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「なあに?母ちゃん」
と小学4年生くらいの男の子が返事する。
「このお爺さん、間違ってこちらに入ってきたのよ。目が不自由みたいで。あんたお世話してあげて」
「分かった。ぼくも間違ってそちらに入りたかった」
「あんたはちんちん切らないと女湯には入れないね。ちんちん切ってあげようか。今なら特別料金300円でちんちん切ってあげるよ」
「ちんちん切るの300円なの?」
私は300円で女の子になっちゃった!
しかしお婆さんみたいに見えたお爺さんは彼にリレーされたのである。飛鳥はお爺さんの着替えが入ったかごも持って来て、おばちゃんに渡し、おばちゃんはゆうすけ君に渡した。
そして飛鳥は女湯の浴室に入った。洗い場で身体を洗うが、この身体すごーいと思う。胸が微かに膨らんでいる。何よりもお股によけいなものが付いてないのは素晴らしい。湯船に浸かる。浸かっていたら、隣のクラスの女の子がいて目が合ったので、会釈しておいた。長居は無用だなと思ったので、飛鳥はその子に自分のお股が見えるようにしてお湯からあがり、脱衣場に移動すると身体を拭き、服を着て外に出た。
そこに母が居た。
「あんた今女湯から出て来なかった?」
「まさか」
「そうだよね。ちんちん付いてるのに女湯に入れるわけないよね」
「ちんちんとか取りたい」
「おとなになってから女になる手術受けなさい」
「うん」
良かったじゃん。性転換を認めてもらえるなんて。
しかし飛鳥はそのあとトイレで女の子のおしっこの出方も体験した。これいいなあと思った。母も飛鳥が女子トイレを使うのは黙認した。
その夜は温泉に泊まったが、飛鳥は母と一緒に女性用休憩室で寝た。
飛鳥が女性用休憩室でセブンティーンを見ていたら、同じクラスの日登美ちゃんと早樹ちゃんが手を振って近づいてきた。
「こちらに入ったの?」
「男性用休憩室に入ろうとしたら、スタッフさんに『ここに入ったらだめです』と言われて追い出された」
「あーちゃんなら当然だね」
と彼女たちも理解を示した。
「あーちゃん、さっき女湯にも居なかった?」
「まさか」
「何か似た子を見た気がしたから」
どこで見られてるか分からんなあと思う。
「あれ付いてたら女湯に入れるわけない」
「そうだよね」
彼女たちとはしばし NEWS とか KAT-TUN などのジャニーズ系の話で盛り上がった。
そのうち日登美ちゃんが
「さっきからどうも気になってて」
と言って飛鳥のジャージ・パンツのお股に触った。
「安心した」
と彼女は言った。早樹ちゃんも触って日登美ちゃんと頷きあっていた。
日登美ちゃんはこんなことも言った。
「さっきあーちゃんは『付いてるから女湯には入れない』という已然形ではなく『付いてたら女湯には入れない』という仮定形で話した」
「なんか難しい」
「『100億円あるから札幌ドームを買いたい』というのと『100億円あったら札幌ドームを買いたい』というのは話しが違う」
「ちんちんは100億円もしないと思う」
「1万円くらい?」
「男の子に『1万円あげるから、あなたのちんちんください』と言ったら応じると思う?」
「1万円では無理な気がする」
「100万円くらいかなあ」
「性転換手術だと100万円くらいかかるけどね」
「ああ、そのくらいの料金なんだ?」
「男から女になるのはね。女から男になるのはもっと高い」
「へー」
「男を女にするには余分なものを切って穴を開ければいいけど、女を男にするには穴を塞いだ上で余分なものを作らないといけないから手間が掛かる」
「ウィンナーでもくっつけとけばいいんじゃない?」
「もう少し大きいのでは」
「弟のに定規当てて測ってみたら12cmあった」
「そんなに大きいんだ!」
「でもお姉ちゃんの居る弟って大変ね」
「ちんちんぶらぶらさせて歩いてたから捕獲して科学的調査してみた」
「男の子ってよくぶらぶらさせて歩いてるよね」
「見せびらかしてんだと思う。おもちゃとかを見せびらかすのと同じ」
「確かにおもちゃかも」
