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■女の子たちの性別変更(6)

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一瞬全員が驚きの声をあげる。
 
「ほんとに男の子なの?」
と三島さんが戸惑い気味に訊く。
 
するとお姉さんの月夜さんが笑って説明する。
 
「この子、声が低音でしょ? それに小学校卒業時点では、ほんっとに胸が無かったし、まだ生理も来てなかったんですよ。それで中学に入る時、もしかして実は男ってことはないかって疑われて、精密検査受けさせられたんです。でも染色体的にもXXで女の子だし、性器も完全に女性で子宮も卵巣もあると診断されたんです」
 
「びっくりしたー」
と三島さん。
 
「もし男という診断になったら、おちんちん付ける手術受けてもらうかも、とか言われてちょっと期待したんだけどな」
と本人は言う。
 
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「ああ、ちんちん欲しかった?」
「あまり欲しくもないけど、あればあってもいいかなとは思った」
 
「でも遺伝子的に男だからといって、それまで普通に女として生きていた人に無理矢理おちんちん付けちゃうというやり方には賛成できないなあ」
と蓮菜が言った。
 
「遺伝子より本人の精神的な発達が大事だよね」
と留実子。この手の話は千里にとっても留実子にとっても全然他人事ではない。
 
「それで、その後生理は来たの?」
と花野子が訊く。
 
「中学に入ってすぐ来ちゃったし、その後、胸も膨らみ始めた」
と美空。
 
「千里も生理くるの遅かったよね?」
と蓮菜が千里に敢えて訊く。
 
「うん。私も中1になってから来たー。発達が遅いねと言われて女性ホルモン注射も何度か打たれたよ」
と千里は平然と受け答える。
 
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「へー」
と一部に納得しているような声。蓮菜や鮎奈は笑っているが、美空が
「ああ。私もけっこう最初の頃、女性ホルモン注射打たれた」
などと言っている。
 
「でも遺伝子検査とか受ければ分かるけど、実は自分が染色体的には男ということに気付かないまま、女として生活している人って、わりといるらしいですね」
 
「そうそう。妊娠しないというので不妊治療に病院を訪れて分かったりする」
「それって本人も旦那もショックだよな」
「奥さんは男でしたなんて言われた日には」
「うん。だから病院によっては敢えて本当の不妊の原因を言わないこともあるらしいよ」
 
「昔はスポーツなんかで活躍してて、あんまり凄い成績なので検査したら男だったというので、記録なんかも全部取り消されたりした例もあるみたいですね」
 
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「それも辛いね。世界中の人に知られている状態で、あんた男なんて言われたら恥ずかしすぎる」
 
「70-80年代頃は有名になる前の段階で怪しい子はさりげなく引退させたりしていたみたいだよ」
 
「でも最近は本人が女子選手として活動したいという場合、体格が女の体格であったら、認めてあげるケースも出て来ているみたい」
「ああ、こないだのオリンピックでどこだったかのバレーチームに元男だった人が入ってたらしいね」
 
「性転換してから数年経って、男だった頃の筋肉はもう落ちてるとかで認めたとか聞いた」
 
「そうそう。セックスチェックする意味は、男の強靱な肉体で女子の競技に出られちゃかなわんってことだから、普通の女の肉体なら構わないじゃんってことになってきているみたい」
 
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それは自分もこないだ言われたなあと千里は思った。
 
「でも歌手なんかはスポーツよりハードル高いだろうね」
「声変わりした後で、女の声を出せるようになる人はそう多くないだろうからね」
「やはり声変わり前に去勢しちゃうしかないよ」
「昔のカストラートと同じだよね」
 
「あれ?韓国にニューハーフの人ばかり集めた歌唱ユニットがいたよね?」
「あれはエア歌唱だという説もある」
「あ、実際に歌っている訳じゃないんだ?」
 
「逆に男になりたい女の人は男性ホルモン注射することで声変わりが起きて男の声になるらしいね」
「だったら逆にFTMさんを集めた男声歌唱ユニットはありか」
「需要があるかどうかは別としてね」
 
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「蓮菜は男になってみる気とかは?」
と田代君が訊く。全くこいつは。
「雅文が男と結婚したいというのなら考えてもいい」
と蓮菜。みんなは苦笑している。
 

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「でも芸能界には、もしかしてこの人って噂のある人いますよね」
「某美人姉妹タレントの姉の方が男ではという説を聞いたことある」
 
「あれは2chのある板で書かれたジョークがネットで拡散したものなんだよ。私、偶然そのジョークが書き込まれた所をリアルタイムで見てる」
と三島さんが言う。
 
「ああ、ジョークだったんですか」
 
「着物が似合う某美人女優が男ではという噂は?」
「事務所の社長が笑い飛ばしてたよ」
 
「マリンシスタの歌い手やダンサーにも実はニューハーフさんがって噂ありましたよね」
「ごめん。マリンシスタに関する話は守秘義務で話せない」
「ほぉ」
「でも戸籍上男性である人が歌い手に参加したことはないよ」
「とっても微妙なお話ですね」
 
