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■女子大生・秋の実り(9)

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前々回、上田敏の“落葉”を紹介しましたが、上田敏といえばこの詩が最高に有名です。
 
山のあなた
 
山のあなたの空遠く
「幸い」住むと人のいう。
ああ、われ人と尋(と)めゆきて
涙さしぐみ帰りきぬ。
山のあなたになお遠く
「幸い」住むと人のいう。
 
この詩はカール・ブッセ(1872-1918)のドイツ語の詩を訳したものです。原文を挙げます。
 
Ueber den Bergen / Carl Busse
 
Ueber den Bergen, weit zu wandern
Sagen die Leute, wohnt das Glueck.
 
Ach, und ich ging im Schwarme der andern,
kam mit verweinten Augen zurueck.
 
Ueber den Bergen, weit weit drueben
Sagen die Leute, wohnt das Glueck.
 
(大意)
山の彼方へ /カール・ブッセ
 
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山の彼方の果てしない遠くに
幸福が住んでいると人が言う
 
ああ、そして私もみんなと一緒に行って
涙のあふれた目のまま帰ろう
 
山のかなた遠く遠く向こうに
幸福が住んでいると人が言う
 

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私は一時期「山のかなた」が正しくて「山のあなた」というのは長谷川町子さんのパロディかと思っていたのですが、そうではなく「山のあなた」で正しかったようです。
 
しかし原詩、上田敏の訳、ともに美しい。まるでゲーテの作品を川端康成が訳したかのような美しさ(*9)です。
 

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(*9) 川端康成の美意識をうかがわせるこのようなエピソードがある。
 
彼の代表作のひとつ『雪国』の冒頭の文
「国境の長いトンネルを抜けるとそこは雪国だった」の“国境”を
“こっきょう”と読むのか“くにざかい”と読むのか、川端の死後、論争になったことがある。この問題に決着は付いていないが、川端夫人は言った。
「美意識の強い康成が小説の冒頭の単語に濁音を使うとは思えません」
 
そんなところに気を配るとか、私のような駄文書きには考えも及ばない世界です。
 

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10月に入ってから、尾白は島本に北鹿島で養殖している牡蛎を提供したので島本はカキフライを作って第八西海丸のクルーに出した。
「ああ、もう牡蛎が食べられる季節になったんだね」
「夏は性転換するからその最中は食べられないんだっけ?」
「いえ、産卵で味が落ちるから食べないというだけですよ」
「あれ?じゃ食べられないことはないんだ?」
「ええ。味を気にしなければ食べられます。あと夏は食中毒が起きやすいから生食(なましょく)は、しないほうがいいです」
「なるほどー」
 
「夏でもオスは産卵しないだろうからあまり味が落ちないのでは」
「牡蛎のオスとメスは見分けるのが凄く難しいですから」
「ああ。見た目では分からないのね?」
「ええ。遺伝子とかでも区別できないです。牡蛎は冬の間は中性で夏には雌雄ができますが、一般に栄養がいいとメスになり、栄養が悪いとオスになるらしいです」
 
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「人間がその方式だったら金持ちは女になって貧乏人は男になるな」
「先進国の国民はみんな女になったりして」
 
「このタルタルソースは飛鳥ちゃんのお手製?」
と山門君が訊く。
「はい。あまり美味しくなかったら御免なさい」
「いや美味しいよ」
と広川さん
 
「このタルタルソースだけでも御飯が行けそうだ」
「ほんと?だったら牡蛎は僕にちょうだい」
「やらん」
 
「よくタルタルソースとか作るね」
と会田甲板長。
「いいお嫁さんになれるよ」
と西口船長。
 
「勘弁してください。ぼく男なのに」
「最近はお嫁さんになってくれる男の子を募集している女の子も多いから」
「だったら、そういう女の子を狙うかな」
「ところで波多君は女だという説があるね」
「ぼくと彼を合わせると男女1人ずつらしいですから、ぼくが男なので彼が女だということになりますね」
「合理的だ」
 
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牡蛎はA-COOPなどのほか新鮮産業でも扱ってもらった。
 
「夏牡蛎売れたんだって?凄いね」
と真広は言った。
 
「関西のスーパーで売ったけど、北海道産と明記したのがうまく行った。北海道は本州と季節感が違うから本州では冬にしか食べられない牡蛎が北海道なら夏にも行けるのかもと思ってもらえた」
「なるほどー」
「もちろん質問してきた客には季節をずらして育てている牡蛎だと説明する」
「じゃ来年はうちにも売ってよ」
「うん。よろしくー」
 