「でもこのメンツは誰も自分では装備してないみたいね」
「残念ながら」
日登美と早樹はまた頷いていた。
一方、波多が高校生の時。
女子の少ない学校だけあって、その少ない女子は団結力が強かった。レナはその“賛助会員”くらいの立ち位置で、遊びに行く時にしばしばお誘いがかかっていた。男の娘の佐伯君が仲間に入りたそうにしていたが、彼は必ずしも入れてもらえずにいた。彼が曖昧な立ち位置なのに対して卓也は明確に男の子で立ち位置がはっきりしているし、恋愛対象も男の子だから付き合いやすいのだと、裕香などは言っていた。
本人としてはあまりゲイという意識は無いのだが、みんなから男の子が好きなのだろう、それも“受け”なのだろうと思われていた。だから彼女たちにとっては“無害”だった。用心棒代わりにされてるなと感じることもあった。恋愛相談に乗ることもよくあったし、ラブレターの仲介とかもした。
ある時、札幌のプールに行こうとお誘いがあった。母に言うと母は“かっわいい”水着を買ってきた。
「これをぼくが着るの〜?」
「あんたなら似合うよ」
自分の部屋に行き、お股をタックした上でアンダーショーツを穿き、水着を着けた。
それで出て行くと姉の恵美に記念写真を撮られた。これをずっと後に飛鳥が見せてもらうことになる。
それで水着は内側に着た状態でチュニックに台形スカートを穿き、着替えの下着(パンティ・ブラジャー・キャミソール)・ビニール製の水着入れ、着替え用バスタオル、ゴーグルに水泳帽、などを持ち、お小遣いも少しもらってバス乗り場に集合する。
それで高速バスで札幌に出た。プールに行く。代表の夏美ちゃんがまとめて料金を払い鍵をもらう。鍵を配る。それで更衣室に向かう。レナは彼女たちと一緒に更衣室に入ろうとしてハッとしてそこから出て“別の”ほうに行こうとする。
「どこ行くの?」
「いや、ぼくはあちらの更衣室で」
「そんなひとりだけ別のところに行っちゃだめだよ。集団行動、集団行動」
「でもぼくは“ちょっとした”不都合が」
「ああ、そのくらい平気平気」
「みんなと一緒なら目立たない」
「でも」
「そもそもそのロッカーの鍵はこちらのロッカーにしか適合しない」
「あ、そうか」
「それにスカート穿いた女の子が男子更衣室に入れるわけない」
「間違い無く追い出されるね」
「うむむ」
ということで結局レナもみんなと一緒に女子更衣室に入り、持っている鍵のロッカーを開けて、そこで服を脱ぎ水着になった。
「可愛いー」
「お母ちゃんが買ってきた」
「レナちゃんのお母さんって、レナちゃんが女の子するのを楽しんでるみたい」
「明らかに面白がってる。よくお姉ちゃんとおそろいの服買ってくるし。家の中ではスカート穿くように言われるし、女性ホルモンも渡されたし」
「レナちゃんが完全な女の子になるのは時間の問題だね」
「高校卒業まで男のままでいれる自信が無い」
「もう既に男の子はやめてると思う」
「レナちゃんは立派な女子高生だよ」
「うーん・・・」
「授業も女子制服で受けなよ」
「そのまま受け入れられそうで怖い」
「ああ、学籍簿上の性別は訂正されるかもね」
「森下先生から家庭科を受講しない?と誘われた」
「うん。受講すればいいよ。体育も女子と一緒に」
「でもその水着のお股のところどうなってるの?」
「なんか着方があるんだと言ってたね」
「うん。出っ張りができないように着る着方がある。胸はただのパットだよ」
「私もパッド入れてるー」
「胸が上げ底の子は多いよね」
しかしそれで水泳帽とゴーグルを着け、プールに入ってたっぷり遊んだ。スライダーも10回くらい滑った。凄く楽しくて、来て良かったなとレナは思った。
10時頃プールに着いて2時頃まで遊び
「そろそろあがろう」
と言ってプールを出る。更衣室に戻るがみんな階段を降りる。
「どこ行くの?」
「ここは地下にスパがあるんだよ」
「スパ?」
「プールで冷えた身体をスパで温めてから上がるのが黄金コース」
「へー」
レナはこの時は5分後の展開を何も考えていなかった。
地下におりてみると裸の女の人が何人も歩いている。
え?
