[*
前頁][0
目次][#
次頁]
飛鳥のアパートでは、波多に、下着は女物しかないこと、アウターもほぼ女物のみであることを指摘されて照れていた。波多は飛鳥の家のトイレにナプキンのパックとサニタリーボックスがあるのも見たが、きっと“生理ごっこ”をしていたのだろうと思った。
「でも本当に男だったんだよ。中学高校も男子制服で通ったし」
「でも性転換手術受けたんだ?」
「性転換手術は受けてない。睾丸は中学生の時に取ったし、女性ホルモンはずっと飲んでたから、おっぱいは発達したし、ちんちんも1cmくらいまで縮んだけど」
1cmってもうクリトリスと変わらないじゃんと思う。ちぢこまると皮膚に埋没して、事実上消滅していた気がする。
「それでも一応ちんちん付いてた。でもこないだたっくんにキスされた時、突然女の子になっちゃったんだよ。ほら、昔話でよくあるじゃん。お姫様にキスされたらケモノが素敵な王子様に変身するとか。きっとあれと同じだよ」
「嘘つく子はちんちん切っちゃうぞ」
「私はもうちんちん無いからたっくんのちんちん切ってよね」
と飛鳥が言ったら突然小さな女の子が出て来て
「ちんちん取りたいの?ぼくが取ってあげるよ」
と言った。飛鳥はその子に
「違うから帰りなさい。これあげるから」
と言ってドーナツをひとつ渡した。女の子の姿は消えた。
「今小さい女の子を見た気がした」
「あまり気にしないほうがいいよ。座敷童子(ざしきわらし)みたいなものだから」
「あの時キスされる前までは、状況次第ではお口でしてあげようかと思ってたんだけどね」
「お口で?してして」
と卓也がねだる。
「しょうがないなあ」
と言って飛鳥は彼のズボンとパンツを脱がせるとお布団の上で彼のペニスを舐めてあげた。
「加減が分からないから痛かったら言ってね」
「ううん。凄く気持ちいい」
実際卓也は凄く気持ち良さそうにしていた。
7月7-8日は、七夕なので洋食屋さんのディナーを食べた後、今度は波多のアパートでのんびり過ごした。なおふたりはお互いの部屋の鍵を預けた。
波多は羽幌町の出身で、旭川の高校の水産課程を出て、函館を拠点とする船に乗り組み、この時代に、無線従事者の資格、海技士(通信)、海技士(航海)などの資格を取得した。
船の甲板部、機関部などは各々専門職なので複数の資格を持っていても、たとえば機関長と一等航海士を兼任するなどということは許されない。ところが通信部のみは兼任が許されているので、海技士(通信)または海技士(電子通信)を持っている人が例えば海技士(航海)も持っていれば、通信長と航海士の兼任が可能である。そのため通信士は他の部門と兼任する人が多い。それで実は波多は第八西海丸の通信長兼二等航海士に任命されている。(山門と30分交替で見張りを担当している:船の進行方向に小型船などが居ないか常にチェックしている)
函館で船の仕事を4年ほどしてから、乗っていた船が廃船になったのを機に留萌に戻ってきてスーパーに3年ほど勤めた。この時期にクレカなども作ったし車も買っている。しかし新たに転任してきた店長と折り合いが悪く退職してここ2年ほどは新聞配達員をしていた。
仕事がきつい割りには給料が安いので今回の仕事に飛び付いた。きっかけは駅の掲示板で見た「船舶通信士急募」という張り紙だった。
(その張り紙、きっと君しか見てないよ)
その日はアパートで、取り敢えずセックスした後!、ビール(飛鳥はコーラ)を飲みながら、ゲームをしたり肩をもんだり、イチャイチャしながらおしゃべりしていた。飛鳥はお酒もけっこう行けるのだが飲んでないのはふたりとも飲むと急に運転が必要になった時運転する人が居なくなるからである。波多のランサーはMT車だが飛鳥はMTも行ける。
身体を絡み合わせながら
「買い物行ってくるよ。何食べたい?」
