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■女子大生・春は出会い(10)

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“紫微”ことスーパー女子高生・湊夢子(本名:中村博紀)は電話の向こうでこう言った。
「虚空ちゃんに断られちゃったのよ。代わりに頼めそうなのは駿馬ちゃんくらいしか思いつかなくて」
「また死んでくれとかいう話ですか〜?」
「そんなことは頼まない」
「だったら命捨ててくれとか?」
「違うよお」
「グスコーブドリ(*8)みたいな話が多いからなあ」
「生きて帰れることは保証するから、取り敢えず博多まで来てくれない?」
 
それで気は進まなかったものの千里はきーちゃんを連れて新幹線で博多に向かった。(コリンも体内に吸収して連れている)
 
(*8) 宮沢賢治の『グスコーブドリの伝記』ではグスコーブドリは自分は逃げられないのを承知で火山を噴火させて気候変動を起こし地球を救う。
 
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いつものように女子高制服を著た紫微と博多駅の筑紫口で落ち合う。駐車場に駐めてあるベンツに乗る。駐車場を出たところで警官に止められる。
「・・・・・えっと免許証見せて」
「はい」
「どちらまで行かれます?」
「熊本県まで」
「ではお気を付けて」
「ありがとうございます。お疲れ様です」
 
それで紫微は車を出す。
 
「何だったんだろう」
「一瞬女子高生が運転してるかと思ったんだと思う。本人を見て『何だ』と思ったんだよ」
「失礼な。俺女子高生なのに」
「はいはい」
「夢子さん、そろそろ女の子の身体に変えてあげようか」
「まだ女房のお許しが出ないから」
 
この人、単に女学生の服を着るのが好きなだけで女になりたいわけではないんだろうなと思う。
 
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車は福岡都市高速から九州自動車道に乗り本線を南下、宇城氷川(うきひかわ)SICで降りると一般道に入り、どんどん山の中に入っていった。一時間ほど走ったところの峠道で紫微は車を停めた。
 
「まあこの景色を見てみたまえ」
と言うので千里たちは車を降りて眺めた。
 
眼下左手に楕円形の湖がある。右手には盆地があり、小さな村があった。
 
「あの湖を弥兵衛沼という。右手の村のところも昔は湖で太郎沼と言った。でもその水が流れてしまい、そのあとに人が住むようになった。それでここを太郎沼村と言っていたが、やがて呼び方が少し変わって俵村と言われるようになった」
「へー」
「弥兵衛と太郎は親子で、龍神様の玉を盗んで雨を降らせ、村を旱(ひでり)から救った。しかし龍神の怒りにより湖に変えられたという」
「ほお」
 
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「という伝説はあるが大学の先生が調べたのではあそこに湖があったことは無いという話」
「あら」
「湖の隣に凹地があるから、ここにも湖があったのではと誰かが考えたのだろうという話」
「ふーん」
「ところがここにダム建設の計画があってね」
「へー」
「俵村はダムの湖底に沈むことになった」
「太郎沼の復活ですか」
「うん。ダムの名前も太郎ダムということになった」
「ええ」
「何の産業も無い村で人口も減っていたし、ダムになるのもやむを得ないかというので補償金をもらって集団で立ち退くことになった」
「ああ」
「ところが政権交代したら民主党政権はダムの計画を白紙に戻した」
「コンクリートから人へですか」
 
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「しかしそれで補償金ももらえなくなった」
「なるほど」
「でもこんな何も無い村で生活を続けることは困難なんだよ」
「困ったものですね」
 
「それに実はみんな補償金がもらえる前提で八代市(やつしろし/やっちろし)に土地を買って家も建ててる。補償金をもらえないとその代金を払えない。キャンセルすると高額の違約金を請求される」
「それは困りましたね」
「下手すれば詐欺で訴えられる」
「いや不動産屋さんとしては代金もらえないと死活問題でしょ」
 
