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■女子大生・春の小川(9)

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3月中旬、留萌三泊灯台の灯台守・嶋田は、夜間勤務中に少し眠気がしたので
「コーヒーでも買ってこよう」
と思い、灯台を降りると30mほど離れた漁協まで歩いて行き、ロビーの自販機でホットコーヒーを買おうとした。ところがあいにく売り切れである。ホットコーヒーだけでなく暖かいものが全部売り切れていて、冷たい飲み物しか残ってない。こんな寒い夜に冷たいジュースは飲みたくない。
 
「困ったな」
 
と思った時、漁協の前にタクシーが停まった。こちらを見てドアを開ける。
 
でも乗る訳にはいかない。灯台守は持ち場を離れられない。漁協まで来たのも本当は規約違反である。
 
運転手さんが
「乗られません?」
と言う。嶋田は思った。
「町まで行ってコーヒーだけ買って、すぐ戻れば、いいよね」
 
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1時間後、嶋田は“昇天”していた。なんでこうなったのか、よく分からない。でも早く灯台に戻らなきゃ・・・・と思っていた時、灯りが消えた。
「え!?」
 
女の子が携帯で店のフロント?に連絡を取っている。
「留萌全部停電だって。もう営業できないから、お客さん、悪いけど帰って。お金は要らないから」
「分かった」
 
嶋田は店を飛び出すと表通りに出て駅まで走る。そして駅近くのタクシー屋さんに飛び込むと1台出してもらった。
「三泊灯台まで」
「はい」
 
車はすぐ発進する。
「しかし大規模な停電ですね」
「北電だけでなく、市電(留萌市電力)も落ちてるみたい」
「なんか大きな雷雲が発生して送電線にたくさん落雷があったみたいですよ。だから両方やられた」
「わぁ」
 
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ところがタクシーが三泊に近づいて行くと、灯台の灯りが点いているのを認識する。
 
「灯台は無事みたいですね」
「バッテリーがあるから」
「へー。だったら船は安心ですね」
 
ただ、バッテリーに切り替える“操作”が必要である。それを自分がしなければならなかった。
 

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タクシーが灯台に到着する。嶋田は車を降りると(エレベータは停電で停まっているので)灯台の階段を駆け上がる。
 
管理室に入る。
 
電源は・・・バッテリーに切り替えられていた。取り敢えずほっとする。
 
取り敢えず椅子に座り、コーヒーの缶を開けて飲む。少し気持ちが落ち着く。
 
(あれ?俺いつコーヒー買ったっけ?と思ったがよく分からない)
 
しかし・・・
 
誰が電源を切り替えたのだろう。
 
もしかして灯台が消えたのを見て漁協の人でも来て切り替えてくれたのだろうか。
 
だとすれば、それは必ず報告されて、灯台守が不在だったことが問題になる。
 
クビかもね〜と思う。クビになるのはいいが、高校を出てから40年、まじめひとすじに灯台の仕事をしてきたのに、定年も間近になってこんな馬鹿なことで職を解かれることを嶋田は恥ずかしく思った。
 
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退職金もらえなかったら、住宅ローン返せないし、女房泣くだろうし。それとも離婚されたりして。
 
週刊誌とかが「呆れた灯台守・職場放棄して風俗に」とか書いたらどうしよう?娘が泣くよなぁ。「お父さんは船を守る大切なお仕事をしています。自慢のお父さんです」とか学校の作文に書いていたのに。学校で、いじめられたりしないだろうか。
 

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そんなことを考えていたら管理室の電話が鳴る。
「はい。三泊灯台です」
「嶋田さん、お帰りなさい」
という声は若い女の声だ。
「君は?」
「名乗るほどのものではありません。電源は私が切り替えておきました。ご不在だったことは誰にも言いませんから嶋田さんも忘れてください」
 
「君が切り替えてくれたのか。ありがとう。急に眠くなって気分転換にちょっと席を外していた」
「眠くならないように何か手配しますね」
「え?そう?それは済まない」
「だって嶋田さんのおかげでたくさんの船が助かってますもん。いつも感謝しています」
と女の声は言っていた。
 

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3月23日(月)、嶋田は札幌の海上保安庁本部に呼ばれて高速バスで出て行った。
 
辞令を渡される。
《鹿無島灯台の勤務を命ず》
とある。
 
直観的に思った。これは左遷だ。やはり持ち場を離れていたことがバレてたんだ。でもまだ懲戒免職でないだけマシだ。
 
鹿無島なんて民家も数軒しかない孤島だ。商店も無いし郵便局さえ無い。でもこれが定年前最後の勤務地になるだろう。立派に勤め上げよう。嶋田はそう思った。
 

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ところがである。
 
年度末も迫った3月27日(金)、本庁から電話が入る。
 
「あ、課長、お疲れ様です」
「実は年度末の折衝で予算が取れて、鹿無島の灯台はリモート管理に移行することになってね」
 
「え?だったら私は?」
 
「申し訳無いが、異動はキャンセル。4月以降も引き続き三泊での勤務を頼む」
「え〜!?私もう荷物送っちゃいましたけど」
「荷物ってどのくらい?」
「単身赴任だから少量です。布団袋ひとつと段ボール1個。鹿無島灯台宛てに」
「だったら、それは誰かに三泊へ持っていかせるよ」
「すみません」
「まあ三泊も来年4月からはリモート化されるけど、それまで1年間よろしく」
「分かりました」
 
ということで異動は直前キャンセルされたのである。
 
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4月10日(金).
 