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真広からは“東北新鮮産業”を作らないかと言われたが
「2011年はやめといた方が良い」
と忠告した。
「何かあるの?」
「今は言えない」
 
それで代わりに“東海新鮮産業”を設立し、静岡・愛知などの漁業者・養殖業者との契約を進めた。また長野・岐阜の各々南部の農園・牧場は北陸新鮮産業から移管した。
 

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その日は卓也は同窓会に行くということだったが、お姉さんが出て来て飛鳥に連絡してきたので、留萌駅近くのケンタッキーで会った。
 
「あの子はてっきり男の人と結婚するんだろうと思ってたから、女の子と付き合ってると聞いてびっくりしちゃった」
「卓也さんは自分はパンセクシュアルだと思うと言っておられました」
「ああ。バイセクシュアルというよりはパンセクシュアルのほうかもね」
「それに私けっこう男っぽいし」
「ああ曖昧なセクシャリティの人に親近感を感じるみたいね」
「なるほどー」
「こんな写真も見せてあげよう」
と言って、お姉さんは卓也がセーラー服を着ている写真を見せてくれた、
 
「すごーい!卓也さんセーラー服で中学に通ったんですか?」
「セーラー服で通ったらと言ったけど、そんな恥ずかしいと言ってた。これはただの記念写真」
「へー」
「セーラー服自体はまだ持ってるかもね」
「今度ガサ入れしてみよう」
 
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その時、飛鳥達の席のそばを飛鳥の元同級生の夕佳ちゃんが通り手を振るので飛鳥も手を振り返した。
「あーちゃんの彼女?」
「違うよ。彼氏のお姉さん」
「あ、男の人と付き合ってるんだ?」
 
あまり変なこと言ってほしくないよー。
 
「もう女の子になったんだっけ?」
 
そういう話をしてほしくない。
 
「私は女だよ」
「へー。すごい。性転換おめでとー」
 
ひっどーい。それ言っちゃうなんて。悪気(わるぎ)は無いんだろうけど。(いや絶対悪意がある)
 
「じゃまた後で」
と言って彼女は向こうの席に行った。
 
「もしかして飛鳥さんってMTF?」
「ごめんなさい。ちゃんと言ってなくて」
「ううん。それでよけい納得する。あの子が飛鳥ちゃんを好きになった理由が分かった。でもあなた男だったようには見えないよ」
「ありがとうございます」
「生理くらいありそう」
「生理はありますよ」
「やはりね。卓也も多分生理がある」
「ああ。ありそうです。ナプキン持ってるし。子供は卓也さんに産んでもらおうかな」
「うん。それでいいんじゃない?」
 
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朝日は妊娠検査キットの窓に表示された横棒のマークをぼーつとして眺めていた。
 
うっそー。私子供産む自信無いよー!
 

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飛鳥は夕佳と会ったことで小学3年生の時のことを思い出していた。
 
みんなでキャンプに行ったのだが、飛鳥は女子のバンガローに入れられた。男子の代表の子が「こちらに泊めるのは危険」と言い、女子の代表は「飛鳥ちゃんならこちらでもいいよー」と言って女子のほうに入れられたのである。
 
そしてその日飛鳥たちが泊まっていたバンガローのお風呂が6人入ったところで故障してしまった。シーズンで混んでいるため、ほかに空いているバンガローとかも無い。それでお風呂は、本棟のお風呂を使ってくださいと言われた。
 
まだお風呂に入ってなかった鮎美、夕佳、そして飛鳥がお風呂に入りに本棟に行った。
 
本棟に行き飛鳥がお風呂どこですか?と訊くと「そちらに行った突き当たり」と教えられた。それで3人で行ってみる。
 
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「あれ?お風呂1個だけなのか。だったら先に入って。私外で待ってるから」
「そんなこと言わずに一緒に入ろうよ」
「入れないよー。私男だから」
「でもちんちんは無いんでしょ?」
「あるよー」
「いや飛鳥ちゃんには、ちんちんは無いとみんな言ってるよ」
「何かの誤解だと思う」
 