などと言っていたら、突然ピンポンがなるので慌てて離れる。
卓也が立っていきドアを開けると、50代の女性が
「だいぶ暖かくなってきたね。こないだまで雪降ってたのに」
と言って入ってくる。どうも卓也のお母さんのようである。飛鳥と目が合う。
「あら、いらっしゃい」
「お邪魔してます」
「かあちゃん、これ友だちの島本飛鳥さん。あーちゃん、こちらうちの母ちゃん」
「島本です。お世話になっております」
「いえ、こちらこそお世話になっております」
と言ってから、卓也の母は言った。
「あんた、こんな素敵なお嬢さんがいるのならひとこと言いなさいよ。あんたが一向に結婚する気配が無いからてっきりあんたホモなのかと思ってた」
「たっくんホモだったんだ?」
「だってあんた昔、SHAZNAとかMALICE MIZERとかのポスター貼ってたし」
「ふーん。男の娘が好きなんだ?」
「高校時代男の子とデートしてたし」
「一緒に映画見たりマックに行ったりしただけだよ」
いや普通それをデートと言うぞ。
「あんたスカート穿いてることもあったし」
「ただのファッションだよ」
「たっくんのスカート穿いてる所見たーい」
「もう持ってないよ」
「じゃ買ってあげるよ」
「一時期穿いてたけどもう似合わないと思う」
「20歳くらいで去勢すべきだったね」
7月7日は朝日の誕生日だったので、福岡の朝日の家では和彦がケーキとワインを買ってきてくれてお祝いをした。ふたりはもう3月頃から事実上同棲状態にある。
「結婚まであと1月半か」
「既に結婚しているような気もするけどね」
「結婚したら避妊具無しでしていいよ」
「あっちゃん妊娠は可能なんだっけ?」
「やってみなくちゃ分からない」
「あはは」
「生理は規則的に来てるよ」
「じゃ生ですれば妊娠する可能性あるね」
「やってみなくちゃ分からない」
るり・えりは南邸の公世・清香の部屋で暮らしているのだが、最初のうちは部屋に置いてもらったサブベッドで寝ていた。しかし7月7日の夜、とうとう本体ベッドへの侵入を敢行した。
えりにディープキスされて清香は覚醒する。
「わっもう朝か?」
「ちがいます。さやりん。私をさやりんのものにして」
「私のものにして、と言われても」
「女の子同士の愛し方、分からない?」
「いや、分かるとは思うがいいのか?」
「えりは既に心はさやりんのものになっています。身体もさやりんのものにして下さい」
「分かった」
それで清香はえりと裸で抱き合い、乳房を吸い合い、トリバディズム(擦陰:貝合わせ)をした。実際には深い結合になる“填め”の状態になったようである。実は清香は逝けなかったもののえりは到達したようで、そのまま気持ち良さそうな顔で眠ってしまった。清香も微笑んでキスしてからセルフサービスでして睡眠に落ちて行った。
一方るりも公世のベッドに潜り込み、キスして、おっぱいを吸う。
「わっ何?」
「きーみん。私をきーみんのものにして」
「ぼくみたいな男か女かよく分からない人とじゃなくて普通の男としなよ」
「るりは既に心はきーみんのものになっています。身体もきーみんのものにして」
「ほんとにいいの?」
「はい」
「じゃちょっと待って」
それで公世はペニス(千里や清香の見解ではクリトリス)を指で刺激する。
「すごーい。きーみんのクリちゃんってこんなに大きくなるんだ?」
「これはクリトリスではなくペニスだからね。でもほんとにしていいの?」
「お願いします」
それで公世は勃起したペニスに避妊具を装着し、るりと初めてのセックスをした。射精すると精液が尿道口(ペニスの先端ではなく女性の位置にある)から出て、るりの膣に侵入する危険があると思ったので、自分は到達しないように気を付けた。
(ペニスに尿道口が無いのに避妊具を着けたのは挿入時の摩擦を減らすため)
