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■女の子たちのアジア選手権(6)

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2日目、11月3日。この日の日本の相手はマレーシアである。
 
このチームは昨日インドの子たちが言っていたように、物凄い長身チームであった。ポイントガードの子でも名簿によると178cm。他に180-190cm代の選手がずらりと並んでおり、センターの子は196cmということであった。
 
しかし篠原監督は「本気になるな」と千里たちに指示した。
 
こちらは早苗/千里/玲央美/桂華/サクラというメンツで始める。
 
千里はコート上で相手と対峙していて、常に向こうを見上げる感じであった。長身選手同士でパスを回されると、ほとんどインターセプトできない。しかしこの日千里たちはパスカットやスティールなどのプレイはほとんどしなかった。一応ディフェンスはするものの、突っ込んできたら無理には停めない。
 
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向こうのシュートが入る確率があまり高くなく、リバウンド争いになるが、サクラにしても後で交代で入った華香・誠美にしてもポジション取りがうまいので190cm代の相手センターにボールを渡さない。7−8割は取ってこちらのボールにしてしまう。
 
そしてこちらは千里にしても玲央美や桂華にしても高確率でゴールに放り込む。しかし本気になるなと言われているので千里はこの日1本もスリーを撃たなかった。
 
試合はシュートの精度の差と、リバウンドの差が出て着実に点差が開いていく。千里は後半は休んで渚紗が出たし、フォワードも江美子・彰恵・百合子と交代していくが、状況は変わらない。渚紗は試運転するかのようにスリーを3本撃って2本入れていた。
 
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そういう訳で試合は40対82で日本が勝った。
 

「ちょっとうちの学校の男子チームと対戦している気分だったかな」
と玲央美が言う。
 
「P高校さんの男子ってあまり聞かないね」
「3年くらい前に創設したばかりだけど、まだ地区大会で1勝もしてない」
「なるほどー」
 
「そういえば2学期から実はうちの女子バスケ部にひとり1年生の男子が入ったんだよ」
と玲央美。
 
「嘘!?」
「性転換予定の人?」
「それとも性転換済みで2年経つの待ってる人とか?」
 
「いや、別に女の子になりたい訳じゃないと思う。普通の男の子だよ」
「なんでまた?」
「出場できないよね?」
「バスケの指導者志願なんだよ」
「へー!」
「だからマネージャー扱い。彼を入れるかどうかで結構揉めて、それで入部は2学期からになった。洗濯とか雑用もやります、とは言ってたけど、さすがに女子のユニフォームとか下着を男子に洗濯させる訳にはいかないから、洗濯は免除した」
 
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「それはさすがに触られたくないね」
 
「全国区のうちの女子バスケ部とその指導の仕方を見習って勉強したいという話でね。だから審判の講習会とかもに行かせているよ」
「そういう人も面白いね」
 
「本人の技術力も男子バスケ部に入れば即エースになれるレベルだと思う。基礎的な練習ではけっこう女子に混じってやってるし、AチームBチーム戦にもBチームで出してるよ」
 
「その子、実は入る高校を間違えたのでは?」
「P高校が有名だからてっきり男子も強いかと思い込んでたんだったりして」
 

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3日目、11月4日。この日はもう最初から客席が凄い興奮である。この日は韓国戦なのである。何だか向こうのチームも凄い気勢をあげているし、客席で喧嘩しようとして警備員から退場を食らっている客までいた。
 
チーム内でも
「なんか韓国戦って燃えるよね」
などと言っている子もいる。玲央美や誠美はポーカーフェイスだし千里も心の中で「平常心、平常心」と自分に言い聞かせてコートに出て行った。
 
オーダーは相手は
PG.イ/SG.キム/SF.ホン/PF.チェ/C.ユン
こちらは
PG.朋美/SG.千里/SF.玲央美/PF.江美子/C.誠美
というメンツである。
 
なおポイントガードのイさんはユニフォームにはLeeと書かれているが韓国語では先頭の L の字は読まない(頭音法則という)ので音としては「イ」なんだよと韓国語に詳しい片平コーチが教えてくれた(但し北朝鮮では文字通りに「リ」と読まれることも多い。漢字では李)。
 
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「フランス語でHを読まないのと似たようなものかな?」
「日本語でも『へ』と書いて『え』と読むしね」
「馬は振り仮名は『うま』だけど実際の発音は『んま』だよね」
と彰恵が言うと
 
「それあんただけでは?」
と百合絵。
 
「いや、馬の発音は『うま』と読む人と『んま』と読む人がけっこう拮抗してる。文字で『うま』と書いているから自分で『んま』と読んでいることに気付いてないんだよ」
と早苗が言う。
「え〜〜!?」
 
「『んま』と読むのは方言じゃないの?」
という意見も出るが
 
「馬は中国読みの『マー』が少し訛って『んま』になって、それが変形して『うま』になったものだから、実は『んま』という発音の方が古い。『うま』というのはむしろ学校教育が広めた新しい読み方。梅も元々は『んめ』」
と片平コーチが解説した。
 
