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「どこ行くの?」
「取り敢えず旭川」
「ふーん」
それで波多はランサーを留萌幌糠ICから深川留萌自動車道に乗せた。
「良かったらどうぞ。これ手に付かないのよ」
といって飛鳥が“ガルボ”のパッケージを出す。取るとほんとに手に付かないので、へーっと思った。
波多は運転しながら助手席の飛鳥をチラ見して、この子胸が大きいなあと思った。普段の仕事の時は少し大きめの男物スーツ着てるから目立たないけど、こうやって女の子の服を著ているとかなり目立つ。女の子としても胸が大きいほうではないかという気がする。本物だろうか、それともパットとか入れてるんだろうか。
(あんちゃん、“パット”じゃなくて“パッド”でっせ。パットはゴルフ)
飛鳥が渡してくれるアンパンを取ろうとしてうっかり彼女(でいいだろう)の胸に手が触れた。
「あ、ごめん」
「ううん」
柔らかーいと思った。これ本物かも。女性ホルモンとか飲んでるのかなあ。
高速に乗って15分ほどで深川JCTから道央道に入る。音江PAで休憩する。波多はもちろん男子トイレを使うが飛鳥は女子トイレに入った。あの格好で男子トイレは使えないよなと思う。あの子、船や北鹿島の休憩所でも女子トイレ使ってるし(船長が女子トイレ使いなさいと言ったらしい)。きっと普段もいつも女子トイレじゃないのかなあ。
車を出す。少し走り、旭川鷹栖ICで降りる。市内外縁のポスフール永山店に車を入れた。
「お洋服見ようよ」
「うん」
それで2階の婦人服売場に行く。波多は赤いハイビスカス模様の可愛いワンピースを買ってあげた。
「可愛すぎて恥ずかしい」
「似合ってるよ」
試着室を借りてその服に着替えた。その後1階のロッテリアで軽食をとり、車に戻る。
「今度はどこ行くの?」
「富良野(ふらの)」
「へー」
それでR237を南下して富良野に向かった。
波多は飛鳥と何を話したらいいのか分からなかったが、ワールドカップ(2010アフリカ)の話題を振ってみたら結構乗ってきたので富良野に着くまでそれで話題が続いた。
富良野のハーブ園などを見る。
波多は
「今日はここで泊まらない?」
と言ってみた。
「え〜?」
と困惑しているようだ。拒否の雰囲気ではないので言ってみる。
「お部屋は2つ取ればいいし」
「あ、そうだよね」
正直、同じ部屋で泊まる勇気が無い。男の子同士でどうすればいいんだっけ?
もっとも波多は女の子ともそういうことをした経験が無い。それでも一応避妊具は用意してきた(やる気満々じゃん)。
それで携帯から楽天トラベルで富良野市内のホテルをシングル2つで予約した。
「予約取れたよ」
「ありがと」
それでハーブ園を充分見て、富良野ワインなども買ってから3時半頃、ホテルに移動する。飛鳥が「コンビニに寄りたい」と行ったので富良野市内のコンビニに入った。飛鳥は下着の替え(女物)とおやつ、それにサンドイッチを買っていた。波多は飲み物と漫画雑誌、それに紙コップを買った。
コンビニを出てからホテルに入る。宿泊カードにはこう書いた。
波多卓也 27歳
波多飛鳥 23歳
住所は自分の住所を書き、飛鳥の分は“〃”にしておいた。飛鳥はそれで特に何も言わなかった。カードキーを2枚もらったので1枚を飛鳥に渡した。
「ありがとう」
それで5階にあがり、部屋を確認する。
「僕の部屋で少し一緒にお話しようよ」
「うん」
それで一方の部屋に一緒に入った。波多はワインを開けて紙コップに注いだ。2人で乾杯し、コンビニで買ったサンドイッチとおやつをシェアして食べる。
「ホテル代けっこうしたね。車も運転してもらってるし少し協力するよ」
と言って飛鳥が諭吉さんを2枚渡したので、もらっておいた。なおホテル代は波多のカードで払っている。このカードは以前スーパーに勤めていた時代に作ったものである。
お部屋では洋楽の話題を随分した。波多は最初
「テイラー・スイフトいいね」
と言ったのだが、飛鳥は
「アヴリル・ラヴィーンもいいよ」
と言う。ノートパソコンを開いて『Girlfriend』を聞かせてくれたが、わりといいなと思った。