しかしるりは満足そうで、公世が動作をやめた時点で逝ったのかと思い込みギュッと公世を抱きしめた。そして嬉しそうな顔で眠ってしまった。公世は避妊具を始末し、自分も眠った。
こうして、七夕の夜、るり・えりは公世・清香と結ばれた(?)のである。
7月10日(土)、雅の振袖注文で“準友禅”の品が枠に到達して締め切りとなった。昨年は本友禅のほうが先にソールドアウトしたのだが、今年は枠が少なかったこともあり、準友禅が先に無くなった。
7月11日 - 第22回参院選が実施され民主党が惨敗、自民党が勝利し、参院の民主党が106議席、自民党が84議席。連立与党の国民新党は議席を獲得できず、与党が過半数に届かないためねじれ国会へ。
7月16日(金)夕方。千里は今年もアイリスを連れて留萌に行った。例によってP神社では桜組が宴会をしている。千里はみんなに「お疲れ様」と声を掛け、今年は一昨年と同様、ウナギの蒸籠(せいろ)蒸しをアイリスとふたりで配った。
「土用の丑には早いですけど」
「今年の土用の丑はいつだっけ?」
「7月26日です」
「1回だけ?」
「ええ。7月26日の12日後、8月7日はもう立秋なので」
「惜しいね」
「もっとも立秋は7日の23:49だから、7日のほとんどがまだ土用の期間だから、またウナギ食べてもいいですけどね」
「立秋って時刻があるんだ?」
「地球の公転により、太陽が見える天球上の方角を表す黄経(こうけい or おうけい)が0度から360度まで変動するからその24分点を通過するタイミングを二十四節気と定めたんですよ(*12)。これが0度なら春分、180度が秋分、90度が夏至で270度が冬至ですね」
「ほお」
「立秋は夏至と秋分の中点で90と180の真ん中で135度になる瞬間(*14)ですね。それが8月7日の23:49なんですよ」
「そんな遅い時刻ならもう8日でもいいじゃん」
「昔の流儀なら日没からもう次の日ですね」
「ああ、1日の境界をいつにするかというのは、地域・年代で違うよね」
「ええ、日没説、日の出説、24時説、23時説、いろいろです(*13) 」
「23時とか難しいことを」
「日暮れ説なんかも計算が難しいです」
「ああ、難しいプログラムになりそう」
「昔の天文方(てんもんかた)とかはそれを手計算でやってたんだから凄いですね」
「大変そう」
(*12) こういう定め方を定気という。二十四節気の決め方にはもうひとつ恒気という方法があり、そちらが優秀。日本は昔は恒気を使っていたのに天保の改暦の時に何を血迷ったのか定気が採用され今に至っている。
(*13) インド(の民間で)は日の出から1日が始まる上に太陽日ではなく朔望日(ティティ)で民間行事がおこなわれ、更に“固定春分点”という難しいものが基準点になっているため日本のお盆に相当するナヴラトリの日程を計算するのは物凄く難しい。筆者は2017年にナヴラトリのことを書いた時、プログラム作りに挑戦してみたがどうしても実際の日程と一致せず、2週間ほどの悪戦苦闘の末、ギブアップした。
(*14) 土用の開始は太陽黄経が117度になる瞬間。つまり117〜135度の18度の区間が土用である。元々木火土金水の五行(ごぎょう)と四季の対応を考えて、木を春、火を夏、金を秋、水を冬に対応させ、余った土を季節の移り変わりの部分に4分割して割り当てたのが土用(土を用いる)である。だから土用の区間は360度÷5÷4=18度になる。一般に土用といえば夏の土用を言うが、本当は春夏秋冬に土用がある。
2010年の(夏の)土用開始は7月20日3:55.
ちなみに土用の丑の日にうなぎを食べるというのは、江戸時代にうなぎ屋さんがキャンペーンで提唱したものであり、単に“うなぎ”も“うし”も“う”が付くからというだけで、理論的な根拠とかは全く無い。そもそもうなぎの旬は冬。