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「ほほぉ」
「いや、意外に字と違う読み方をしていることに気付いてないものってあるかもね」
 
なお、昨日までの成績は日本と中国は2勝、韓国とマレーシアは1勝1敗、台湾とインドは2敗である。
 

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ティップオフは誠美とユンさんで争ってユンさんが取り、最初は向こうが攻めあがってきた。こちらはゾーンで守る。
 
ゆっくりとパス回しをしてやがてチェさんが進入してくる。江美子と接触。笛が鳴る。江美子のブロッキングが取られた。チェさんがもうシュート動作に入っていたのでフリースローになる。
 
1本入れて1対0。
 
試合はフリースローの得点で韓国が先取点を挙げる展開で始まった。
 

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試合はお互いに燃えている選手が多い分、どちらも最初ファウルがかさみフリースローでの得点がけっこう多かったが、しだいにお互いにちゃんと無駄な接触を避けるプレイができるようになってくる。
 
向こうはやはり最後はホンさん、チェさんの2人のフォワードにボールを渡してそこからゴールを狙うパターンなので、守る側もそこを集中的に警戒する。最初その付近は江美子と玲央美が守っていたのだが、江美子が2つ、玲央美が1つファウルを取られた所で桂華と彰恵を投入すると、ふたりとも比較的スティールがうまいので、ファウルにならないようにうまくボールを奪って反転するパターンが出てくる。
 
しかし向こうもPGイさんがひじょうにスティールが上手い。特に第1ピリオドではずいぶんこちらのパス回しの途中をカットされて速攻されるパターンもあった。そういう訳で第1ピリオドは22対15と韓国が大きくリードした状態で終わった。
 
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第2ピリオド、早苗/千里/玲央美/百合絵/華香のメンツで出て行く。向こうはイさん以外を入れ替えてきた。イ/パク/ナム/ヨン/ファンというメンツだ。
 
このヨンさんがひじょうにパワフルで、千里たちはなぜこの選手を最初から出さなかったんだ?といぶかった。漢字で書くと『龍』らしいが、本当に龍のようなしなやかでパワフルな動きだった。
 
この試合ではヨンさんと玲央美の対決がひとつの軸となった。
 
ヨンさんはこちらから見て左手から攻めて来る。玲央美は最初右側を守っていて左側には百合絵がいたのだが、立て続けに2度抜かれた所で、百合絵が玲央美に「タッチ」と言って左右入れ替わった。それでその後この2人が対決することになる。
 
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ヨンさんは179cmの長身で玲央美とほとんど背丈の差が無い。身体がひじょうに柔らかい上に瞬発力があるので、ふつうの選手だと一瞬のフェンイトで反対側を抜かれてしまう。しかし瞬発力や柔軟性では玲央美も負けていない。ヨンさんが抜いたかと思ったら次の瞬間、玲央美はヨンさんの目の前に居る。それで最初はヨンさんが抜いたつもりになってシュートしようとしてボールを玲央美に手の中から奪われたり、あるいは手から離した瞬間を叩き落とされる展開がある。
 
玲央美のスティールが成功すると、だいたい良い場所に千里がいるので、そのままパスを受け取りドリブルで速攻する。そしてスリーポイントラインの所まで到達すると即スリーを撃つ。
 
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このスティールからの速攻で日本はあっという間に挽回した。
 
その後はヨンさんも慎重になったので簡単にはスティールされないものの玲央美との間に複雑なフェイント合戦が展開される。攻めあぐねて他の選手に回そうとすると、玲央美の前方に陣取っている千里がしばしばパスカットし、右側にいる早苗にパスして攻め上がった。
 
ヨンさんはどうも自分でシュートするのは得意だが、他人にパスするのは若干苦手な感じもあった。恐らくこの人は自国では、他人にパスする場面がほとんど無いんだ!と千里は思った。ボールを持ったらシュートなんだ。
 
向こうは途中でタイムを取り、ヨンさんに監督が指示を与えていた。そしてその後はヨンさんは一切パスしなくなった! とにかくヨンさんが持ったら必ずシュートに行く。しかし玲央美が簡単にはヨンさんを通さないし、何とか玲央美を抜いてもゴール下には華香がいるので外せばほぼ確実に華香が取ってしまう。
 
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そういう訳で韓国側はヨンさんにボールが渡った後はなかなか点が入らない結果になる。千里はなぜこの人が先発メンバーではなかったかが分かった気がした。この人はあまりに強すぎるゆえに、相手の集中マークを受けてしまい、結果的に点を取れないのだろう。後からスコアを確認したら中国戦と日本戦以外では1試合30点くらい取っていた。
 
そしてヨンさんと玲央美の対決が続いている間に、日本は千里と百合絵がどんどんゴールを奪って、前半終了間際に日本はとうとう38対40と逆転に成功した。第2ピリオドだけ見ると16対25である。この内15点が千里の得点である。
 