「うん。それで駿馬ちゃんへの頼みは、国に代わって村の土地を買い上げてもらえないかという話なんだよ」
「そんなことしてどういうメリットがあるんです?」
「村人は助かる。八代の不動産屋も助かる」
「こちらのメリットは?」
「村人に感謝される」
「それだけ〜?」
「マスコミは土地転がしの悪徳不動産屋とか書くかも知れん」
「それはまた、ありがたい話ですね」
「だろ?」
「じゃ私帰っていいですか?」
「待ってよぉ」
「でも夢子さんはどう関わってるんです?」
「うちの副社長の坂田が村長の遠縁なんだよ。それで頼まれたけど30軒に3000万円ずつ払ったら9億じゃん。そんなに俺持ってないもん」
「公子さんには5億円払ったくぜに」
「何でそんなの知ってんの〜?」
「まあいいや。ちょっと村に行ってみましょう」
「うん」
 
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それで千里達は紫微の車で俵村まで降りて行った。こちらを見て手を振る70歳くらいの男性がいる。紫微が車を停める。
 
「中村さん、全員の権利書を私が預かった。それとこれ全員の口座番号のリスト」
と言って男性は何かのメディアのようなものを紫微に渡した。どうも村長さんのようである。
 
「それ何ですか?」
と千里は訊いた。
「これは3.5inchのフロッピーディスク」
「フロッピーディスクって?」
と千里はわざと訊く。
 
「まあ20-30年前にデータ記録媒体として使用されたものだね。大丈夫だよ。僕がUSBメモリにコピーして渡すから」
「渡してくれなくてもいいのに」
 
その時、ふらふらとした足取りでこちらに歩いてくる老齢の巫女さん?がいた。千里はさっと車を降りると彼女を抱き留めた。
 
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「どうなさいました?」
「あなた凄い子ね。お願い助けて。ご神体が取り出せない」
 

村長さんによると彼女は村の鎮守様を守っている巫女さんらしい。鎮守様はもう10年以上宮司不在で、この巫女さんがひとりで守っているらしい。
 
千里たちは彼女に付いて神社に行ってみた。
「わっ」
「これは酷い」
 
神社はかなり荒れている。鳥居より先に行くことは困難である。これは多分3〜4年以上こういう状態にある。
 
「椿明神の第十一法を使います。コリン、術が成ったらご神体を取ってきて木下さんに渡して」
「はい」
「術が完了したら私倒れるかも知れないから、きーちゃん私を御飯の食べられるところに連れてって」
と千里は言ったのだが、村長が
「飯だったらうちでごちそうするよ」
というのでお願いすることにした。千里は鳥居の前に座り込み、靴下を脱ぐと、椿明神の第十一法を起動した。
 
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大きな金の玉が空中に出現する。そしてそこから金の雨が降り注いだ。この雨に当たった人はみんな優しい気持ちになった。そして神社も荒れていた空気が和み、気持ちいい雰囲気に変わっていった。狐か何かが走っていた気がする。そして金色の玉は消えた。
 

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これは千里が以前使った、**女神の**大慈法の簡易版である。軽度に荒れたお社だとこれでも何とかなる。使うエネルギーも半分程度で済む。半分といっても消耗はかなり激しい。それでも千里は何とか立ち上がって
「お腹空いた」
と言った。
 
千里が大丈夫そうなので、コリンは鳥居をくぐり、神殿まで行って、銅鏡を取ってくる。そして巫女の木下さんに渡した。
「ありがとう。あんたたち凄いね」
 
それで一行は村長の家に行き、村長はお肉をたくさん食べさせてくれた。娘さんに電話して町でお肉をたくさん買ってきてもらったようである。
 

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木下さんが村長に
「今してもらったのは一千万円くらい払う価値のある仕事ですよ」
と言ったが、きーちゃんは
「土地の買収のついでだから料金は要りませんよ」
と言った。しかし村長は後日紫微を通して千里に2000万円も払ってくれた。実は鎮守様の移転問題は村人の間でもかなり議論されていたらしい。白鳳時代に時の帝から賜ったという伝承のある鏡を見捨ててはいけないという意見が強かったものの、5年前の台風以来、巫女の木下さんにさえ神殿に近寄れなくなっていたという。境内に瓦礫が散乱していると更にゴミの不法投棄が相次ぎ、神社の空気が悪化して一般の人は神社の敷地自体にはいれなくなっていた。千里達のおかげで集団移転先に新たな神社を建てることができるようになった。
 