レナは若い女の人の半球形の生胸(なまむね)を見て
「きれーい」
と思ったものの、すぐ視線を床にやる。
「なんでみんな裸なの?」
とレナが小声で言うと
「お風呂だから」
と涼代ちゃんが言う。どうも彼女はこの展開を予想していたようである。
「さ、レナちゃんも水着脱いじゃお」
と言う。
「ちょ、ちょっと待って」
「ああ、不都合な真実が露わになる子もいるよね」
「胸が無いことがばれてしまう〜」
「お互い知り得た他人の秘密は他言無用ということで」
「守秘義務よね」
「さあみんな覚悟を決めて」
それでレナも水着を脱ぐことになってしまったのである。するとみんなから言われた。
「大丈夫だよ。黙っててあげるから」
「そ、そう?」
「重大な秘密を知ってしまった気もするけど誰にも言わないからね」
女の子の言う“誰にも言わない”とは「みんなで情報を共有する」という意味である!
しかしそれでレナはみんなと一緒にスパに入ったのである。但しほかの子のヌードは見ないように視線をそらしていた。そしてこれを機会にレナはこの集団の“賛助会員”から“一般会員”に昇格した感じで、遊びに行く時はいつも誘われるようになった!
身体測定なども女子と一緒に受けないかと言われたがちんちんが無いわけではなく“タック”というものであることを説明した。夏美・久美など数人の前でやってみせたら、凄いテクニックがあるものだと感心していた。
「だけどこれ女性ホルモンを飲むか睾丸を除去していて既に男性機能の無い人か、あるいはオナニーを我慢できる人にしかできないよ。タックしている間はオナニーできないから」
「貞操帯つけてるようなものだね」
「ていそうたい?」
レナも久美も知らなかったが夏美がパソコンで見せてくれた。
「こんな道具があるのか」
「普通の男の子にはオナニーできないのって物凄く辛いらしいね」
「男の子って毎日オナニーするらしいね」
「レナちゃんは、しないの?」
「オナニーしないことはないけど、1ヶ月くらいしなくても平気だよ」
「レナちゃんが女の子みたいな声が出せる理由が分かった気がする」
「女の子のヌードに興味無いでしょ?」
「うん。特に興味無い」
「お風呂の中でも視線をそらしてたね」
「恋愛対象が男の子だもんね」
「みんなからそう思われてるけど、そういう訳ではないんだけどね」
「でも窪田君とは、したんでしょ?」
「あれ、されるに任せてただけでよく分からなかった」
「やはりレナちゃんは私たちの仲間だね」
(あらためてツッコむけど誰がヘテロ?要するに“攻め”側の経験が無かったのか。飛鳥と何話していいか分からないというのも女の子との会話のネタが分からないのではなく男の子との会話のネタが分からなかったのね?)
「今度はみんなで温泉とかに行こう」
「え〜!?」
それで後日、みんなで層雲峡温泉に行ったが、レナは母からブレストフォームを胸に貼り付けられた。
「本物のおっぱいに見える」
「接着剤で貼り付けてるからね」
「これ売ってるところ教えて」
「後でお母ちゃんに聞いて教えてあげるよ」
この時は脱衣場に入ろうとした時に仲居さんから
「ちょっと、そこの子、男じゃないの?」
と声を掛けられてギクッとしたが、性別を疑われたのはレナでは無く久須美ちゃんだった。
「この子バレー部で背が高いんです」
と夏美が説明し、胸があるのを確認されて通してもらった。
「でも私女子トイレで通報されたこともある」
と久須美ちゃん。
「大変ネ」
「いっそ性転換したら?」
「小学生の頃よく言われた」
「久須美ちゃん、女の子が好きだよね」
「うん。私はレスビアンだと思う」
「バレンタインももらうでしょ?」
「もらったことはある」
「やはりねー」
レナにはほぼ無警戒な涼代や夏美が久須美には警戒しているのは感じていた。夏美は久須美と他の女子が2人きりにならないよう気をつけているようだった。