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「ヨンさんって、おそらくあまり強くないチームに所属していたんじゃないかな」
とハーフタイムにこちらのベンチでは声があがる。
 
「うん。他の選手が頼り甲斐がなくて、自分がひとりで頑張らないといけなかった。それでああいうプレイになっちゃったんだよ」
「ちょっともったいない素材だね」
「でもあれだけ強ければきっと大学では強いチームに入るだろうから、彼女は2−3年後が怖いよ」
「たぶん次のオリンピックでは怖い存在」
 
「次のオリンピックどこだっけ?」
「ロサンゼルス。その予選は2011年のアジア選手権。日本の大村市で開催」
「大村市って長野だっけ?」
「それは大町市。大村市は長崎県」
「どちらも県名に長が付いてる」
「町とか村とか付いてるのに市なのか」
「今市市(いまいちし)とか、市が1個多いのではと思いたくなるね」
「四日市市とかもね」
「新潟には十日町市ってあるね」
「実は広島に以前十日市町ってのがあった」
「紛らわしい!」
「それ絶対郵便物の迷子が発生する」
 
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話が暴走しかかった所で第3ピリオドが始まる。
 
向こうはヨンさんがそのまま出てくる雰囲気なので、こちらも玲央美がそのまま出て実質的にヨンさんの専任マーカーになることにする。シューターは渚紗、もうひとりのフォワードは江美子に交代した。朋美/渚紗/玲央美/江美子/サクラというオーダーである。向こうはキム/キム/ホン/ヨン/ユンというオーダー。ポイントガードもシューティングガードもキムさんだ。韓国は国民の半数がキムさんらしい。ユニフォームにはポイントガードの方はY.KIM、シューティングガードの方はA.KIMと書かれていた。(キム・ユナ、キム・アランらしい)
 
前のピリオドでヨンさんを使った攻めが結果的にうまく行かなかったので第3ピリオドでは韓国はむしろホンさんの方を使った攻めを使おうとした。しかし第1ピリオドでのホンさんの動きをコート上で見ていた江美子が簡単には彼女の進入を許さない。どうにもそちらから攻められないので結果的にヨンさん頼りになるが、ヨンさんは玲央美に抑えられる。ということで韓国はこのピリオドでは24秒近くになってからシューターのキム・アランさんからのシュートに行くパターンが多くなった。しかし彼女のシュートはあまり精度が高くないようで3回に1回くらいしか入らない(普通はこれでも成功率は高いほう)。
 
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一方日本は渚紗が7割くらいの確率で入れるし、江美子もどんどん点を取るし江美子がマークされていたら玲央美も自ら得点していく。そういう訳で点差はじわじわと開いて行く。このピリオドを終えて53対61と8点差がつく。
 

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最後のピリオド、向こうはいったんヨンさんを下げてチェさんとナムさんで来た。こちらも玲央美をいったん休ませて桂華と百合絵で行く。シューターは千里が戻る。桂華と百合絵は相手の2人のフォワードを完全に押さえ込んだ。一方で千里がどんどんスリーを入れる、桂華・百合絵も競い合うようにゴールを奪う。あっという間に12点差となるので向こうは再度ヨンさんを入れる。こちらも桂華の代わりに玲央美を入れる。
 
再度ふたりの対決が続くが、やはりヨンさんはなかなか玲央美を抜けない。それでも第四ピリオド前半よりはマシで、この5分間にヨンさんは2度のゴールを奪うことができた。また向こうもシューターのパクさんがスリーを3つも入れて韓国側応援団が物凄く興奮していた。彼女は後から聞くと国内ではあまり実績が無かったらしく、どうもこのアジア選手権で開花したようである。
 
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試合は最後、そのパクさんのスリーが惜しくも外れた所を向こうのセンターのユンさんがタップで放り込んで結局70対83で終了した。
 

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両軍整列する。中東系の主審さんが「83 to 70, Japan won」と言って日本の勝利を告げる。お互いに握手して健闘を称えた。
 
しかし最初はやや不穏な雰囲気もあったのでファイティングなどが起きなくて良かった! とりあえずどちらも退場者は出なかった。でも興奮している観客がいるので、ということで控え室に向かうとき、また会場から出る時はずっとスタッフの人たちが付いていてくれた!
 
「だけど韓国とはまた決勝トーナメントでやる可能性もあるよね」
「トーナメント、どういう組合せになるんだっけ?」
「準決勝が予選1位対4位、予選2位対3位なんだよね」
「今日の日本の勝利で、日本はたぶん1位か2位、韓国は上位との対戦が終わって1勝2敗だから残り2つ勝つ前提で3位濃厚」
 
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「それって決勝戦まで考えると当たる確率が6−7割あるんじゃないの?」
「準決勝で当たるかどうかはうちの中国との勝負次第だね」
 
(単純計算すると日本が1位か2位、韓国が3位確定の前提で、準決勝で当たる確率0.5 と決勝で当たる確率 0.125、3位決定戦で当たる確率0.125 を加えて 0.75である)
 

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女の子たちのアジア選手権(6)

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