その日、武矢がK高校での授業(水産コースの生徒たちに漁船での体験を語るというもの)を終えて帰宅するのに、乗り換え地点の駅前でバスを待っていたら、漁協の桜井さんに声を掛けられた。
 
「村山さん、もう帰られます?」
「ええ」
「だったら、灯台にちょっと寄ってもらえません?」
「いいですよ」
「これ灯台守の嶋田さんに頼まれた雑誌なんですよ。届けてもらえたらと思って」
「分かりました」
 
それで武矢は三泊灯台まで雑誌を届けに行ったのである。
 

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武矢はC町バス停でバスを降りた。浜沿いに歩いて灯台に行く。中に入ってエレベータで上にあがる。管理室のドアをノックする。
 
「漁協の桜井さんから頼まれた村山といいます。お届け物です」
「あ、すみません」
と言って、すぐにドアが開く。
 
「取り敢えず中へ」
「あ、すみません」
 
中はストーブが焚いてあり暖かい。外はかなり寒かった。
 
嶋田が武矢から受け取った紙袋から『現代将棋』(*13)を取り出す。
 
「へー。将棋雑誌ですか」
「えぇ。全く個人的なことで頼んでしまって」
「いや構いませんよ。私たち漁船はみんな灯台守さんのお陰で助かってますもん。闇夜に見える灯台の灯りがどれだけ心強いか。いつも感謝しています」
 
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嶋田は村山の言い方から先日電話で話した女性を連想した。この人の娘さんか何かだったりして?(いい勘してるじゃん)
 
(*13) 『近代将棋』は本当は2008年6月号で休刊した。

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あの夜に起きたことはこんなことである。
 
停電で灯台の灯りも消えたのを見て、眷属のひとりが千里(ロゼ)に
「灯台まで消えちゃったけどいいのかな?」
と言った。それでロゼが灯台にテレポートしてみると、灯台守さんが不在である。しかし灯台は停電があってもバッテリーで稼働するから大丈夫、と千里は武矢から聞いた記憶があった。だから電源を切り替えればいいはずだと思う。それで電気関係に強そうな青石を召喚し見てもらった。それで青石が電源を切り替え、灯台は再点灯した。この間はたぶん停電から2〜3分程度だったと思う。
 
灯台守さんの名前はみんなから聞いて知っていた。
 
ロゼは青石にホットコーヒーを買ってこさせ、管理室に置いてから退出し自宅に戻った。
 
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「しかし将棋なさるんですか?」
と武矢は訊いた。
 
「いや、王様より飛車角どころか香車や桂馬を大事にするヘボ将棋ですよ」
「何か俺と同じレベルかも」
「それは一度手合わせしてみたい」
「そしたら一度うちに帰ってからまた来ますよ」
「ええ。どうぞ。私はどうせ夜通しここに居ますから」
「大変だね」
 

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それで武矢はいったん家に帰った。津気子はまだ帰ってない。津気子が帰宅するのはだいたい夜8時すぎである。でも玲羅(実はコピーのライラ)が
「お父ちゃんカレーあるよ」
と言うので、
「おお」
と答え、カレー皿にジャーのごはんを盛ると(*14)、鍋のカレーを描ける。冷蔵庫のタッパから福神漬けを出して載せる。
 
それでカレーライスを3杯食べた。
 
「父ちゃん、灯台に行ってくるから」
「行ってらっしゃーい」
「遅くなるかもしれんし、先寝てろ」
「寝てる。気をつけてね」
「うん」
 
(*14) 筆者は常々食品を食器に入れることを“盛る”と書いているが、どうもこれは九州方言っぽい。関東などの人には「どっさり入れる」という意味に聞こえるらしいが、どっさりという意味ではない。どうもこの言葉には全国的に通じる適当な表現が存在しないようにも思われる。大阪の知人は“よそう”と言っていたが、これも東日本の人には通じにくいようである。“つぐ”というのも、汁物以外では使わない地域が多いようだ。
 
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それで玲羅が渡してくれたホッカイロを腹巻きに入れ、暖かい服装をして反射たすきを掛け、懐中電灯を持って出掛けた。灯台に行き、管理室に入って漁協の自販機で買ってきたホットコーヒー(玲羅が小銭をくれた)を1本灯台守さんに渡し、ふたりは将棋を指し始めた。
 
これがなかなかの迷局であった。お互いに二歩(*15)とか三歩!程度は気にしない!角筋がずれたり桂馬が少々変な所に飛んでも分からない。しかしお互いに「この人は自分とちょうどいい対戦相手だ」と認識した。この日は11時くらいまで2人は将棋を続けた。
 
むろんその間にも嶋田さんはお仕事をしている。船などからの問合せにも応じる。
 
しかし嶋田はこの日は武矢が帰った後も思い出し笑いしたりして、全く眠くならなかった。もしかして電話で女性が言っていた“眠くならないように手配する”って、村山さんのこと?などとも思った。
 
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村山はその後も頻繁に夜の灯台にやってきて嶋田と将棋をした。
 
(*15) 将棋ではひとつの縦筋に複数の歩(ふ)を置いてはならない。既に歩がある筋に新たに歩を打つのは「二歩」と呼ばれる反則である。但し既に成って“と(金)”に変化している分はノーカウントである。歩の打ち方に関する反則ではほかに「打ち歩詰め」といって歩を打って相手の玉を詰めるのも禁止である。また一番上の段に歩を打つのは、歩の行き先が無いから当然禁止である。
 

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