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千里は京都に戻ってから紫微から渡されたUSBメモリに納められていたExcelのデータにもとづき32人の口座に合計10億円を振り込んだ。八代市への移転は翌年の夏までには完了した。新たな神社には宮司さんも派遣されてきた。
 
なお後に自民党政権になるとダム計画は復活し、結局太郎ダムは作られ、双子のような湖(弥兵衛沼のほうが少し大きい)が出現することになる。それで千里は国から補償金として10億円を受け取ったのでこの件は損得ゼロである。
 

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6月20日、姫路の立花K神社では、和弥や越智さんたちの手で、茅の輪潜りの茅の輪が設置された。今年も大祓の季節である。茅の輪は北町社、上町社の両方に設置した。人形(ひとがた)は今月初め頃から氏子さんに配布されている。留萌のP神社でも数人の氏子さんの手で茅の輪が設置された。伊豆霧(善美のガード)や霊山(玲羅のガード)なども手伝っている。
 

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留萌。
 
尾鍋所長は第八西海丸のクルー各々に週2回の勤務が可能か打診し、全員の了解が得られたので、北鹿島への航海は7月からは週2回(火金)とされることになった。
 
武矢のスケジュール(7月以降)
 
日 札幌でスクーリング

火 第八西海丸

木 帆立稚貝の養殖
金 第八西海丸
土 札幌でスクーリング
 

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波多君は島本さんを誘っていた。
 
「今度休みの水曜日にでも、ドライブしない?」
「私男だけど」
「機にしない、気にしない。でも女の子の服着て来てよ。お化粧もしてさ」
「それはいいけど女の子の服着てお化粧してても中身は男だよ」
「構わない構わない」
 

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それで6月23日(水)、ふたりはデートしたのである。
 
ジャスコで待ち合わせる。ここにはバスでも来られるし車で来ても無料で駐車できる。田舎の店舗なので駐車に時間制限も無い。実際、飛鳥は自分の車で来たようである。飛鳥は待っている間におやつを買っていたようである。波多が見ると飛鳥は黄色いワンピースを着ていた。黄色の地に白いドット模様が入っている。
「お待たせ。可愛いじゃん」
「ありがと。でもこういう格好するの恥ずかしい」
「似合ってるからいいと思うけど」
「私ずっと赤が着たいと思ってたけど着る勇気が無くて。それで黄色を結構買ったのよね」
「赤着ればいいと思うよ。きっと似合うよ」
「そうかなあ」
「じゃぼくが買ってあげるよ」
「え〜?」
「取り敢えずドライブしよう」
「うん」
 
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それで、波多君のランサーに一緒に乗る。
 
「島本さん。下の名前で呼んでもいい?」
「うん。飛鳥でもあーちゃんでも」
「あーちゃんにしようかな」
「だったら波多君のことは何と呼べばいい?」
「卓也でも、たっくんでも」
「じゃたっくんにしようかな」
「うん」
「あーちゃんにたっくんとか、まるで恋人同士みたい」
「恋人になろうよ」
「じゃ、たっくんに彼女ができるまでは恋人の真似事の練習相手を務めてあげるよ」
 
波多は今の段階ではこれ以上は突っ込めないなと思った。でもバンコランとマライヒみたいなのも悪くないかもという気もした。取り敢えず飛鳥ちゃん可愛いし。でもこの子ほんとに男の子なのかなあ。見た目が女の子にしか見えないし、声もこうして聞いてるると女の子の声にしか聞こえない。仕事の時はわりと低い声使ってるけど。
 
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