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12月24日。貴司が留萌に出て来てくれて、クリスマスデートをした。
 
千里が旭川に来て以来、デートは旭川でするパターンが定着しているが、こういう時、貴司が旭川に出る時の切符は貴司が買い、帰りの切符は千里が買ってあげることにしている。
 
この日は午前中は雪が降っていたものの夕方には晴れてしまうという微妙にホワイトなクリスマスイブだったが、ふたりは午前中雪の降る中、街を散歩してクリスマス気分を味わった。
 
「去年デートした時はさすがにこれが最後と思ってたから、またデートできて幸せ」
 
「来年もしようよ」
「でも私・・・」
「もし声変わりしていても、デートくらいはしてもいいよ」
「そう?」
「千里がちゃんと女の子の格好して来るという前提で」
「私、声変わり来ても男装するつもりはないよ」
「だったら来年もデート」
「うん」
 
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ふたりはあたりを見回してから、急いでキスをした。
 
「あのさ、もし千里がずっと声変わりしなかったらさ」
「うん?」
「千里が高校卒業するまで恋人でいることにしない?」
「ふーん」
 
「千里、東京のほうの大学に行くと言ってるし。北海道と東京で恋愛維持する自信はない」
「でもそもそも来年貴司が就職してどこか遠くに行くかも知れないよね」
 
「今の所札幌か旭川あたりの会社に就職したいと思っているんだけどね」
「じゃ、どちらかが道外に出ることになったら恋人関係解消というのでは?」
「うん、それでいいよ」
 

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商店街を散歩してからゲームセンターで少し遊ぶ。バスケットゲームではまた白熱した競争をしたが、貴司が52対48で勝った。
 
「春にした時より貴司点数あげてる」
「春にした時より千里、僕に詰め寄ってる」
 
ふたりが凄いポイントを稼いだので周囲が注目している感じであった。少し離れてからお話しする。
 
「千里少し筋肉付いた?」
「夏の間、自転車通学していたので足の筋肉は発達してるなという気はする。でも関係あるのかな」
「そりゃ当然。シュートは全身で撃つんだから」
「そっかー」
 
お昼を取るのにファミレスに入ったら、相席でもいいですか?と訊かれる。貴司がいいですよ、というので案内してもらえる。
 
「クリスマスだもんねー」
「デートするカップル多いよね」
 
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それでフロア係さんが
「お客様、相席をお願いしていいでしょうか?」
とカップルがテーブルに座っている所に声を掛けるが・・・
 
「あ、るみちゃん」
「あ、細川さん」
 
ということで、鞠古君と留実子のカップルであった。
 
「お知り合いでしたか?」
「うん。友だち友だち」
「ではご相席よろしいですか?」
「OKOK」
 
ということで同じテーブルに就く。
 

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「るみちゃんが女装してるって珍しい」
「クリスマスくらい女の子になれって言われたから」
「ふだんは男でもいいけどさ」
 
「今日はどのあたり回ったの?」
「寒いねーと言って、屋根のある所にずっと居た」
「スポーツ用品店に電機屋さんにスポーツジムに」
「色気が無いな」
「空手エクササイズ楽しかった」
「鞠古と花和でやり合ったの?」
「うん」
「ハードなデートだな」
「そちらは?」
「こちらは買物公園通り歩いて、ゲームセンター」
「あ、ゲームセンターいいね。後で行こうよ」
 

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やがて料理が来たので食べながら話す。
 
「そうだ。千里たちにも言っておいたほうがいいかな。うちの兄ちゃん、法的にも正式に姉ちゃんになったから」
「ん?」
「性転換手術したの?」
「性転換手術は10月にした。それで即性別変更を申請して、一昨日、認可の手紙が届いたって」
「へー!」
 
「でもよく就職1年目で手術を受けるための休暇が取れたね」
「勤め先の店長さんから、どうせ手術するなら早い内にやっちゃった方がいいって言われて。休みの間は無給だけど、一応手術代以外の貯金が50万円くらいあったから、何とかなるだろうと半ば見切り発車で手術を受けてきたんだって」
 
「すごーい」
「11月いっぱいまで約2ヶ月休んだ。ただ七五三の前だけ無理しない範囲でお仕事した」
「頑張るね」
 
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「12月になってから復帰して。でも今のところ、1日4時間にしてもらっているらしい」
「少しでもお仕事して収入があれば、随分気持ちも違うよね」
 
「そうだと思う。お仕事がなくて無収入の状態で療養生活してたら、不安が大きくなって、それで回復も遅れるよ」
「そもそも性転換手術なんてしたら、ホルモンバランス崩れやすいだろうからよけい不安になりやすいんじゃない?」
 
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