぶん、私と貴司が東京と大阪に別れて暮らすことが何かのために必要なんだと思います。でも東京と大阪なら、新幹線で2時間だから頻繁に会いに行きますよ」
「交通費大変そう!」
「旭川から大阪に行くほどじゃないから」
「だよね〜。それかさ」
「はい」
「車買っちゃって、それで往復する手もあるよ」
「あ、それもいいですね」
と千里は微笑んで言った。
そうだよね。私、車運転するの好きだもん。
「ただ、免許取るまでに無免許運転、おまわりさんに見付からないようにね」
「はい。自重します!」
「でもさ」
と言ってお母さんはまた悩むような顔をする。
「どうかしました?」
「うーん。千里ちゃんなら言っても大丈夫かな。あの子、千里ちゃん以外の子と浮気しているような気がするんだけど」
「貴司さんの浮気は別に今に始まったことではないので平気です」
「確かに!」
「こないだ電話した時、貴司さん、付き合っている女の子がいると言ってました」
「いいの?」
「今はまだ私、貴司の奥さんになってあげられないし、次から次へと浮気されるよりはマシだから、取り敢えず放置です」
お母さんが千里を見つめている。
「でも卒業したら即、そちらを壊しに行きます」
お母さんが吹き出した。
「うん、頑張れ、頑張れ」
「それとですね」
「うん」
「その彼女とキスやセックスができないように、呪いかけちゃいましたから」
「千里ちゃんの呪いは効きそう!」
と言ってお母さんは笑っていた。
お母さんが千里の所を訪問した日、貴司はくだんの彼女から電話をもらっていた。
「ね、ね。今週末、細川君、試合無いよね? 私も非番なんだけど、金曜日の晩にデートできない?練習のあと、夜9時半くらいに待ち合わせて」
貴司は実業団の試合があるので、10月から2月くらいまでの土日の日程が詰まっているのだが、たまたま今週末11月1-2日だけは試合が無いのである。ここまで彼女とのデートは平日の昼間に昼食を兼ねてすることが多かった。平日も夕方は練習があり、終わるのは9時である。しかしその後はデート可能ではある。
貴司はドキッとした。
そんな試合の無い土日前の金曜日の、その時刻からのデートというのは当然のことながら「泊まりあり」という雰囲気になる。そのままひょっとして月曜の朝まで一緒? でも今、自分は・・・
「ごめーん。本業の方も忙しくて、仕事が溜まっていて。今週末は会社で仕事しないといけないんだよ」
「わあ、休日出勤か。金曜日の夜だけでもできない?」
「それが仕事を持ち帰って自宅で片付けないといけないんだよね」
「それって残業じゃないの?」
「うん。バスケ部員ということで、他の社員より早くあがらせてもらっているけど、だからといって仕事を滞らせる訳にはいかないから」
「そっかー」
「ごめんね。また昼間のランチいっしょに食べようよ」
と貴司。
「そうだね。じゃ、また」
と言って彼女は残念そうに電話を切った。
貴司は電話を切ったあと、ため息をついた。
どうしちゃったんだろう。
この時期、貴司は密かに悩んでいたのである。
ちょっとやってみよう。と自分に言って、先日タイのサイトからダウンロードした、レディボーイさんたちのヌード写真を見ながら、あれをいじる。
30分くらいやっていたが、諦める。
だめだぁ!
実は貴司は9月下旬以降、1ヶ月以上射精できない状態が続いているのである。それどころか、そもそも女性の身体にインサート可能なレベルまで硬くなってくれないのだ。
最初は国体とかで疲れているのだろうと思っていたのだが、1週間以上できない状態が続くとさすがに自分でも何か変だと意識する。それで貴司はここ1ヶ月ほどいろんなことをしてみた。
最初は《千里からの荷物に同封されていた》(と貴司が思っている)千里のヌード写真を見ながらやってみたが逝けなかった(結果的にはこの千里のヌードでやるのがいちばん硬くなった)。
市販の「女子大生恋写ヌード」なる本を買って来てみてやってみたが、あまり大きくならなかった。
千里からもらっていたテンガが切れてしまったので、自分でも買って来てみて使ってみたものの、気持ち良くはなるのに、やはりダメ。実は千里が自分のマンションに置きっ放しにしている服を身につけてみたのだが、これはかなり興奮するものの、やはりダメだった。
しかし千里の服を着てけっこう興奮したことと、女の子のヌードでは全然ダメだったことから、もしかして自分はふつうの子のヌードではダメなのかもと思い、一度男性ヌードを試してみたものの、結局、自分は男性ヌードには全く興奮しないことを意識した。
それで今度はレディボーイさんのヌードでやってみたのだが、棒がある子のヌードではたとえおっぱいの大きな子でも、ペニスの写真を見た時点で萎えてしまうし、除去済みの子のヌードでは、普通の女性のヌード並みに興奮はするが、それでもやはり充分な堅さまでいかないし、射精もできない。
自分はひょっとしてEDになってしまったのだろうかと悩み、病院に行ってみようかとも思ったが、そこまでするのも。。。という気がして、結局半ば思考停止している。
そういう訳で貴司は、セックスまで行く可能性のある夜のデートには応じられない状態にあった。
でもこれ千里と会えてもできなかったらどうしよう?それとも千里とならちゃんとできるだろうか?と貴司は不安だった。
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女の子たちのアジア選手権(3)