「どんな字を書くの?」
「これ (Avril Lavigne)」
「何か読み方が難しい」
「最初は読み方が分からんと言う人多いよ。今テイラー・スイフトとアヴリル・ラヴィーン、いいライバルだというので注目されてるんだよ」
「へー。でもこれ人によって好みが分かれそう」
「だと思うよ」
1時間くらいおしゃべりしてから波多は言った。
「混み出す前にお風呂行かない?」
「あ、ここは大浴場か」
「うん。温泉があるみたい」
部屋にアメニティとしてシャンプーセットが置かれているようである。
「私の部屋にもシャンプーセットが置かれてるよね。取ってくる」
「うん」
それで飛鳥は部屋に取りに行った。波多は部屋を出て待っていた。飛鳥が部屋を出てくるので一緒にエレベータに行き、お風呂のある地階に降りる。
困惑する。
「これどっちがどっちだろう」
「うーん」
湯の名前が「大雪の湯」「知床の湯」とあるのである。
2人が悩んでいたら浴衣を着た仲居さんが通り掛かる。飛鳥が尋ねる。
「済みません。これどちらが男湯ですか?」
仲居さんが答える。
「ここは日替わりで男湯と女湯が入れ替わるんですよ。本日は大雪の湯が女湯、知床の湯が男湯になっております」
「ああ。日替わりなんですね。だったら入れ替え時に中に入っていた人はどうすればいいんですか」
「ああ、性転換すればいいんですよ」
「それなら問題無いですね」
問題無いのか?
「たっくん、男湯はこっちだって」
と言って飛鳥は知床の湯の暖簾をくぐりかけた。
が、仲居さんにキャッチされる。
「待ってください。お客様はそちらです」
「あれ?私一瞬自分の性別が分からなくなった」
「そういう時は胸に手を当てて考えてみましょう」
「胸が小さい人はますます悩んだりして」
「そんな時は最後の手段でお股を触ってみるんです」
「小さい人は更に悩んだりして」
「とにかくあなたはそちらです」
「はーい。たっくんまた後でね」
と言って手を振り、飛鳥は大雪の湯の暖簾をくぐった。
え〜〜〜?
「お客様はこちらです」
と言われるので波多は知床の湯の暖簾をくぐった。飛鳥は向こうから飛び出して来るのではと思い、しばらく待っていたのだが、その様子は無い。それで彼は首をかしげながらも服を脱いで浴室に入った。
頭と身体を洗い、浴槽に10分くらい浸かってからあがる。身体を拭き、服を着て脱衣場を出る。飛鳥はロビーの椅子に座って缶入りの紅茶を飲んでいた。
「お待たせ」
「ううん」
波多は自販機でビールを買い、隣に座って訊いた。
「大丈夫だった?」
「お風呂くらい平気だよ。浴槽で溺れるような子供でも無いし」
彼女はバストがあるから女湯でも目立たないかもと思う。女性ホルモン飲んでたらちんちんは萎縮してるだろうし。陰毛に隠れて分からないかも。そもそもこの子スキニーを穿いてても男性器は目立たない。かなり小さいのかも。あるいは手術して除去済みだったりして。
そのまま2〜3分話してから部屋に戻る。またふたりで波多の部屋に入った。
テレビを点けるとワールドカップのダイジェストをやっていた。
「ここまで1勝1敗。次の試合次第だね」
「うん。勝ってほしいよ」
日本は明後日25日のデンマーク戦に勝てば決勝トーナメントに進出できる。
「でも岡田さんはよくやってると思う」
「僕も思う。ジーコが今一だったからなあ」
「私オシム語録買ったよ」
「僕も。でもあの人は年を取り過ぎてたね」
19時頃までおしゃべりをして、一緒に夕食に行く。
洋食屋さんでラムのステーキ、そしてデザートのケーキを食べてから、売店に寄ってお部屋に戻る。
並んでベッドに腰掛け、おつまみを摘まみながら話す。波多はビールを飲んでいた(かなりアルコール入ってません?)。
いろいろおしゃべりしているうちに22時になる。
「じゃ私そろそろ部屋に戻るね」
「うん。お休み」
「ごめんね。私が女の子だったらセックスさせてあげられるのに」
「そういう悩む発言はしないように」
「ごめーん」