鮎美ちゃんが妥協案を出す。
「だったら脱衣場まで入って後ろ向いててよ」
「分かった。それで」
 

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それで飛鳥は他のふたりと一緒に脱衣場に入り、廊下のほうを向いて座った。
 
「終わったら声掛けて」
「うん」
 
それで鮎美と夕佳は服を脱いで浴室に入ったようであった。背中でシャワーを使う音や湯の音がしていた。
 
「きゃー」
という悲鳴がある。
「どうしたの?」
「飛鳥ちゃんこっち来て」
「分かった」
 
それで飛鳥は浴室との引き戸を開けて中に入った。2人は湯船に入っていた。
 
「今誰かが覗いたの」
「私が見てるよ。もう上がったほうがいい」
「うん」
 
それで2人はあがったが、夕佳は髪を洗ったのを流してないと言って流してからあがった。
「飛鳥ちゃんそのままお風呂入ればいいよ」
「あ、そうしようかな」
 
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それで飛鳥は鮎美が持って来てくれたかごに服を脱いで入れて、お風呂に入った。飛鳥が髪を洗い、身体を洗っていたら、おとなの女の人が2人入ってきた。え〜!?
 
飛鳥は取り敢えず湯船に入った。
 
鮎美が訊いた。
「ここ女湯ですか」
「そうだよ。男湯は反対側の端。でも君、男湯をのぞいたりしちゃ駄目だよ」
 
うっそー!私女湯に入っちゃったよ。
 

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飛鳥は女の人たちが洗い場にいる間にすばやくあがると脱衣場ですばやく身体を拭き、パンティを穿いた。
 
「見ーちゃった」
と言ったのは鮎美だった。
 
ちんちん見られた?
 
と思ったが彼女は言った。
「やはりちんちん無かったのね」
「えっと」
「大丈夫だよ。誰にも言わないから」
 
でも夏休み明けまでには全女子が知っていた。
「飛鳥ちゃん、やはりちんちん無いんだって」
「前からそういう噂はあったね」
「一緒にお風呂入った子が見たらしいから確かだよ」
 
“らしいから確かだよ”というのは噂の伝搬でよく使われる構文である。
 
「その時ほかにも女の人たくさん入ってたけど騒ぎになったりはしなかったらしい」
 
2人でも「たくさん」になるわけだ。
 
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「だったら間違い無いね」
「飛鳥ちゃんに学校でも女子トイレ使っていいよと言ってあげよう」
 
女の子の「誰にも言わない」と男の子の「何もしない」は信用できないと後に学校の先生(女)が言っていた。
 

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10月9日(土)、留萌市内の飲食店に、波多の両親と姉夫婦、島本の両親と兄たち、および上の兄の婚約者を招き、双方の“顔合わせ”が行われた。
 
最初波多が両親に一度飛鳥の両親に挨拶に行ってほしいと頼んだのだが、波多の父は「嫁側の親が先に挨拶に行って失礼にならない?」とどうもまだ混乱しているようなので、羽幌町と増毛町の中間地点の留萌で、双方を会わせることにしたのである。
 
出席者:
飛鳥と卓也(レナ?)
飛鳥の両親、長兄の桐人と婚約者の詩織、次兄の進助
卓也の両親、卓也の姉の恵美と夫の永井竜介さん
以上11名
 

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この席に卓也は紳士物のスーツ、飛鳥はドレスを着て出席し、どちらが夫予定者でどちらが妻予定者かが分かりやすいようにした。飛鳥はお化粧もし、また左手薬指には卓也からもらった指輪を着けた。
 
この場で主として、飛鳥の兄・桐人と卓也の姉・恵美との話し合いでいくつかのことが決められた。(親たちはまだ混乱中)
 
・卓也を夫、飛鳥を妻とすること!
 
・指輪のやりとりをしていることから結納は省略する。
 
・結婚式は来年の6月頃をメドに。
 
・結婚後の住まいは留萌市内で戸籍もそこに置く。
 
「結婚式の服装についてはふたりに任せましょう」
「双方ウェディングドレスでもいいですよね」
「そんなの勝手に決めないで」
「双方タキシードでもいいけど」
「レナちゃんがドレスでぼくがタキシードでもいいよ」
「勘弁して」
「どちらが赤ちゃん産むんだっけ?」
「レナちゃんよろしく」
「産めないよー」
「いやきっとあんたなら産める」
 
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女子大生・秋の実り(9)

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