いや実はこの子本当は女の子なのではという気もしてしまう。だって少なくとも女湯に入れるんだし。波多は自分としてはヘテロのつもりだったが、こんな可愛い子が相手なら道を踏み外してもいい気がしてしまう。少なくともこの子は恋愛対象が男の子みたいだし。
波多はなぜそんなことを言ったのか分からない。
「ね。キスだけでもさせてくれない?」
彼女は一瞬迷ったようだが、答えた。
「どうぞ。どこにでも」
と言って目を瞑る。ベッドに腰掛けたまま顔を斜め上に向けた。波多は彼女の唇に自分の唇を合わせた。女の子特有の甘い香りがした。舌を入れるが彼女は抵抗しない。むしろ自分の舌を絡めてきた。そのままデイープキスを2〜3分続ける。
波多は理性が吹き飛んだ。
彼女をそのままベッドに押し倒してしまう。
「せめて毛布の下で」
「うん」
それでいったんベッドから起き上がり、飛鳥は今日買ったワンピースを脱いで下着だけになり毛布の下に入る。下着姿の飛鳥は凄くセクシーだった。波多もシャツとズボンを脱いで毛布の下に入り、彼女を抱きしめる。彼女のおっぱいを揉む。凄くやわらかい。下着の中に手を入れて直接揉む。もはや波多は本能だけに支配されていた。
キャミソールを脱がせ、ブラジャーも外す。
乳首を咥え舌で舐めて刺激する。彼女が「あん」とか可愛い声を出す。波多は下のほうに手を伸ばし、パンティの上からお股に触る。
やはり。
ちんちんなんて無いじゃん。飛鳥は触られて恥ずかしそうである。波多は飛鳥のパンティを脱がせてしまった。指で直接彼女のお股に触る。むろんちんちんとかたまたまとかは付いてない。波多は念のため確認する。
「セックスしてもいいよね?」
「可能だったら」
「きっと可能だ」
「へー。島本さんとデートしたんだ?」
と山門は波多に訊いた。
「ドライブして食事しただけだよ」
いや、もっとしたでしょ?
「充分デートじゃん」
「富良野温泉のホテルに泊まったけどちゃんと部屋は2つ取ったから」
「ふーん」
部屋2つ取ったって同じ部屋に寝ることは可能だよな、と山門は思う。
「温泉も別々に入ったし」
山門は一瞬考えたがすぐ気付いた。
「つまり同じ湯には入れなかったんだ!」
波多は男湯に入ったろうから島本は女湯に入ったことになる。まあ飛鳥ちゃんが男湯に入れるわけが無いよね。男湯の脱衣場に入ろうとしたら絶対追い出されるだろう。
「今週もデートする約束した」
「まあいいんじゃない。可愛い子だし」
と山門は言った。たぶんこれはゲイではない。
島本が波多に声を掛けた。
「ねえ、今日は航海中に肉ジャガ作るからさ、向こうに着いてからたっくん鍋を持ってくんない?」
「うん。OKOK」
と波多が答える。
「ふーん。“たっくん”ね」
これは今年末か来年春くらいには結婚式かな。白いネクタイ買っとかなくちゃ、と山門は思った。
また島本は土日に休みの佐々木に代わって事務所の電話番を頼まれたらしい(完璧に女子扱い)。
また波多と山門はやはり土日に紙製品を納入しているお店の販売応援を頼まれた。
それで波多・山門・島本は週4日勤務になったので健康保険証を交付された。(月15日以上勤務なら健康保険証を交付しなければならない)
「あれ〜ぼくの保険証、性別が間違ってる」
と飛鳥が言うので波多と山門が見てみると“性別:女”と記載されている。
「いやそれで正しいと思うよ」
と山門は言った。
実際には7月以降、波多と島本の日曜日の仕事内容は変更された。北鹿島ではなく鹿無島への補給の仕事を頼まれたのである。こちらは船では無くヘリコプターに同乗して(いきさつは後述)、食料や雑貨を鹿無島のお年寄り宅に届け、雑用などもしてあげる。(土曜日は最初言われた通り)
石油ストーブやボイラーの給油、屋根の雪下ろし、部屋のお掃除、ゴミの回収、電球や電池の交換、また家の中での物の移動などである。
「場合によっては入浴の介助をお願いすることもあるから、男女必要なんだよ」
と尾鍋所長は言った。
「ぼくたち男2人ですが」
と島本が言うが、尾鍋は波多に
「波多君はどう思う?」
と訊いた。
「確かに男女ですね」
「え?波多君、女だったの?」
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女子大生・春は出会い(11)